世間でもてはやされている、今話題の名探偵・毛利小五郎。 だけど私はそれが、他の人間によって作られたカモフラージュだと言うことを知っている、数少ない人間の1人だ。 鋭い名推理を持ちながら腹話術師に甘んじねばならない「工藤新一」のためにあつらえられた、哀れな操り人形。それが、私の毛利小五郎像。 ───そのはずだったのに・・・。 *************** 久しぶりの母校で起きた殺人事件を無事解決した後、工藤君は倒れた。 それはつまり、私の作った解毒剤がまだまだ不完全品と言うことだけど、まだ効果は継続中で。「工藤新一」に戻った彼の代わりに、私・灰原 哀は「江戸川コナン」として、この家にやって来た。 この、毛利小五郎探偵事務所へ。 今ここにいるのは、家主で探偵事務所所長の毛利小五郎と私だけ。いつも「彼ら」と一緒にいるはずの蘭さんは、工藤君を心配して学校からそのまま工藤宅へと、同行しているのだ。 「・・・ったく、蘭の奴・・・。今までほったらかしにされてたくせに、いきなりあいつが久しぶりに現れたからって、いそいそと世話焼くなよ。これじゃあ、あいつを図に乗らせるだけじゃねえか・・・」 毛利氏の表情は不満たらたらである。 無理もない。何せ蘭さんは今、私たちのことより工藤君のことを最優先にしていて、もうすぐ夕食時だと言うのに帰ってくる気配がないからだ。 とは言うものの、不平を言っていても仕方がない、と彼はおもむろに電話そばにある薄いノートのようなものを取り出し、私に言う。 「ってわけで、久しぶりに出前でも取るか。コナン、お前何が食べたい?」 ───一瞬、私は困惑する。 何故なら食事をするのなら、変声機付きのマスクを外さなければならないからだ。むろん、たったそれだけで「今の江戸川コナン=灰原哀」だとバレる恐れはないものの、毛利氏の前で少しでも声を出せばたちどころに、私の正体が露見してしまう。 一番良いのは食べないことだろうが、それはかえって不自然だ。となると、あとは毛利氏の見えない場所で「処理」するしか方法はないだろう。運のいいことに今現在の「江戸川コナン」は、風邪を召しているのだから。 ・・・初日からこの調子では、後が思いやられる けれど私は、せいぜい子供の遠慮を装うことにした。 「ううん、ボク今は食べたくない。喉痛いし。レトルトのお粥とか、そう言うのあったら自分で暖めて後で食べるから、おじさん自分の分だけ頼んでよ」 すると毛利氏は少し眉をひそめ、手の中のメニュー───さっき薄いノートだと表現したもの───をヒラヒラさせながら言葉を続ける。 「・・・そう言うなって。知ってるだろ、お前も。この店本来なら、出前は2人前からってことになってんだ。だから以前、一人分だけ頼んだら露骨に嫌がられたじゃねえか。あの二の舞はゴメンだぜ」 「そ、そうだったね・・・」 確かに、一人前だけの注文を請け負っていたのでは、採算が合わないだろう。 昨今のデリバリー界のサービス悪化を心中で嘆きつつ、どうやってこの場をしのごうか、と悩み始めた私だったが。 「・・・お前、本当にいらないんだな? 今からその調子じゃ、食いっぱぐれちまうぞ?」 その、妙に低い声に。 何やら含むようなものを感じた私は、恐る恐る毛利氏の顔を見上げると。 私をしっかりと、正面から見つめている彼の目は、さっきまでのふざけたものではなくなっていた。 ───イヤな予感に。 背中に冷たい汗が流れる私に構わず、毛利氏は手の中のメニューをもてあそびながら言葉をつぐむ。淡々と。 「・・・この店はな、最近出来たばかりの、1人前でも笑顔でお届けします、ってのがキャッチフレーズの店なんだよ」 「え・・・・・?」 「大体、初めてこの店を利用した日のこと、覚えてねえのか? 