ちゃんちゃん☆のショート創作

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茂保衛門様 快刀乱麻!を読むに辺り注意する事
2002年03月29日(金)

この話は、PSゲーム「東京魔人學園 外法帖」をクリア直後に思いついたものであります。よって、後に発売された御厨惣州主演CDドラマ「妖鬼譚」とは、何の繋がりもありません。くれぐれもご注意下さい!!

・・・いえね、「妖鬼譚」を通信販売予約していたものだから、29日の今日届いちゃったんですよ。30日発売のところが。詳しい内容はまだ聴いてないので分からないんですが、どーもアオリ文句を見てると、設定その他が「茂保衛門様 快刀乱麻!」にダブっちゃってるもので・・・・(滝汗)。

まあ、火付け盗賊改め中心の話を書くとなったら、どーしてもこうなる事はある程度、予想はできたことなんですが。
・・・いいんだい☆ こーなったら誰もやらないであろう「フライング妖鬼譚」ってことにしてやるんだからっ☆
(↑ヤケ)


茂保衛門様 快刀乱麻!(5)
2002年03月26日(火)

※祝! 榊さんCDドラマ登場確実!!!!!!!!【喜】
 いやー、アニメイトでのっぺりが貰って来た機関誌に乗ってたCDドラマ情報見たら、ちゃんと坪井サンの名前が載ってるじゃああーりませんか! それもくわはらさん、石田彰さんの次の3番目! 快挙快挙v いくら何でも、犬神役で登場、ってことはないですよねえ?

 ・・・今回、序盤はちょびっと気色悪いです。お食事中の方は読まない方が良いかも・・・(汗)。
*************************

茂保衛門様 快刀乱麻!(5)


「八丁堀、あんたよくあんな上役に仕えてられるな」
 なんて、失礼極まりないことを言ってる《龍閃組》を牽制しておいて。
 あたしは笹屋の奥へ、奥方にいざなわれて進んだ。
 そのうちたどり着いたのは、どこからか漢方薬の匂いが漂って来る部屋。何故か襖の脇に、行灯が置かれているのが目に付く。
 ・・・部屋の中に置かないで、どうしてここに? 歩くのに邪魔じゃないのかしら?
「主人の・・・久兵衛でございます」
 奥方に言われるまでもなく、そこが笹屋の主・久兵衛が寝かされている部屋だとピンと来たあたしは、襖が開けられるのももどかしく足を踏み入れる。
「・・・・・!」
 久兵衛の姿を一目見るなり、思わず体が後ずさりかけるが、そこは男としての意地と虚勢、何とか踏みとどまった。
 だって・・・そこにいたのは、生きながら地獄を味わっている、黒焦げの半死人だったもの。

 胸が上下しているから、生きているのはわかる。
 けどその目は、開いてはいるもののうつろで、口は唇が焼け爛れて歯茎が見えてる始末。顔だけ見てると、まるで骸骨みたいになってたわ。多分喉も、まともに言葉を発する事が出来ないくらいに、ヤラれてるわね。
 おまけに、洗いざらした白い布に隠された火傷だらけの肌が、わずかに蠢いているのが見えた。
 ・・・蛆、よ。
 まだ生きているって言うのに、産み付けた蝿は彼を死体と判断したんでしょうね。あちらこちらにぽつぽつと、蛆が湧いているのが見えたわ。

 ───あたしはこの、久兵衛って男は事件帳簿でしか詳しくは知らないけど。
 一体彼には、こんな目に遭わされるどんな理由が、あったというんだろう。
 生きながら火に焼かれ、何とか生き長らえながらもその身は、蛆に巣食われつつあるなんて・・・これを地獄絵、と言わなくて何と例えればいいの?

 あたしは何とか平静を装おうとしたけど、お化粧をしているわけじゃないから顔色の悪さは、誤魔化しようがなかったんでしょうね。
「・・・ちょうど十日前の夜でございます。この部屋にいた主人が、あのような事になったのは」
  奥方はそう言って、自分が部屋を出る事であたしも廊下へ戻るよう促してくれた。
 これ幸いとあたしが廊下へ出るとすぐさま、だけど静かに襖が閉められる。
「助けを呼ぶ声がいたしましたので、私がこちらへ来てみれば、主人は炎に包まれておりました。慌てて火を叩き消しましたものの、その間焼かれ続けていたため、あのような・・・あのような姿に・・・」
 脅えたような奥方の言葉を心の中で反芻していたら、そう言えば部屋の畳や壁の一部に、焼け焦げの後があった、ってことを思い出したわ。
 にしたって、言われないと気が付かなかったなんて、正直言って失態よね。いくら虚勢を張っていても、心の動揺は押さえようがなかった、良い証拠だわ。・・・ったく、自分ながら不甲斐ないったらありゃしない。
 そう言えば・・・今また思い出したけど、部屋の中にはいくつか、水が入ったタライが置かれていたわね。久兵衛の体を拭いたり、火傷した肌を冷やしてやるためにしては、1かたまりにしてなかったのは変よ、変。
 まあ、そのうちこの件に関しても聞き出せるでしょうけど。

