ちゃんちゃん☆のショート創作

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忘るる事象について、いくつかの報告(1)
2008年12月24日(水)

※BL■ACH劇場版第3弾について、あの笑撃!? のラストへのフォローと、ちゃんちゃん☆ 的最大の謎について、小説にしてみました。
 こういうのって本当は、劇場公開終了後まで遠慮するのが筋なんでしょうが、早い者勝ちって気もしますんで。

 一部ネタバレあるんで、ネタバレ嫌な人は読まんで下さい。OK?

注意:DVDが無事発売されたんで、先日まで行っていた反転解除しました。そのままお読みください。


     **********
 忘れることが不幸なのか、あるいは幸福なのかは、きっと誰にも分からないことなのだろう。


◆本職と代行の失態◆


 とりあえず、瀞霊廷始まって以来の未曾有の壊滅危機が回避され。
 黒崎一護たち一行を現世へ帰すべく、穿界門を開く手続きを行っていた時である。ちょっとした騒動が起きたのは。

「ところで一護くん。君が同行させていた、あのライオンのぬいぐるみはどうしたんだい?」

 浮竹十四郎に素朴な表情で尋ねられ。
 小首をかしげていた一護は次の瞬間、顔面から一気に血の気を失せさせ、絶叫する。

「だーーーっ!! しまった、コンの奴どこに行った!?」

 その慌てぶりは、護廷十三隊を皆敵に回していた際にはついぞ見られなかったもので、居合わせた死神たちをひどく驚かせた。
 そして、そんな彼の様子に、落ち着きを無くす者がもう1人。

 「何だと、一護! 貴様コンを、どこかに置き忘れてきたのか!?」

 朽木ルキアは先ほどまで、一護とのしばしの別れを惜しんでいたのだが、その穏やかさもどこへやら。狼狽の色を隠そうともしない。

「戦闘中に落っことされて、死神連中みたいに固まっちまったんだよ! ま、まさかどっかで砕けたりしてねえだろうな?」
「馬鹿者! それを言わぬか、早く探すぞ!」

 言うが早いか、ルキアは瞬歩でたちどころに姿を消す。

 一護もすぐに後に続いたが、浦原喜助の、
「手分けするんだったら、伝令神機で連絡取り合わないと、行き違いになっちゃいますよー」
との言葉は、果たして聞こえていたかどうか。

「全く・・・仕方のないガキどもじゃのう」

 ふう、とため息をつき、浦原の肩口から黒猫が一匹、地面に降り立った。むろんそれは、四楓院夜一の仮の姿で。

「喜助、儂も探してくる。猫の視線でないと、分からぬこともあるじゃろうからな」
「そりゃまあ、コンさんのあの大きさじゃあねえ」
「すぐに戻る故、いい子にしておるのじゃぞ?」
「・・・アタシも子供扱いっスか・・・?」

 微妙にふて腐れた顔に溜飲を下げたのか、夜一は一瞬口を笑みの形にゆがめてから、すぐ姿をくらませた。「瞬神・夜一」の異名は、未だに健在らしい。



◆阿散井恋次の場合◆


 日番谷冬獅郎は、そんな現世組の姿をしばらく眺めていたのだが、ふと思い立って視線を転じる。

「・・・・・・・」

 そこには、何やら苦虫を2、30匹ほどまとめて噛み潰したような形相の、阿散井恋次が立っていた。彼はルキアたちが走り去った方角を、黙って見つめたままだ。

 自分もそうだが、護廷十三隊の死神たちは皆、朽木ルキアのことを忘れさせられていた。それは、彼女と幼馴染であった恋次も例外ではない。
 ・・・いや、むしろもっとも親しい間柄だったこそ、忘れていたことがショックだったのではないだろうか。

 現に、ルキアが記憶を取り戻してからも、何やら彼の様子がおかしい。いつもなら、2人で漫才のような小気味いい会話を繰り出しているところを、身の置き所に困り果てた、と言う感じで、彼女と着かず離れずの位置を保っていただけだったのだ。

 日頃元気な男が、いわば意気消沈しているのは調子が狂う───日番谷が恋次にわざわざ声をかけたのは、多分そんな気持ちの表れだったのだろう。

「阿散井。何だその情けねえツラは」
「日番谷隊長・・・?」
「いい加減、今回の失態は忘れろ。
・・・朽木のことを忘れていて気まずいのは分かるが、それはお互い様だろう。向こうの方も我々のことを、覚えていなかったのだからな」

 が、恋次はゆるく頭(かぶり)を振った。

「一護は忘れてませんでしたよ? それともう1人・・・って言うか、あの改造魂魄も」
「黒崎が覚えていても不思議はないだろう。あいつは朽木に、死神の能力を分け与えられたんだ。言わば自分の存在意義を忘れないのと、同じようなもんだ」
「頭じゃ分かってるんですけどね、その理屈」
「大体お前、何で改造魂魄にまで対抗意識燃やしてやがる。あいつらは戦闘用だ。『そういう風』に作られているんだから、忘れなくて当然だろうが」
「けど、あいつらは覚えてて、俺は忘れていた。
・・・それは動かしようのねえ事実っスよ」

 それに、と恋次は、今までとは違った感じの疲れたようなため息を漏らす。

「何か・・・さっきの一護とルキア見てたら、その・・・現世の行楽地で迷子になったガキ探してる夫婦、みたいに見えちまいまして」

 自分で自分にムカつく、と力説する恋次に、周囲は必死で笑うのをこらえ。
 日番谷は重症患者を診察する医師の気分で、痛くなる頭を無言で押さえる。

 自分より十分の一以上年下のガキどもにそんな体たらくでは、これから先が思いやられやしないか・・・?

 彼の憂鬱は結局、彼らの会話を耳にしていて気を利かせたのか、「実は黒崎サンも当初、朽木サンのこと忘れてたみたいっスよ?」と浦原が打ち明けるまで、続いたのだった。



◆改造魂魄・コンの場合◆


 本人にも無論自信があったとは言え、コンを真っ先に見つけ出したのはやはり、猫の夜一である。

 瀞霊廷の片隅で発見した彼は、無残なまでにみすぼらしい風体だった。
 ぬいぐるみの色は褪せ、生地はボロボロ、土と埃にまみれた上に、あちらこちらが千切れている始末。加えていつもの、1人でも騒がしい言動はどこへやら。黙り込んでうずくまっていたため、さすがの夜一も一瞬、見過ごすところで。

 この調子では、一護たちが彼を見つけ出すのは骨だ。もちろんコンとしても、別に隠れていたわけではないだろうが。

「ここにいたのか。探したぞ、コン」

 夜一が後ろから近寄って声をかけたところ、予想に反してコンは、こちらを振り返ろうとしなかった。

「・・・探しに来てくれたんだ、夜一さん」
「何じゃ。迎えが一護か朽木ではないと、不満か?」
「別に。探しに来てくれただけで、有難いから」

 その口調は、すねていると言うよりは本気で投げやりで、夜一の琥珀色の目を瞬かせる。

「一体どうしたのじゃ? お主の探査能力なら、今一護たちが懸命に探していることなどお見通しじゃろうに。どうして答えようとしなかった?」
「・・・・・」
「どうやら、単に置いてけぼりを食らったから、というわけではなさそうじゃな?」
「そっちにもちょっとは凹んだぜ? けど、俺は今回一護にくっついてたばっかで、実際何の役にも立たなかったし。ま、置いてけぼりもしょうがねえかな、と」

 折角の戦闘用改造魂魄なのによ、と、半ばやけくそ気味に呟くのを、夜一は呆れた風に応じた。

「・・・何を言う。皆が忘れていた朽木のことも、一護のことも、お主はちゃんと覚えていたではないか。ただそれだけのことでも孤立無援だった一護にとっては、どれほどの救いになったと思っておる?」
「そんなのお互い様だって。俺も愛する姐さんに忘れられてて、結構ショックだったしよ。カラ元気でいられたのも、一護が俺のこと覚えててくれたからだったんだ」

