けど、ここからはリンクしてません。HOMEからもリンクしてません。検索除け対策の実験をしてますんで。よほど知りたい方は、お手数ですがメールでそちらのメアドを知らせてください。メールでお知らせいたします。 で、新しいHPに、↓の「クリスマスボウル〜」もUPしてます。ついでにおまけ話も。覚書しておきます。 (ち☆)
プロボクサーには正月や盆どころか休みもない、とは誰が言ったことやら。 だが、ボクサーに限らず、仮にも世間一般的な『スポーツマン』と目される人種に休日など、数えられるほどしかないのも事実。 凶悪、かつ脅迫手帳で集めた奴隷を酷使しまくることにより、所謂健全な『スポーツマン』の定義からは若干外れている蛭魔妖一にも、その例えは成り立っていた。 そんな彼が、泥門高校に来て初めての冬休みを迎えることとなった、前日のこと。 「やーっと収まりやがったか、この糞天気が」 ヒル魔が、そう忌々しげに吐き捨てるのも無理はない。先ほどまで窓の外は、いきなりの猛吹雪に見舞われていたのである。 おかげで、折角終業式とホームルームだけで授業が終わったというのに、大部分の生徒が校舎内で足止めを食らっていたのだ。ただし積もるような雪ではなく、歩道を自力で開拓する、なんて憂き目にならなかっただけ、まだマシと言うものだろう。 ただしヒル魔にとっての『糞天気』とは、一歩たりともグラウンドへ出ることを許されなかったことへの、罵りの意味が強かったわけだが。 加えて、もう1人のアメフト部員、栗田良寛が「今日は急用が出来たから!」と、雪が本格的になる前に帰ってしまったことも、彼の苛立ちを募らせていた。・・・さすがのヒル魔とて、たった1人で、寒風吹きすさぶグラウンドで練習、などぞっとしない。 こういう日もあるか、と、とりあえず割り切ることにして。 とっとと帰って、このところ溜まる一方だったデーターの整理でも───そう計画しつつも、今一つ気の乗らぬ風情で、玄関まで来たヒル魔だったが。 「??」 外───つまりは通用門付近───がやけに騒がしいことに、つい眉をひそめる。 やっと帰宅できる生徒の嬉しさ故の歓声、というには声がデカイ。かと言って、何かしらの事件が起こった場合の、緊迫した空気とも異なる。 どこかの身の程知らずが、ヒトの縄張りで騒いでやがんのか───。 眉間の皺を更に増やし、足取りも荒く通用門へとズカズカ歩み寄ったヒル魔の目に、2つの鮮やかな色彩が飛び込んできた。 周囲を寒々と染めている、白、と、それと相対する暖かさの象徴、赤。 今の季節それらは、サンタクロースの扮装を意味する。 日頃、四季の情緒に無関心なヒル魔ですら、そのことに気づき。 そのサンタクロースとやらが、泥門生徒と楽しく記念撮影なんぞしてやがるのだ! と思い至った頃、いっそ駆け足と言っていい勢いで通用門へと踏み込んだかと思えば。 ドカッ!! ほとんど条件反射で、満面笑顔の巨体サンタクロースを、蹴飛ばしていたのだった。 「何してやがンだ、糞デブ!」 「ひ、ひどいよヒル魔ぁ〜。いきなり何するの〜」 予想通り。白いひげの下から返って来たのは、いつも聞きなれた栗田の苦情。 積雪に頭から突っ込んだせいで、赤いサンタ帽にこびりついた白いものを、手で払って落としながらの。 「それはこっちのセリフだ。てめー、用があって帰ったんじゃなかったのか、あぁ?」 「・・・機嫌悪いねヒル魔。グラウンド使えなかったの、まだ怒ってるとか?」 「俺の質問に答えろってんだよ【怒】」 「だからー、そんな物騒なものしまってよー。クリスマスにふさわしくないでしょ」 周囲が完全にヒいているのを余所に、栗田はサンタの扮装にふさわしく、穏やかに友人を宥めた。 「僕の用事はこれからなんだ。隣り町の教会へ、手伝いに行かなきゃいけなくって」 「坊主の息子が趣旨変えか?」 「そんなんじゃないよ。今日だけだってば。ちゃんと父さんにも、許可貰ってあるし。 あのね、教会のクリスマス会に来てくれた子供たちに、このカッコでお菓子あげるんだ」 聞けば、本来サンタ役を演じるはずだった人間が、風邪で寝込んでしまったのだという。急な予定変更にピンチヒッターはおらず、たまたま近所を通りかかった栗田に、白羽の矢が立ったらしい。 どうせならサンタクロースの正体は秘密にしたいため、教会を訪れる子供たちとは面識のない人物に頼みたかった、と言うのが、主催者の目論見なのだろう。・・・確かに坊主の息子なら、そう顔なじみにはならないだろうし。 「で? 何でわざわざ泥門に寄ったんだよ? その扮装見せびらかすためか?」 ヒル魔も、栗田がこれから向かう、という教会の場所は把握している。家で着替えたのも、教会に来る子供たちとやらに正体を隠すためだ、ということも想像が付く。 が、栗田の家から出発するにしたって、ここに立ち寄れば完全な遠回りになるはずなのに。 すると栗田は、背中に担いだ白い大きな袋から(ご丁寧に防水加工付きだ☆)、クリスマスらしくカラフルで小さな巾着袋を取り出し、何やら甘い匂いが漂ってくるそれをヒル魔へと差し出した。 「メリークリスマス、ヒル魔! はい、これ。プレゼント渡しに来たんだv」 ───一瞬、凍りつく空気。 シュールだ。とんでもなくシュールな図だ。 人の良さと笑顔全開のまあるいイメージのサンタクロースが、泥門一の凶暴悪魔と呼ばれている鋭角的青年に、クリスマスプレゼントを手渡す───など栗田以外、誰も想像なんてしたことのない光景だろう。 滑稽さと恐怖の狭間で、声を出すのすらこらえている泥門生徒たち。 これ以上なく自分に不似合いな可愛らしい代物を、こともあろうに公衆の面前で渡され、怒り心頭のヒル魔。 そんな中、空気を読めない栗田だけが、ニコニコと笑みをたたえたままである。 「てめえ・・・俺は甘いモンは食わねえ、って言ってるだろうが!」 ↑ツッコミどころが違う☆↑ 「怒んないでよー。それにこれ甘くないし」 そう言って開いた巾着袋から出てきたのは、1つずつ小袋に入った白や水色のキャンディーだ。 「ほらこれ、ペパーミント味なんだ。