「こちらへ来た、って言いましたけど、その時あなたは別室にいたと言う事なのですね?」
「さようでございます」
「・・・夜なのに?」
 仮にも夫婦ともなれば、その・・・ちょっと下世話な言い方だけど『夜の営み』とやらがあるんじゃないかしら? それともこの2人、そっちの方はとっくに枯れてたってこと?
 何となくその辺りを匂わせて再度尋ねたら、奥方は恥ずかしいような、それでいてどこか寂しそうな表情を、頬の辺りに浮かべた。
「いえ、その・・・このところ久兵衛は夜、ひどくうなされていまして。その姿が我ながら情けないと、誰にも・・・妻であろうとも見られたくないと言いますので、私は別の部屋で休むようにしておりました」
 情けない、ね。
 同じ男として、その気持ちは分からなくないけどこの場合、眠る時彼が奥方を遠ざけた理由を、言葉通りに解釈しちゃうのは危険だわ。

「それで当然、すぐにお医者を呼んだのですね?」
 久兵衛の部屋のとなりで、奥方は質問に答えながらお茶を出してくれたけど、あたしは飲まなかった。喉は渇いてたものの、ゆっくりしてる暇はないですからね。差し出された座布団には、ありがたく腰を落とさせてもらったけど。
「はい、夜のうちに。先生には悪いとは思ったのですが。・・・先生の見立てでは、体の大多数が焼けてしまっている。喉笛もやられていて、話す事も出来ぬだろう。持ち直すかどうかは五分五分だ、と」
 あたしだったら、久兵衛のあの様子じゃ先は長くない、と見るけどね。ま、馬鹿正直に言って、ただでさえ憔悴しきってる奥方を絶望させる事はないか。
「火は・・・まあお屋敷自体は燃えていないから、即座に消しとめられたのね?」
「は、はい」
「その火は失火だったの? 久兵衛が自分で自分に火を付けた、と言う事はないの?」
 出鼻をくじかれてたけど、こうやって話してるうちにだんだん、火附盗賊改としての調子が出てきたわ。あたしの口調、何となくキツ目になってきてるものね。

 けど、奥方の方もそれは同じだったみたい。火附盗賊改に詰問されているにもかかわらず、さっきまでの脅えようとは打って変わって気丈に反論した。
「滅相もない! 部屋には行灯はございましたが、久兵衛はいつも眠る時は自分で消してしまって、念のため残った灯油も持って行け、と言うくらいに火元には気を付けておりました。今でも・・・夜部屋に明かりを点そうとしますと、怖がって嫌がるぐらいですから」
 久兵衛の部屋の中ではなく、廊下へ置かれてあった行灯をふと、思い出す。なるほど、アレはそういう意味だったのね。
「じゃあ失火はおろか、自分で火を付けようにも、部屋には火の気はなかったはず、と?」
「はい。火を消した後部屋を片づけましたが、火事の原因になりそうなものは何も・・・」
「ふむ・・・久兵衛殿は随分、火の元に神経質になってたみたいだけど、前からなの?」
「・・・いえ、そのようなことは。ですがそう言われれば・・・あの、一月前の、久兵衛がそちら(火附盗賊改方役宅)へ呼ばれてからのような覚えが」
「おろくの火事のことね? それでその他に、久兵衛殿が以前と様子が変わってしまったことはなかったの?」
「そう、でございますね・・・いつも持ち歩いていた巾着を、なくしたと言っておりました。銭をそれなりに入れていて、掏られたと言う話ですが」
「それも役宅へ呼ばれた後なの?」
「はい・・・あ、いえ、確か小津屋へ、借金返済日を延ばしてもらえるよう出かけた後ではないかと。でも、あの巾着はもう諦めた、金なんかどうでもいい、そう言って、新しい巾着も作りたがらなくて・・・」


 ───岸井屋の又之助の時と同じだわ。
 彼も様子がおかしくなったのは、役宅へ呼ばれた後だって話だし。いえ、ひょっとしたら正確には、おろくの火事の後から、と言う可能性だって考えられる。
 火事の原因になりそうなものを、何も持ち合せていなかった事といい、絶対久兵衛と又之助は、何らかの関連があったのよ。
 《龍閃組》の言うところの『炎の鬼』がこの2人を襲ったのは、決して無差別的なものじゃない。何らかの共通点と理由が、あったに違いないわ。

「・・・それであなた、久兵衛がこのような目に遭った事を火附盗賊改か、奉行所に申し出ようとは思わなかったわけですか?」
 話がいよいよ核心に迫りつつあり、つい荒っぽい口調になりそうなのを懸命に宥めながら、静かにあたしは尋ねた。
 すると、奥方はこちらからは視線を逸らし、再び脅えたような顔つきになる。
「あの・・・本当に、岸井屋の又之助さんは亡くなられたのでございますか?」
 ・・・変な事を聞いてくるわね。
 だけどまあ、彼女相手に隠すほどのものじゃないし。
「ええ。あたしがこの目で、死んだのを見届けましたよ」
「そう、ですか・・・」
 呟いた奥方は、痛ましそうにしながらもどこか、ホッとしたように肩から力を抜いている。

 ───そう言えば、彼女はどういうわけだか岸井屋の又之助のことを、知っているみたいだったわね。何で彼に脅えてるのかしら?
 あたしが思案に暮れていると、奥方は何度も・・・本当に何度も躊躇ったあとで、こう告白したのだ。
「私は、申し出ようと思ったんでございます。夫があのような目に遭い、しかも原因が分からないのでは、不安で仕方なくて。それに・・・先ほども言いましたが、久兵衛はああなる前に悲鳴をあげていて・・・『やめろ、悪かった、殺さないでくれ』と、誰かに許しを請うような言葉でしたから・・・その、久兵衛が助かった以上、また同じような事が起きるのではないか、と思っていましたもので・・・」

