::哀歌-4 2002年11月03日(日)

「生きていくということは、この険しい岩壁に道を作るようなもの・・・
 心に希望の炎を絶やしたら、とても頂上まで登りきることは出来ないわ。
 そう思いませんか?」



唄うように言ってこちらに気づき、一礼して去っていった。
口元に少し、笑みが浮かんでいたのは気のせいだろうか?


「あ、瑠璃・・・!」


右隣にいた彼は、何も言わずにルーベンスさんの方へとスタスタ歩いていってしまう。
置いてきぼりにされるのはごめんだとばかりに急いで追いかける。
でも、瑠璃の前に出ることはないように。
あたしは、今彼の前に立つことは出来ない。


「おい、アンタ・・・。」


彼に詰め寄る。
何かを諦めたかのように、一息吐いた。


あたしは瑠璃の背の後ろに、隠れるようにして立った。
あたしは、彼等の問題にむやみやたらと首をつっこむことは出来ない。
・・・つっこむべきではないんだ。
いや、もうなかったと言った方がいいのかもしれない。


「お前は珠魅、か・・・」
「俺は、ラピスラズリの騎士、瑠璃だ。
 アンタ、ルビーの珠魅だな?」
「控えろ、声が高い。
 周りに珠魅だとしれたらどうする!
 襲われて核を抜き取られたいか?」


珠魅の核。
美しい、夜空の星を凌ほどの純度と煌めきを持つ、宝石。
それが彼等の心臓。


「す、すまない。」


声こそは荒げていないものの、その威圧感は誰をも震わせる力があった。
あの瑠璃でさえも、一瞬とまどいの表情を見せたほどに。



あたしは、ただ見てるだけ。



「あ、オレは珠・・・仲間を捜しているんだ。」
「・・・仲間を捜して、何とする。」
「何とって・・・珠魅同士、一緒にいるのが自然じゃないか。」


紅い珠魅は、また一息吐いた。


「・・・くだらない。」



・・・え?



「なん・・・」
「くだらぬと言ったんだ。
 お前は生まれたばかりの若い珠魅だな、そんな戯れ言を言うってことは。
 もう、都市で暮らしたいなどと夢を見てる珠魅は、もういまい。」
「何を言って・・・」
「知らぬのなら教えてやるまでだ。
 我らが珠魅最後の都市、煌めきの都市は、一人の珠魅の裏切りによって一夜で崩壊した。
 たくさんの仲間の核が抜き取られた。
 そんなことが起こってまで、誰がまた再び都市に戻りたいと願うか?
 そこにはもはや希望は一欠片たりとも存在しない。」








一人の珠魅の裏切り。
抜き取られた多くの美しい心臓。
たった一人によって。




それも





珠魅






「・・・バカな・・・!
 じゃあ・・・じゃあお前は、珠魅を、自分の仲間を信じることはできないっていうのか!!?」
「・・・そういうことになるな。」
「じゃあ、じゃあ・・・他種族を信じろっていうのかよ!?
 オレ達を・・・オレ達を装飾品としか見てない奴らを!!」










何か、に



刺さった



イタイ  イタイ   イタイ








「同感だな。残念だが、俺もそんな奴らのことは信用なぞしておらん。」
「珠魅も、それ以外の奴らも信じないっていうのか、アンタは・・・。」
「ああ。」
「オレにも、そうしろと?」
「賢明な判断だ。」






瑠璃の周りの空気が、一気に熱を帯びて上昇するのが分かった。






「ふ・・・っっざけるなァ・・・・・!」
「怒らせたか?
 俺は俺の私論を述べたまでだ。
 ついでにもう一つ、お前の後ろに隠れているヤツだって、
 実はお前の核が狙いかもしれないぞ。」
「!!」
「・・・・・」
「では、失礼する。」


あたしに冷たい一瞥を向け、去っていった。
残されたのはやり場のない怒りを何処へも向けることが出来ない青い騎士と、
彼等をただの宝石としか見ていない他種族のうちのひとつに属する、
私。










もうすぐ日が沈む






2001年11月03日(土) ありがとう

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