今日は朝から仕事だった。雨が降りそうで傘を持って行こうかどうか悩んだけど結局えいやで飛び出した。そしたら自宅から徒歩二分無いバス停に着く前にぽつぽつ来だしたので天を睨んで『降ってくれるなよ』と思ったけど結局やっぱダメでバスのフロントガラスには雨粒が沢山付いていた。でもバスを降りたらあんま降ってなくてやっぱり私は晴れ女かもしれないと思った。図書館に着いた。いつもの通りのメンバーに可愛がって貰いながら今日は土曜日の割には大して人もいなくてゆったりした時間が流れた。でも沢山人が来て列になったりしない代わりに濃いキャラの人たちが一杯来た。ムカついた。人は本気でムカつくと笑う。相手の事を見下して馬鹿にするからだ。凄く馬鹿らしいと思った。人を人とも扱わない自分を知るときってこんな時だと思う。だって人として扱う価値がないんだもの。モノ以下の扱いで充分じゃないか。モノ以下の扱いだとしても存在を認めてやってるんだからこっちはそれに感謝が欲しいくらいだ。なのに平気で不平を言うモノ以下を見て本気で今日私は笑った。馬鹿にしたのですらないのかもしれない。馬鹿にされるほど相手は高等では無いのだから。でもそんなモノ以下にすら懇切丁寧な対応が求められるのだから世の中は理不尽極まりないと思う。でも今更そんな事では騒がない。当たり前だからだ。世の中は曲がって成り立っているのだから。立派に社会人してる人に尊敬の念を抱くのみだと言う事でこの話は締め括る。仕事が終って狸と狐の化かし合いに借り出された。要は嫁姑問題なんだけど。それでも私は彼女が望む事をしてあげる。此れは完璧なる自己満足で偽善でエゴだ。愛なんて無い。其処に愛なんて無い。でも彼女がどうしたら無くか感動するのかわかってる私はそう行動せずにはいられない。だって自分の思うままに人の感情が操れるなんてなんだか神になったみたいだから。自分の思い通りに事が進むほど素敵な事ってない。私なんかに操られる方も方だけどね。そう今日は彼女の誕生日なのだ。バースディカードを買って誕プレに挟もうと思った。彼女は言葉に弱いからだ。自分がいないとダメなんだからと言う態度で日々生活するくせに周りの人の感謝の言葉には弱い。努力が認められた証とでも取れるのだろうか。どうでもいいけど。彼女がどういう信念の元に生きているかなんてどうでもいい。肝心なのは私が彼女を感動で泣かせられるかと言う事だった。それ以外に他意はない。彼女を泣かせたら私の勝ち。そう言う事だ。幸い私は言葉には強いつもりだ。下らない言葉なら幾らでも沸いてくる。其れが人を欺く術だと本能で知っているから。言葉が上手くあらねばならなかった。私は私の思う事を言うだけで嫌われてしまうのだから。そう思っていたし思っている。話が逸れた。私はカードの後に口紅と化粧水を買って病院へ行った。バス停にはバスがちょうど来ていてそれに乗った。少し御腹がすいていた。病院へ着いた。真直ぐ病室に向う。買って来たバースディカードに言葉を書き込む。予め考えていた操る為の偽りの愛を。『今まで照れ臭くて言えなかった『アリガトウ』と『ダイスキ』をかけがえの無いお母さんへ。 お誕生日オメデトウ』其処まで書いて父に鉛筆を握らせて署名させた。父は凄く調子が悪くて字すら書けないのだけれど。私だって其処まで父が弱っているなんて思わなかった。『お父さん、此処に名前書け』って鉛筆を握らせてカードを本を台にして渡したら父はよぼよぼぶるぶるしながら辛うじて『コウザブロ』と書いた。漢字で名前すら書けなくなっていた。カタカナですら『コ』の次に『ザ』と書きかけ『ロ』は出発点と終着点の線が繋がらなかった。焦点が合ってないんだからこんなもんかと思った。どうも病人に慣れてしまっていけない。反省だけはするのだけれど。カードを封筒に閉まってプレゼントの箱のリボンに挟んだ。プレゼントの用意は出来た。私の演出は完璧だった。父はだるいのだろうかことんと眠りに落ちていた。昏睡と言われればそうなのかもしれないぐらい不自然な眠りだ。その横で母はTVを見私は図書館の本を読んでいた。赤川次郎の本はやっぱり好きだと思った。私の人生で一番初めに買って貰った小説の作者だもの。どんなにジャンルを広げた所でやはり赤川次郎に帰着する。ほっとする。一番最初にしかも父に買ってもらったのは三姉妹探偵団だった。赤川次郎の話は安心する。