 ま、今はうっかり忘れてやがるけどさ、とツッコミを入れるのを忘れないコン。

「大体、俺が2人のこと忘れてなかったのは、あいつらみたいに信頼とか絆とか言った理由じゃねえ・・・。
俺たち改造魂魄は元々、『絶対忘れたりしないよう』作られてっからなんだぜ?」

 淡々と告げる口調はコンらしからぬものだったが、決して自虐的ではない。むしろ本当のことを何の誇張もなく伝えている───ただそれだけのもの。

「・・・浦原に聞いて知ってるんだろ? 夜一さん。俺たちが作られたのは、勿論魂の抜けた死体を有効利用する意味もあったけど、それだけじゃない。要は、戦闘経験やデーターを効率よく次の戦闘へ繋げる為だった、ってこと」
「一応は、な」

 そう。
 死神を一から訓練するのは、時間と労力が相応にかかる。そのために真央霊術院があるのだし、一護みたいに短期間で『使える』ようになるのは、異例中の異例なのだ。
 だが、戦闘中に殺されては、その手間も無と化してしまう。だから、死体さえあれば何度でも繰り返して使える尖兵として、コンたち改造魂魄は開発されたのである。

 もっとも、その尖兵計画自体は既にない。今はコンと名づけられたこの、ただ1体の生き残りが存在するのみ。彼らは結局、後々の戦いへ糧になることもなく、一方的に処分されてしまったのだから。

 ・・・それなりに複雑な心境で口を噤む夜一をよそに、コンはあっけらかんとした笑顔で言った。

「端から俺たちには、忘れるって言う選択肢は持ち合わせてねえ、ってだけのことなんだぜ? ・・・ま、今回はそれが、姐さん助ける手助けになったみたいだったから、ある意味良かったけどさ」
「ある意味は、と言ったな。つまり、良くなかった部分もあったと言うことか?」
「・・・聞くかねえ・・・今、それを・・・」

 無表情のはずのぬいぐるみの顔が、明らかに寂しさで歪む。涙腺などないはずの作り物の眼球が、夜一には潤んで見える。

「だってよ。俺だけ馬鹿みたいじゃん。皆が狡くも忘れてられることまで、強制的に覚えさせられてるなんて・・・損してる気分なんだよな、ものすごく。貧乏くじ引いた、ってか、横着できねえ、ってかさ・・・」

 それでも、どこかおどけたように振舞うコンを見るにつけ夜一は、どうして彼に元気がなかったのか判ったような気がした。

 ───疎外感。言葉で表せるとしたら、まさにそれ。

 コンとてさすがに改造魂魄の自分を、死神や人間だと思ったことはないだろう。それでも、半分人間で半分死神の一護と一緒に暮らすうち、同等の存在だと言う意識が芽生えたのだとしたら?

 なのに今回の騒動で、いきなり突きつけられた『事実』。決して自分は、ルキアや一護とは同じにはなりえぬ、と言う───。
 そして彼にはその苛酷な現実すら、忘れることは許されていないのだ。

「断っておくけど、俺は別に、忘れたいって思ってるわけじゃねえぞ?」

 無言でたたずむ夜一をどう思ったのか、コンはいつものようなお調子者の声を装う。

「・・・そうなのか?」
「あったりまえじゃん。今回の騒動でよく分かっただろ? 自分の都合のいいことだけ覚えていてもらおうって考えたって、結局はうまくいかなかったわけだし」
「確かにそうじゃったな」
「ただ、さ」

 ぽてん、と力なくその場にうつぶせてみせるぬいぐるみ。

「どうしようもないって分かってても考えちまう、ってあるじゃん。今の俺、まさにそいつなんだよな。そうでもしないとやってらんねー、っつーかさ。
・・・今日だけでいい。1日だけで良いから・・・ちょっとだけ凹ませておいて欲しいんだ、夜一さん。・・・頼むよ」

 寝て明日になったら、また元気になるから───そう虚勢を張るコンの姿は、同居人の一護はともかく、大好きなルキアにはあまり見せたくないものなのだろう。

 かつて───遠い昔。そんな風にちょっとだけ落ち込んで、でも次の日までには力強く歩み出した男を、夜一は最も身近な存在で知っている。

 彼女はだから、コンの気持ちが分からぬではない。が、時刻が迫っているのも事実で。

「じゃがなコン、落ち込むのはいつでもできるじゃろう。今はとりあえず、穿界門を通って現世へ戻るのが先決ではないのか?」
「自分の足で歩く気、しねーし。断界なんてもっとムリムリだし」
「どうせここに来る時の断界は、一護にしがみついて駆け抜けたのじゃろうが。・・・全く」

 猫特有の細い目を笑みの形に歪ませ、夜一はコンの傍に駆け寄ったかと思うと、その体を銜えて強引に、自分の背中へと放り投げた。

「特別サービスじゃ。しっかり捕まっておれよ」

 ───個人的に気になることもある。ここは一護と話してみるとしようか。

 そう決意した夜一の足は、それはそれは軽やかである。


≪続く≫


※容量多すぎたので、2分割します・・・。





いつか来たる結末、されど遠い未来であれ・後書き
2008年12月05日(金)


 えー、初めてのBLEA●H小説が、こーんな長丁場になろうとは。自分でもちょっと驚いてます。
 どうせ自分のサイトがあるんだから、そっちの方へUPしてもいいんでしょうけど、編集作業がメンドくさいので、とりあえずこちらへ投稿いたしました。劇場版第3弾に間に合わせたかったんですよ。コン、今回はかなり出まくりだって話、聞いたもんですからv

 くれぐれもこの後書きは、ちゃんと最後まで本編を読み終わってから見てくださいね? 問答無用でネタバレ行きますから。




 さて、もともとこの話を書くきっかけになったのは、ある日いきなり欝モードになった自分の発想。何故か、

「一護やルキアが知らない間に、コンが消滅してる」

って結末を想像しちゃいまして。

 最近の原作、コンがこれっぽっちも出ないもんだから、うっかりそんなこと考えちゃったのかも知れません。が、直後に「そんなのだけはイヤだ〜〜!!」と大却下くらわせたんですが。何も全部が全部を否定しなくてもよかろう、とも思ったんです。

 要は、こういう結末だけはイヤだと喚くファンがここにいるぞ、と言うささやかな主義主張にしちまえ、と。

 ・・・何だか、自分でボケといて自分でツッコミ入れるお笑い芸人みたいだな、自分・・・☆

 一護とルキアとコン。この3人の擬似家族が、ちゃんちゃん☆ は好きです。アニ鰤のかつてのOPアニメで流れてた「TONIGHT×3」のラストの止め絵を一目見た途端、

「てめーらピクニックしに来てる家族かあああっvv」

と目からウロコ。あれで一気に目覚めました。3人が仲良く・・・とまではいかなくても、何やらほのぼのとした雰囲気で居眠りしてるなんてなあ。(他の改造魂魄いるじゃん、ってツッコミは却下☆)何だよ一護、コンが脱走しないようにって足掴んでる手、ちょっと優しげじゃなーいvv こういう親子、結構見かけるよねーとか、まあイロイロと。

 かと言って、何故かイチルキ派ではなく、一織派なんですよ、ちゃんちゃん☆ は。あくまでも一護とルキアは名コンビ。
 だから冒頭にちゃっかり、一織シーンを入れてみましたv 一護と織姫とコンのトリオも、そのうち書きたい。ってか、是非原作で見てみたいですv

 ところで、原作じゃ織姫、コンとは数えるくらいしか顔合わせてませんよね? コンのこと、何て呼ぶんだろ? 一応ここでは織姫がコンを「君」付け呼ばわりしてます。が、実はそれにはふかーい事情があったりします。深刻だけど、しょうもない理由が(ーー;;;)いつかそっちも、書ければいいんだけど・・・。

 ちなみに、織姫がコンに買ってあげた生キャラメルですが、さすがに今話題の『花■牧場』のじゃないです。学校帰りの学生にゃ、買うの困難でしょ?
(かつてネットで予約しようとして、予約開始数分での「完売」の壁に負けたやつ☆)

 この話では尸魂界側には、コンが改造魂魄だとは知られていない設定になってます。
でも、原作でだって今の時点じゃそれっぽいですよね? 一護の家に押しかけた死神たちも、コンを義魂丸だと言う認識はあっても、改造魂魄とは思っていないみたいだし。
 ひょっとして彼ら、死神代行、ってことで、一護が義魂丸を湯水のように使うのを遠慮してるんだろ、と誤解してるのか?

