※いよいよ総理大臣杯、始まりましたねー。(あいにく新聞とか、ネットを通じてしか観戦できないけど☆) 今回の話は、某・公式サイトさんに掲載されていた「2006年度総理大臣杯ポスター」(※壁紙アリvv)に思い切りよろめいてしまい、どうせだからこの時期の話を書いてやろう! と書き始めた次第です。・・・でも他の時期でも違和感なかったりして☆ もちろん、蒲生さんの話ですv では。 ************ 世間は卒業式だの、卒業旅行だのでかしましい3月半ば。 蒲生は久しぶりに、『彼女』のご機嫌取りをすることにした。 最近は一緒にいても、時折物騒な『声』を上げたり、その麗しいおみ足での走りっぷりをご披露してくれなかったりと、調子が悪そうなのだ。どうやら仕事やら、他の女やらにかまけていたせいか、ちょっと拗ねてしまったらしい。 幸運にも、今日は午前中だけなら時間がある。午後からは競艇雑誌の取材があるものの、それまでは完全なるフリータイムだ。コミュニケーションをとるにはもってこいであろう。 「そんじゃ、ちょっとおじさんにお口開けて見せてね〜?」 ふざけた口調で、その実真剣な表情で言いながら、使い慣れた工具で愛車の点検を始めた蒲生であった。 さすがに3月ともなると、ここのところ春めいた天候が続いてはいたが、今日はことさら良い天気である。空はどこまでも青く、雲ひとつない。冷たい風も吹くことなく、外で自動車整備をするには絶好の日、と言っても過言ではないだろう。 幸いにも、愛車のエンジンには大したトラブルは見当たらず、蒲生は胸をなでおろす。既に車自体は生産中止になってしまっているので、部品交換、と言っても純製品ではもはや不可能に近いからだ。 まあ、自分はこれでも専門家だ。そうなった時は似たような部品で、うまく修理する自信はあるのだけれど。 当面の不安はなくなったこともあり、蒲生はついでにと、『彼女』のクリーニングに取り掛かる。 「フンフ〜ン、フ〜ン♪」 手入れするのにも、つい鼻歌なぞこぼれるのは、陽気の良さのせいか。 この手の車ではさすがに洗車はできないし、たとえ幌をつけたとしてもジッパーの部分が錆びるような気がするので、流水をかけっぱなしには出来ない。だからもっぱら、濡らしたタオルで磨くやり方となる。時々さび止めを塗ってやるなどせねばならず、手間がかかることこの上ない。 もっとも蒲生は、こういう手間のかかりようをこそ、愛しているようなものだが。 ・・・ふと。 ───えらくボロっちい車っすねー、こいつ。蒲生さんならちょっとした中古車でも、整備しだいで新品同様に出来るんでしょう? だったら、買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 かなり以前、そう言われた事を思い出し、手が止まる。 『彼女』との付き合いはそこそこ長い。さすがに『蒲生モーターズ』の古株従業員には及ばないが、それでも競艇選手になる前に購入した代物だ。 『4WD』と言う呼び方がまだ一般的ではなかった頃、自分の行動範囲に見合う機動的な車が欲しくて、買った車。山だろうが海岸だろうが、それこそ自分の手足のように操ることが出来るのが嬉しくて、色々理由をつけては乗り回していた記憶がある。 だが、自分にとって『彼女』にいまだに乗り続けるのは、惰性に似た愛着、以外の意味があるのかもしれない───最近蒲生は、そう思うようになったのだ。 **************** ───蒲生さんにとってこの車は、古女房みたいなものでしょう? いつだったか、あれは丸亀でG1が開催された頃。こちらはつい最近のことだ。 地元だと言うこともあって、この愛車に乗って丸亀競艇所へ乗り込んだわけだが、その最終日だったと思う。やはりあの日も天気が良かったので、最寄の駅まで送るから、とレース後の後輩を1人乗せてやったことがあったはずだ。 『彼女』のあまりの年季の入りように、蒲生になじみの薄い記者などは、イヤな感じの笑みを浮かべてこちらを見ていたらしいが。 件の後輩はと言えば、 「ああ、懐かしいなあ。相変わらず大事に乗ってるんですね、蒲生さんらしい」 と、久しぶりに会う旧友に対するような眼差しで『彼女』を見て。 それから「お邪魔します」と、まるで自室にでも招かれたような挨拶と共に、ヒラリと乗り込んで来た。まるで躊躇なしに。 そう言えばこいつは何度か『彼女』に同乗したことがあったんだったな、と十数年前のことを思い起こしていた蒲生に、この後輩が唐突に言ったのが『古女房』発言だったのだ。 「はあ? 古女房やと?」 「以前、波多野と話してたんですよ。蒲生さんが結婚しないのは案外、この車に入れ込んでるせいじゃないか、ってね」 「お前ら・・・2人して勝手に妙なこと話しとるなや」 「言いえて妙だと思いますけどね? どっちみちこれってデート用に向かないでしょうし、実際、付き合ってる女性は乗せたことがないんじゃないですか? 違います?」 「・・・・・・」 図星をつかれて二の句が告げられない蒲生に、助手席の後輩はクスクス笑う。 「さすがの蒲生さんも、2人の女性を同席させるほど図太くは、ないみたいですね」 「あのな・・・」 「いいじゃないですか。