 誰かに許しを?
 ・・・これって新証言よね。でもこんな言葉を聞いていたんじゃ、確かに奥方もアレが失火や自殺とは、思わないでしょうよ。
 それと、さっきの久兵衛の部屋に点在していた水入りのタライの意味が、これでやっと分かったわよ。万が一再び炎の鬼に襲われそうになったら、あの水で対抗しようってハラなのね、奥方は。効き目があるかは、甚だ疑問だけど。

 あたしがあれこれと推理している間も、奥方の話は続く。
「だから商売敵か何かに呪われたのでは、そう思いまして。せめて奉行所には届けようと思っておりましたら、次の日の朝早く、岸井屋の又之助さんが訪ねて来られて・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」
 あたしは慌てて、奥方の言葉を遮る。
「・・・あなた久兵衛殿は夜に、それも京橋のこの家で襲われた、って言ってなかった? なのにどうして浅草の又之助が、訪ねてきたりするわけ!? 近所と言うならともかくも」
「それが・・・又之助さんは度々、こちらへ足を運ばれるようになっていたのでございます。あのおろくさんの火事を縁に折角知り合えたのだから、とおっしゃって。主人が大火傷を負った次の日も訪ねて来られるはずでしたから、夜が明けてから使いをやりました。本日主人は会う事が出来ない───そう言(こと)づてて」
「そしたら慌てて駆けつけてきたのね?」
「さようでございます」

 岸井屋の怪しい挙動、更に露見、ってところかしら。
「・・・それで? その様子だと又之助はあなたに、久兵衛殿とどうして会えないのか、と詰め寄ったんじゃないんですか?」
 聞きながらも、あたしには何となく見当がつき始めている。又之助が次にとった、愚かな選択の行方が。
 果たして、久兵衛の女房は脅えながらも頷いたのだ。
「は、はい、さようでございます。私は見たままをお話しして、これから奉行所へ届け出るつもりなのだ、と言ったのですが・・・。
『そんなことをしてどうなる! 呪い殺されかけたのだと言ったところで、奉行所が信じるわけがない。下手をすれば火付の罪で、久兵衛もあなたも死罪になるのがオチ。幸い奉行所も火附盗賊改も気づいていないようだから、このまま黙っている方がいい。儂も知らぬフリをしておいてやるから』
そう言われて・・・わ、私は死罪と聞いて恐ろしくて、又之助さんの指示通りにしようとっ・・・」
「あの馬鹿・・・っ!!」

 はしたなくもあたしは思わず、死んだ又之助を罵倒せずにはいられなかった。
 又之助は自分で自分の首を絞めたのだ───そう、直感したから。
 どんな事情があったかは知らないけど、又之助は久兵衛が炎の鬼とやらに襲われたことを隠そうとした。もしその時に知らせていてくれたら、まだ何らかの手だてを打てたかも知れないと言うのに。
 その挙げ句に、又之助自身も炎の鬼に襲撃され、ついには殺されてしまっただなんて!
 こういう自分本意な人間って、一番始末におえないのよ。久兵衛がこんな状態になった以上、手がかりはあの男だけだったって言うのに。死人に口なし、って良く言ったものだわっ。せめてあと何人が狙われているのか、それとももう誰も狙われていないのかぐらい、言い残して行ったらどうなのさっ!

 ───だけど、冷静なもう1人のあたしは、耳元でこうも告げていた。つまり又之助も久兵衛も、命を狙われていた事すら黙っていなければならないほど危険なヤマに、首を突っ込んでいたんだ、って。
 多分それは、事が明らかになれば死罪間違いなし、の大それたことだわ。そして又之助の方は半ば開き直っていたけど、久兵衛はある種の罪悪感にさいなまれていた。それこそ、夢でうなされるくらいに。だけど奥方に寝言を聞かれる事で、自分のしでかした事が露呈するのにも神経を尖らせていた、としたら、彼らの挙動不審の理由にも筋は通るわよね。
 火事の時に泥棒でも働いたのかしら。でも、少なくとも又之助の方は金回りが良くなったとは聞いてないし。岡場所には入れ揚げていたみたいだけど。
 混乱寸前の神経を宥めつつ、あたしはすっかり縮み上がっている笹屋の女房に話し掛ける。
「・・・大丈夫ですよ。死罪になんて、おそらくなりはしないでしょう。少なくともあなたはね。だからこの際、ちゃんと私たち火附盗賊改に協力いたしなさいな。きっと、悪いようにはいたしませんよ」
 久兵衛の方はあるいは、死罪を言い渡されるかも知れないけど───とのあたしの心中は、もちろん口には出さない。
 思ったとおり、女房は心底安堵した表情になる。そこに付け入るように、あたしは質問を続ける事にした。

「ところで、又之助がよくこちらへ来ていたと言う事ですけど、久兵衛殿の方は岸井屋へ出向いたりは、しなかったのですか?」
「いえ・・・そう言えばいつも、又之助さんばかり押しかけていたような気がいたします。それこそ毎日のように。もっとも主人があのようになってからは、黙っていろと言った日以来、来られていませんけど」
「元気な頃の久兵衛殿は彼を、歓迎してましたか?」
「・・・どちらかと言うと迷惑そうな、怖がっていたような風でしたか。でも押し切られている感じで、いつも渋々応じておりました」