子供ってあんまり、この味欲しがらないでしょ? だから多いんじゃないかって話になって、余ってもったいないから僕が貰ったってワケ」 「クリスマスプレゼントとか言いながら、俺に不要物押し付けるのかよ☆」 「捨てちゃうよりいいじゃない。それに、喉が乾燥すると風邪引きやすくなるって話でしょ? 今日のヒル魔にはピッタリだって思ったからさ」 「・・・・・・」 確かに今朝から、少し喉がいがらっぽくなっていたのは事実である。よもや、栗田にそのことを気取られていたとは。 それとなく照れを隠し、青い色のキャンデーを摘み上げながら、ヒル魔は悪態をつかずにはいられない。 「・・・ガキたちをそこまで甘やかすなんざ、教育上宜しくねえんじゃねえのか? たまには辛いものがある、って感じにしておいた方が、結果的に奴らのためだと思うぜ」 「うん。教会の人たちもそう言ってた。だから、1袋に1つの割合で、ちゃんとペパーミント味も入ってるんだってさ」 「けっ」 先を読まれた悔しさで、ヒル魔は小袋を乱暴に裂き、水色のキャンデーを口に放り込んだ。たちまち舌先を刺激するのは、慣れ親しんだミントの香りと味。 ガリリ、と奥歯でそれを噛み砕いては、次の小袋に手を伸ばす彼を、栗田以外の生徒たちは物珍しそうに眺めている。 「ヒル魔ぁ。その食べ方じゃあ、喉にはあんまり効果ないと思うけど」 「るせえ。自分の食いもんをどんな食い方しようが、俺の勝手だ」 「それはそうだけどさ・・・じゃ、そろそろ時間だから、僕行くね」 栗田がそう告げたところ、「ええーーっ!」と一斉に周囲から上がる、残念そうな声。 見れば、ヒル魔の背後にはいつの間にか生徒たちが、携帯電話を片手に列を成していた。どうやら『サンタクロースとの』写真撮影を狙っていたらしい。 とは言え、ヒル魔にプレゼントを渡す、と言う目的は果たしたのだから、確かに栗田がこれ以上ここに居座るのもおかしい。ヒル魔に睨まれたこともあり、それ以上、俄かサンタクロースを引き止める動きは起こらなかった。 よいこらしょ、と大きな袋を担ぎなおし、踵を返す相棒の背中に、ヒル魔は話しかける。口の中の欠片を、全部噛み砕いてから。 「おいこら、糞デブ。ボランティアだかバイトだか知らねえが、そんなのは今年限りだからな!」 「分かってるよー」 振り返りながらそう答えた栗田は、いかにもサンタクロース、といった具合の慈悲深い笑みを浮かべた。 「来年は絶対、クリスマスボウル! だもんね。ヒル魔、お互い頑張ろ!」 メリークリスマス、ともう一言残し、高校生サンタクロースは巨体を揺すりながら、白く染まった街中へと姿を消した。 『絶対クリスマスボウル!』 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。 今は、2人だけでささやかに誓う約束。 では、来年は・・・? さっき口に放り込んだキャンディーを今度は舌先で転がしつつ、ヒル魔はふとそんな思いにかられずにはいられない。 慣れたはずのミントが、ほんの少し、キツい後味を残したように感じたのだった。 ************ 「・・・ってことがあったのよ。1年前のことだけど」 「へえ〜〜〜」 翌年の12月25日。激闘に激闘を重ねたクリスマスボウルを無事、戦い終え。 大勝利の余韻に浸りつつも帰り支度をしていた泥門デビルバッツの面々は、マネージャーの姉崎まもりから去年の思い出話を聞いていた。 「折角のクリスマスなのに、プレゼントにもサンタクロースにも縁がなかったな〜」 と誰かが言い出し。 それに記憶を触発されたまもりが、ちょうど携帯電話のメモリーに残っていた栗田のサンタ姿を披露したことから、一連の流れとなったわけである。 当時まもりも、吹雪で学校に閉じ込められていた口であり、突然現れた巨体のサンタクロースについ、携帯電話のカメラを向けたのだと言う。 白いひげをつけ、大きな袋をしょった栗田のサンタクロース姿は、待ち疲れた彼女の心にどれほど、優しいものを残したものか。 当時を懐かしむ顔で、まもりは栗田に笑いかける。 「でもどうせなら、クリスマスツリーをバックに撮影したかったなー。絵になるのに」 「確かに栗田さん、スゲー似合ってるっすよね。現物見てみたかったよーな」 「今年は頼まれなかったんですか? 栗田さん。教会のボランティア」 「去年終わった直後に頼まれてたんだけどねー。クリスマスボウルがあるから無理、ってその場で断ったんだ」 「その場で、ですか? 随分と気の早い・・・」 ついそう返したセナだったが、失言だと気づく。傍らでヒル魔が、マシンガンをこれ見よがしに構えたからだ。 「誰が気が早いって?」 「い、いえ、その・・・」 「実際俺たちはクリスマスボウルへ来たんだ、断って正解だろうが」 「ハイ、ソノトオリデアリマス・・・」 「ヒル魔、折角のめでたい場で、そんな物騒なもの出すんじゃねえよ」 「ムサシい・・・何か突っ込みどころが違わない? それにヒル魔、ホントにやめときなって」 親友2人に諭され、舌打ち1つで凶器をしまうヒル魔に肩をなでおろしながら、セナは改めてデビルバッツ創立メンバー3人を見やる。 ───そうだ。そもそもヒル魔があらかじめ、釘を刺していたのだった。栗田に『今年は断れ』と。 来(きた)るクリスマスボウルを目指すために。 武蔵厳こと、ムサシのこともそうだ。 可能性はほぼ0だったのに、ヒル魔と栗田はムサシが戻ってくると信じ、彼愛用のキックティーを部室のロッカーへしまいこみ、守ってきた。 そしてムサシも、彼らの期待に十二分に応え、最後の最後で帝黒を打ち負かす豪快なキックを決めて・・・。 本当に彼らは、ずっとずっとクリスマスボウルを目標に頑張ってきたんだな、と、改めて思い知らされたセナであった。 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。 去年は、2人だけでささやかに誓った約束。 ───そして今年はここにいる、泥門デビルバッツのメンバー皆で、叶えた約束。 