2021年08月10日(火) |
雑文・宣伝 北原靖明『ヨーロッパ時空の旅』 |
北原靖明『ヨーロッパ時空の旅』
ここは観戦日記サイトで基本的に宣伝はお断りしている。 が、父からの依頼で新刊の宣伝をさせていただきます。
各章タイトル 第1章 古い手帖より 北イタリアにルネッサンスの諸都市を訪ねて 第2章 ポーランド、チェコ周遊 第3章 アイスランドの旅 第4章 ルーマニア、ブルガリア周遊 第5章 ヨーロッパ西端の国ポルトガルへ 第6章 バルト三国の旅 第7章 ハンガリー、スロヴァキア周遊 第8章 ヴォルガ・ドン河、4000キロの船旅 第9章 ドイツの旅 第10章 フランスの旅 第11章 バスクからピレネーへ
ヨーロッパ史と地理を結び付けて捉える著者がライフワークである海外旅行を歴史混じりに紹介する内容。旅の楽しさそのものを面白おかしく伝えるわけではなく、一定の教養層がターゲットだ。旅行の際、その地を知るのは宗教や歴史、特に地誌や文化史、芸術などを知ることが肝要だろう。そのうち歴史という切り口からその国を切り取った内容。
全体に通じる価値観は以下の一文に現れている。
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都会や田舎の景観を大切にする情熱の点では、日本人はヨーロッパの人達に全く及ばない。数年前訪ねた旧東ドイツに属するライプチヒ、ドレスデン、東ベルリン等の諸都市の復旧は、資金不足のためかポーランドに比べてかなり遅れ、戦後半世紀もたっているのに市街のそこここに瓦礫の空き地が残っていた。ドレスデン宮廷横のフラウエン教会は、高い尖塔を含めた全体が、工事用の鉄枠に覆われていた。あと幾十年かかるか判らない。しかし瓦礫の中から破片をとりだし、欠けた部分を補いながらパネルの一枚までも完全に復元するのだという。世界最大のジグソーパズルと地元で呼ばれている。 一方、日本の多くの都会は、戦災後全く別の都会となった。バブル時代の地上げがこれに追い討ちをかける。都市のプランは、その都市に愛着をもたぬ役人と営利だけを目的とした業者によって自在に変えられ、歴史的地名も無機的な名前に変更されていく。しかし彼等だけの所為にはできないだろう。結局国民全体の歴史や伝統、景観を尊重する意識の稀薄さに係わっている。日本的効率さと迅速さによる再生で、失われていくものも、また大きい。 (93ページ)
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著者略歴 英国近現代史、特に英国植民地研究が主なテーマ。 東京大学卒業、英国ウォーリック大学で修士号。大阪大学で博士号「文学」取得。
主な著書 『インドから見た大英帝国』(昭和堂、2004) 「ヒル・ステーション――インド植民地における英国人の特異な空間」『空間のイギリス史』所収(山川出版社、2005) 「キプリングの帝国」『キプリング−大英帝国の肖像』所収(彩流社、2005) 「セルヴォンとナイボール−相対するコスモポリタニズム」『現代インド英語小説の世界』所収(鳳書房、2011) 『カリブ海に浮かぶ島トリニダード・トバコ−歴史・社会・文化の考察−』(大阪大学出版会、2012) 『東西回廊の旅』(文社、2014) 『ラテン・アメリカの旅』(文社、2017)
訳書 「百の哀しみの門」『キプリング――インド傑作選』所収(鳳書房、2008)
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