確かあの時は、蘭の奴が学校での用事で遅くなる、ってんでお前の分と注文しようとしたら、たまたまお前が博士のところへ行くって日で。さすがに初めての店で俺一人の分を頼むのも何だし、って迷ってたらお前、言ったじゃねえか。 『じゃあ、蘭姉ちゃんの分も頼んでおけばいいよ。疲れて帰ってくるのにすぐ食事の用意、って可哀想じゃない。丼ものなら、後で暖めなおせばいいでしょ?』ってな。 ・・・何でお前、今日はそう言わねえんだ・・・?」 《続》 ************** ※ハハハ・・・ついにやってしまったぜい☆ 原作のどの話辺りを題材にしてるかは、分かりますよね?? コナンとして毛利探偵事務所にいるはめになった哀ちゃんだけど、大丈夫だったのかなあ? と思いまして。「風邪気味=お風呂は入れない」から性別はばれないものの、色々と気遣いしなくてはいけないでしょ。だからあるいはこんな可能性もありかな? とか思って書いた次第です。 もちろんちゃんちゃん☆ が、毛利小五郎氏を贔屓しているのも、執筆の理由の1つではあるんですけどね(^^;;;)とてもじゃないけど、ありえない話だし。 原作ですけど現在、とんでもない展開になってきているようで。まさか小五郎のおっちゃんが命を狙われる羽目に陥るとは・・・(T_T)ジンの言葉も気になるし。久しぶりに「コナン」アニメ録画、再開しましたわいv この続きは後日に。とりあえずこのレンタル日記が勿体ないのでここに置きますが、完結次第HPにも転載予定です。ご了承ください。 ※2025年6月13日補足 この続きは、2025年6月13日の方へ投稿してあります。そろそろ父の日なので、ちょうどいいかな、と。 自前のHPがほぼ開店休業状態なのと、最近はずっとぴくしぶの方に入り浸っているので、全文紹介はそちらの方で行います。こちらと同じPN ちゃんちゃん☆ で投稿しています。どうぞよろしく。 ・・・何でぴくしぶにリンクしないのかって?? こっちに投稿するのがあまりに久しぶり過ぎて、リンクの張り方忘れちまったんだよ(涙)
えー、このところずっと更新していない「ちゃんちゃん☆ のショート創作」を覗きに来て下さっている方々へ。 お久しぶりです。ちゃんちゃん☆ です。実は今日、ここへ大事なお知らせを書きに参りました。 本日2005年4月1日をもって、ここ「ちゃんちゃん☆ のショート創作」は削除いたします。皆様、長らくありがとうございました。 ・・・なんてね。ウソですよんvv 折角のエイプリル・フールだし、そのくらい書いても良いでしょvv とりあえずここは当分削除しません。更新はしないかもしれないけど(ーー;;;) ただ今日は、我らが愛しきキャプテン・ウソップの誕生日だと言うこともあり、こちらに久しぶりに小説を1本、UPします。 とりあえず、健全。(一応このコーナーの作品は、全部健全だって知ってます?)そのうちこっそり「来楽堂」にもUPいたしますが、よろしければ今月中DLFにしようかと。 ただ、HOMEへのリンクは各自の判断にお任せしますが、この作品がちゃんちゃん☆ 作だということだけは、明記してください。で、出来たら掲示板かメールで「持って行ったよ」とご報告していただけたら、尚嬉しいな、と。 (でもサンウソでもないのに、持って行かれる人っているのかなあ?) では。「ちゃんちゃん☆ のショート創作」初のOPSSをどうぞ。直書きだからかなりおかしな文章になるかもしれない・・・。 ************************* ☆宛名のない贈り物☆ 夜は俺様の誕生日パーティをするってんで、キッチンでサンジの手伝いをしていたら、外にいたナミに呼ばれた。 「はい」 そう言って渡されたのは、何やらボロい紙に包まれたもの。 「何だよこれ? お前から俺への誕生日プレゼント、ってわけじゃ・・・」 「ないわよ。