「そーいえば僕、キャンディー袋ごと入れて来てたんだった。みんなー、食べるー?」 「うぃっす! 食うっす!」 「フゴー!」 「こンの糞デブ!! 俺は甘いもんは食わねえって言ってるだろうが!!」 「ヒル魔も食わず嫌いはよくないぞ。疲れた時には甘いものがいい、って聞くしな」 「あ、あのっ、ミント味あるみたいだから、それ食べればいいんじゃないでしょーかっ」 ≪終≫ ******* ※これはクリスマスに差し掛かる前から、大まかな内容だけは頭の中に浮かんでいたものです。が、久しぶりに小説として書き始めたら、まあ時間がかかるかかる。結果的に25日にすら間に合わなかったんだから、笑い話にもならないよなー。 アメフトをやっている者にとっては、クリスマスイベントなんてあってないようなものなんだろうな、と思ったのがそもそものきっかけ。それと、相方が持っていたイラスト集に、ヒル魔と栗田とその他大勢(をい☆)のサンタ姿が描かれていたのがあって、それがものすごくお気に入りで。せめて栗田にサンタの格好させたいなあ、似合うしなー、と思っていたら、自然に「サンタの格好した栗田がヒル魔にプレゼントを渡す」てな風に。 ・・・どーやらち☆ のノーミソじゃ、「ヒル魔がサンタに扮して他人にプレゼント渡す」って図は、想像を絶するものだったらしい・・・(ーー;;;)ただ考えてみれば、形に残らないものだったら、ヒル魔も栗田に既に渡してるんでしょうけどね。(友情とか、信頼とか、他もろもろvv) しかし今回後悔してるのは、他のデビルバッツメンバーをほとんど出せなかったこと。特にムサシの出番が少なかったことですかね。でも、当初の案から比べれば、随分増えた方なんですよ? これでも。セリフが特に。 連載終了してからアイシのファンになったものだから、世間から思い切りズレてるのは自覚してます。けど、栗田さんとヒル魔のコンビが好きなのは、もうどうしようもないんだよなあ・・・v ちなみに、意味不明なタイトルについては・・・何も言わんで下さい。どーしてもふさわしい言葉が思いつかなかったし、出来たら「ペパーミントキャンディー」になぞらえたものにしたかったんだけど、失敗した名残です(T_T)
先日までネタバレ恐れて行っていた反転表示、解除いたします。そのままお読みくださいませ。 にしても、富山でも放映開始した「斬魄刀編」ですか、どうもこっちでも、コンは活躍できそうにないですなー。ルキアに縋りついて「姐さあ〜ん〜」って泣いてるだけが関の山、って感じで。 ただ、DVDのコメンタリー聞いてると、コンって色々と設定が美味しすぎて、逆にメインに扱えないのかもな、とも思ってます。原作に触れてもまずいだろうしな〜。
その年最後の週、日本列島を襲った寒波はここ、空座町にも多量な雪をもたらした。 それはそんな、雪が降りしきる真夜中の物語。 「外に出たい」 「・・・はあ」 「ンで、雪を見たい」 ぬいぐるみの居候は、俺の体を使いたい理由をそう告げた。 時計はと見れば、あと1時間で翌日になる時刻。・・・どうせなら、何でもっと早い時間に言い出さねえんだ、こいつは。 もっとも、そのうちいつかはそう来ると思ってはいた。今年初めての雪が降った先日、あいつは時間と人目が許す限り窓にへばりついて、外を眺めていたから。 何でも、雪を直接見るのは初めてとかで、珍しかったらしい。だからてっきり、その日のうちに外出許可を欲しがると思っていたのに。 どうしてこんな年暮れに、しかもこんな真夜中になってから言いやがるんだ。 「・・・虚が出たら、とっとと部屋へ戻るって約束しろよ?」 それでも、何故か断る理由が見つからなかった俺は、代行証を取り出してぬいぐるみへと押し付けた。 「すンげえな一護! 周り全部真っ白だ!」 「そうかい」 屋根の上へ揃って登れば、真夜中の月明かりが雪に反射して、何とも幻想的な銀世界を演出している。 「吐く息も白いし」 「そりゃ、寒いからな」 「何だよ一護、随分感動が薄いじゃねえの」 「てめえが大げさに騒ぎ過ぎンだ。大体ソレ、俺の体だってこと忘れんなよ。下手に他人に見つかったら、後で何言われると思ってんだ」 「こんな真夜中の、しかも屋根の上なんて、そうそう誰も見てねえって」 おまけに、こんなに寒けりゃ、尚更だろうよ。 ───それが分かっていても、俺はコンの奴に文句を垂れるのをやめねえ。 「あー、やっぱりだー」 「大声出すなって。見つかるぞ」 「だってよ、いつもならこんだけ声出してたら反響して山彦みたいになるのに、今夜は全然だ」 「それは・・・雪のせいだ。音とか吸収しちまう、って話だぞ」 「へえ。だから雪降ってる時ってヤケに静かなのか。雨とかと同じ水なのに、何でこんなに違うんだ?」 「さあな」 「・・・ホント、一護って感動薄いよなあ。つまんねーの」 コンはそう言いながら、天に向かって大口を開けた。降って来る雪を直接食べるためだ。それはもう楽しそうに、嬉しそうに。 ・・・ああ、そうさ。俺は少し恥ずかしいんだよ。自分がガキの頃、雪が降った日にやらかしたこと全部、コンが俺の顔で体で、まるでなぞるようにやってやがるから。 もう戻らない日を懐かしく思うのは、少しは感傷的になっている証拠だろうか。子供時代の俺の横には、お袋の笑顔がいつもあったっけ。 「姐さん、今頃何してんだろ?」 ひとしきり雪の感触を楽しんで。コンはおもむろにそう呟いた。 こいつの言う『姐さん』はむろん、死神の朽木ルキアのこと。言葉では『愛しの姐さん』と表現しちゃいるが、それは恋する男と言うよりも、半分は親愛の情なんじゃねえだろうか。そう、子供が母親に感じるようなのと同じ。 ちょうどお袋のことを思い出していた時だったから、俺は妙な符号にドキリ、となった。 「・・・お前ひょっとして、ルキアのこと待ってたのか? あいつとこの雪景色、楽しみたかったとか? だからこんな時刻になっちまったのかよ?」 「んー、まあ、それもちょっとある」 「無理だって言ってたろうがよ。