 ところでラスト。一護がコンのことぶん殴る! って宣言してるところで終わってますが、きっと賛否両論なんでしょうなあ。一護とルキアのこと考えて命張ったコンに、そんな仕打ちはないじゃん! もっと優しい言葉かけてやって・・・と思われてもごもっとも。

 けど、どうもウチの一護は口より先に手が出ちゃうタイプでして。それに、誰かが犠牲になって物事を終わらせる、ってのがどうも苦手なんです。ちゃんちゃん☆ もですが。
 だって、置いていかれる人間のコトなんか、まるで考えていない行動でしょ。かつてルキアが同じようなことをした時メチャクチャ嫌がった一護だから、多分コンがこんなことになっても同じような反応示すんじゃなかろうか、と。・・・イヤ、むしろ相手が男な分、もっとストレートに怒るだろーなー。

 大体、記換神機で記憶を差し替える、ってことですけど、よくよく考えたら半分死神の一護に記憶変換が効くのか? って問題がありますし。半分人間だから効くだろ、って説もありだろうけどさ。

 一護は元来が長男な分、お兄ちゃん気質なんでしょうね。だから時々淡白にもなっちゃうけど、家族に対しての愛情は呼吸するぐらいに自然に思ってる。だから、居候のコンに対してもそうなんだと、ちゃんちゃん☆ は思ってます。ええ、原作にてケッコー無碍に扱っていようとも、根元はそうなんだよ、きっと(T_T)

 で、一応ウチのコンは、変に同情されるよりは、他の人間と分け隔てなく扱われる方がいい、と感じてるんじゃなかろうかと。や●い設定じゃない限り、男同士なんてそんなもんじゃないかなあ?

 劇場版第3弾、平日になると思いますが、きっちり見に行く予定です。できたらそっちでも、3人の絆がちゃんと描かれていたら嬉しいなっv イヤ、多分描かれてるでしょう今回は、うん。

(後日補填)

※実はこの話の裏設定に、コンの魂魄が通常より早く壊れかけたのは、一護の母親の仇・グランドフィッシャーに一護の体ごと思い切り踏みつけられたから、ってのがあったりします。そのことに気づいたのと、口止めしてる弱みもあって、浦原さんもコンに対して親身になってたりするんだな。イヤ、もちろん顔なじみになってて情が移ってるのもあるんだけどね。




いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(4)
2008年12月04日(木)



「・・・亡くなりました」


「「・・・・・・っ!?」」



























































































 が。

「・・・・・って言ったら、信じます?」

 その数秒後、まるで先ほどまでの緊張感を忘れたかのような能天気な声が、浦原さんの唇から飛び出す。

「・・・・・は・・・?」
「信じます、って・・・」

 まるで馬鹿の一つ覚えみたいに、鸚鵡返しにしか言葉を発することが出来ねえ俺たちを嘲笑うかのように、浦原さんはにっこり、と唇を歪める。ご丁寧にも、懐から取り出した扇子をヒラリと広げながら。

 ───言われた意味を、おぼろげながら理解するのに数秒。そして、からかわれたと察するのに、更に数秒を要し。

 気がつけば俺は怒りに任せて、浦原さんの胸倉をあらん限りの力で掴み上げていた。

「ってことはてめえ! コンは無事なんだな!」
「ええ、とりあえずは。今治療の真っ最中っスよ。ほら、こうやって、ね?」

 彼が懐から取り出したのは、小さな蓋付きの瓶。
 その中には透明で粘り気のある液体が8分目ほど入れられていて、更にその真ん中辺りに───見覚えのある、義魂丸に似た球体の改造魂魄が、ゆらゆらと浮かんでいた。

「特別コーティングを施してるところっス。よっぽどの無茶でもしない限りはこれで当分、壊れずに済むでしょう」
「あ・・・・・・」

 緊張の糸が切れたのだろう。ルキアはその場で、腰を抜かしたようにうずくまる。
 が、あいにく俺も気持ちに余裕がなかったもんだから、彼女のことなど構っていられなかった。

「タチ悪いぞ! この状況でそういう冗談、口にするんじゃねえっ!」

 コンの奴が死んでしまったかと、早合点しちまったじゃねえか! 俺がそう憤るのも、無理はないだろう。

 が、ヘラヘラと笑っていたのは、そこまで。
 浦原さんは急に表情を変えると、逆に俺の胸倉を思い切り掴み上げた。

「あなたに・・・そんなことを言う資格があるんですか? 黒崎さん」

 帽子の下から現れたのは、明らかに怒りの両眼。その容赦のない殺気に、俺は思わず浦原さんから手を離していた。

「もしコンさんが、アタシを頼らず治療も受けずにいたら、さっきの宣告はまさに現実になっていたんですがね? 正直、間一髪のところだったんスよ」
「・・・・・っ!」
「思い出して下さい。アタシは一度は、霊法の名の下に彼を殺そうとした。下手をすれば、これ幸いと再び廃棄するかもしれないのに、どうしてコンさんがアタシに相談を持ちかけたのか、分かってますか?
他には誰も頼ることが出来なかったから。そ、たとえ黒崎さん、あなたにすら、ね」

 ───そう、だ。その通りだ。
 もしルキアが、たまたま真央霊術院で改造魂魄の実験報告書を見つけていなかったら、俺はコンの異変には気づかなかった。
 いや・・・正確には、コンの態度に違和感は覚えていた。が、それを深刻なものとは、受け止めていなかったのだ。

 とりあえず立ち話もなんだから、と、浦原さんは俺たちを伴って店の中へと入る。
 何度か訪れた店の茶の間のちゃぶ台の上には、良く見慣れた少しくたびれた感じの、ライオンのぬいぐるみが横たわっていた。

 むろん、今はピクりとも動かぬ、物言わぬ存在。

「まあまさか、朽木さんが尸魂界から訪問されているとまでは、思いませんでしたからねえ。もし来られると分かっていれば、もう少し穏便な方法を採らせていただいたんですが」

 テッサイさんにお茶を淹れてもらいながら、浦原さんは畳の間に座った。それにつられるように俺とルキアは、その向かい側へ腰を降ろす。

 それぞれの前にお茶を置き終えるのを見計らって、口を開いたのはルキアだった。その指先で、ぬいぐるみの頭を優しく撫でながら。

「・・・私が来ているのが分かったら、何か都合が良かったと言うのか?」
「材料集めと必要経費っス。今回何が手間取ったって、コンさんに施すコーティング剤の原料を集めることでしたから。さすがに店で揃えてるものだけでは足りなくて、急遽夜一さんにもお頼みして、尸魂界でかき集めて来て貰ったんスよ。むろん、護廷十三隊には知られないように、秘密裏にね」
「材料はともかく、治療費取るのかよてめえ。コンの命がかかってたんだろうが」
「アタシもボランティアでやってるわけじゃありませんから。それに、夜一さんだけで集められないものを好事家から、買い取る必要があったんですよ」
「それも秘密裏故に、相応の経費が必要だった、と言うわけだな?」