大体、こんなボロっちい紙に包んだりすると思うの? カワイイ包装紙か、いっそのこと何も包まずに手渡すわよ、あたしなら」 「・・・だよなあ。それに他の連中だって、直接俺に渡すだろうし・・・一体何なんだ?」 「知らないわ。さっき新聞を持ってきたカモメと入れ違いに、カモメ便が来たのよ。宛名が書いてなかったからついあけちゃったけど、多分あんた宛だと思うわ」 「は? 何だそりゃ」 ちなみに、故郷からのカヤや元・ウソップ海賊団からは、誕生日にめがけての手紙をもらった。だからこの小包があいつらからのものである可能性は、低い。 首を傾げつつも、俺はナミがそっとはがしたであろうテープの跡から包みを開き───声も出せないくらい、驚嘆した。 そこに入っていたのは、潮風に侵食されないようにと油紙に何重にも包まれていた、パチンコ用のゴムだったんだ。 「・・・・・・」 ナミは笑うような、それでいて泣きそうなような、複雑な顔をしていたけど、俺様は気遣ってやれる心の余裕がなかった。 「サンジ! 悪いけど俺、1時間だけ休憩な!」 「ちょっと待て長っ鼻! てめえの誕生日パーティの準備だぞ! それを・・・」 「手伝いならあたしがするわ。1時間ウソップに休憩させてあげて、サンジくん」 「ナミさん?」 「ナミ・・・」 「これがあたしの、あんたへの誕生日プレゼントよ。何も思いつかなかったところだったから、ちょうどよかった。せいぜい感謝しなさいね?」 「・・・・・おう」 鼻をすすりながら俺様は、マストの上へと急いで登る。 ・・・こんなめでたい日に、涙なんて誰にも見られたくなかったから。 ***************** 贈られたパチンコのゴムに、俺は悪態をつく。 「・・・何だよこれ。今のパチンコには、もう短すぎるじゃねえかよ。2つ3つ結ばねえと使えねえじゃねえかよ。 ・・・いつまでも、俺が小さなガキのままのつもりで、いるんじゃねえよ・・・ろくでなし親父・・・」 便りなんてずっと、来たことがなかった。 お袋が元気だった頃も、病気になった頃も、そして───俺様があの家に1人、取り残された時も。だから「あいつ」の頭の中にはきっと、元気だったお袋と小さかった俺様が、やさしく笑ってでもいるんだろう。 どうやって俺様の所在を知ったのかは、知らない。 けれど、この贈り物をカモメに託した時、どれほどの勇気を振り絞ったのか───今の俺なら、分るような気がするんだ。 つき返されるかもしれない。 あるいはこのご時世だ、該当者不在で、帰って来る可能性だってある。 それでも、贈らずにはいられなかった者の気持ち、ってヤツが・・・。 「仕方ねえなあ・・・モノには罪はねえし、ちょうどゴムも切れ掛かっていたから、使ってやるよ。せいぜい酷使してやるからな。覚悟しやがれってんだ」 悪態をつきながら、俺は空を仰いでその人を偲んだ。 元気でいるんだな。 俺も、元気でいるぜ。 《終》
この度某所にて、こちらで発表した「茂保衛門様 快刀乱麻!」の縦書表示ものを公開することとなりました。まだ全部の編集は済んでおりませんが、どうぞよろしくお願いします。 http://www.denpan.org/book/DP-29fa-502b-1/ で、こちらの文章はと言うと、特に削除する予定はありません。ご安心くださいませ。 ところで、何でこの「茂保衛門様 快刀乱麻!」を縦書き表示することにこだわったかと言いますと、実は無断使用防止のためなんです。 「何を大げさな!」と思われるかもしれませんが、実は既に「はぐれ陰陽師」シリーズで、勝手に同人誌を作られてしまったことがありまして。・・・去ることもう3年以上前になりますか。 のっぺりも、掲示板でのカキコにてその事実が分かった時 「まあ、売れると思って作ったんだろうから、作品としては認められてるといってもいいのかもしれないけどなあ・・・」 と、半ば呆れてました。 