死神の仕事はギリギリ年末までだし、大晦日と元旦は朽木家の行事があるって」 先日雪が降る前、まだ冬休みに突入してない時だったか。たまたま部屋を訪れてたルキアに何となく話の流れで聞いたら、年末年始の過ごし方とやらを教えられた。尸魂界にも大晦日があるのか、じゃあクリスマスやバレンタインデーは、とやけに盛り上がった記憶がある。 「ンなの分かってるけどさー、何となくひょっとして、とか思うじゃねえか。時間がちょびっとだけ空いたから、とか言って」 「それはお前の願望だろうが」 「別に良いだろ? 頭ン中で考えてるだけだったら、誰にも迷惑かけないんだしよ」 あー、また雪が降ってきたー、と喜ぶ声に紛れて、けれどコンは聞き捨てならないことを口にする。 「せめて誕生日ぐらいは一緒に、って思うのはよ・・・」 ───誕生日? 「ちょっと待て。今日、お前の誕生日なのか?」 「やべ・・・今、声に出てたか?」 「そう言う問題じゃねえよ。大体お前、以前俺が聞いた時、きっぱり『知らねえ』って言ってなかったか? 本当は今日、11月30日が誕生日かよ? もうちょっとで終わりじゃねえか!」 俺は戸惑いを隠し切れねえ。 ───確かあれは、まだ今月の話。 遊子と夏梨のためにクリスマスプレゼントを買っておけと親父に厳達されて、俺はわざわざ学校を休んで(妹たちの目に触れないためだ!)デパートへと1人で繰り出した。・・・イヤ、正確にはぬいぐるみ姿のコンも一緒に、万が一虚が出現したらマズいってんで、交代要員として肩の辺りにくっつけて外出したんだ。 (カバンの中には入れておけない。万が一万引きと間違われたら厄介だし) 結局虚は出なかったが、帰り道荷物を抱えて帰ろうとした俺は、運悪く通り雨に出くわして。折角のプレゼントを濡らすわけには行かなかったから、家電量販店の軒下で晴れ間を待つことにした。 そこで放映していたテレビ番組が、ちょうど有名芸能人の誕生日とやらを祝っていた最中だったのだ。 生まれた日はどんな出来事があったとか、どんな年だったとか、同じ誕生日の芸能人がいるとか、いかにも視聴者の興味の惹きそうな内容だったことを、覚えている。 あの時軒下には、俺とコン以外誰もおらず。雨音とテレビの音声だけが聞こえる中、番組がコマーシャルに切り替わった頃、おもむろに聞かれたっけ。 『なあ一護。誕生日って自分を祝うよりも、周りの人間に感謝する日だって、ホントか?』 『確かにそういう面もあるかもな』 『だったらお前も、家族に感謝してんのか?』 『・・・とりあえず、だけど一応は、な』 一瞬言葉が途切れたのは、お袋のことを思い出したから。・・・ああ、あの時も俺は、お袋のことを考えてたのか。 『一護の誕生日っていつだ?』 『7月15日。・・・そう言うお前は?』 『知らねー』 『・・・そっか』 何故知らないのかは何となく想像出来たから、それ以上は追求することは出来ず。 そしてタイミング良く雨が上がって、荷物を抱えて走り出した俺はそれっきり、その話題に触れることはなかった───。 「・・・別に嘘ついてたわけじゃねえよ。ホントにあの時は知らなかったんだ」 コンは俺の顔を珍しくしかめて、こちらの抗議に答えた。 「けど、やっぱ気になってよ。あの後、お前が虚退治に出かけた時体借りて、浦原ンとこへ行ったんだ」 「浦原さんのところへ? 誕生日聞きにか?」 「ンなわけねえだろ。大体いくら元・技術開発局々長だったからって、改造魂魄の個々の製造年月日まで覚えてられないしよ 俺が聞いたのは、モッド・ソウルが廃棄されるって決定された日の方」 コンの言葉に、俺はこいつと面と向かって話した初めての日を思い出す。 『俺が作られてすぐに尸魂界は、モッドソウルの廃棄命令を出した』 『つまりそれは、作られた次の日には、死ぬ日が決まってたってことだ』 つまり、廃棄決定日が分かれば、コンの誕生日もすぐに分かるということで。 「で、歳はナイショだけど、作られたのが今日だ、って分かったってワケ」 「だったらルキアにも、ちゃんとそのこと言えば良かったろうがよ。そうすれば・・・」 「別に良いんだって。そんな大げさなことじゃねえし、大体どうやって姐さん連れ出すんだよ? 『所持することすら違法な改造魂魄の誕生日祝うために』なんて、言えるわけねえだろ?」 廃棄されることに怯えて、途中で自分の歳すら数えるのをやめてしまったであろう改造魂魄の生き残りは、そう俺を宥める。 「たださ。時間があるんだったら、運がよかったら、って俺が勝手に思ってただけ。そういう意味では俺、運が悪いんだろうなー。生き延びたのは幸運だったけど。欲張るなってことなのかも。 ってかさ、年明ける前に処分しちまおう、って、いかにも在庫整理って感じだよなー。棚卸(たなおろし)かっつーの」 降る雪に紛れさせるかのごとく、つとめて明るく愚痴るコンの背中に、俺は静かに語りかけた。 「コン」 「んー?」 「とりあえず間に合ったから、言っとく。・・・誕生日、おめでとさん」 「・・・・・」 コンはほんの少しだけ、見開いた目で俺を見たけれど。 「あーあ、言われたからには仕方ねえなあ」 そう言いつつ、フード付きジャンパーのポケットに手を突っ込み、ポイッ、と小さな物を投げて寄越す。とっさのことで、俺はそいつを落としかけながらも、何とか手のひらで受け止めた。 「うわっとと☆ ・・・何だよ、これ」 「チ■ルチョコ。浦原ンところで買ったんだ。ほら、誕生日は周りの人間に感謝する日だ、ってテレビで言ってたじゃん。だから、もし姐さんが来たら渡そうと思って」 ───処分されるところを引き取ってくれて、有難う───。 「もっとも、もう間に合いそうにないからさ、代理に一護が受け取れよ? ま、あれだ、おめでとうって言ってくれたから、とりあえず感謝の印として、だ」 「随分小せえ感謝の印だな・・・」 「し、仕方ねえだろ、金ないんだから。いらないんだったら返せよ!」 「・・・もらっとく。チョコは好きだし」 懐にしまいながら、ふと俺はこいつの購入元のことに思いをはせる。 「ひょっとしてお前、浦原さんにもこれ、渡したのか?」 「あー、うん。