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■2009年04月27日(月)

無らない幸福、知った不幸


あの人の名前を知った。
それだけで私は幸せになれた。

人間というのは欲望の生き物だ。
朝、洗濯物を干す時に下の通りを歩く人を知った。
あの人を見るのが楽しみになった。
見ない日はあの人の身に何かあったのかと心配したりもした。

見るだけだった、あの人の名前を知った。
いつも1人で歩いているあの人を呼んだ人がいたから。
私はあの人の名前を知った。
今まで聞いたことがない響きの名前だと思った。

朝、通りを歩くあの人を見ながら名前を口にした。
あの人は振り向かない。
それでも、今まで以上に幸せな気持ちが私を包んだ。
満ち足りていた。

それが。

偶然にもあの人が私を知り。
私の想いに気づき、受け入れてくれた奇跡。
あの人の体温を知った夜。
溢れるような幸福感。

どうして死ななかったのだろう。

あの日、あの時。
誰よりも幸せだったのに。

あの人に呼ばれない私の名前。
あの人の訪れがない夜。
私の内を満たしていた幸福感が少しずつ磨り減って。
代わりに焦燥や不安が隙間を埋めていって。

名前も知らないあの人を見かけるだけで温い気持ちになれたのに。
今は、あの人を思うだけでこんなにも寂しい気持ちが押し寄せる。