パロディとは言え、一応はかなりの労力を使って執筆しているものですから、勝手に使われたくはないものですな。 と言うわけで、今更ながらの注意書き。 このレンタル日記にて書いている小説にも、れっきとした著作権が発生しております。筆者に無断での転載、出版等の行為は、断固お断りさせていただきます。 2005年11月29日記 ※ホントは以前のこの日付のページには、別の文章が書かれていたのですが、もう意味がないものなのでこちらの判断で、削除しました。
茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)後編(シリーズ最終話) ここにあたしが来てから、そろそろ半刻(約1時間)ほどが経つ。 最初はあたしの存在を気にしてた大工たちも、自分たちの仕事に没頭し始めるやいなや、逆に部外者は他所へ行ってくれ、とばかりの視線を向けてくる。 まああたしとしましても、このままずっとここに居続けるつもりもなかったから、そろそろ立ち去る頃合かも知れない。 「・・・ところで御厨さん」 新築中の家から歩み去り、周囲に他人がいないことを見計らってから、あたしは小声で御厨さんに話しかけた。 「何ですか?」 「あたしの顔の、この大げさな布切れ、もういい加減に剥がしたいんですけど。痒いし、蒸れるしで、気色悪いったらありゃしない」 「ダメです。あれから『やっと』一月(ひとつき)ですよ? ほとぼりが冷めるまで我慢してください」 「『もう』一月、って感覚ですけどね、あたしに言わせてみれば」 ───実は。 あたしが怨霊の勇之介に襲われて焼いてしまったお肌のうち、一番目立つ顔の火傷の方は瘡蓋もきれいに取れ、とっくに完治してしまっているのである。それもこれもあの美里藍と涼浬が、惜しげもなくお薬をバンバン使って看病してくれたお陰らしい。 ただし、手や足の方は未だに瘡蓋も、ヒリヒリした感触も残っているけど、そっちの方は仕方ないでしょ。動かすのには支障がないんだし。 とにかく、折角治ったんだから隠してないで、ご自慢の玉の肌をさらしたい気分になるのは当然のこと。 ・・・なのに、気が利かないんだから。御厨さんの堅物っ。 「いけません。あと半月はそのままでいて欲しいと、美里殿からの伝言です」 「ええ〜〜〜」 漢方薬の匂いがキツイんだけど。鼻が曲がりそうだわ。 かなり恨みがましい目を向けられても、さすがに御厨さん。そう簡単に折れたりはしない。 「・・・榊さんは覚えていらっしゃらないようですが、お顔に大火傷を負った榊さんは、お屋敷へ運ぶまでかなりの数の人間に見られてるんですよ? 本当ならそう簡単にあの大火傷が治るわけないのに、不自然じゃないですか。 お屋敷内の人間なら口裏も合わせられるでしょう。しかし、単なる通行人の目を誤魔化すのは、実質上不可能ですから」 「そ、それはそうだけど・・・だったらどうして、美里藍たちは真っ先に、こんな目立つところの火傷を治したのよ?」 ウカツもいいところじゃない、と口にしたところ、御厨さんは珍しく呆れたような顔になった。 「あの状況では実際問題、どこかの火傷を完全治癒しておかないと、手当てするにも榊さんのご体力がもたないだろう、と言うのが美里殿の診立てだったんです。それはご理解いただけますね?」 うっ☆ た、確かにあたしは御厨さん辺りとは違って、長期戦向けの体はしてないわよ。 「あ、あたしが聞きたいのは、どうして顔を治したの、ってことなんですけど?」 「榊さんが一番納得されると思ったからです」 「・・・・・・・・・・は?」 それってどういうイミ?? 「体力を消耗されているのが見るからに分かったので、一刻を争うと言うことになったんですが。