 コックリ頷く浦原さんを見ながら、俺はつくづく自分が無力な子供だということを痛感させられていた。
 確かに今の俺にはコン同様、自由になる大金があるわけじゃない。後で分かったのは、俺がこれまで倒した虚の何匹かには追加給金があったものの、それも微々たるもの。コンの治療費には、あいにく足りなかったって話だ。

 とりあえず、かかった必要経費は後日現金でルキアが支払う、と話がまとまったところで。

「・・・で? 浦原さん、あんたは一体どういうつもりで、今回の騒動を計画したんだ?」

 俺はおもむろに、今一番気になることを直接、ぶつけることにした。

「はい? 何のことっスか?」
「とぼけんな。コンに、本来なら必要のねえ義魂丸渡したのは、俺たちに警告を促すためだったのは分かる。口で言うよりは、自分たちで気づかせた方がコトの深刻さを思い知る、って意味だろ」

 確かにこのところ、藍染との戦いが終結したばかりってんで、少し油断してたのは事実だ。だからこそ浦原さんは、手がかりをあれこれとわざとらしく提示して、コンの危機を俺たち自身で感知するように仕向けたに違いない。でなきゃ俺とルキアは、真相にたどり着くのにもっと時間がかかったはずだ。
 案の定、とぼけた商人は俺の質問を否定しやしない。

「・・・分かってるんだったら、何も聞く必要なんてないでしょうに」
「俺が分からねえのは、コンが本気で死ぬ覚悟でいたらしい、ってことだ。あいつは必要以上に仲間と関わらないようにして、記換神機で記憶を差し替えても違和感のないように仕向けてる。
・・・あんた、まさかとは思うが、コンに治療のこと、全然話してなかったんじゃねえのか?」

 俺の言葉に、ルキアはハッとした顔つきになる。

 ───そう。このところコンは、明らかに挙動不審だった。
 いつもなら口実すらなくても会いたがった井上に、キャラメルの礼を言いに行けと何度もすすめたにも拘らず、ついに行かなかったのがその証拠。
 もし端から治る見込みがあるんだったら、あいつはその可能性にくらいついたんじゃねえのか? なのにあいつの態度は、むしろ潔いと例えていいぐらい、生に執着していなかった。

 疑惑でつい目つきが悪くなる俺の前で、浦原さんは困ったような笑みを浮かべる。

「そうっス。まるで話してませんでした」
「! 何故だ浦原!?」
「1つには、コーティング剤の準備が出来るまでに、果たしてコンさんの魂魄が『もつ』か、と言う問題があったんです。下手に期待をさせておいて、実際には出来ませんでした、じゃ、そっちの方がよほど残酷でしょ?」
「残りの理由は?」
「・・・やっぱり、話さなきゃいけませんかねえ?」

 のらりくらりと構え、こちらの出方を伺うような視線を向ける浦原さん。

「ここまで話しといて、今更何隠す必要あんだよ?」
「聞かない方が、きっと良いと思うんですけどねえ」
「聞いても聞かなくても後悔するんだったら、俺は聞く方を選ぶぜ」
「それが偏(ひとえ)に、あなた方のためを思っての行動だった。・・・そう言っても、ですか?」

 一瞬怯みはしたが、ルキアの方を伺ったところ、力強く頷いてくれる。

「・・・・・・ああ」
「私も一護の意見に賛成だ。聞いて後悔した方が良い」
「分かりました。・・・本当は口止めされてたんですけどね、また同じようなこと繰り返されても困りますし」

 目の前にいるぬいぐるみの鼻を、咎めるように1度だけ突付いてから、浦原さんは話してくれた。

「ま、要はコンさんの置かれた立場が極めて厄介だったから、なんですけどね・・・」

         *********

 それは、ほんの1週間前のこと。店には浦原さんとテッサイさんだけがいた時、唐突にコンがぬいぐるみ姿のまま現れたらしい。
 何やら深刻な雰囲気のコンを、とりあえず長丁場になると判断したテッサイさんが今いる茶の間へと通したところ、あいつはいきなり頼み込んだのだ。

『頼む、浦原! 俺に記換神機を譲ってくれ!』

 当然、浦原さんは断った。義魂丸もそうだが彼の扱う尸魂界製の道具は、簡単な気持ちで使っていい代物ではない。
 理由を尋ねた浦原さんに、コンは何度となく躊躇した後、ボソリと呟いたんだそうだ。

『多分俺、もうすぐ砕けて壊れちまう。この間一護の体から抜ける時、魂魄の辺りがギシギシ軋んで、痛くてたまらなかったんだ』

 ───それはむろん、改造魂魄が壊れる前の自覚症状。

 ただちに状況を悟った浦原さんだったけど、それがどうして記換神機を欲しいということに繋がるのか、そっちは理解できなくて。
 とりあえず診察をしてみたらどうだ、と持ちかけたのだ。単に、俺の抜き方がまずかった可能性もあるし、今ならまだ治療のしようもあるかもしれないから、と。

 だが治療、と聞いてコンは、

『ぬいぐるみの方はともかく、改造魂魄本体に治療が必要なのかよ?』

と返したのだ。それこそ、何を言われているのか分からない、と言わんばかりの表情で・・・。

 ───確かに、かつてコンたちを作った技術開発局も、改造魂魄のことは『多少使い勝手の良い、量産できる尖兵』と言う認識しか持ち得なかったのは事実。
 でも、それなりに付き合いのあるコンに対しては、さしもの浦原さんも情が移りつつあったみたいで。何の気負いも、何の疑問もなくそう言われてしまったことに、思わず絶句させられたのだと言う。・・・まあそれだけ、あいつの置かれてた環境が苛酷だった、って証拠なんだろうけど

 とっさに何も答えられなかった浦原さんに、コンは静かに訴えたらしい。

『今なら・・・俺様があいつの身代わりしなくてもいい状態が長く続いてる今なら、きっと記憶を消しても不自然じゃねえよ。義魂丸を使ってた、って記憶操作すれば済むだろ?
あいつ・・・一護のヤツさあ、ちょっと気負いすぎてるっつーか、必要以上に重荷、背負ってる気がしてならねえんだ。だからこの際荷物の方から、気取られないうちに降りてやろう、って思ってさ。ちょうどいいじゃん。やっと平和になったんだし、これ以上しんどい思いしなくてもよ。
もともと廃棄処分されるはずだった俺がいなくなれば、あいつが尸魂界に処分されるって危険も、なくなるんだろうし』

 あまりに達観しきった主張は、さすがの浦原さんにも作戦の変更を迫らせた。
 変に説得しようとしたところで、コンが決意を変えようとしないのは目に見えている。だから、記換神機を買う金がない、という方向から攻めることにしたのだ。

 曰く、現在自分が極秘裏に進めている実験があり、それには希少価値の改造魂魄が必要。その実験に、死ぬ間際で良いから付き合ってくれると約束したら、代わりに記換神機と義魂丸を提供しよう、と───。

 その約束の日、つまりは実験決行の日が、まさに今日。コンはそれまでに覚悟を固めかけていて、更にルキアの訪問により、完全に心を決めた───まあ、こんなところか。

          **********

「もっともその実験、と言うのがたまたま、壊れかけた改造魂魄にコーティングを施して延命させる、って前代未聞の代物だった、ってだけでしてv」
「・・・モノは言いようだな・・・」
「ちょっと待て。その実験の本当の目的、きちんとコンに話してあるんだろうな?」