 ふむ。どうやら主導権を握っていたのは、やはり又之助の方らしいわね。そして久兵衛は従わざるをえない立場だった、と。
 多分久兵衛は、又之助に絶えず見張られていたのよ。彼は又之助に比べて気弱だったみたいだし、良心にかられて火付盗賊改なり奉行所なりに駆け込まれてはコトだ、ってことで。
「他に、火事の後で親しくなった人間はいなかったのですか? 久兵衛殿もですが、又之助の方にも」
「存じておりませんが・・・又之助さんのように、言い方は悪いですが強引なぐらいによしみを結ぼうとした方は、いらっしゃらなかったと思います」
 うーん、それじゃあ、2人を襲った炎の鬼にまだ狙われている人間がいるかいないか、判断に迷うわね。

 それにしても・・・奥方の話だと、久兵衛が襲われたのがちょうど十日前。だけど次の又之助が殺されるまでには、九日も間が空いてる。これってどういう事なのかしら。
 久兵衛で失敗したから念には念を入れて、又之助殺害の時には時間をかけたのかもしれないけど、普通こういうことって日をおかずに一気に実行するものなのよ。少なくとも、あたしたちが普段相手にしていた盗賊たちはそうだわ。その方が狙う相手に警戒をさせる時間も、対抗する準備期間も与えずに済むから。
 ・・・あるいは久兵衛の時みたいに、あたしたちが知らないだけで他にも被害者がいた、ってことなの? 毎日1人ずつ殺めて行って、久兵衛から数えて又之助で9人目、とか。けど、連続殺人ならいくら何でも、噂にぐらい昇っていても不思議じゃないはずよねえ。
 こうなると、おろくの火事で火傷を負った連中に聞き込みをしてる、与助の報告を待った方が良いかも。何かめぼしい情報でも、手に入れてるかもしれないし。
 それに、小津屋から火が出る前に又之助と久兵衛に会ったって言う、例の行商の油売りにも話を聞きたいわね。そっちの方も、与助に任せようかしら。

 そう判断したあたしは、ゆっくりと立ち上がって笹屋をおいとまする事にした。
「それじゃお邪魔様。もし何かあったら、また知らせて頂戴な。それと今あたしに話したことは、誰にも口外しないこと。その方があなたのためでもありますから。・・・よろしいですね? 笹屋さん」
「あ、あの・・・」
 笹屋の女房は脅えながら、縋るような目であたしを見上げてくる。まあ、彼女が不安であることには変わりはないからねえ・・・。
 仕方がないから、あたしは振り向きざま情けをかけてあげることにする。
「・・・安心なさいな。あたしの手のものに、ここを見張らせることにします。いざと言う時に炎の鬼とやらに対抗できるように、密かに、ね」
 『密かに』、そう付け加えたのは、町の皆には気づかれないようにしてあげる、と暗に言っているのであり。
 それはひいては、奥方が今回の件を黙っていたことを不問に付すことをも、意味してるのよ。分かる?
「あ・・・ありがとうございます・・・・・!」
 察しがいい彼女は、畳の間にこすり付けるようにしてあたしに頭を下げるのだった。

******************

 しかし・・・。
 笹屋の廊下を、玄関目指してゆっくり歩きながら、あたしは頭が痛かった。
 いえね、別に久兵衛や又之助のことじゃないの。玄関で御厨さんの足止めを食らった《龍閃組》が、ちゃんと納得していてくれるか、ってことをね・・・。
 彼らと少しは仲が良い御厨さんに任せたから、一発即発って状態じゃあないでしょうよ。ただあたし、彼らのことを素人呼ばわりしちゃったからなあ。馬鹿にされたと思った蓬莱寺辺りに、敵愾心むき出しでやいのやいのと怒鳴り付けられると思うと、ドッと疲れを感じちゃうのよねえ。

 ───断っておくけど、あたしは別に彼らに好かれようだなんて考えてない。火附盗賊改なんて言うものは、皆に恐れられる存在であるべきだから。それが奉行所とは違うところなの。そうすることで、犯罪を抑制することもできるし。
 それに、馴れ合いの延長上で依存し合ってては、良い関係になれると思わないわ。今みたいに喧々囂々と、言いたいことを言い合える方が、広い意味で言えば建設的じゃない。(上役《あたし》と部下《御厨さんや与助》がそうだって言う意味じゃないわよ、火附盗賊改と《龍閃組》の関係を言ってるの)
 だから、これが今じゃないんなら蓬莱寺が噛み付くことぐらい聞き流してやるんだけど・・・なまじこのところ食欲がない上に、さっきの久兵衛の姿見た衝撃で体力、使い切っちゃったのよ。役宅に帰るまで、気力もつかしら?