人であれ車であれ、そこまで惚れ込めるのならある意味、素敵だと思いますよ」 この後輩は時々、やけに文学的なセリフを言う。別に癇に障ったりはしないから構わないのだが、それだけに心に残ったのも事実。 「・・・そや、な。恋女房、言うんならちょっと違うきに、古女房、か。確かに辛い時も苦しい時もずっと一緒、みたいなイメージあるかも知れんの。 しっかし、何か演歌みたいやなー。今時古いわー」 「・・・・・」 蒲生がわざと明るく言って見せたのには、さしもの後輩も苦笑を返すだけだった。 ***************** 辛い時も苦しい時もずっと一緒───。 蒲生があの時、思わず口にしたその言葉は、決してただの比喩ではない。蒲生が十数年前、実際に味わったものだ。 並み居るベテラン勢を押しのけ、20代の若さでSG初優出を果たしたその直後、痛恨のフライング。 色々ともてはやされていただけに、叩かれ方もまた半端ではなくて。たとえ蒲生が、名声とか人の評判とかはあまり気にしないとは言え、かなりショックを受けたのを覚えている。 それでも負けず嫌いだったから、早く立ち直りたくて。 でも周囲の冷たい目は、どうしようもなく、プレッシャーも酷くて。 ・・・何より、勝てないレースはしたくなかった。出るからには勝ちたかった・・・。 そんな頃だったのである。知り合ったばかりの自動車のディラーに、無責任なことを言われたのは。 ───買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 何故か分からないがカチン、と来た。 幸い、一緒にいた従業員が空気を読んだのか、それとなく話をそらしてくれたからそれで済んだのだが、何をくだらない事を言ってくれるのだ、と腹立たしく思ってしまって。 そのディラーが帰るやいなや車庫に閉じこもり、しゃかりきになって『彼女』のフル整備をした覚えがある。 ・・・今にして思えば、あのディラーの発言に深い意味はなかった。どうやら競艇には興味がない輩だったようだし、単に自分の中古車を少しでも捌きたくて、期待半分で持ちかけただけだろう。 ただ、何も知らないヤツが勝手なことを抜かしやがって、と思った自分も、確かにそこにはいた。 手間がかかるから何だ? そのせいで何か、他人に迷惑でもかけたか? 整備するのは全部自分なのだ、それに、手間がかかるのも楽しみの1つだと言うのに・・・。 我ながら意固地になっていたな、と今なら冷静に判断できるのだが、あの頃は青二才だった。あるいは、フライングのせいで他人からの批評に、必要以上に過敏反応しただけかも知れない。 そう───これ以上周囲に迷惑をかける前に、さっさと競艇に見切りをつけて、第二の人生を送った方が身のためだ、と言われたかのような錯覚に陥ったから。 あるいは古びた愛車に、その頃の傷だらけの自分自身を重ね合わせていたのかも、知れない。 絶対見限るものか。 ・・・そう、決意したのは誰に対してのものだったのか。 月日は流れ。 それから十数年後、丸亀で波多野憲二との幸運な出会いを経て、蒲生がSGに復帰し。 最初こそプレッシャーに押されてポシャりもしたが、勘を取り戻し始めてからは順調に勝利を積み重ね、いつしか中堅どころの強豪、と言う評価を世間から受けるようになった頃。 ───新車買わないンすか? 蒲生さん。折角相当稼いでらっしゃるのに。 新しい車が欲しいから選手になった、と嘯く新人選手が、たまたま蒲生の愛車を見た時そう言ってのけたのだ。 蒲生とそれなりに親しい者たちは、皆眉をひそめずにはいられない。 いわば不文律で、蒲生が愛車を買い替える意思などないことは、分かりきっていたから。 そして、蒲生とそれほど親しくない者たちも、肝を冷やして成り行きを見守っていた。 仮にも先輩に対して、自分の趣味をこうも堂々と押し付けるのは、あまりに不躾だろう。 妙な緊張感漂う中、蒲生はヘラリ、と笑って答えて見せた。 「んー、考えたことないわ。金はみんな、全国24競艇所におるワシの女に貢いどるしのー。それに今新しい車買うても、自分で整備する時間ないと思うたら、めんどくさいやないか」 他人に整備を任せるなど考えもよらない、と言わんばかりの蒲生に、その場にいた全員が妙に納得したのだった。 その時やはり居合わせた、『彼女』とも昔馴染みであるかの後輩が、『古女房』発言を蒲生にぶつけたのは、後日のことである───。 多分この後輩は、漠然と思っていたに違いない。全国24競艇所にいると言う女性たちは皆愛人で、愛車こそが蒲生の本妻なのだ、と。だから何だかんだ言いながらも、最後には蒲生は本妻の元に戻るのだ、と。 ・・・確かにその仮説は当たっているのだろう。ただ、それが全てではない気がする。 ───新車買わないンすか? そう、あの新人に尋ねられた瞬間、蒲生は何故か想像してしまったのだ。 新品ピカピカの車を買い、そっちをメインに使うあまりに、『彼女』に乗らなくなったら、どうなるのか、と。 ひょっとしたら。 自分は『彼女』をどこか、見えない場所にでも閉じ込めてしまい、最初から存在しなかったもののように振舞うのではないのか、と・・・。 長らくのブランクはあったものの、今の自分は賞金王決定戦に毎年出場し、強豪選手の仲間入りを果たしている。