 事情が事情とは言え、いくら何でも人体実験すると思い込んだまま、ってのはあまりにマズいだろうが。

 どうにもその辺が気になって尋ねたが、さすがに浦原さんは抜かりはねえ。

「勿論ですよ。後で『この世に未練はなかったのに余計なことを』なーんて恨まれても困るっスから、コーティング液につける直前に、ちゃんと説明しました。ただし、成功率は五分五分っスから、あんまり期待ないで下さいね、って付け加えときましたけど」
「「をい【怒・始解】」」
「嘘ですって。本当の成功率は、まあ99.9%と言ったところでしょう。
・・・ま、人の気も知らず、勝手に重荷気取りで勝手に人生の幕を下ろそうとしたやんちゃ坊主に、せめてもの嫌がらせ、ってことで勘弁してくださいな」

 その呟きに、俺は思わず浦原さんを見やる。

 彼はまだ少し、怒っているみたいだった。コンの窮地に気づいてやれず、もう少しで死なせるところだった俺へ、の憤りかも知れない。
 そして、周囲の心配をよそに、独りよがりな行動をとりやがった改造魂魄へ、も、むろん。

 俺の視線に気づいたのか、浦原さんは少し疲れたように笑って、付け加えた。

「・・・アタシはね、黒崎さん。彼にはもう、不幸な死に方はして欲しくないんですよ。かつてコンさんの仲間たちに、一方的に理不尽な死を強いた立場の1人として、ね」

 もっともこんなの、単なる自己満足、エゴかも知れませんけど。
 元技術開発局々長だった男のその言葉に、俺とルキアはいつしか、お互いの顔を見合わせて苦笑いをかわしたのだった。

      ***************

 ルキアと、そしてぬいぐるみに注入されたコンと共に、俺が自分の部屋へ戻ってきたのは、ギリギリ門限前。
 夜はとっぷりくれ、階下から聞こえる遊子や夏梨たちの声に、旨そうな食事の香り。いつもどおりの日常が、ここでは息づいている。

「・・・まだ寝てンのか、コンの奴」
「ああ。随分楽しそうな寝言を言っておるぞ」
「ったく・・・ノンキに眠りこけやがって」

 ゆったりとベッドの上へ横たえられたぬいぐるみは、時折むにゃむにゃと何かを呟きながら寝返りを打っていて、その寝顔は安らかだ。・・・さっきまでのことがあるから尚更、そう見えるのかも知れねえけどな。

 とりあえず自分の体に戻り、ようやく訪れた安心感に伸びなんぞしていると、コンの横に座り込んでいたルキアに声をかけられた。

「なあ、一護。いきなり訪ねておいて済まぬが、今晩はここに泊めてもらえぬか?」
「押入れに? そりゃ俺は構わねえけど・・・尸魂界の方は大丈夫なのかよ」
「問題ない。明日まで休暇をとってあるから。それに・・・」

 ルキアの手は、コンの毛並みを確かめるように優しく撫でている。

「目が覚めたこやつのそばに、いてやりたいのだ。お前はちゃんと生きているぞ、一人などではないのだぞ、と。・・・いらぬことを吹き込んだから、謝りたくもあるしな」
「謝る、なあ・・・お互い様なんじゃねえの?」

 俺が半ば憤然と呟くと、ルキアがキョトン、とした顔を俺に向ける。

「・・・何だ一護、貴様は謝らぬのか?」
「ぜってー謝んねえ」
「一護・・・いくら何でも、それは冷たいのではないのか?」
「知らねーよ、ンなこと。浦原さんも言ってたろうが。勝手にてめーのこと重荷扱いして、一人で勝手な行動しようとした馬鹿に、頭なんか下げるかってんだ。
俺は荷物持ちじゃねえっての。あいつのことは図々しい居候だとは思っても、お荷物だの重荷だのと考えたことすらねえんだ。なのに、メンドくせえ早合点しやがって。
大体、一緒に住んでる俺より、何であんなうさんくせえ下駄帽子の方を頼りにすんだよ。まずは俺に相談だけでも、とも思わなかったってのが、断然気に食わねえ」

 目が覚めたらソッコーぶん殴る! 
 んでいつものように2、3度、床で踏みにじってやる!

 右手を固く握り締めてそう宣言する俺に、ルキアはかなり驚いていたようだったが、不意にクスッと笑みを零した。

「そうだな。貴様たち2人は、お互いそれでいいのかも知れぬな」

 今日、ここへ来てから初めての、心からの笑みを。



 命あるもの、形あるものは、いつか必ず終わりの日が来る。それは決して、逃れることのない結末だ。

 けど。せめて遠い未来であってくれたら、それに越したことはない。
 そして願わくば、穏やかな結末であってくれたなら───。

≪終≫





いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(3)
2008年12月03日(水)


「・・・だからルキアは、あいつに自覚症状がないか、聞いたんだな?」

 だが、そう聞いた俺はまだまだ甘かった。事態はもっと、深刻なものをはらんでいたのだから。

「そうだ。まだこの部屋にいる時なら良いが、万が一外出先でそのような状況になってみろ、下手をすれば尸魂界にもあやつの存在が知られかねぬ」
「・・・・・!」
「貴様の死神代行許可も、取り消しになる恐れもある」
「なっ・・・!」

 ルキアのあまりの言い草に、俺は思わず彼女の胸倉を掴んでいた。

「何だよ、それは!? ルキアはあいつを心配してたんじゃねえのか?」

 それではまるで、人手不足だと言う死神を少しでも減らさないため、みたいに聞こえる。コンの寿命を案ずるのでは、なく。

 だがルキアは、そう詰めかかられるのは予想していたのだろう。顔色こそ悪いもののひどく落ち着き払って、俺に静かに諭した。

「あやつは全て、覚悟の上だったぞ?」
「覚悟って・・・」
「だから貴様には、このことを聞かせたくはなかったのだ。やはりまだまだ、死神としての自覚と覚悟が足りぬ。
・・・そういう意味では、まだコンの方が性根が座っていると見える。さすがに改造魂魄として、作られただけあるな」

 振り払うのではなく、ゆっくりとした仕草で胸元を掴んでいる俺の手を外すと、ルキアは静かに語り始める。

「一護、貴様がコンのことを案ずる気持ちは分かる。そもそも今日(こんにち)のような状況になったのも、あいつの境遇に同情してのことだったな。ましてや長い間一緒に暮らしてきて、情も移ったのだろうし。・・・だが、逆の立場のことを考えたことはないのか?」
「逆?」
「仮にも貴様は、あやつの命の恩人だ。尸魂界の掟に反して、あやつを助けた。
・・・もしそのことが尸魂界側に知られ、貴様が罰せられでもしたら、あやつがどんな気持ちになるか、考えたことはないのか?」
「・・・・・!」

 ルキアの厳しい言葉に、俺は一瞬思い出す。
 仕方なかったこととは言え、死神能力の譲渡と言う重罪を犯した、目の前のルキア。
 こいつが俺を助けるために、何の抵抗もせず連行されて行くのを、ただ、見守るしかなかった、無力な自分を・・・。

 あんな思いを、俺は、コンにもさせている、って言うのか?