『何で今更処分決定日なんか知りたいんだ』って聞かれたからさ、説明したら『アタシが言うのも何ですが、誕生日おめでとうございます』って言われて。 ・・・そう言えば夜一さんにも、テッサイにも渡したな。お祝い言われたから」 「メチャクチャ複雑そうな顔、してただろ。特に浦原さん辺りは」 「言われてみればそうだったような・・・。やっぱり、自分ンところで扱ってる商品で代用しちゃ、マズかったか?」 「別にいいんじゃねえの」 俺はそうとしか言わなかったけど、浦原さんの気持ちを察して、苦笑した。 だって浦原さんにしてみれば、処分決定日を聞かれるって事でコンに、仲間の死を責められてるような気分になったんだろうと思う。なのに一転して、感謝の印とやらを渡されたんだから、相当困惑したんじゃねえだろうか。コン自身がそう意図したかどうかは、疑問だし。 もちろん、コンがこうして生き長らえてるのは、あの人が強行に回収しようとしなかったお陰もあるんだから、感謝すること自体はアリだろう、多分。 静かな夜だ。 先ほどから雪は降り続けているが、風で邪魔されたりせずほのかにコンの───正確には俺の───肩に、髪に、降り積もる。 それを時々手で払いながらコンが見上げるは、雪の生まれる遥か上空。 「・・・なあ、尸魂界も雪って降るのか?」 「あいにく知らねえな。俺があっちへ行ったのは、冬じゃねえし」 「やっぱり寒いんだろうなー。草履履きなんだろ?」 「かもな。防寒具ぐらいはあるんだろうけど」 ところで俺にはコンとの会話で、不意に閃いたものがある。 「・・・コン、お前、尸魂界に帰りたいのか?」 もっともその疑問は、半ば憤然と否定されてしまうが。 「俺が? 尸魂界に? ンなわけねえだろ、向こうに俺のいる場所なんかねえんだし、下手すりゃ回収されて、命が危ねえんだぜ?」 ただ。 「俺が作られた日ってのがどんなんだか、知りたかったんだ。・・・それだけの話」 「・・・・・」 そう言えば、先日見た例のテレビ番組でも、誕生日はこんな日だった、って話題を扱ってたっけ。思い切り影響されてるみてえだな。 ───ひょっとすると。 コンは、ルキアに自分の生まれたのがどんな日だったか、聞いてみたかったのかもしれない。もちろん、一緒に雪景色を見たかった、一緒に誕生日を祝いたかった、と言うのもあるだろうが。 生まれた場所がどんなところだったか。生まれた日がどんな日だったか。知りたい気持ちを止めることは、誰にも出来ないだろう。 俺が、自分の無力さを思い知るのは、こんな時だ。どんな言葉をかけてやれば良いのか、あいにく何も見当つきやしない。せめて、物思いにふけるのを邪魔しない程度に、見守っているぐらいで。 「もうすぐ・・・やんじまうな、雪」 「・・・ああ」 「誰も気づかないうちに降って、いつの間にか消えちまうんだな、雪って。何か、寂しいもんだな」 「・・・・・」 コンの言うとおり、降る雪は次第に勢いを失い、チラチラと舞い散るだけになっている。そしてちょうどこの雪がやむのは、コンの誕生日も終わる頃だろう。夜が明ければ、溶けてしまうかも知れない───降っていた名残すら、ないままに。 そうやって、最後の一片が舞い落ちて来た───ちょうどその時。 ヒラリ。 この白き世界ではやけに目立つ、そして決してありえないものが、目の端に映る。 そう。本来だったらこんな冬に、黒アゲハチョウなんて飛んでるどころか、生きているはずもない。 だからこいつは、この黒い蝶は、尸魂界から現世へと死神を導く地獄蝶のはずで。 「コン・・・」 「分かったって一護。そろそろ部屋へ・・・」 俺の声に答え、戻ろう、とこちらを振り返ったコンの目が、大きく見開かれる。 「遅くなって済まん。何とか間に合ったか?」 「ルキア?」 「姐さん!?」 「コン、今日が誕生日なのだそうだな・・・おめでとう」 白一面の中、黒い死覇装を身につけた黒髪の死神・朽木ルキアが、微笑を湛えて立っていた。 「ね、ねえさああああんっっ!! 会いたかったっスうううううっ!」 げしげしっ☆ 「おお済まぬ、いつものくせで」 「俺の体で抱きつくな。ってか、泣くな」 「ま、まさかダブルで足蹴が来るとは予想外・・・☆」 俺とルキアからの『攻撃』に撃退はされたものの、コンはさすがに嬉しそうだ。 「けど、何で姐さんがここに? 俺の誕生日なんて教えてなかったのに」 「今日夜一殿から聞いたのだ」 「夜一さんから?」 「久しぶりに尸魂界へ来ておられたらしくてな。運良く流魂街に私が出たところで遭遇して、そこで聞いたのだ」 俺の部屋へと急ぐ道すがら、現世へ来た経緯を説明するルキア。それを歓迎するがごとく、再び空に白いものが舞う。 「全く、水臭いではないか。それならそうと事前に話してくれたら、時間ぐらいとるものを」 「ほらみろ、俺の言ったとおりだろうがよ」 「イヤ、まあその・・・それはもうイイっしょ? とにかく、わざわざ来てくれて、俺嬉しいっスv」 「あいにく急だったから、そんなに長く滞在できるわけではないがな。茶飲み話をするくらいの時間は、あるぞ」 「イイっスね、それ。後はお菓子の1つでも・・・って、そうだ一護! さっきやったチ■ルチョコ返せよ」 「やなこった。もう食っちまったぜ」 「何をモメておるのだ、たわけども。早く部屋に入ろうではないか。喉が乾いた」 たわいない会話を交わしながら、俺たちは俺の部屋へと戻って行く。いつものように。 さあ───お前の生まれた日の話をしよう。 ≪終≫ ********** ※良く考えたら、原作での経過時間って半年かかってないんですよねえ? つまり、一護はともかくも、ルキアもコンもまだ誕生日を迎えてない、ってことで。 だから、こういう話もアリかな、と思って書いてみました。きっと似たような話書く人、いそうですけどね(^^;;;)一護もルキアも、勿論織姫も恋次たちも、みんな無事でコンたち現世組のもとへ帰って来いよー。 しかし、今読み返して気づいた。ルキアと一護がコンの誕生日知ったの、ビリとビリから2番目なんだな。しかも一番最初に知ったのが、都合上仕方ないとは言え浦原だった、ってのが何ともはや複雑な気持ち・・・。 ちなみに、文中のコンの回想セリフは、原作ではなくアニメの方を引用しました。あの回はアニメの方が、しっくりするような気がするもんでして。 最後に一言。 コン、誕生日おめでとう。 君と言う存在を知ることが出来て、 とっても嬉しいよ。 後日補填:↑やっぱり似たようなネタ書いてた人いた・・・。ま、いいか。 向こうはコミックだったし。
