::戸惑い-4 2002年06月03日(月)

「ふ・・・ふへ・・・?」

顔を上げると、そこには困ったような、優しい瞳をした瑠璃の顔があった。

「ホラ、そんぐらいで泣くな。
 それとな、チョットもうどいてくれないか?」
「へ・・・?」

冷静になって、周りをよく見てみる。
だんだん顔が青ざめていき、冷や汗がたらたらと流れているのが自分でもよく分かった。

ちょっとまってよ、瑠璃はしりもちついてて、あたしは瑠璃の上にのかってて・・・



・・・・・・



あたし・・・・瑠璃を・・・・押し倒した・・・っていう・・・コト・・・で・・・



・・・・・・



「う、うわゃあああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!
 ご、ごめん!!!!ごめん瑠璃!!マジごめん!!!!!」

あわてて飛び退いた。
頭がこんがらがってて、思いっきり挙動不審。
青ざめてた顔が、今度はトマトみたいに耳まで真っ赤になっていることだろう。

「・・・もう少し体重落とせ。重い。」
「・・・・・・!!!!!!!??????」

フン、といつものように鼻で笑って、立ち上がる。
心なしか、ちょっとほっぺた赤くなってる?

「で、んなことよりあの幽霊は何処行ったんだ!?」

・・・・気のせいみたい。
あたしの体重に文句つけときながら、そんなことよりですか・・・。
女扱いしてなさそうなところが、また気になるし。

ッて、今はそんなこと言ってる場合じゃなかった!!!

「ちょっとザル!!泡吹いてないで、さっきのヤツ何処行ったの!!?」
「・・・自分は怖がってたくせによく言うな・・・。」
「うっさい!!!」



「・・・怖かったノねん・・・。ユーレイって、走るのねん・・・。」




「「え、走る・・・?」」

瑠璃とあたしの声がきれいに重なった時、さっきまでそこにいたはずの彼が慌ただしく入ってきた。
聞き覚えにある、特徴的な大きな声。

「本官はボイド警部である!チミの相続した遺産について質問があるのだが?」

へ・・・なんで・・・?

「遺産なんかもうないノねん!」
「は?『青い瞳』は?」
「見てなかったのか警部?例の幽霊が持っていったじゃないか!」
「はぁ?幽霊なぞ、おらんよ。寝ぼけとるのかね、チミ?」
「え?さっき、ここにいましたよね?」
「ここに?ワシが?」









「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」









・・・・・もしかして・・・・・









「やられた!宝石泥棒サンドラじゃっ!!おそらく幽霊もヤツじゃ!!」
「なんだと!!?」
「そんなーーーぁぁぁ!!!」







・・・・・・・・







『『青い瞳』はサフォーにもらったのねん。』
『それってサファイアの珠魅か?』
『うん。ボク達、お友達だったノ。
 でも宝石泥棒が来て盗まれるくらいならって・・・核を外してボクに・・・』
『・・・・・』
『約束したノに・・・“彼女”の為にも、絶対手放さないからって・・・。』
『・・・取り戻してやれるといいんだがな・・・。』




ポルポタを出てドミナに向かう途中、瑠璃はずっとだまったままだった。
仲間が核のみで見つかって、しかも宝石泥棒によって奪われた。

核の持ち主は、きっと美しく誇り高い珠魅であっただろう。
あの、『青の瞳』の煌めきにふさわしく。

あたしが・・・幽霊を怖がりなんかして、飛びついたりしなければサンドラを追えただろうに。
バカなことをした。
ホントにバカだ、あたし・・・
他人の足を引っ張るなんて・・・初めてだった・・・


あたし・・・何かできることないのかな?
あたしがただの人間である限り、それは無理な願いなのか。

あたしがもしも瑠璃と同じ珠魅だったなら、その苦しみを分かち合うことができるのに・・・

「リタ。」
「え?」
「今日は・・・ありがとう。助かった。」
「・・・ううん。」

あたし、何もしてないよ。
そう、何もしてない。


そのまま瑠璃と別れて、コロナとバドの待つ家へと帰る。
日没までは、もう少しだけ時間はあった。
“アイツ”の鼓動が近づいてくる。
胸にわき上がる“不安”と“後悔”の念を押し殺して、目を閉じた。





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