「口でどれほど生意気なことをほざいておっても、コンは本音では貴様のことを慕っておる。そして、自分のせいで貴様が危険な目に遭うなど、きっといたたまれぬ。それに・・・朽木家と言う後ろ盾がある私とは違って、貴様は死神代行とは言え、単なる無力な人間に過ぎぬのだぞ?」

 言い方は傲慢だったものの、俺にはルキアが言いたいことが良く分かった。分からざるを得なかった。
 だって、俺はあの時いたたまれなかったから。ルキアが処刑されると知って、何が何でも、どんな手段を用いても助けたいと願い、ついには実行に至ったのだから。

 だが、コンの場合は、俺とは違う。
 あいつが今戦ってるのは、尸魂界の掟なんかじゃない。自分の寿命、と言う、いつかは必ず訪れる、逃れきれない運命。

 人も死神も、不老不死ではありえない。改造魂魄って「モノ」も、いつかは寿命が尽きる。それはあいつにだって、ましてや俺にだって、そして死神であるルキアにでさえ、既にどうしようもないことではないか───。

 俺は押入れの中で聞いた、コンの、らしからぬ殊勝なセリフを思い出していた。

『せめて俺からの、最後の思いやりってヤツ?』

 どうしてもやり切れぬものを感じる俺に、それ以上論じても意味はないと察してくれたんだろう。ルキアは少しだけ笑みを見せて、こう言った。

「・・・大切なことを隠していて、すまなかったな、一護。だがこれは、今日明日の切羽詰った話ではない。遠い未来のことを、私たちだけでとやかく言う筋合いのものではないだろう。
ただ、そういう前提のことなのだと、心に留めておいてくれ。今は、それだけでいい」

 確かに、あいつが既に覚悟を決めているんなら、俺が下手に騒いでも逆効果だろう。
 だがそこで、ルキアの言葉に渋々頷きかけた俺は、急に背筋が寒くなるのを感じた。

 無意識のうちに手で押さえているのは、さっき打ち付けた体。
 打ち付けたのは、さっきまで眠り込んでいた押入れの壁。
 その押入れの奥底で───俺は、俺は、何を見つけた!?

「待てよ、ルキア・・・本当にコンのヤツ、自覚症状ねえのか?」
「・・・何?」
「ルキアはあいつに、検査とかしたのか? それともただ、問診しただけなのか?」
「いきなり何を・・・」

 眉をひそめるルキアに構わず、俺は再び押入れの中に入った。夢であってくれ、単なる心配のしすぎであってくれ、そう願いながら・・・。

 だが、もぐりこんだその奥にあった2つのアイテムは、決して夢幻(ゆめまぼろし)ではなく。
 夕日が眩しく差し込む部屋の中、俺はコンが隠していたものをルキアにも見せる。

「見ろよ、さっき気づいたんだ。2、3日前、あいつがここに持ち込んだヤツ」
「これ・・・は・・・まさか、記換神機と義魂丸!?」
「何で義魂丸が必要なんだよ? 俺はコンを、義魂丸の代わりに使ってるんだぜ? なのに今更こんなもん、何であいつが!?」

 そう、通常の状況であれば、決していらないもののはず。

 ・・・・・だが万が一、もしもの事態となっていたとすれば?
 記換神機と義魂丸、その両方が必要となるではないか!

『そっか・・・覚えてたのか』
『井上さんからも、お前からお礼言っておいてくれよ』

 必要以上にしがらみを作らないようにしていた、あの態度。

『もしあいつが、俺が・・・んだことに気づいたら、消してくださいね?』

 そしてコンがルキアに頼んだ、あの言葉。

 俺にはきちんと聞こえなかったけど、ひょっとしたらこういう意味だったのではないか。

 もしあいつが、
 俺が死んだことに気づいたら、
 消してくださいね?
 俺の記憶を、皆から───。



 ルキアの顔色の悪さは、先ほど俺が盗み聞きしていたと悟った時の比では、なかった。

「そん・・・な、馬鹿な! だってコンは、ここしばらく一護の体には入っていなかったのだろう? 改造魂魄は本能で、人間の体を死に場所に求めるのだぞ!? なのにあやつは、このところずっとあのぬいぐるみのままでいたと・・・今は一護の代わりをする気分ではないと・・・だから私は・・・」
「正確には、1回だけ俺の体を預けたことがあったんだよ。
けどあいつ、勝手に俺の代行証を使って、自分で魂魄抜き取りやがったんだ」
「・・・・・・・・!?」

 一見ワガママなコンがとった行動が、何を意味するのか───俺は最悪の結末を、想定せずにはいられない

 ルキアが改造魂魄の寿命について知り、現世を訪れるまでもない。
 手段を選ぶ暇などなく、一刻も早く俺の体から抜け出さなければならぬほど。
 そしていざと言う時のため、記換神機を傍らに置いておかねばいけないほど。

 とっくの昔にコンの身に、壊れる自覚症状が現れていたとしたら───!?


 ここで改めて俺は、コンの不在に薄ら寒いものを感じずにはいられなくなった。

 さっきまで一緒にいたルキアの話だと、今日は遊子と遊ぶ予定があると言っていたらしい。が、俺が直接遊子の部屋に駆け込んだが、遊子もあいつもいなかった。勿論他の部屋も探し回ったが、影も形もなく。

 もし本当に、あいつに自覚症状が現れているのだとしたら、一刻も早く見つけ出さないと。さもなくば、あいつはもう俺たちのところへ戻ってこない気がする。

 死を悟り、決して行方を告げず、ふらりと姿を消してしまう猫の如く───。

 必死こいてあいつの僅かな霊圧を探っていた俺に、ルキアはハッとして叫んだ。

「浦原商店だ、一護! あやつは義魂丸も記換神機も、浦原のところで手に入れたはずだ!」

 聞くが早いか、俺は代行証を使って直ちに死神化する。そして窓を飛び出し、浦原商店の方角をひた走った。

「待て一護、落ち着け!」

 俺に追いすがったルキアが、俺に向かって懸命に訴えてくる。

「浦原のところへ向かったと言うのなら、まだ望みはあるのだ、だから冷静になれ!」
「望み? 望みって何だよ?」
「浦原が何も言わず、何も聞かずにコンへ、記換神機を手渡すことなどありえぬ。必ず理由を聞き出しているはずだ。それに、単に死に場所を求めるつもりなら、あいつは絶対浦原の元へなど行かぬ! 思い出せ、あやつは浦原に、一度破棄されかけたではないか! わざわざあの時の恐怖を、再び味わいに行くはずがなかろうが!」

 走りながらも、絶えず辺りの気配を拾い上げる。あるいは浦原商店へ到達する途中で、あいつが行き倒れているかもしれないから。

「だからもし本当に浦原の元にいるのなら、それは全然違う理由になる」
「何だよ、その全然違う理由って!」
「治療だ! 浦原はあれでもかつては、改造魂魄を開発した技術開発局の長だったのだ。改造魂魄の仕組みを知っているのなら、延命治療が可能やも知れぬ! いや、きっとそうに違いない!」

 そう断言しながらも、ルキアの横顔は今にも泣きそうだった。

「一護・・・」
「何だ」
「私は・・・コンにどう詫びればいい?」
「ルキア・・・」
「そんなつもりはなかったのだ。あやつに最後通告をするつもりなど、これっぽっちも。私はただ、せめて残された人生をせいいっぱい生きて欲しいと、そう言いたかったのだ。だから、そのための覚悟を持たせてやりたかっただけだった。なのに・・・」

 ルキアの思いやりは、決して間違ってはいなかったんだろう。俺としては、納得出来ない部分もあるけれど。
 だが、もし俺が同じくルキアの立場だったら、何かあいつに気の利いた言葉をかけてやれただろうか?

 せっかく破棄処分を逃れ、せいいっぱいに生きていたコン。
 けれど俺は徒(いたずら)に、いつか必ず来るあいつの寿命を、ほんの少し先へと延ばしてやっただけに過ぎないんじゃねえのか・・・?