そして、昔のことを自分の前で誹謗する人間なぞ、ほぼいない。 ・・・だが。 折角の初優出で、期待が高まる中フライングを犯し、大返還をしてしまったのも、紛れもないかつての自分なのだ。 その事実は曲げようがないし、決して忘れるべきではない。 蒲生は、この青空の下、柔らかな日差しを浴びて佇む『彼女』を、愛しげに撫でる。 錆が出て、ペンキを何度となく塗り直した箇所を。 うっかりぶつけて、わずかにひしゃげたフレームを。 そして、自分の意のまま軽やかに車体を操ってくれる、古びたハンドルを。 古女房というよりも。本妻と言うよりも。 『彼女』は自分が競艇選手として過ごしてきた、象徴そのもの。 辛いことも楽しいことも、全部一緒に味わってきたのだ。 それらを全部ひっくるめて、自分はこれからもずっと、決して忘れずに生きて行きたい・・・。 蒲生は漠然と、そう決意するのだった。 ***************** 「おおーっ、波多野ーーっvv 久しぶりじゃのお、会いたかったぞーーvv」 今年初めてのSGの前検日。 蒲生は数ヶ月ぶりに会う波多野憲二に、親愛と歓迎の意味合いでガシッ! とばかりに抱きついた。 彼らの後ろでは、香川支部の後輩や東京支部の浜岡が、呆れた顔をしている。 「あ・・・相変わらずっスね、蒲生さん」 クスクス、と失笑が漏れ、波多野はそうコメントを返すしかない。 周囲を気にする波多野に対し、人目などまるで気にしない蒲生。この取り合わせでの『ご挨拶』は、ほぼSGごとの名物と化しているらしい。 香川の蒲生にしてみれば賞金王決定戦が終われば、関東の強豪選手である波多野とは、総理大臣杯の時期にまでならないと会えない。だからこその歓迎ぶりなのだが。 実は今年の総理大臣杯は、波多野の地元・平和島だったりする。こちらが出迎える格好のはずが、こうも熱烈歓迎ぶりを示されると、波多野としても面食らうのも無理はない。 まさかこちらから抱き返すと言うのも、何だし。 「だけど、何で毎回毎回俺相手ばっかにハグなんですか? 同期の人とか、榎木さんとか、香川支部・・・はしょっちゅう顔合わせてるし今更だけど・・・とにかく。もっと親しい人、いるでしょうに」 「イヤ、新人時代は榎木相手にもしとったんやけどな」 「してたんですか☆」 少々呆れ気味の波多野に、背後から苦笑交じりの声がかかる。 「私は山口で、蒲生さんは香川だろう? 地理的に近いから、新人時代はそれなりの間隔で一般戦がかち合ってたんだよ」 「榎木さん! お、おはようございます」 「おはようございます。・・・じゃあ、その度に抱きつかれてた、ってことですか?」 「まあ、そういうことになるかな」 波多野と一緒にいた浜岡に問われ、榎木祐介は笑いをかみ殺すようにして答えた。 蒲生は、と言えば、先輩ならではの大らかな挨拶を、昔馴染みの後輩に返す。 「ホンマ、あの頃の榎木は純情やったからなー。抱きつくたびに悲鳴上げて、おもろかったんやけど」 「ああも頻繁に抱きつかれたら、誰だっていい加減慣れますよ」 「慣れるくらいに抱きついてたんですか☆」 「そやかて、女子選手に抱きついたらセクハラになるやないかー」 「論点ズレてるって☆」 波多野と笑い、榎木と話し、香川支部の後輩にたしなめられ。 そうするうちに、蒲生は自分の周りに人が集まってくる実感を覚えるのだった。 今年もまた、総理大臣杯が始まる。 《終》 ***************** ※良く考えたら、前検日の話なんだから、昨日のうちにUPしとくべきだったのかも。あう☆
「9年越しの水神祭」を、相互リンクサイト「紅龍館」へ贈りました。 小説末尾にもちゃんと書いておきましたが、ここにも念のため記しておきます。 (ち☆)
えー、マイPCの調子が悪いこともあって、本館HPの方は全然更新してないくせに、何故かこっちは続けさまに更新してる、真面目なのか不真面目なのかよくわからないちゃんちゃん☆ であります。 さて、今回はあらかじめ言っておくと、蒲生さんと榎木さんは出て来ません。珍しくノーマルカップリングの話です。何となく思いついたものでして。 え? 誰と誰の話だって? それは読んでのお楽しみv でわ、後書きにてまた。 (ってか、タイトル読めば何となく分かるかも・・・) ************** それは、年末の賞金王でのことだった。 手持ち無沙汰になったのもあり、シリーズの方に出ている父親の姿を探していた洞口雄大は、こともあろうに女子選手たちと楽しそうに談笑しているところに出くわしたのである。 「やだ、洞口さんってばそんなことおっしゃって」 中には、波多野の東京支部の先輩でもある、萩原真琴もいて。漏れ聞いたところによると父は、彼女のファンだと言ってはばからないらしい。 母親大事、のところが多分にある雄大としては、父親のそんな光景を見ていると ムカッ! と来てしまう。 とは言うものの、聞き流してしまえばいいところを、立ち去らずにその場にいる辺り、親子関係が以前から比べて随分修復された、証拠であろう。 「・・・で、賞金王シリーズなんて私も初めてでしょう? 