あの時榊さんは、お考えがあって『火傷を治すな』と言われたのでしょう? ご本人に聞くのが手っ取り早かったんでしょうが、あの後榊さん意識をなくされたから、そんなわけにもいかなかったし。だから、 『今勝手に治しても、後で榊さんにさほど文句を言われない箇所』はどこかって、あの時居合わせた人間で話し合ったら、全員一致で 『顔!』 と言うことになりまして」 「・・・・・・・・・・・・・」 「蓬莱寺辺りなど、榊さんは何を差し置いてもまずは絶対に顔を庇うだろうから、一番最初に治るのが顔の火傷だったとしても、きっと誰も違和感を覚えないだろう、とまで・・・」 「分かったわ。もういいです。それ以上は説明しないで頂戴な」 あなたたち、あたしを何だと思っているんですか・・・☆ 妙な脱力感に囚われて、あたしはつい額に手をやらずにはいられない。 そりゃあねえ。 それはまあ確かに、もしあの時お夏がいるっていう緊急事態じゃなかったら、あたしは何を差し置いても自分の顔を庇ってましたよ。それは自信を持って言えます。 ・・・・・だけど。 御厨さん1人に言われたんならいざ知らず、あの場に居合わせた《龍閃組》の連中全員に指摘されたって、一体・・・☆ 本当のことを言われたとはいえ、何だか癪に障るのって別に、被害妄想でも何でもないわよねえ・・・。 「ま、まあ良いわ。皆があたしの顔を、宝物のように大切に考えてくれていた、って考えれば、腹は立ちませんしね」 あたしが苦し紛れにそう言うと、御厨さんの顔ったら、いつもあたしが見慣れてる『げんなり』としたのになったわ。 ふふ、いい気味かも。この唐変木はいかにも武士らしく「男は顔じゃない」って思ってる男だから、こういうやり取りには慣れていないのよねー。 この際だから、もう少しからかっちゃいましょv 「何嫌そうな顔してるんですか、御厨さん」 「い、いえ、別にそういうわけでは」 「いけませんよ。いつもしゃんとしてなさいな。いくら男は顔じゃないからって、身だしなみを怠る男がモテるワケでもありませんからねえ。お凛にそっぽ向かれても知りませんよ」 「お凛は人間を外見で推し量るような、安易な女じゃありません」 ───あら、そう来たか。 まあ確かにあのお凛だったら、男の顔より生き様で、伴侶を求めそうだわね。 でも御厨さん、あなた分かってるの? それって自分がお凛に惚れてるって、暗に認めているようにも解釈できるわよ。 ヌケヌケと惚気ているんだったら朴念仁にしては粋、ってところなんでしょうけど、きっと自分でも気づいてないわね。武士の情けで、気づかなかったことにしてあげましょ。 ああ、あたしってば何て部下思いの上司でしょ、なんて1人で陶酔していたあたしに、 「そう言えば」 と、御厨さんが今思い出した風に打ち明ける。 「外見云々で思い出しましたが、あのお夏ちゃんから伝言があったんでした」 え? あの子供があたしに? 何伝言したんだろ。・・・思い当たる節がないわねえ。 困惑するあたしを他所に、御厨さんは明らかに苦笑、と分かる表情で続けた。 「いえ、ほんのささやかなことなんですけどね。 『お夏を助けてくれて』『おとうを庇ってくれて』『そして、勇之介ちゃんときちんと話をしてくれて、ありがとう』って言ってましたよ。 それと・・・外見は全然だけど、どこか気弱そうなのに勇気があるところはそっくりだそうですよ。勇之介に、榊さんは。このご恩は決して忘れない、ってことです」 「べ、別に子供に恩義感じられても、あたしは痛くも痒くもありませんからね。そ、それに、き、気弱そうだってのは余計ですよ」 と、つい照れ隠しに言いはしたけれど。 お夏からのその伝言こそが、あたしにとって、この事件で一番の収穫だった。 ホント、今日は空が隅々まで晴れ渡ったいい天気ですこと。 今日みたいな時こそ、いつもの習慣を復活させないと嘘ってモンよね。 