 それでも、絶対弱みは見せるもんですか! なーんて気合を入れ直して玄関に戻ってきたんだけど・・・。
「あ、榊さん帰って来たよ」
 ───桜井小鈴の言葉に、一斉にこちらを振り返った《龍閃組》の様子が、何だかおかしいことにあたしは気づいたのだった。

《続》

***********************
※今回、ほとんど榊さんの独壇場ですね・・・もっと話を進めるつもりでいたんだけどなあ。まあ最初と最後に《龍閃組》が出せただけでも良し、としておかねば。



レイアウト変更のお知らせ(i―mode閲覧者は読まなくてもOK)
2002年03月25日(月)

ものすごーく沢山の文章を書くため、今までのレイアウトではかなり見づらいと思われますので、変更いたします。ご了承下さいませ。
1ページ辺りに表示する日数の方も、少なめに設定いたしました。これで少しは見やすくなるかなあ?


茂保衛門様 快刀乱麻!(4)の解説
2002年03月22日(金)

※文中で出てきた「その髪型・・・町奉行ではなくて、火附盗賊改ですね?」について。
 歴史ものに詳しい人は知っていると思いますが、実は町奉行所と火付盗賊改は服装は似たようなもので、髪型が違っていたのだそうです。町奉行所の与力と同心は、いわゆる「八丁堀風」の髪形をしていたのだとか。(ちゃんちゃん☆ も最近知った事実だったりする☆)
 でも「涼浬ちゃん、第拾弐話で榊さんたちが龍泉寺に駆けつけた時にでも、彼らと顔を合わせていなかったのかい?」というツッコミはお許し下さいませ。仮にも本家本元の公儀隠密の彼女が、あんな敵と闘うことになってはあまりに酷と、主人公がわざと戦闘から外していたのだ、とでも思ってください。うっ・・・ものすごく苦しいイイワケ・・・☆



茂保衛門様 快刀乱麻!(4)外法帖
2002年03月21日(木)

※外法帖CDドラマ発売まで、いよいよ残り10日切りましたね。火附盗賊改が中心の話、とのことですが、どんな物語になるのでありましょうか? 多分榊さんではなく、御厨さんがメインなんだろうなあ。複雑な気分・・・御厨さんも好きなキャラなだけに。ま、それが分かっているからこそ、こちらは榊さんメインで好き勝手なSS、書く事が出来るんですけどね(苦笑)。
で、こっちのSSではやっと《龍閃組》の登場であります。主人公は話がややこしくなるため登場しませんが、メインの4人組ともう1人、ちゃんちゃん☆ も当初は思いもしなかった女性が出てくれます。事件の性質上、彼女以上の適任はいないんですけどね、考えてみれば(汗)。でわっ!

***********************

茂保衛門様 快刀乱麻!(4)外法帖


 身支度を整えたあたしは、御厨さんと一緒に京橋へと足を運ぶ事にした。さっき与助に言った、木綿問屋の笹屋って店へ行くためにね。どう考えてもこの事件、笹屋も無関係とはとても思えなかったから。
 え? だからどうして笹屋が、岸井屋の主・焼死に関連あるのか、ですって?
 ・・・そう言えばまだ、説明してなかったわね。じゃあ、簡単で良かったら教えておいてあげるわ。

*********************

 1月前のおろくの付け火、のことなんだけど、あたし言ったわよね。
「この小津屋って商人は店を大きくするためにって、裏では結構あくどい事をしてたって有名だった。主を怨んでたり、殺したいと思ってた人間は山ほどいた」って。
 ・・・まあ先に結論を言っちゃえば、その容疑者たちの中に岸井屋の主・又之助と、今訪ねようとしている笹屋の主・久兵衛(くへい)がいた───ただ、それだけのことなの。
 ただ彼ら2人は当初あたしたちの間では、他の容疑者とは別格に扱われてた。何故かって? こともあろうに2人とも、火事が起きた時刻前にたまたま小津屋へ訪れてて、顔を合わせてたからよ。

 何でも彼らは揃って、店はそこそこに繁盛させてはいるものの、小津屋に相当な借金があったって話。その返済日が間近に迫り、どうもまだ返す事が出来る目星がつかないからと事件当日、返済を待ってもらおうと別々に頼みに来たんだけど、けんもほろろに突っぱねられたらしいわ。
「金を返さない人間は、うちの敷居をまたぐ資格などないわ!」って。
 おまけにその時、玄関口で小津屋の主が、
「今度会う時は、そちらの店の看板を戴きに参上する時だろうなあ」
・・・なんて、よせばいいのにわざわざ怨みを売りつけるような嘲笑混じりの言葉を浴びせ掛けたのを、近所の人間が何人も目撃している。
 火の気が上がったのは、その直後の事だった───。

 ───こうなると動機の点からも、岸井屋と笹屋を疑わない方が不自然よね。火事で証文が焼けてしまえば、小津屋の借金は返さずに済むんだもの。当然、店の看板を取られる心配もないし、殺してやりたいって怨みもかなりあるはずだし、ってことで。
 おまけに2人とも、玄関口で追い出されたその後で、何故か店の裏口から出て来たのも目撃されてたのよね。裏口から入るところはあいにく、見られてなかったらしいけど。
 で、泣く子も黙る火附盗賊改方役宅へ呼ばれた2人は───どちらかと言うと多弁だったのは、今回死んだ岸井屋の方だったけど───揃って主張したの。
「確かに自分たちは追い出された後、小津屋にとって返した。だけどそれは再度返済日の延長を申し入れるためで、裏口から入ったせいか結局会えなくて、諦めて戻って来た」ってね。