後輩に『ここで緊張しない方法、教えてください』なんて言われても、困ってしまうんですよねー」 とりあえず今は、選手同士の真面目な話になっているらしい。 でももし、変に浮ついたような話題にでもなったら、無理やりにでも割り込んでやろう、と雄大は決意する。 「洞口さんはそれこそ常連でしょう? どうやって乗り越えて来られたんですか? 是非、ご伝授してくださいよ」 「ははは、あいにくだが企業秘密だて。だが、やはり経験を積まないことにはどうにもならんと思うがねえ」 ・・・しかし、どうでもいいことだが。 今は皆忙しくて、廊下に誰もいないのは雄大にとっては幸いであった。でなければ彼の方が、礼儀知らずの立ち聞き犯として糾弾されたに違いない。 「じゃあ、洞口さんも初めて出られた頃は、やっぱり緊張されたんですか?」 「んー、どうだったかな? もう随分経つし、忘れちまったよ」 「わあ、さすが余裕ですね」 「ひょっとして、洞口さんほどの実力者ともなると、あんまり緊張とかしないんですか?」 「おいおい、そんなことはないぞ。大体、緊張を忘れちまって惰性で動くようになった時が、一番危ないんだ。君たちも気をつけた方がいい。怪我するぞ」 「はい、そうします」 一応は、先輩選手として後輩を指導する立場を忘れてはいないらしい。 いい加減雄大も、自分のやっていることのおとなげなさに気づき、「この分なら心配ないだろう」と、自分の持ち場に戻ろうとした。 その時である。 「・・・まあ、こいつはワシのやり方なんだが、生涯で一番緊張した時のことを思い出せば、どんなことでも乗り越えられるような気がするんだがね」 「え・・・じゃあ洞口さんって、賞金王より緊張することがあった、ってことですか?」 「おお、あったぞ。あの時から比べれば、他のことなんか屁でもないわ」 ───そいつは初耳だ。 好奇心も手伝って、思わず耳を欹(そばだ)ててしまった雄大は、その直後ぎょっとした。 父親が、その独特のいたずらっ子のような笑みを浮かべて、肩越しにこちらを見ていたのだから。 ───イヤな予感がする。 雄大は「それってどんなことなんですかー? 教えてくださいよー」と父親に聞く女子生徒の声を振り払うように、その場を立ち去ろうとしたのだが。 父親の爆弾発言が、彼の逃げを決して許さなかったのである。 「そりゃ、ウチのワイフにプロポーズした時に決まっておるわ」 「きゃーーーっvv」 「洞口さんてば、奥さんとはラブラブなんですかー?」 「おう、今でも熱愛しちゃってるのよ。で、その愛の結晶が、あの雄大ってわけさ」 「わあ、ご馳走様v」 「親父! 一体何恥ずかしいこと、人様に言ってるんだよ!!」 あまりの恥ずかしさに、思わず話に割って入った雄大であったが。 父親ののろけ話がそこで終わるはずもなく、逆に延々と続く熱愛話に、そうそうに逃げ出す羽目になったのであった。 「フン、なーにが恥ずかしいことだ。 家族のことを愛してると大声で言って、何が悪い」 雄大が父親を超える日は、まだまだ先の話になりそうだ。 ・・・色んな意味で。 《終》 **************** ※スミマセン、何か阿呆な話になっちゃいましたね。 ただ、アニメのDVDで、初めて洞口Jr.が賞金王に出た時、「プレッシャーってのは自分では分からない」みたいな話を、原作の浜岡さんではなく、洞口パパが言ってるのを見て、「この人の緊張してるところなんて、想像つかないよー」と思いまして。 ・・・それが何で、こんなのろけ話になったのかは、自分でも意味不明。ただ、原作ではセリフ重視で洞口夫妻の仲の良さを描いていたけど、アニメでは仕草で描いていたなあ、とその辺の演出が気に入っていたので、そのせいかもしれませんな。 ってわけで、ここに出てくるノーマルカップリングとは「洞口パパ、ママ」のことでした(^^;;;)イヤ、このくらいが照れ屋のちゃんちゃん☆ の精一杯ですって。
実は別所にて蒲生さんについての考察を書いている最中なんですが、ふと思いついてしまったことがあったので、書いてみました。 別名「仙人・蒲生の悲喜こもごも」。純くん(岸本寛)視点です☆ 実際はそこまでビデオテープを酷使しまくることはないのかな? とも思うんですが、ま、その辺はご都合主義、ってことでv でわ。 ****************** 僕たち競艇選手って、よく競艇のレースをビデオテープで録画したりするよね? 自分のレースを振り返ったり、これから戦う選手の力量を調べたりするために。それこそ何回、何十回も繰り返して、見たりもする。 だから当然、酷使され続けたビデオテープはそのうち画像劣化した挙句、切れたりして使い物にならなくなってしまう。 それに、保管場所だって案外取るし。 もう少しこの辺、どうにかならないかなー? とか思ってたんだけど、最近の文明の進化ってホント、凄いと思わない? もっとコンパクトに録画できるものが出来たんだから。 だからこの際その、ハードディスク内蔵型のDVDレコーダーを買おうかな、って考えてたんだ。 ハードにもそれなりに録画は出来るし、DVDディスクならそんなに保管場所も取らないし、ビデオテープよりは断然長持ちする、って話だし。 それで休みの日なんかに、あちこちの量産店へ行ってパンフレットを手に入れて。 