劇場版ネタばれのため、注意OK? 注意:DVDが無事発売されたんで、先日まで行っていた反転解除しました。そのままお読みください。 ****** ◆そして、黒崎一護の場合◆ ───夜一が、コンを見つけて確保した。 一緒に行動していたルキアの伝令神機へ連絡が入り、心底安堵した一護はすぐさま、穿界門を開くと言う双きょくの丘へと向かった。 瞬歩を使えば、少しの距離など何てことはない。だから今回も、連絡を受けてからさほど経たないうちに双きょくの丘へ到着出来たのだが。 「?」 そこに居合わせた、隊長格の死神たちの様子がおかしい。穿界門の方角を見ようとせず、視線を宙へさまよわせている感じなのだ。 加えて、特に男性陣の表情が引きつっていると言うか、人によっては逆にだらしなくニヤけているように思えるのは、果たして気のせいか。 不審に思いはしたものの、それが何かを把握する前にコンの姿が視界に入ってきたので、一護は迷わず近くに降り立つ。 ───が。 「△◎☆→#〜〜!?」 次の瞬間、他の男性陣同様一護は、即座にコン『たち』から視線を逸らし、完全に背中を向けてしまったのだった。 「よ、よ、夜一さんっ! あ、あんたまた何で、こんな公衆の面前でっっっ!!!」 そう。夜一は猫の姿から人間の姿へと戻ったはいいが、例によって例のごとく素っ裸の状態でいたのである。 ごくまっとうで常識ある男なら、確かにイロイロと落ち着かなくなって当然だろう。 「相変わらず初心(ウブ)よのお、一護。いい加減慣れたらどうじゃ?」 「慣れてたまるか、ンなもんっっ!」 「黒崎サン・・・慣れるって、夜一サンの裸、そんなに見たんですか・・・」 「って、そこで殺気漲らせるんじゃねえよ、浦原さん! 見たんじゃなくて、見せられたんだっ、逆セクハラだぞはっきり言ってっ!」 「でっ、ですから夜一さまっ、これを早くっ! 早くお召しをっ!」 ヤケに目の据わった浦原に迫られつつも、背後では砕蜂に手渡されたらしい羽織を着る衣擦れの音を確認していた一護だったが。 「どうじゃ? コン。儂の胸枕は心地良いか?」 「んー、暖かくて柔らかくて眠っちまいそー。人肌って気持ち良いなー」 「そうじゃろう、そうじゃろう。よく味わっておくのじゃぞ」 どうやらコンが、夜一に抱き上げられた状態で話をしているらしいのを耳にし、眉をひそめる。 それはどうやら、一緒にここへ来たルキアも同様だったようで。 「・・・おい一護。コンの奴、ちょっと様子がおかしいのではないか?」 「やっぱりルキアもそう思うか? 夜一さんのあんな姿見て、あれくらいの反応で済む奴じゃねえんだよ。いつもだったら」 「ああ、大人しすぎる・・・松本殿の現世での制服姿を見た時は、もっとテンションが高かったはずなのに」 これは相当、落ち込んでいるのではないか───? 2人が2人とも、うっかりコンを忘れていたと言う負い目もあって、真っ先にその可能性に行き当たった。いや、はっきり言ってそれ以外の理由なぞ、考え付くはずもない。 とにかく、誠心誠意、心の底から謝ろう。まずはそれが先決だ───そう決意したルキアはだが、その謝罪すべき相手からのとんでもない言葉に、その気持ちを撤回することとなる。 「姐さんのまっ平らでささやかな胸に抱きしめられるのも良いけど、やっぱ夜一さんのせくしーだいなまいつな胸は気持ち良いなーv」 「───!」 「お、落ち着けルキア! 頼むから斬魄刀をしまえっ!」 無言で袖白雪を抜こうとするルキアを、一護は必死に羽交い絞めにして止めた。 「何故止める。一瞬でもあやつに済まなかった、と思った我が心が口惜しいと言うのに」 「腹が立つ気持ちは分かる! 分かるけど今はやめとけ!」 「貴様どうして、コンにそこまで味方するのだ? よもや貴様、先ほどのあやつの暴言に賛同していると言うわけではあるまいな・・・?」 「だからそこで殺気立つな! ってか、賛同してねえだろうが俺は! いいから落ちつけってんだよ」 ズルズル、と、ルキアを夜一たちから少しだけ遠ざかったところへと引っ張って行ってから、かなりの仏頂面で一護は切り出した。 「・・・あのな。コンのアレ、多分いつものあいつのやり口なの」 「は? やり口だと?」 「だから、絶妙なタイミングでこっちの悪口言って、こっちの謝る気持ちを削ぐ、って方法」 思いもよらないことを打ち明けられ、呆気にとられるルキアに気まずい思いをしながらも、コンの弁護をする一護である。 「俺も何度か、経験あンだよ。さすがにこれだけ一緒に住んでると、ケンカしねえ方がおかしいだろ? 男同士だし。だから取っ組み合いなんか日常茶飯事だし、時々派手な口ゲンカもするんだけどな・・・たまにあんな風にかわされちまうんだ」 ただし、コンがこのやり口を実行するのには、一定の条件がある。明らかにコンの方が悪かったり、逆に一護の方が悪かったりする時は、絶対にこんな方法はとらない。そういう場合は大抵、『悪かった』方が折れてとりあえずおしまい、だ。無論、折れる方の気分によって、膠着状態は変に長引いたりもする。 だが。 「今回・・・俺たちの方が断然悪いはずなのにこんな態度取ったってことは、多分あいつ、俺たちに謝って欲しくないんだ、って気がする」 「何だそれは」 「理由は分からねえ。俺たちとはぐれてた時に何かあったのかも知れねえし、全然違う原因があるかも知れねえ。いや・・・どころか案外、落ち込んでる理由自体、俺たちとはまるで関係ねえ可能性もあるだろうがよ」 第一、コンの身に起きたことが全て自分たち絡みだと思うのは、とんだ傲慢ではないだろうか。