「御厨さん、どうせだからこれからちょっとあたしに付き合いなさいな」 「どこへお出かけになられるんです?」 「向島の長命寺。久しぶりにあそこの水ですっきりと顔、洗いたい気分なんですよ。きっと火傷の治りかけにもいいでしょうしねv」 「お供仕ります」 そう言って。 あたしと御厨さんはゆっくりと、向島目指して歩き出したのだった。 これで全て、一件落着〜!! ≪終≫ ※お・・・終わった・・・何とか「血風帖」発売日前に、発表できた〜!! でもこれが実は「外法帖」本編の「邪」Diskにて、榊さんがカケラも出てこなかった理由だ、ってこじつけたら、怒ります?? イヤ、大火傷をして家から出られない状態だったから、主人公たちの前に姿を出さなかった、とかねv それにしても。「血風帖」に榊サンは登場できるのでありましょうか? 御厨さんは登場する、ってどこかで聞いた覚え、あるんですけどねえ。
茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)前編 ※このシリーズもやっとこさ、最終話に差し掛かりました! 物語で言うところの「エピローグ」的な話であります。 手元のログを見たところ、このシリーズをレンタル日記で始めたのが2002年03月04日(月)とのこと。つまり、足かけ2年以上趣味の世界を、もたもたと書き進めていた計算になるんですねえ・・・(ーー;;;) ついでに言うならば、このシリーズを最後に更新したのは去年の暮れギリギリだったから、モロ半年更新滞らせていた計算になります。ラストは大まかな内容、大体決まっていたと言うのにねえ。何モタついていたんだか・・・。 まあでも、無事終了するめどがついたことだし、終わりよければ全て良しv ってことでvv(←自分で言うな☆) では、また後書きで失礼します。 ********************** それは、青く澄んだ空がとても高く感じられる日のこと。 コ・・・ン、コ・・・ン・・・。 木槌の打ち下ろされる音。 大勢の男たちが働きながら発する声。 そして、カンナをかけられたばかりの木材から漂ってくる、それは良い香り。 何かが新しく生み出される時・独特の空気って、心地よい感じがして結構好きなのよねえ・・・。 「ここにいらっしゃったんですか、榊さん」 街の一角で、大工たちが忙しく立ち働く姿を何とはなく眺めていたあたしに、無粋な声がかけられる。 もちろん、声の主は御厨さん。 「何か御用ですか? あんまり怪我人をこき使ってほしくはないんですけどね」 そう返すあたしの体は、あちこちお薬の匂いのする布が、巻かれたり張られたりしている。ことさら顔はと言えば、頬から顎の辺りにかけてピッチリと布で覆われていて。 御厨さんみたいな「体力馬鹿」とは違い、見るからに荒事には向かない人間がそんな格好をしてると、どうやら相当目立つみたい。さっきから大工たちの遠慮がちな視線が、チラチラと向けられて来てるから。 そんな大工たちの視線を気にしつつも、御厨さんは生真面目にも返してくる。 「いえ、用というわけでは・・・大体榊さん、今療養中でしょう」 「・・・さては母上が押しかけて来たのね? まーた盗賊改に文句言いに来たってトコロ?」 「ご心配されているんですよ。やっと起き上がれるようになったところなのに、あちこち出歩かれて、悪化させるんじゃないかって」 おやおや、母上ったら随分昔と態度が違いますこと。 やれ、もっと男らしくしなさいだの、剣術もまともに使えない武士など情けないだのと、煩かったくせに。 あたしが何とも言えない自嘲を浮かべる意味に気づいたんだろう。珍しく御厨さんは気の利いた言葉をかけてくる。 「文句を言えるのもお互いが元気であればこそだ、と分かられたからではありませんか? 