 俺もルキアも瞬歩を使っていたから、本来ならそれほど移動時間はかかっていないはず。だが、浦原商店の建物が見えてきた時には、まるでやっとの思いで長旅から帰って来たかのような錯覚に陥っていた。

 はやる気持ちを抑えつつ、上空から一気に店先へと舞い降りる。が、俺は即座に店内へと駆け込もうとした自分の体を、思わずたたらを踏んでその場にとどめていた。

「───いらっしゃい。黒崎さん。朽木さん」

 何故なら、浦原商店の店長にして、元技術開発局々長・浦原喜助が、まるで、俺たちの到着を待ち構えていたかのような風情で、店先に立っていたから。

「浦原!」
「浦原さん!」
「随分遅かったじゃないっスか、お2人とも。コンさんを探して、ここへ来られたんでしょう? 折角アタシがあれこれと、手がかりを残してあげたって言うのに」
「手がかりだと?」
「そうっス」

 飄々としたその態度からは、何を考えているのか全く伺えねえ。

「だって、良く考えてみてくださいよ? タダでさえ自由になるお金が少ないコンさんが、代わりの義魂丸だの、記換神機だの買えるわけ、ないじゃないっスか」
「なっ・・・・・!?」
「あなたがもう少し、彼の体調に気を払ってくださっていれば、こんなことにはならなかったんですよ? 黒崎さん。
もっとももう・・・今更何を言っても、仕方のないことっスけどね・・・」

 え・・・?
 何だと・・・?
 今、浦原さんは俺に対して、何を言った?

 混乱して頭がぐらぐらする。両足が、地に付いている気がまるでしねえ。

「仕方ないとは、どういう意味だ、浦原! まさか、まさかコンがっ・・・!」

 動揺のあまり口も利けねえ俺に成り代わり、ルキアが血相を変えて浦原さんに詰め寄る。
 が、彼は淡々とした口調で、義務的に俺たちへと告げたのである。

「・・・亡くなりました」


≪続≫






いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(2)
2008年12月02日(火)


 それから、2、3日経ったある日のこと。
 俺が夕方学校から戻ってくると、例によって例のごとく、コンは勝手に外出してしまった後だった。
 あれからコンとは、ロクに顔を合わせちゃいない。俺も夜間の死神代行業がことのほか忙しく、加えてあいつが部屋にいないもんだから、自然とそうなっていた。

 さっさと井上に、キャラメルの礼言っておけよな、全く───。

 そう思いつつも、あいつが気が向かないと行動しないのはいつものこと。俺は大して気にも留めず、制服から私服に着替えながら自室の押入れを開けた。
 季節は秋。衣替えの時期である。そろそろ冬服を出しておかねばならないと、クリーニングに出しておいた詰襟の制服に手を伸ばした、その途端。

 ポロッ☆

 何の弾みか、詰襟のボタンが外れて落ちた。実に唐突に。
 そしてそのまま、押入れの奥へとコロコロ転がっていってしまう。

 詰襟のボタンは校章がかたどられたもので、他のもので代用できやしない。慌てた俺は急いで押入れへと上体を押し込み、ボタンを探すことにしたんだ。
 が、どこをどう転がったもんだか、そう簡単には見つからない。仕方なく俺は、下半身まで体を入れてから、改めて押入れの中を探索した。

 正直言って、押入れの中は狭い。子供の頃はそうでもなかったが、今の俺は成長期で、手足を折りたたまないと体が入りきらねえ。だから相当苦心して、手が奥の壁まで届くぐらいに体を突っ込む。
 そうしておいて、大体ボタンが転がっていった方向へ手をくぐらせると、ラッキーなことにそれらしきものに指が引っかかった。

 そのまま引っつかみ、手元に引き寄せると、まさにそれは制服のボタンだったのだが・・・。

「?」

 どうも一緒に、引っ張り出してしまったらしい。見覚えのある薄い布が1枚、ボタンと共に俺の前に現れる。そしてその弾みで、何かがひっくり返る音がして、俺に舌打ちをさせた。
 どうやらうっかり俺が触ったのが、コンの風呂敷だったから。あの夜、あいつが「触るなよ」とわざわざ念を押した。多分俺が引っ張ったせいで、中身を全部放り出してしまったに違いない。

 ・・・わざとじゃねえからいいよな? 元に戻しておけば、あいつもそう目くじらを立てねえだろう。

 そんな気楽な思いで、更に押入れの奥へと体を踏み入れた俺だったが、さて、とばかりに風呂敷筒の中身とおぼしきモノを目にした途端。

 ───固い氷入りの水を猛烈な勢いで、頭からぶっ掛けられたような衝撃を受けた。

 そこにあったのは、駄菓子の類ではない。それどころか、本来普通の人間だったらまず、手になんかできない代物が、2つもあったのだ。

 1つは、まだ分かる。あいつは時々俺の体を使って、本当の俺ならまずしやしないことをしでかすことがあるから、その証拠隠滅のため。加えて俺も、一般の人間に死神としての姿を見られてはまずいんで、ひょっとしたら必要になるものかもしれない。

 だが、もう1つは。こっちの方は。
 あいつが───改造魂魄で、今は義魂丸の代わりをしているコンが、死神代行の俺の傍にいる限り、決して必要としないもの。

 何でこんなものをあいつが!?

 慌てた俺は、思わずその場で立ち上がってしまい。

 ごいん☆

 頭を押入れの天井に打ち付け、その痛みと眩暈、そして・・・このところ連発してた虚退治の疲労も重なり、間抜けなことにそのまま俺は、押入れの中で気絶してしまったのである。

**********


 ・・・頭の痛みが治まり始めた頃、俺は変な夢を見た。

 窓の縁に死覇装のルキアが、コンと並んで座り、ひそやかな声で話をしている風景。

 もうすぐ夜になるんだから、窓ぐらい閉めろよ、と言いたくなったが、どうせ夢だ。あいつらに俺の声は聞こえないだろう。

 そう思いながら、俺はボンヤリとしたまま2人の会話を聞いていた。


『・・・では、まだ自覚症状はないのだな?』
『もちろん。俺はまだまだ元気ですって。恋にバカンスにと、人生満喫してますからv』
『それなら良いのだが・・・とりあえず、早く忠告しておくに越したことはないと思ったのでな』
『しっかし姐さん、何で今更そんなことが分かったんです? 俺たちの研究成果の書類って、みんな処分されたはずでしょ?』
『先日浮竹隊長の御供で、真央霊術院へ赴いたのだ。そこでたまたまな』

 しんおうれいじゅついん? 何だそれ?

『とにかく、良いな? コン。代行とは言え死神である一護の、手を煩わせてはならぬぞ?』
『分かってますって。幸いあいつ、代行証は部屋に置きっぱなしにしてるし、いざって時は1人で抜け出せますから。ただ問題なのは・・・』
『そうだな。せめてその体の時に寿命が来れば、厄介なことにならずに済むのだが』
『そうなったら多分あいつ、2、3日は気づきませんよ。ニブチンだし。だから姐さん、その時は俺からお願いがあるんですけど』

 寿命・・・? 誰の寿命が来る、ってんだ?

 何やら物騒な話題を聞いているらしいのに、俺は大して驚いていない。
 だって、これは夢だから。

『もしあいつが、俺が・・・んだことに気づいたら、消してくださいね?』
『コン・・・』
『一護のヤツ、何だかんだで甘いから。俺がそんなことになったら、きっとイヤな思いさせちまうと思うんですよ。なーんかそう言うの、結構うざったいしー』

 ああ、やっぱりこれは夢なんだ。

 うざったいとか言ってるくせに、何だよコン。どうして妙にそんな優しい声になってる?
 どうしてそんなに・・・哀しそうな声になってる?