 でもさあ・・・「結局会えなくて」って話が、どこまで信じられると思う? 本当は小津屋の主とばったり出会って、前以上に罵られた挙げ句にカッ! となって火を付けた、ってこともありうるわけじゃない。それを隠したくて「会えなかった」って口走っちゃったとしても、人間の心理としてはよくあることよね。
 こうなったら、2人を拷問して白状させるしかない、って担当者が考えてたら、又之助が思い出したようにこう、言ったらしいの。
「そう言えば裏口から引き返してきた時、油売りの行商に会いました。赤い、子供の手作りみたいな不器用な繕いのお守り袋を下げている男でしたが、彼に聞いて下されば分かります。私どもが出て来た時はまだ、小津屋は火など付いていなかったはずだということを」
ってね。
 ・・・もっとも、そうなる前におろくが火付を白状したから、本格的な取り調べは行なわなかったらしいけど。

 笹屋も岸井屋も、さぞや胸をなで下ろしたでしょうよ。おろくが罪状を認めるのがもう少し遅かったら、「白状しない限り生きて出られない」と噂の拷問を、受ける羽目になったんだから。
 もっとも、それから1月もたたないうちに原因不明の焼死をとげるとは、思いもよらなかったでしょうけど・・・。

 ───分かったでしょ? 笹屋の主が、岸井屋の主の死に関連があるかもしれないって理由が、さ。
 さすがに笹屋が殺した、とまでは言わないわよ。だけど、岸井屋が今回あんな目に遭った理由について、心当たりくらいあってもおかしくない、って思わない?
 何せ2人には共通点があるんだもの。借金で店を取られそうになっていて小津屋を怨んでいた事、小津屋から火が出る直前に「揃って」店を後にしている事、とりあえず火傷は負わずに済んだ事───なんて、一見重箱の隅を突っつくみたいなものではあるけれど。
 万が一にも、岸井屋と同じような怨みとか買っていたとしたら・・・今度狙われるのは笹屋の方、ってことになり兼ねないわ。そしてその恨みを晴らす場所が人けのない屋外じゃ無く、燃えるものがいっぱいある家の中だったとしたら・・・!
 罪もない町人達が、また巻き込まれて犠牲になったんじゃ、たまったものじゃないわよ。

*********************

「・・・何だか平和よね。この間龍泉寺で、あんな物騒な事があった後とは思えないくらいに」
 あたしはゆっくりと歩きながら、一歩下がってついて来る御厨さんにそう話し掛ける。
 良い天気だわ〜。空がどこまでも青いこと。仕事がなかったら、のんびりと散歩でもしたい気分よ。
「そうですね。最近は大宇宙党も、鬼道衆とやらも目立った動きは見せていませんし」
 そう頷きながらも、御厨さんの顔色は冴えない。
 ・・・ま、そうでしょうね。いわゆる嵐の前の静けさなんじゃないかって、あたしだって思っちゃうもの。あの胡散臭い黒蠅翁なんて奴が、思わせぶりな言葉を残して消えたりしなかったら、あたしだってもう少しは楽天的な考え、出来たと思うんだけど。

 あたしたちの複雑な思いとは裏腹に、町人たちは今日も元気に動き回ってる。
 今もちょうど目の前を、天秤棒を担いだ魚の行商人が通り過ぎて行ったわ。
 その姿を何となく見送っていたあたしだけど、ふと思い出す事があって御厨さんに聞いてみることにした。
「・・・ねえ、御厨さん。そう言えば結局、岸井屋たちが言っていた油売りには話、聞く事が出来たんだったかしら? 記録には残ってなかったみたいだけど」
「それなんですが・・・」
 荷物を積んだ荷車をよけながら、律義な御厨さんは渋い顔で応えてくれる。
「あの火事の後、その油売りは浅草に姿を見せなくなったそうなんです。確かに火事の前までは、よく灯油を売りに来ていたみたいなのですが」

 ちらちらと周囲をうかがいながら、人が近寄ってこないのを見計らって御厨さんは話を続けた。
「・・・聞くところによると、その油売りは小津屋の近所の長屋の連中に、灯油用の魚油を売りに来てたと言う話です。馴染み客が多いと言う事で、毎日のようにあの近辺に売りに来てたとも聞いています。もちろん、火事当日も」
「なのに、今はぱったりと来なくなった・・・?」
「ええ。・・・もっともその油売りは、小津屋から火が出た時に結構近くにいたそうで、真っ先に油を抱えて逃げたらしいですが」
「ま、それが賢明でしょうね」

 だって売ってた油に火が付いたら、油売りが焼死するくらいじゃ済まないわ。火事の被害がもっと拡大した可能性もありうるし。
「多分、その時の恐怖のせいで、油売りを再開できずにいるんじゃないか、というのが近所の者のもっぱらの噂で。現に、あれから家で寝込んでいるらしいですから」
「根性ないわねえ、その油売りも・・・馴染み客取られても、知らないから」
 どうせだからその行商人に、岸井屋たちの火事前の様子とか聞いておきたかったんだけど。小津屋とは関係ない別の事件が、あったかもしれないし。
 でも───寝込んでいるって言うんじゃ、そうもいかないわね。今回は諦めましょ。