大体、榊さんが担ぎこまれた時のあの方のご心配ようと言ったら、並大抵ではありませんでしたから」 そ、そんなこともあったかしら? ・・・まあそれが事実だったとしたら、あの時一番母上に噛み付かれたのは、他ならない御厨さんですからねえ。実感としてしみじみ言いたくなる気持ち、分からなくはないわよ。 ************************* あの時───あたしが疲労と、火傷の痛みに耐えかねてその場に崩れ落ちてから、実はまた一波乱あったのである。(とは言っても、別に怨霊がらみとか、《鬼道衆》がらみの騒動じゃないんだけど) とりあえず動かしても大丈夫なくらいにと、美里藍によってよくワケのワカラナイ応急措置を施されてから、あたしは自分の実家へと担ぎこまれた。 その時、たまたま屋敷内にいてあたしを出迎える格好となった母上は、と言えば、あたしのあまりに惨い火傷の具合に、その場で卒倒。 さすがに父上は元・盗賊改与力だからそんなことはなくて、ただちにお医師を呼ぼうとしたわ。ただ、一緒に着いて来た美里藍や涼浬とか言う女たちが、自分たちの方が事情を把握しているからこのまま治療を続行する、って主張したんだけど。 父上はともかく、その後何とか意識を取り戻した母上が、それに噛み付いたらしいのよねえ。曰く「町医者の風情が武士の手当てをしようなぞ、身をわきまえろ」って。 そのうち母上の焦りは、そのまま部下の御厨さんへと向けられて。 「お前たちがついていながら、茂保衛門にこのような火傷を負わせるとは何事ですか!」 って怒鳴りつけたらしい。あたしが覚えてる限りじゃ見たこともない、狼狽顔で。 御厨さんは御厨さんで、母上の言うことは至極ご尤も、ってただひたすら平伏するばかりだったんだけど。 自分の無能さを侘びて切腹しろ、とまで御厨さんに言い出したもんだから。 「部外者が勝手に口を挟むじゃねえっ! 火附盗賊改には火附盗賊改の事情があるのに、事情も知らねえヤツにとやかく言われる筋合いがどこにあるってんだっ!!」 って、あ・た・し・が、起き上がりざま母親を叱り飛ばした───って言うのが、その時やっぱりそう叱り飛ばそうとした父親から、聞いた話なのよね。 でもこのあたしが、よ? 自分でも信じられないわ。あの日気絶してからのことって全然覚えてないし、言うだけ言ったらまた気絶したみたいだから、何か情けないような気がするんだけどね。 とにかく、あたしのその言葉に父上も後押しされるところもあったようで。 未だ身分違いがどうのとゴネる母親を一顧だにせず、美里藍たちをそのまま主治医として屋敷に上げて手当てを続けさせた、って聞いてるわ。 まあそれには御厨さんが、美里藍がよく自分たちも世話になっている町医者で、腕前も信頼がおける、って口裏合わせてくれたお陰もあったらしいけどさ。 (与助が後で教えてくれたの。あのクソ真面目な親分が、あんな嘘を口にするなんて思わなかった、ってね) もしあのまま、事情を把握していない別のお医師に委ねていたら、おそらくあたしはこうして生きてなんていなかっただろう───それが、父上を筆頭としたあの場に居合わせた人間の意見だ。 もちろん御厨さんも、あたしが屋敷内で臥せっている間、ただぼんやりとしていたわけじゃない。 「小津屋で焼死した正体不明の怨霊が、当日小津屋を訪問しておきながら偶然助かった2人を妬んだ挙句、次々に襲った」 「挙句、世間全部を怨んで長屋を火の海にすべく出没したが、火附盗賊改が何とか撃退した」 って言う『事実』を世間に公表し、事後処理もその通りに進めたの。 ただ。 予想通りと言うか、まるでどこぞのよく出来たお芝居のごとく事件が解決したってンで、不審に思った人間がいなかったわけじゃない。町人よりそれはむしろ、町奉行をはじめとする武士側で。 