『せめて俺からの、最後の思いやりってヤツ?』

 コンが、あの生意気なぬいぐるみが、こんな殊勝なセリフを口にするわけ、ないじゃないか・・・。

**********

「・・・・・・あれ?」

 目が覚めたのに、周りは真っ暗だった。いつもだったら月や星の光で、うっすらと室内の様子が見えるはずなのに。

 が、すぐさま自分が押入れにいたことを思い出し、慌てて外へ出ようとした俺は、再びうっかりと体を中で打ち付けてしまった。

「イテッ!!」

 まだ頭じゃないだけマシとは言え、痛いものは痛い。患部を押さえつつ、這う這うの体(ほうほうのてい)で押入れから抜け出した、その時。

「・・・一護!?」

 聞き覚えのある声が窓際から聞こえる。視線を転じれば、いつの間にか開けられた窓の縁に、死覇装がはためいているのが見えた。

 ルキア、だ。俺に死神の力を与えてくれた恩人で、かけがえのない仲間。その彼女が、いつになく両目を見開いて、俺を見つめている。

「よ、よおルキア、久しぶりだな。またこっちで仕事か?」

 押入れで体を打ちつける、なんてベタなことをしでかした気恥ずかしさから、無難な挨拶を手始めにしたのだが、ふと眉をひそめる。

 ルキアの様子がおかしいのだ。わなわなと体を震わせ、何かを恐れているかのように見える。何があったってんだ?

「な、何で貴様が、そんなところから這い出てくるのだ!?」
「何でったって・・・押入れの中に制服のボタン、落っことしちまってよ。それを拾うために中に、入ってたんだけど」
「ずっとか? ずっとそこにいたのか? 貴様、気配を消すなどと言う芸当は、出来なかったはずではないか!」
「ええと・・・実はよく分からねえ、ってか。中で頭打ち付けて、あんまり痛かったからそのまま寝ちまってて・・・」

 それがどうかしたか、と聞きかけて、俺の中で何かが引っかかった。

 さっきのルキアの言動から察するに、こいつは俺がここにいようとは、思ってもみなかったんだろう。確かに俺は、所謂『霊圧垂れ流し体質』らしく、気配を隠すなんて真似は出来ないから、他の死神連中からは探査しやすい、って聞いてる。

 それはいい。だがルキアがどうして、俺が本当はここにいたってことで、これだけ動揺するってんだ?

 ───その時不意に、俺の頭の中に浮かび上がるのは、先ほどまで押入れの中で見ていた夢の断片。


『自覚症状はないのだな?』
『その体の時に寿命が来れば、厄介なことにならずに済む』
『俺からの、最後の思いやりってヤツ?』


 もし、万が一、あの時聞いた会話が、夢などではないとすれば───!?

 俺は思わず、自分の激情の赴くまま、ルキアに問いただしていた。

「ルキア! 寿命って何のことだよ!? コンのヤツ、体調でも悪くしてるってのか!?」
「一護・・・聞いていたのか? さっきのあやつとの話を、全部か?」
「分からねえよ! しんおうれいじゅついんって何のことだよ? 自覚症状って何だよ!? あれってみんな、夢じゃなかったのかよ!」
「・・・・・・・落ち着け、一護」

 青ざめちゃいたが、さすがに場数を踏んでいるだけ、ルキアの方が立ち直りは早い。「今日明日の話ではないから、とりあえず冷静になれ」と言い含めてから、俺に話してくれた。

「・・・別に改造魂魄に寿命があっても、おかしくなかろう。命あるものは必ず死に、形あるものは必ず壊れるのが、この世の習いなのだから。むしろ改造魂魄の方が、義魂丸よりも寿命は長い方なのだ」
「どういう意味だよ?」
「言い方は悪いが、義魂丸は消耗品だ。服用して役目を終えれば、そのまま体内で消化されておしまい。が、改造魂魄の方は戦闘用であるが故に、そして死体に入れると言う特質故、例え生きている人間が服用してもそう簡単には消化されぬ。・・・コンのようにな」

 そう言えば、ルキアが以前使っていたチャッピーは、ルキアが義骸に戻ったら跡形もなくなっていた。アレはそういう意味だったのか。

 俺が少しだけ落ち着きを取り戻したのが分かったのだろう。ルキアは一旦言葉を切り、部屋のベッドに腰掛けた。長丁場に備えるつもりなのかもしれない。
 俺も、ちょうどルキアが見下ろす格好になる位置の床に、腰を下ろした。

「私も最近までは知らなかったのだ。・・・だが先日、浮竹隊長の御供で真央霊術院へ出かけた時、空いた時間を図書館で過ごすことになって・・・」
「だから、その、しんおう・・・って何なんだよ?」
「真央霊術院、だ。言ってしまえば死神の学校だな。だから現役の死神が講演に招かれることも、ままある。とにかく、私は待ち時間に図書館で書物を眺めていたのだが、その時偶然見つけてしまったのだ」

 何を見つけたのか、は、さっき聞いたコンとの会話で何となく察せられはしたが、俺はそのままルキアに続きを促す。

「計画も存在そのものも破棄処分となってしまったはずの、改造魂魄を使用しての尖兵計画についての報告書を、だ」
「・・・・・・!」
「だが、書類が真央霊術院に残っていた、そのこと自体はありえない話ではない。要は、このような事情から尖兵計画は白紙となった、だから今後も決してそのような計画を起こしてはならぬ───そう、戒めるための道具として、だがな。現にその書類は、原本ではなく写しだったし」
「その中に・・・改造魂魄の寿命について、書かれていたんだな?」
「そうだ」

 ルキアによると、多量に並べられた書籍をボンヤリ眺めているうち、何となく目に付いてしまったのだと言う。多分、間近に改造魂魄の生き残りがいるためだろう。

「そこには、こう書かれていた。・・・死体に入れた改造魂魄たちがこぞって、ある日突然体内で砕けて消滅してしまう、と」
「なっ!?」
「だから、話を最後まで聞け、一護。・・・さすがに何の前兆もなく、いきなり改造魂魄が壊れてしまったのでは戦いに支障をきたす。だから当時の研究者は、何とかして前兆を見つけられないかと躍起になってな。ストレス、使用時間、死体の損傷状態、気温湿度、戦闘状態など、ありとあらゆる条件から検証をしたんだ」
「検証、って・・・」

 ゾッとする話だ。
 死体を戦わせるって自体、胸糞が悪くなるってのに、当時の研究者は改造魂魄の寿命を知りたいがために、非道な実験を繰り返したってことか。
 確かにこれでは、計画そのものが廃案になってもおかしくないぜ。

「結果分かったことは、意外にも単純なものだった。必ず改造魂魄たちには自覚症状があった、と言うものだ。だが、それを自分以外に悟られるのを拒んだ」
「・・・どうして?」
「悟られれば、ただちに体外に摘出されてしまう。研修者たちにとっては、折角の実験のサンプルを失うことになるからな。
だが、死体とは言え、折角手に入れた自分の体。『せめて死ぬ時は、尖兵とは言え人間の肉体のまま、人間として死にたい』───それが、死に掛けた改造魂魄たちの、全ての願いだったんだ。いや、本能と言っても差し支えないだろう」

 そこまで一気に言い切ると、ルキアはハアッ・・・とため息をつく。
 俺もそばで聞いていて、ものすごい疲労感を覚えた。
 それだけの、極めて人間臭い理由を知るために、一体何万個の改造魂魄が実証実験につき合わされたのだろう。そして・・・人知れず死んでいったのだろう。

 ───けれど、改造魂魄たちのその気持ちは、判るような気はする。
 俺はきっと、あまり褒められた死に方はしないだろう。死神代行なんてやっているから。別にそのこと自体を、後悔するつもりはない。
 けれどもし、自分のわがままが許されるのなら、死ぬ時には俺が愛した人たちに見守られて、自分の家で息を引き取りたい、と願う。
 改造魂魄たちにとっちゃ、手に入れた肉体こそが、せめてもの自分の望んだ死に場所なのだろう。

≪続≫






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