今日の斡旋にもそれらのパンフレットを宿舎に持ち込んで、暇な時間に検討しようかな、って思ってた。もしDVDを使ってる人がいたら、その人の意見も参考にできるじゃない? 「へえ・・・今は色んなタイプのがあるんだなあ。面白えー」 早速ノってきたのは波多野君。もっとも彼の場合今のところVHS派で、DVDはまだ買っていないらしいけど。 「フンフン。こっちのは目次の参考画像に、好きなシーンのを選べるのかあ」 「波多野君・・・別に永久保存するわけじゃないんだから、そんなに目次に凝らなくてもいいと思うけど?」 「え? そうか? 目次ページの画像だけでも、結構楽しめるんだけどなあ」 波多野君たら、一体何の番組を録画するつもりなんだろう・・・。 「お取り込み中スマンが、こっちの席、ええか?」 「あ、蒲生さん」 波多野くんの声に顔を上げると、そこには両手に食事のトレイを抱えた香川の蒲生さんが、笑って立っていた。どうやら相席希望らしい。 僕は一向に構わないから、愛想良く返事をした。 「ええ、どうぞ」 「スマンの」 「蒲生さん、今日のレースもいい調子でしたねー」 パンフレットをめくりながら、波多野君は席に着いた蒲生さんに話しかける。 この蒲生、って人は以前までは一般戦にばかり出ていたんだけど、最近SGに復帰し(随分昔に優出したことがあるらしい)、頭角をあらわして来た人だ。波多野君はよく一緒のSGに出て、勝ったり負けたりを繰り返している、言わばよきライバルの一人・・・って言ってもいいのかな? 先輩だけど。 あいにく僕は、時々一緒のレースになったりはするものの、もっか連敗中。 強いんだよね、この人って半端じゃなく。 噂によるとその強さと来たら、あの艇王・榎木さんまで一目置いてる、って話なんだ。波多野君と一緒にこうやってたわいもない話をしてるの見ると、ちょっと想像つかないんだけどさ。 そんな蒲生さんが、食事を一段落させた頃、ふとDVDのパンフレットに目を留める。 「そういや、さっきからお前ら何熱心にやっとるんじゃ?」 「ああ、純がビデオやめてDVD買おうって言ってるんですよ。それでパンフレット見て検討してるんだけど・・・蒲生さん、何かお勧めの機種、ありますか?」 波多野君はお愛想ついでにそう言ったけど、実はさほど蒲生さんの意見を当てにしてたわけじゃない、と思う。 でも、だからって。まさか蒲生さんがこんなこと言い出すなんてことは、さすがに予想外だったんじゃないかなあ? 「でーぶいでー? ・・・なんじゃそら? 怪獣の名前か何かか?」 ・ ・ ・ ・ ・ 一瞬。 食堂内の空気が固まった、と感じたのは、絶対僕の気のせいなんかじゃない。 はじめの衝撃が収まったんだろう。波多野君は慌てて説明を試みてる。 「あ、あの、蒲生さん? でーぶいでーじゃなくて、DVD。CDみたいのにTV番組録画するヤツですって」 「はあ? CDにどうやって録画するんじゃ? どうやってCDプレイヤーで再生するんじゃ? テレビにCDプレイヤー繋ぐんか?」 「い、いえ、そうじゃなくてですね・・・」 ・・・ああ、みんなこっち注目してるよ。興味津々な顔で。見ないフリはしてるけど。 だって蒲生さんだよ? SG2つも獲ってる蒲生さんが、だよ? 今どきDVDを知らないなんて、何の冗談だって思っちゃうじゃない。 でも、だったら蒲生さんってどうやって、レースごとの作戦立てたりするんだろう? 「こっち相席、かまわないかな?」 僕が混乱と動揺で頭を抱えてたら、また頭上から声がかけられた。 慌てて起き上がったら・・・そこにいたのは艇王・榎木さん!? 「ど、どうぞっ!」 ・・・声が上ずってるの、勘付かれたかな? 波多野くんや洞口くんだと、よくSGで戦ったりしてるからそんなに気後れもしないんだろうけど、僕にとっての榎木さんって、まだまだ雲の上の存在だから。 榎木さんは苦笑らしきものをちょっとだけ浮かべ、食事のために席に着く。 と、さっきまで波多野君と漫才会話(にしか聞こえない☆)を繰り広げていた蒲生さんが、何の屈託も感じられない声で榎木さんに声をかけた。 「おお、榎木ー。ちょうどええところに来たわ」 聞いた話によると、蒲生さんって榎木さんの1期先輩で、新人時代から仲が良かったらしい。僕じゃ緊張するしかない榎木さん相手に、こうも自然体な会話ができる辺り、何だか納得気分だ。 それで榎木さんは、と言うと。 どうやら、蒲生さんが僕らと相席していたことには気づいていたみたいで、声をかけられたこと自体はそんなに驚いていなかったんだけど。 声につられて蒲生さんの方へ顔を向けた時、ちょっと怪訝そうな顔になった。 「・・・? 蒲生さん、一体波多野に何やったんですか? 随分疲れてるみたいですけど」 見れば、もはや説明に疲れ果てた、と言わんばかりの波多野くんがテーブルに突っ伏している。 気持ちは良く分かるよ。うん。 そんな僕らの気持ちを知ってか知らずか。 蒲生さんは再びこの場に、爆弾を投下してしまったのである。あっさり、しれっと。 「イヤ、何や分からんことがあっての。波多野に説明してもらっとったんじゃ。 なあ榎木、でーぶいでーって・・・何や?」 ・ ・ ・ 皆が固唾を呑んで見守る中。 榎木さんは予想通り、数秒間見事に固まった。 