私の土台はやはり赤川次郎なのかもしれない。また話が逸れた。読み終わった頃に父の点滴が終った。トイレに行くのにも車椅子だ。顔が右に傾いている。平衡感覚すらイカレてるのか。脳ってやっぱり怖いなと思った。主の不在を知らせるぽっかり空いた病棟のベッドに私は寝転んだ。父の被る毛布はまだぬくかった。急に目から雫が零れた。もう直ぐいなくなるのかとリアルに感じたからかもしれない。そのベッドは死の匂いがした。ぼーっとうつ伏せてる内に父が帰って着た。ベッドに寝てる横に一緒になって寝転んだ。腕枕をして貰っていやさせて二人でごろごろしていた。会話も出来ない父に私は必死に喋りかけた。少し起きて来たのか父は答えた。会話が成り立った。良かった。そう思ったらまた目から雫が零れた。止め処なく零れ続けた。泣いているのではない。これは涙ではない。涙は『親が死ぬまで流してはいけない』のだから。これは涙ではない。私は泣いていない。父の肩辺りに頭を置いて腕を回して抱きついて一緒に横になっていた。父が私の頭を腕枕している方の手で撫でていた。その手を離したくなくて自分の反対側にある父のタオルで『鼻水が出るわ。風邪ひいたかな』と言いつつ雫を拭った。父は一言『泣いているのか』と言った。そう言うとこだけは敏感で嫌になる。『何で』とも『どうして』とも聞かないし聞けない癖に『泣いているのか』とだけ聞いて私の頭を優しく撫で続けた。私は答えなかった。うんとも泣いていないとも。私の頭を撫で続ける手に嘘は吐けなかったし吐く必要も無いと思った。ただ一つずっと前から聞きたかったけど聞けないままでいた事を無性に聞きたくなった。聞いてしまったら終わりの挨拶になってしまうみたいで嫌だったからずっと聞かずにいた事を無性に聞きたくなった。でも聞くのには少し勇気が要った。言葉が喉に詰まって出てこなかった。やっとの思いで聞いてみた。『とうちゃん、ねぇちゃんのこと好きか』。父は答えた。『とうちゃん、ねぇちゃんのこと好きやで』。優しく頭を撫で続けて『とうちゃん、ねぇちゃんのこと大好きやで。ねぇちゃんは?』。私は答えた。『ねぇちゃんもとうちゃんのこと好きやでー。ねぇちゃんはとうちゃんと結婚するねから』。彼の前では幼い自分で甘えていようと思った。本気の言葉だった。父は少し笑いながら言った。『可愛いヤツやナァ』。そう言いながら私の頬を少し抓った。ふざけていられる今がずっと続けばいいのにと思った。そうしてる内に父はまたことんと眠った。流石脳カン脇に腫瘍があるだけはある。いつ昏睡になってもおかしくない。病院を一歩出たら私は笑っていた。母と他愛もない雑談をしながら。人間なんてそんなものだ。凄く優れていて凄く脆くて凄く低能で凄く遣る瀬無い。二人で彼女に誕プレを私に行ったら彼女は旦那と共に不在だった。置き土産的に家に置いて母と帰った。私の思惑通りに彼女が泣いたかどうかは私の及びの付かない事になった。まぁどうでもいいが。あまりひとつの事に囚われているのも良くない。下らないと思う。勉学でも趣味でも色恋沙汰でもだ。そんな事に無駄な労力を使うぐらいなら如何に今を恙無く過ごせるかを考えた方がよっぽどマシだと思う。そんな事人間である以上無理な事なのだけれど。まだ雨は降ってるのだろうか。私のどこかが壊れたのかもしれない。こうやって白い所が活字で埋まると安心する。前々から蓄積していた物が噴火したのかもしれない。こうなる事はそう遠い日の事ではなかったし予兆もあっただろうしSOSもそれなりに出していた。が爆発してしまったと言う事はなんの救いも得られなかったかまたは得られた救いでは足りなかったかのどちらかだと思う。どうでもいい。そんな事どっちだっていいのだけれど。結局結果はこうなったのだし。今更原因追求も無いだろう。其れも亦下らない気がする。私は心配してくれともするなとも言わない。こんな私に関わる前にさっさと私と縁を切って逃げるべきだと思う。全ての私に関わる人が。そうしたら淋しくて勝手に死んでゆくのだから。きっと。どこかが壊れてしまったに違いない。そうでなければ私が猫をかぶる事をこうしてあっさり止める筈が無い。壊れてしまったのか。それはそれで潔い。そのまま終ってしまえばいいのに。だって此処は死の匂いが溢れているから。
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