でもそれはさすがに、与力であるあたしが怨霊に襲われて大火傷を負った、って事実がものを言ったわ。 以前与助が言ってたけど、どうやら世間一般からのあたしの評価って 「焼け死んでお顔に惨い火傷でも残ったりしたら、うらめしや〜〜って化けて出るかもしれない」 って感じのもンだったのよね。 だから、自慢の玉のお肌をしこたま傷つけられたって言うのに、あたしがそのことについては何も言及していないってことで、妙に納得したらしいわ。どうやら裏はなさそうだ、って。 ったく・・・喜べばいいのか、人を何だと思ってるのか、って怒ればいいのか・・・☆ ****************************** とは言え。 今回のこの事件、完璧に全て丸く収まった、とはいかなかったのよねえ。 「そう言えば榊さん。彦一とお夏ちゃんは、無事向こうに着いたらしいですよ。陰ながら送り届けた涼浬が、そう言っていましたから」 「・・・それはよかったわ。近頃あちこち物騒ですからね」 そもそもあたしが、こんな痛い思いをしてまでお芝居を打ったのも、全ては世間の目を彦一・お夏父子から逸らすためだったんだけど。 巻き込まれた格好の二人としては、だからってそれで全てを忘れて元通り、と言う気持ちにはなれなかったみたいなの。《龍閃組》の連中がアレコレと慰めていたらしいけど、人の心ってそう簡単に癒されるものでもないらしいわ。 それであの父子が採った選択が、全てを引き払い、江戸から生まれ故郷へと帰ること、だったの。とりあえず昔馴染みも何人か残っているはずだし、何とかなるだろう、ってことで。 出立の日、江戸の外れまで二人を送っていった《龍閃組》の心中たるや、そりゃあ複雑なものだったらしいわ。 けれど、彼らに深々と頭を下げた元・油売りの彦一は、きっぱり、こう言ったって話よ。 「亡くなっていった方々のためにも、勇坊のためにも、絶対にお夏を不幸にはしやしません」って。 ・・・今となっては、彼のその言葉を信じるしか、方法はないだろう。 華のお江戸は、あいかわらずアチコチで物騒な事件が起きている。 江戸中を震撼させた今回の事件も、解決してしまった今となっては人々にとって、そのうち忘れられるものの1つになってしまうに違いない。 特に、この事件を担当した火附盗賊改・自体が解体され。 悲惨な火付けの舞台となった小津屋ですら、こうして新しい建物へと生まれ変わってしまう、と来れば。 けど、あたしは絶対に忘れやしない。 儚く亡くなっていった、優しくも哀しい姉弟がいたことを。 彦一やお夏、《龍閃組》や《鬼道衆》の連中だって、そうだろう。 だから・・・きっとそれでいいんだと思う。 あたしが何となくしみじみとした気分になっていると、御厨さんが奇妙なことを言い出す。 「涼浬で思い出しましたが・・・彼女、そのうち時間が空いたら榊さんに折り入って聞きたいことがある、って言っていましたよ」 「は? 何それ」 「さあ・・・よく分からないのですが、骨董屋の爺さんと会ったことがあるのか、としきりに聞いておりました」 骨董屋の爺さん? ・・・ああ、例の《鬼道衆》とあたしが初めて会った時、鍛冶屋の二人の子供をやたら庇ってた、あの爺さんのことかしら? そういえば涼浬って、骨董屋もやってるって話だったわよね。ひょっとしてそっち方面の事情とか。 商売敵? それとも、実はかなり昔に生き別れた肉親、だったりして? とは言うものの、このご時世ではお互いいつ時間が空くか、分かったものじゃないけどね。あまり当てにしないでほしいものだわ。 〜茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)後編 へ続く〜
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