が、さすが艇王というべきか? 僕らよりは幾分か早く立ち直り、もう一度蒲生さんに確認する。 「DVD、ですか?」 「おお。よお分からんきに」 「・・・・・・。またですか、蒲生さん」 苦笑と諦めとがない混ざった、それはそれは複雑な笑みを浮かべながら、榎木さんはため息をついた。 その言葉に、今まで疲れ果ててたはずの誰かさんが、すかさず復活。 「あの・・・榎木さん?『また』って、どういう意味なんです?」 よしっ、波多野君ナイス! 僕らみんなが疑問に思ってることを代わりに聞くのは、君に一任したからねっv 「言葉の通りだよ、波多野」 どこか笑いをこらえたような顔で、榎木さんは波多野君に答えてくれる。 「私たちがまだルーキーの頃だったかな。やっぱり斡旋先の食堂で、こんな風に私を呼び止めて、この人が聞いてきたんだよ。『VHSって何か?』って」 その途端。 よせばいいのに僕の想像力ってば、「さっき僕らに聞いてきた表情そのまんまで、ルーキー時代の榎木さんに尋ねる蒲生さん」って言うのを、瞬時に頭の中で形成してしまったんだよね。 『なあ榎木、ぶいえいちえすって・・・何や?』 ・・・ぷっ☆ どうやら同じくその光景を、つい思い描いてしまったんだろう。食堂のあちらこちらで、失笑をこらえているのが聞こえてくる。 ・・・みんな聞き耳、立ててたんだな、やっぱり。 周囲の空気に気づいていないのか、榎木さんはチラと蒲生さんを見ながら、気安い関係の人間ならではの軽い、悪態をつく。 「今どき信じられないことに、この人と来たら、家にテレビもビデオも置いてない時期があったんだからね」 「ええ!? でも以前お邪魔した時には、ちゃんと置いてあったはずじゃ・・・」 「あの直前に買い揃えたんだそうだ。必要に駆られて」 「何じゃ? 波多野まで。そーんなに悪いんか? テレビとかビデオとか家に置いとらんのが」 すこーし気分を害した感じの蒲生さんが言葉を挟むも、この場の滑稽さに似た空気が拭い去れることはない。 「そういう意味じゃありませんよ。我々が競艇選手じゃないのなら、それもアリでしょうけど・・・」 「そ、そうか! だったら蒲生さん、どうやってレースの作戦立てたりしてたんですか? 相手選手の傾向とか、研究しようがないでしょ?」 至極ごもっともな質問を波多野くんがぶつけるも、蒲生さんはきょとん、としている。 「事前に作戦立てたりは、せえへんもん。その場その場でレース見て臨機応変に直感で、こうすればええか、って思うだけで。だからビデオなんか、いらへんやんか」 「・・・そういうことができるのは、蒲生さんぐらいですって・・・」 既に榎木さんは、笑いをこらえきれていないし。 波多野君と来たら、あんぐりと口が開きっぱなしになっている。 「そ、そう言えば以前、勝木と一緒の時言ってましたね?『エースペラ1枚あれば、あとはモーターをそれに合わせて整備すれば何とかなる』とか、何とか・・・」 「ええ!? 何だよそれ? じゃあ蒲生さんて、ペラの予備持ってないんですか!?」 波多野くんからの「証言」に、僕は思わず口を挟んでしまい、周囲の注目を浴びてしまう。 でも、幸いにも蒲生さんは、咎めたりはしなかった。 「おお、持っとらんかったぞ。ペラ作りっちゅうて何や、メチャクチャ苦手でのー」 「・・・威張れることではないと思うんですが」 「ギャグなんかじゃなくて、マジだったんスね・・・エースペラ壊したから『仕方なく』ペラ小屋行った、って言うのは」 榎木さんは苦笑で答え。 波多野くんは理解できない! とばかりにうんざりしたような顔になっている。 無理ないけどね。波多野くんって、ペラ作りの師匠として古池さんのところへ弟子入りするまで、結構苦労してるから。 おまけに、古池さんに弟子入りした後もしばらく『勝手にペラを叩くな!』って約束させられていて、その直後にエースペラを壊したりしてたっけ。 ペラがそこそこでもモーターを調節してレースに勝つ───なーんて蒲生さんの破天荒ぶりは、信じられないの一言なんだろう。・・・僕だって信じられないけど。 しかし、競艇選手って言ってもホント、色んな人がいるんだなあ。 妙に新鮮な気分で、食後のコーヒー中の蒲生さんを眺めていたら、こちらは食事中の榎木さんに、何故か声をかけられた。 「確か君、岸本くん、だったっけ?」 「は、はい、榎木さん。岸本寛って言いますっ!」 「波多野から、時々噂は聞いてるよ。努力家で、コツコツ地道に成績を伸ばして来た、自慢の同期だって。今節、随分頑張っているようだね?」 うわ、榎木さんが僕のこと知ってたなんて! それも波多野くんが、僕のこと自慢の同期だなんて言ってたなんてっ!! 二重の意味で感動していたら、榎木さんの表情が徐々に、何とも複雑なものへと変化していくのが見て取れて、首をかしげる。 「まあ・・・岸本くんが興味を示すのは、無理もない話か」 「は?」 「イヤ、レーサーとしての蒲生さんに」 「え、ええ」 「一つ、私から偉そうに忠告させてもらうが。 絶対、蒲生さんみたいになろうなんて、考えない方がいいよ?」 何やら榎木さんは、やけにしみじみとした口調で僕に言う。 「君には君の良さがあるし、他人のやり方を真似しようったって、身につかないのが普通なんだ。 