彼には彼の、彼だけの、自分たちがあずかり知らぬ世界があるはずだから。 「・・・だからアレは今、下手に見当違いのことで謝罪入れられたって困る、って意味なんじゃねえかと思う。あいつもそれが薄々分かってるから、敢えて誤魔化してんだよ」 あいつ結構ややこしい性格してるしな、と一護が疲れたような苦笑を浮かべるのを見て、ルキアは怒りの矛先と斬魄刀を収めたのだった。・・・一護の顔を立ててとりあえず、ではあるが。 「おーう一護、やっと来やがったか。遅かったじゃねえか。さっさと現世へ帰ろうぜー」 コンは相変わらず低いテンションのまま、夜一の『胸枕』を楽しんでいる。やはりと言うか、後頭部を胸に埋(うず)めると言うまさに枕のような扱い方で、本来の彼が好きそうな顔面を埋める『ぱふぱふ』状態ではない。 一護に、自分の推測の正しさを確信させていると知ってか知らずか、ルキアたちにかける声は能天気を装って。 「姐さーんv 元に戻ってくれて嬉しいっスよ〜v 体の具合、大丈夫っスか?」 「・・・ああ、もう何ともない。しかしコン、貴様こそとんでもない風体になっておらぬか?」 「このくらい、一護とのケンカで慣れてますから」 「をいこら、人聞きの悪いこと言ってるんじゃねえ。いくら何でも俺は、ここまでひでえ状態にした覚えはねえぞ」 「それに、この状態なら井上さんに修繕と入浴頼む口実になるっしょ? ムフフ・・・楽しみだなあvv」 「人の話を聞けっての」 「一護・・・絶対に井上には修繕を頼むなよ。友人として彼女の身が心配だ」 「おおよ。ってか、石田でも贅沢だ。やっぱ遊子の奴に、全部頼んだ方が良さそうだな」 「げげっ☆ そ、それはちょっと勘弁してもらえねえかな〜」 内包する気まずさは横へやり、かわされるいつも通りのやり取り。 そんな彼らを、いわば微笑ましく見守っていた夜一だったが、おもむろにコンを抱き直した後ルキアに向き直った。 ───ちなみに今は、ちゃんと砕蜂の羽織を身に付け、見苦しくないくらいの格好になっている。 「時に朽木。少し尋ねたいことがあるのじゃが」 「? 何でありましょうか、夜一殿」 「大したことではないのじゃが・・・お主今回の騒動中、一護のこともコンのことも忘れておったのじゃったな?」 夜一の質問に、ほのぼのしかけていた空気が少しだけ、強張りかける。 「夜一さん、今更何を・・・」 「気になることがあっての。どうなんじゃ? 朽木」 「は、はい・・・あいにくと、その・・・」 ルキアはコンの方にチラリ、と目をやり、すぐに逸らす。 ───そう言えば、俺の名前は口にしていた気がするけど、コンのことは呼んでなかったような・・・。 そりゃ気まずいだろう、と思いつつも一護は、ここで下手を打てば薮蛇になりかねないので、夜一の次の言葉を待つことにした。 「ふむ・・・じゃったら尚更、ワケが分からんのお・・・」 「だから何がだよ? 夜一さん」 「儂は時々猫の姿になっておるから、経験済みなのじゃがな。普通人間も死神も、自分の縄張りに自分の知らぬ存在がおれば、追い出しにかかるじゃろう?」 いきなりの話題変換に、さすがの一護もついていけない。勿論コンは、まるで他人事のように首をかしげている。 「ええと・・・?」 「じゃから、例えばの話じゃ。野良猫が部屋にいつの間にか居座っていたら、普通は気味悪がるものじゃろう? 儂もよく現世で、日当たりのいい庭に入り込んで居眠りしておったら、血相を変えて追い返されたものじゃ」 「・・・まあ、それは確かに」 「隊長だったら、自分の昼寝場所を横取りするな、って怒りそうですよね?」 「松本・・・後で覚えてろ・・・」 「で、それが何だってんです?」 浮竹や日番谷、恋次たちが何となく会話に割り込むのを見計らったかのように、夜一は今度は一護に向かって問いかけた。 「一護は今回、どうしてコンを追い出そうとしなかったのじゃ? と聞いておる」 「・・・・・はあ!?」 「喜助に聞いたぞ? お主も一瞬、朽木のことを忘れかけたのじゃろう?」 「だから、それが何でこいつを追い出すってコトに・・・」 「鈍い奴じゃのお・・・そもそも改造魂魄のコンは、お主と朽木のお陰で命を永らえたのじゃろうが。つまり、朽木の存在を抜きにして、こやつのことは語れぬはずじゃろう?」 「・・・・・!?」 おぼろげながら、夜一が何を言いたいのか分かったらしい。コンは彼女の胸に抱かれたまま、表情を固くする。 そんな彼を宥めるかのように、夜一は頬擦りをしながら尚も続けたのだった。 「見かけによらずお主は優しい男のようじゃが、さすがに正体不明の喋るぬいぐるみを自室で見つければ、妹たちの安全も考えて、追い出すのではないのか? じゃから疑問に思うての。 ・・・ひょっとして一護、お主は、朽木の記憶を刈られたくせに、コンのことはずっと忘れずにいたのではないのか?」 だから追い出すなど、考えもしなかったのだろう───? 時に野良猫のふりをする、この貴人はそう問いかける。 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、夜一サン」 先ほどまで、一護が夜一の裸を見たことを根に持っていた浦原が、慌てて口を挟んだ。 「それはさすがに、ありえないんじゃないっスか? だって技術開発局々長だったアタシですら、コンさんのことは完璧に忘れてたんですよ? なのに・・・」 「・・・いや、確かに夜一さんの言ってる通りだ」 一護は少しだけ思い出すような仕草をしていたが、驚くほどスッパリと断言する。 「さっきまでならともかく、現世ではコンのこと、俺は忘れた記憶はねえ」 「・・・なーに気取ってやがんだよ、一護」 が、それに異議を唱えたのは、他ならぬコンだったことが一同を戸惑わせた。 「別に忘れてたって、俺は気にしてねえんだぜ? そんなの小せえことだろ。てめえが姐さんのこと忘れてたことに比べれば」 「そんなんじゃねえって」 「大体てめえ、あの時俺のコトまともに名前で呼んでなかったじゃねえかよ? てめえが俺の名前をハッキリ呼んだのは、一旦寝てたところを叩き起こしやがった、あの時からだ」 「あのなあ、そんなのお互い様だろうが。