***********************

 そうこうするうちに、あたしたちはやっと目的地の京橋・木綿問屋の笹屋へ辿りついたわ。
「?」
 ───だけど到着早々、何だか不穏な空気を感じたのよねえ。だって評判によるとここの店、小津屋に取られそうになるくらいには繁盛してる、って話じゃない。
 なのに今、店先には誰もいないのよ。繁盛してるって言うんなら、御用聞きの1人くらい、配置しておくもんじゃない? おまけに玄関先に無造作に脱がれている草鞋、全然揃えてないと来てる。これじゃ見た目にも悪いわ。
 この店、本当に繁盛しているんでしょうね? 何だか想像していたのとは違って、荒んでいるような気がするんだけど。
「・・・声をかけてみますか?」
「そうね。まさか黙って上がるわけにも行かないでしょう」
 御厨さんがあたしに伺いを立ててから、奥へ向かって声を発しようとしたまさに、その時。

「お帰り下さい! 帰って!!」
 せっぱ詰まった女の声で、御厨さんてば思い切り出鼻をくじかれちゃったわ。あらら〜、可哀想☆
 でも・・・変ね。声はすれども姿は見えず。少なくともここからじゃ、声の主の姿は伺えないわ。つまり家の奥からも、あたしたちは見えないはず。
 なのにどうして向こうは、あたしたちが来た事を知ったのかしら?

「ちょっと待てよ。どうしてそんなに目くじら立てるんだよ?」
「おちつけ蓬莱寺。そう喧嘩腰になる事もないだろう」

 ・・・え?
 今の男たちの声、さっきの女の声と違って聞き覚えがあるわよ。ひょっとして「帰って」って、こいつらに対して言ったってこと?
 でも、何で・・・。

「ねえ、怖がってないでボクたちに任せてよ。炎の鬼なんて、きっとやっつけてあげるからさ」
「そ、そんなもの知りません。ウチの人が火傷をしたのは、単なる事故です! さっさと帰って下さいな!」
「お願いですから聞いて下さい。もし本当に笹屋さんに火傷を負わせたのが炎の鬼なら、また狙われる危険が・・・」
「違うと言ってるでしょう!?」

 随分感情的な声に急き立てられるようにして、玄関先に姿を現したのは5人の男女。
 ああ・・・やっぱり、声に聞き覚えがあると思ったら───運の悪い事に、あたしたちには彼らとは面識があったりするのよね・・・☆
 そして向こうも、よもやあたしたちがいるとは思いもよらなかったらしく、ギョッと目を剥いてたわ。

「げえっ!? 御厨(はっちょうぼり)はともかく、何でホ・・・」
「茂保衛門よ、もほえもんっ! 何度言ったら覚えるのっ!!」
「御厨殿・・・榊殿まで、どうしてここに・・・」
「お前たちこそ、どうしてここへ来ているんだ?」
 あたしの名前を間違って覚えてる、失礼千万な風来坊の剣士は、確か蓬莱寺京梧。そして一応は礼儀を知ってる風の、図体が妙にデカい僧侶の方は、醍醐雄慶・・・だったわよね?
 で、さっきからここの家の女───きっと笹屋の女房ね───に食い下がってる女2人も当然、あたしたちとは顔見知り。
 髪が短くて女らしくない言葉づかいの方が、弓道道場の娘・桜井小鈴。そして髪が長くて、(くやしいけど)清楚な美人の方は確か・・・医者の手伝いをしてるって言う、美里藍・・・よね? 薬の入っていそうな包みを持っているから、きっと治療か何かのためにここを訪れていた、ってところかしら。

 ───実は彼らこそが、与助の言う《龍閃組》。何とも騒々しい公儀隠密なのよ。あたしもつい最近まで、彼らの正体は知らなかったんだけどさ。龍泉寺なんて怪しげなところを根城にしてる、いかがわしい連中としか思ってなかったから。
 しかしまさか、こういうところで鉢合わせしちゃうなんて、ね。

 ・・・って、あら? よく見ると、1人知らない女がいるじゃない。
 蓬莱寺たちと一緒にいるって事は、やっぱり彼女も《龍閃組》なんでしょうけど・・・何だかやけに、存在感薄いわね。
 桜井に負けず劣らず髪が短くて、露出度が高い着物を身に付けてる彼女は、美人なのに何だか冷たい感じの、人間味を感じさせない印象を受けた。
 その目が不意にこちらへと向けられ───ひた、と固定される。
「あなたがたのその髪型・・・町奉行ではなくて、火附盗賊改ですね? こちらにはどのような用向きで来られたのです?」

 ・・・ちょっと待ちなさいよ。
 初めて会ったって言うのに、開口一番、名乗りもしないでいきなり詰問!? どういう態度よ、それ!
 それに、聞いてるのはあたしたちの方なの。何で逆に聞かれなきゃいけないのよ!