天才を模倣しようなんて、止めておいた方が身のためだからね?」 ・・・イヤ、別に真似しようなんて考えていたわけじゃ、ないんですけど。 「そら、どう言う意味じゃ榎木。なーんか引っかかる言い方やのお」 「一足飛びに蒲生さんみたいになろうなんて、常人には不可能だ、って言う意味ですよ。時々分かってない若手がいるからなあ・・・」 「『艇王』のお前が言うても、説得力がないんと違うかあ?」 「俺はれっきとした努力型ですよ。蒲生さんを模倣しようなんて、そんなの恐れ多くって」 「だーかーら、そういう言い方が引っかかる、っちゅうんじゃ」 「誉めてるんですけどね、一応」 やいのやいの、と蒲生さんが榎木さん相手にじゃれてる(失礼かもしれないけど、そうとしか見えないのは何で??)のを尻目に、僕はついため息をつかずにはいられなかった。 榎木さん。僕は絶対、大丈夫ですって。 だって、さっきから聞いていて、所謂「天才」ってヤツには絶対、ついていけないって思いましたもん。努力が一番ですって、うん。 「? 何だよ純。俺の顔に何か付いてるか?」 「何でもないよ。たださ、『天才じゃない人間』と『普通の人間』って、同じじゃないよねって思って」 「は?」 そう。僕は普通の人間だ。だけど努力だってしているし、ちゃんとコツコツと上達もしている。 蒲生さんや、あるいは波多野くんたちとは違った道のりでも、きっと勝利はつかめると思うんだ。 「いつか追いついて見せるからね、波多野くん」 「???」 誰のものでもない、僕のやり方で。 《終》 ************************* ※何やら最後が、純の青春譚のよーな。ま、いいか。 ちなみにVHSが何たるかを知らなかった蒲生さんですが、別にビデオのことまで知らなかったわけじゃないです。単にビデオが「VHS」と呼ばれているのを、知らなかっただけですんで。念のため。(かつてのち☆ がそうだったんで)
※えーーー。約3ヶ月ぶりの、まともな更新になるかと。 今度更新する時は絶対小五郎ものだ! と思っていたのに、あくまでも予定は未定。同じサンデー連載ものでも、思いもよらないジャンルにハマってしまいました。 ・・・ええ。当初読んだのは単行本4巻の教習所時代の話で、ごくフツーに物語を楽しんでいたはずだったのに、全ては20巻から登場くれやがりました、あの男のせいです。おまけにアニメ声が松本保典なものだから(ガウリィ〜vv)、もうすっかりドツボ。声優さんのコメントを聞きたいがためだけに「V」のDVD第3節を買い、今またケーブルテレビで放映している「V」をセコセコ録画している真っ最中です。・・・ああ、もう既に連載は終わっていると言うのに・・・☆ ここのレンタル日記ではや○いなし、と決めているので、とりあえず蒲生さんと榎木さんの友情話を書いていきたいな、と思っております。でわ。 ************** 「こいつはやっぱり、水神祭だな」 今思い出そうにも、あの時一体誰が言い出したのかはっきりしないのだが。 チャンピオン杯優勝者のゆっくりとしたウィニングランを眺めていた時に、いつの間にかそんな話になったのは事実。 彼───蒲生さんは実に久しぶりのSG復帰にもかかわらず、そんなブランクなど露ほども感じさせない強さを発揮し。 今節のチャレンジ杯で見事、SG初優勝を遂げたのである。 ところで。 一般人にはおそらくなじみがないだろうが、我々競艇選手には「水神祭」なるものがある。G1初勝利、SG初勝利など、レース上でおめでたいことがあった時に、その対象たる選手を水の中に放り込む、いわば通過儀式だ。 むろん私も随分昔、G1初出場で初勝利を決めた時、先輩たちの手によって水神祭でびしょぬれになった記憶がある。 その時の、まるでいたずらっ子のようにはしゃいでいた先輩たちの中には、まだ髪を染めていない頃の蒲生さんの笑顔があった・・・。 『ひどいなあ、蒲生先輩。今の、率先して加わってたでしょう?』 『阿呆、こう言うめでたいことに加わらんでどないするんじゃ。ま、そのうちワシの水神祭に参加させたるから、そん時今回の恨み晴らしたれや、榎木よ』 『ええ、それはもう。期待して待ってますよ』 ・・・・・・。 「ちょ、ちょっと、蒲生さんに水神祭っスか? お気の毒ですよー。もう11月で水も冷たいし、それに、これから勝利者インタビューとかまだあるでしょ?」 さすがに、我々より年少者の波多野君は、遠慮がちながら反対論を口にする。 でも。 「何を言っとるんだ波多野。めでたいからこその水神祭だろが?」 「犬飼さん・・・何でそんなに嬉しそうなんですか・・・」 「あきらめろ波多野。我が身が可愛ければ逆らうな」 「お前が蒲生さんと一緒に飛び込む、ってんなら話は別だけどよ」 「和久井さんまでそんなこと・・・って、浜岡さん、何で負けた俺が水神祭なんスかあ?」 このチャレンジ杯はベテラン陣が揃い踏みなこともあり、そんな意見は少数派に過ぎない。・・・蒲生さんにとって極めて、お気の毒なことに。 そうこうするうちに、何にも知らずに戻って来た蒲生さんは、と言えば。 それは不自然なくらいなにこやかな笑みの諸先輩方々に、あっという間に囲まれてしまったのである。 