少なくとも浦原商店へ行くまで、てめえ俺のことちゃんと名前で呼んでたか? ルキアのことですら『姐さん』で済ませてたろうが」 「うっ☆」 「そもそも普段から俺たちは2人きりでいる時、わざわざ名前で呼び合うってコト、ほとんどなかっただろうがよ」 「そこはエバって言えることかよ、この野郎」 「まあまあ、黒崎さんもコンさんも落ち着いて」 夜一の質問そっちのけで口論を始めそうな気配に、浦原がとっさに止めに入る。 「何だか、『おい』『お前』だけで会話成立させてる、熟年夫婦みたいなやり取りですねえ」 「・・・何だって?」 「いえいえ、聞こえなかったんだったら良いんですよ。でも確かに夜一サンの言う通り、おかしな現象ですねえ?」 「そうじゃろう?」 夜一は頷いたが、どちらかと言うと愉快そうな顔に見えるのが、一護には癪だ。 「生みの親より、育ての親、と言ったところじゃな」 「「誰が親だ、誰が」」 「言葉のアヤじゃ、気にするな。それはともかく・・・喜助。元・技術開発局々長としてのお主の意見、聞きたいものじゃがのお」 悪戯っぽい目をひらめかせる夜一に、一護は少々居心地の悪さを覚え始めた。 ・・・何もそういう気恥ずかしいことを、皆が聞いているこの場で聞かずとも良さそうなものを。 「そうですねえ・・・」 浦原はちょっとだけ、考えるそぶりをしながら周囲を見渡す。まるで皆が聞いているのを、確かめているかのように。 「まず1番目に考えられるのは、コンさんが改造魂魄と言う特殊な存在であるが故、記憶を刈り取られることがなかった、と言う説」 「! だが、それは・・・」 「そう、朽木さんも先ほどおっしゃっていた通り、その説はきっぱり否定できます。何たって、朽木さんを初めとした死神が皆、覚えていなかったのだから」 気まずい思いを共有しながらも、この場にいる死神は皆納得する。 「2番目に考えられるのは、距離の壁というヤツです。尸魂界と現世の間には、断界と言う時空を隔てる壁が存在する。それ故に、刈られる記憶に差が生じた・・・」 ですが、と浦原は、夜一と視線を交わしてみせる。 「その説もありえませんね。実際、私たち浦原商店の者は現世にいたのに、皆黒崎さんやコンさんのことを覚えていませんでした」 ルキアの異変を感じ、浦原商店へ足を運んだ時の違和感を、一護は思い出す。確かにあの時応対してくれた雨の態度は、まるっきり初対面の人間に対するものだった。 「となると、考えられるのは・・・まあ、これはあくまでも想像でしかないので、なんとも検証がしづらいんですが」 ヤケにもったいぶった言い方で、浦原は周囲の注目を惹いてから、告げた。 「黒崎さんと朽木ルキアさん、あるいは朽木さんとコンさんの間にあるものとはまた別の絆が、黒崎さんとコンさんの間にもちゃんと育まれていた・・・と言ったところでしょうかねえ?」 「へ?」 「・・・・・」 浦原のそのセリフに、コンが仰天したような視線を向けてくるのを、照れからそっぽを向いてやり過ごす一護。 が、そのくらいで浦原の主張を中断させることなど、出来るはずもなく。 「そもそも何だかんだ言いながらも、黒崎さんは廃棄処分されかかったコンさんを、ご自分の意思で引き取った。そう、朽木さんや誰かに、強要されてのことじゃない。その時点で既にコンさんは、黒崎さんにとっちゃ特別な存在になってるんです。本人も無意識のうちにね」 自分の意思が故に、死神になったこと自体は忘れなかったのと同じ理屈っス───ルキアから死神能力を譲渡された経緯を聞かされていたらしい浦原は、そう結論付ける。 「だから黒崎さんが今回、朽木さんのことを忘れてもコンさんのことを覚えていたのは、別段不思議でも何でもなく、ごくごく当然の結果だった───ってところっスかぁ?」 ───一瞬の沈黙の後。 「い、いちごおおおおおっ!!」 感動のあまり、目から鼻から涙やら鼻水やらをただ漏れさせたぬいぐるみは、全身全霊で一護に抱きついた。 「だああああっ! 鼻水を擦り付けるなよ、コンっ!」 「やっぱりおめーは親友だああっ! 1人で凹んでて悪かったあああっ!」 「だから、そんなに派手なリアクションすんな! 顔がもげそうだぞ、顔がっ!!」 「いちごおおおおおっ! 俺は嬉しいぞおおおおっ!」 「・・・・・・・☆」 どんな悪態をつこうが、感動の涙を止めようとしないコンに、さすがに一護もどんな態度をとって良いのか途方にくれてしまう。 そんな彼の気恥ずかしさを、更にルキアが増長させるのだから、タチが悪い。 「ほほう・・・少々ヤケるな、一護。私がおらぬ間に、随分コンと仲良くなったではないか」 「ルキア、てめえっ!」 「ヤケるだなんて、そんな、恐れ多いっ! 俺はちゃんと、姐さんのことも愛してるっす!」 「ホントか? 愛想をつかされたと心配していたのだぞ?」 「マジっス! 俺のこのあふれる愛情を受け止めて・・・・・むぎゅ☆」 「ああスマン、いつものくせでつい足蹴に」 「・・・何か、シアワセそうな顔で伸びてるな・・・」 やっと気まずさを拭い去り、本当にいつもどおりのやり取りを交わす3人だった。 そしてそんな彼らを見守りつつも、密かにショックを受けている男が、約1名。 「ヤ、ヤケるって、ヤケるって・・・」 「だから阿散井、朽木はそういう意味で言ったんじゃねえだろうがよ」 「あーあ、全然聞こえてないみたいですね」 ≪おしまい≫ ※イヤだから、マジで謎でしょうが。一護がコンのことはちゃんと覚えてた、ってことは。 まあそうでないと、そもそも話が進みようがなかっただろうけどね・・・。 もしHPで正式にUPすることになれば、製作秘話なんか書こうかと思ってます。多分劇場公開終了後でしょうけどねー。 ちなみにここに書いた『改造魂魄が作られた理由』は捏造ですんで、本気にしないでねv
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