「あんたたちに教える義務はないわ。特に、自分から名乗りもしない女に対しては、ね・・・」
 与力の貫禄を見せ付けてやったのに、女は全然ひるむ気配を見せない。・・・どころか、思い切り睨んで来るなんて、ホントいい根性してるわね。
 何者なのかしら、一体。
「ちょ、ちょっと待ってよ涼浬サン、火附盗賊改がそう簡単に、自分たちの仕事の内容を教えられるはず、ないじゃないかあ」
 険悪な雰囲気を察したんでしょうね、慌てて桜井があたしたちの間に割って入って来たわ。
 ・・・ふん、ただ元気が取り柄のおてんば娘かと思ってたけど、結構気遣いできるじゃない。少しだけ、見直してあげる。
 もっとも『涼浬』の方は今一つ納得してなかったみたいだけど、蓬莱寺が目で叱り付けるようにし、桜井には泣き付かれるような格好になったせいか、渋々・・・本当に渋々って感じで、自己紹介をしたわ。

「・・・失礼いたしました。私は王子で骨董品店を営んでおります、涼浬と申します。以後、お見知りおきを」
 言葉だけ聞いてると、それなりに丁寧なんだけど・・・いかんせん、目が全然笑ってないのよ、この女。
 それに、こんな不愛想な女が骨董品店の主ですって? ちゃんとやっていけてるのかしら。まあ、こいつの店が潰れようとあたしの知ったこっちゃないけどさ。
「俺は火附盗賊改方同心、御厨惣州と言う。そしてこちらは俺の上役で与力の、榊茂保衛門さんだ」
 あたしがむっつりと黙っているので、代わりに御厨さんが涼浬とやらに紹介してくれたわ。気が利くわよねえ、ホントいい部下を持ったわv

 ところが、御厨さんの言葉に息を呑んだ人物が、ここにはいた。
 他ならぬ、笹屋の女房よ。まあ、当然って言えば当然よね。町奉行所ならともかくも、あたしたち火附盗賊改が出張ってくるなんて、めったにないことですもの。一体何の用だ、って身構えてるんでしょうよ。
 ・・・そう、思ったんだけどね・・・。

「ひ、火附盗賊改・・・・!?」

 ───その声には、予想以上の脅えの色があった。そう、隠している事を嗅ぎ付けられた、って言う者独特の、恐怖の表情が。
 そう言えばさっき、桜井と美里が彼女に対して、変な事言ってなかったかしら?

『炎の鬼なんて、きっとやっつけてあげるから』
『笹屋さんに火傷を負わせたのが炎の鬼なら、また狙われる危険が・・・』

 ───まさか・・・!?

「笹屋とやら」
 御厨さんが動く前に、あたしは笹屋の女房に詰め寄ってきつく言い放つ。
「・・・よもやあなた、失火があった事実を隠しているのではないでしょうね?」
 その途端。
 彼女の顔からは、血という血が一気に失せてしまったかのように見えた。
「い、いえ、そのような・・・」
「ですけど、さきほど気になる事を聞きましたよ。ウチの人が火傷をした、と」
「そ、それは・・・」
「実は私たちは、その久兵衛殿に会いに来たのですよ。もちろん仕事で。もしあなたに後ろ暗い事がないのなら・・・会わせてもらえますよね?」
「・・・・・」
 青褪め、ガタガタとふるえ出した女房だけに聞こえるように、あたしは小声で言ってやったわ。(唇の動きで内容を≪龍閃組≫に読まれないよう、念のため口元は手で隠してね)

「・・・岸井屋の又之助もね、炎の鬼に殺されたんですよ。あたしの目の前で」
「ひぃっ!?」

 効果は想像以上だったわ。笹屋の女房は半ば、腰を抜かしてしまったもの。
 浅草と京橋で少し離れていることもあって、商売柄名前はお互いに知ってはいたものの、岸井屋・又之介と笹屋・久兵衛が会ったのは火事の日が初めてだ、と聞いてたわ。でも・・・。
 この様子だと十中八九、彼女「も」又之助のことを知ってるわっ!
 ───何があったのか分からない、って様子の《龍閃組》を尻目に、あたしは普通の声に戻って話を続ける事にした。
「もし久兵衛殿が火傷を負った理由が、失火ではない別の理由があると言うのなら、ことと次第によっては死罪にならなくて済むと思うのですけどね。・・・とにもかくにも、話は奥で伺うといたしますか。会わせてもらいますよ、久兵衛殿に」

 まるで魂をどこかへ持ってかれてしまったような表情の女房は、あたしの言葉にふらり、と立ち上がった。そして、ゆっくりと家の奥へと歩いて行く。
 ついて来て下さい、ってことなんでしょうね、きっと。
 あたしは草鞋を脱いで玄関に上がると、硬い表情の御厨さんへ肩越しに申し渡した。
「御厨さん、悪いですけれどそこで、彼らを見張っていて下さいな。・・・素人に火附盗賊改のお仕事に割り込んでこられては、正直言って迷惑ですからね」

 「迷惑」と口にした時、心の中では「危険」とも言い添える。
 いざって時に将軍さまの手足となって働いてもらわなくちゃならない彼らに、こんな小規模な事件で身辺を煩わせるわけにはいかないわ。万が一にも怪我でもされたらコトだもの。
 ───そんなあたしの気持ちが分かってくれたんでしょうね。御厨さんは珍しく眉をひそめることはなく、指示に従うべく実に気持ちのいい返事をしてくれた。
「分かりました、榊さん」
「な・・・何だとっ! 俺たちをしろ・・・」
「だから少しは落ち着かんか、蓬莱寺」

 素人呼ばわりされ、今にも食って掛かってきそうな蓬莱寺だったけど、背後から醍醐に羽交い締めにされ、御厨さんにも止められてしまう。
 とりあえず女性陣は、追ってくる様子はない。
 それを確かめてから、あたしはゆっくりと、笹屋の女房の後に続いて店の奥へと入って行くのだった・・・。

《続く》




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