「ってことで、蒲生、待ちくたびれたわ! SG初優勝の水神祭じゃーー!」 「どわあああああっ!? タ、タンマ、タンマーーーッ!!」 「逃げるな、大人しく捕まれ〜!」 「よくやりやがったなー、こんちくしょー!」 「可愛げがなさすぎるんじゃ、あの勝ち方はーー」 「か、勘弁して下さいよー! この後インタビューあるっちゅうて言われてるんにー! 年寄りに冷や水はキツいわ〜」 「何が年寄りだ〜。まだ三十代のくせによ〜」 大笑いする先輩たちと、引きつり笑いを浮かべるしかない波多野君たち。 さすがに彼らに助けを呼んでも埒が明かない、と踏んだのだろう。蒲生さんはとりあえず傍観者を決め込んでいた私に、声をかけてきたのである。 「おおい榎木、可愛い先輩の危機じゃあ、さっさと助けんかいーー」 一瞬波多野君が、すがるような目で私を見たような気がしたのだが。 それには構わずに遅ばせながら、先輩たちの手伝いに加わることにした私である。 「可愛い先輩だからこそ、めいっぱい祝福してあげたいじゃないですか」 「こらあ! 榎木、この薄情もん〜!!」 「大人しく祝福されてくださいよ、蒲生さん。・・・波多野君たちも、この人が何と文句を言っても耳、貸さなくて良いから」 「「「げっ・・・・・☆」」」 なるべく愛想良く告げたつもりが、その言葉で波多野君の顔がさらに引きつるのが見て取れた。・・・有無も言わせぬ、って気持ちがまともに口に出てしまったらしいな。ふむ。 そうして、情け容赦なく宙へと放り出された蒲生さんに、私は万感の気持ちを込めて叫んだのである。 「おめでとう、蒲生『先輩』!!」 「・・・・・・!!」 ゲラゲラ受けている先輩たちには、そして遠巻きにしてみているしかない波多野君たちには、聞こえなかったであろう私の、その言葉。 でも。 蒲生さんには確実に聞こえていたようで。 どっぽーーーーん☆ 大きく目を見開いたまま、彼は水面に沈んだ・・・。 ********************************* ───そうだ。 結局、G1初出場で初勝利を上げたあのすぐ後、私はレース中の事故で大怪我をして、A1級から落ちてしまい。 加えて蒲生さんがあの、悪夢のフライングでSGから姿を消して。 蒲生さんと私は、F明けの一般戦等で時々顔を合わせることもありはしたものの、まだ気安く挨拶できるような雰囲気にもなれず。 不運とタイミングの悪さが重なり続け、結果、私の蒲生さんへの「水神祭」返しは延々、9年も持ち越しになってしまっていたのだ。 蒲生さんもまさか私が9年間も、そのことにこだわっていようとは思ってもみなかっただろう。現に私も、実際に水神祭に立ち会うまで、実感できずにいたのだが。 けれど。 この「水神祭」返しは私にとって、蒲生さんのSG復帰を再確認させてくれる儀式、そのもの。 気が置けない良き先輩であり、また、手ごわいライバルでもある彼が、再び私と同じ舞台へと這い登ってきた証みたいな気がして、つい参加せずにはいられなかったのだ。 ・・・多少は蒲生さんに恨みは抱かれようが、そこは勝手に許してもらうことにしよう。 ********************************* 「かーーーっっ! 冷たさが目にしみりよるーー! ホンマ、後輩思いの律儀な先輩たちばっかじゃのお、SGはぁ!!」 全身ずぶ濡れで戻って来た蒲生さんは、口では悪態をつきながらも苦笑いしている。手荒な祝福の気持ちは、ちゃんと受け取っているのだろう。 私や観客だけではないのだから。「天才・蒲生」がGSに戻ってくるのを待っていたのは。 「先輩思いの後輩のことは、誉めてくれないんですか? 蒲生さん」 「なーにを抜けぬけと抜かしよるか☆ 見捨てたくせに」 それでも蒲生さんは、笑いながら答えてくれる。彼らしい、ざっくばらんな態度で。 そうして、大急ぎでインタビューへと向かおうと私の横をすれ違おうとした時。 彼は何とも言えない、困ったような笑みで、尋ねて来たのだ。 「で、榎木よ。待たせた恨み、晴らせたんか? 9年分の」 むろん、私は答えてあげる。 「ええ。それはもうすっきりと、9年分も」 《終》 ************** ※ラストのセリフですが、「水神祭を」9年待たせた、って意味ですからね? 深読みしちゃ、ダメですよお?(←言わなきゃ誰も気づかんだろ(^^;;;) どこぞのサイトさんだったか、「チャレンジ杯後、水神祭の蒲生さん」と言うイラストを目にしたことがありまして。そーいや蒲生さんはSG初優勝なんだから、それもありだろ! って話をここまで膨らませた次第です。 しかし、榎木さんも謎の多い人物ですよねえ。確か当時、デビューからSG優勝までの最短記録を持っていたと言う話ですが、9年前に怪我して半年以上休んでいたはずで。だから、怪我をしたのはデビューしたての頃だったのかなあ、と思いつつ、今回の話に盛り込んでみたつもりです。・・・今度ちゃんと年表書いてみよう・・・。 ************** 後日追加事項: 「紅龍館」の伊達炎さんに、この作品をお嫁入りさせましたv
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