この話でちゃんちゃん☆がもう1つ書きたかったのはどうも、第4部が終わってからの杜王町の日常だったらしいです。だから事件性はまるっきりない話になってしまって、ちょっとつまらないかも。 本当は康一のことを、他のキャラがどんな風に見ているかを書きたかったはずなのになあ・・・難しいです。 ****************** 次の日の朝、僕はいつもの通りに学校への道を急いでいた。とくに急ぐでもなく、ゆっくりとしたペースで。 「行って来まーす」 ・・・聞き覚えのある声が、思わず僕の足を止める。 声のした方向を振り向いた僕の目が、ちょうど角を曲がって来た、ランドセル姿の小学生のソレと、ぶつかって・・・。 「・・・早人くん・・・」 「・・・おはようございます」 少しこわばった表情で僕に頭を下げたのは、川尻早人くんだった。 2年前、彼はいつの間にか父親・川尻浩作を失っていた。 事故ではない。あの吉良吉影が僕たちから身を隠すためには、別人になる必要があった。川尻氏はその標的にされてしまい、この世からこなごなに吹き飛ばされてしまったんだ。 でも、いくら外見を繕っても他人は他人。早人くんは父親がいつの間にか違う人間になっていることに気付き、母親を守るために闘おうとした。 彼にはスタンド能力がない。だけど、頭脳と機転で必死に戦って僕らに吉良の存在を知らせ、父親の仇を倒す事に成功した。 でも・・・父親は帰って来るわけではなかった。 母親が夕食を作って待ちわびている夫は、吉良が化けていたもの。本物の夫ではない。だけど早人くんにはその事実を伝える事は出来ない。 早人くんは、父親を2度も失うと言う辛い経験をしながらも、誰にも心中を話す事が出来ずにいるんだ。 そう、僕ら以外には。 だけど・・・結果的とは言え川尻氏が亡くなったのは、僕らが吉良を追い詰めたせいとも言える。つまり早人くんにしてみれば、間接的な親の仇と言えなくもないのだ。 だから僕は、彼への態度を決めかねている。 「・・・母さん、働きに出始めたんだよ」 声をかけあぐねている僕を見かねてか、唐突に早人くんは話し出した。 「貯金とかはあって、しばらくは生活していくのには不自由しないんだけど・・・もし父さんが帰ってきた時に恥ずかしくないようにって、働くことにしたんだって」 「え・・・」 「僕もその方がいいと思ってるんだ。1人部屋の中で閉じこもって泣いている母さんを見るよりは」 「君は・・・寂しくないの?」 思わず僕はそう言ってしまっていた。 返事が返ってくるとは思っていなかったのか、早人くんは驚いた顔をしたけど・・・しばらくするとまた話し始めた。子供らしく、寂しさをあらわにして。 「・・・寂しくないわけないよ。学校から帰ってきたらいつも迎えてくれた母さんが、いないんだもん。だけど・・・ちょっとホッとしたのもホントなんだ」 「え?」 「1日中母さんといるとね、僕はつい本当の事を話してしまいたくなるんだ。もう父さんはいない、殺されたんだよって。・・・言って信じてもらえるわけでもないのにね・・・」 それはそうだろう。スタンドが見えないのに事件の一連の事情を把握するのは、まず不可能だ。実際にスタンドに教われる事を体験した、この早人くん以外は。 「信じてもらえないけど、話してしまいたい。けど、話したら母さんが悲しむ・・・。何度も何度も考えて、胸が苦しくなって、頭がおかしくなりそうで・・・。だから、母さんが働きに出るって聞いた時、ホッとしてしまったんだ。変だよね? そんなこと。母さんの事、どんなことをしても守るって僕、あの時決めたのに。母さんを働かせてホッとしてるなんて、ひどい話だよね?」 「そんなことないよ!」 僕は思わず叫んでいた。そのまま迷わず続ける。 「家族を亡くした人間が辛いのは当たり前の事だよ。君のお母さんもきっと、お父さんがいない寂しさを紛らわせたいって気持ちも、あったんじゃないかな? それに・・・君のためにもそうしたのかもしれないよ?」 「僕の・・・ため?」 不安そうな早人くんの目に見つめられ、僕は一瞬たじろいたけど。でも言ったんだ。 「母親ってね、見てないようで案外子供の事をよく見てるもんなんだって。だから早人くんのお母さんも、君のことが見えていたんじゃないのかな? 理由は分からないけどお母さんの顔を、辛そうに見ている君の事を。・・・だから、君のためにも外に出る事を決心したんじゃないかな?1人の母親として、ね」 半分はすがりつくような思い付きだった。早人くんを何とか慰めてあげたくて。 だけど口に出して話しているうちに、僕は案外自分が真実をついているんじゃないかって、思い始めたんだ。 子供が悲しそうな顔をしているのを見たい母親なんて、いないと思うから・・・。 早人くんは、しばらく呆然として黙っていた。 だけどそのうちに、ぽろぽろと涙を流し始めたんだ。 ちょっとマズかったかな? と思ってオロオロしてたら、早人くんは涙ににじんだ声で僕にこう言ったんだ。 「ありがと・・・僕、そういう言葉を言って欲しかったみたいだ・・・誰にでもいいから・・・」 その言葉に、僕ははっとした。 早人くんはずっと独りぼっちだったんだ。誰かに欲しい言葉を言ってもらいたくて、だけど誰にもすがる事が出来ない、可愛そうな子供だったんだ。そしてそんな心を抱えたまま、ずっと苦しんできたんだ・・・。 「あの、さ、今度一緒に遊びに行かない?」 ひとしきり泣いて落ち着くのを見計らって、僕は早人くんにそう言った。 「え?」 「僕だけじゃなくてさ、仗助くんとか億泰くんも一緒に。きっと気晴らしになると思うよ。言いたいことがあっても、僕らになら話しても大丈夫だし、さ」 僕の言いたいことが分かってきたのだろう。早人くんの目に明るい光が輝き出す。 「うん! 行きたい!」 そう答えた早人くんは、なんの曇りもない笑顔を僕に向けたのだった。 「へー、結構カッコイイこというじゃねーか、康一」 早人くんが走り去るのを手を振って見送っていた僕に、後ろから仗助くんが声をかけて来た。 「仗助くん!? み、見てたの? やだなあ、声かけてくれたらよかったのに」 「いやー、別に盗み聞きする気はなかったんだけどよぉ・・・」 仗助くんは少しバツの悪い顔をして、ごにょごにょと口の中で何かを言っていたけど。 「・・・・良かったじゃねーか」 結果的には、そうとだけ言ってくれた。 (続)
生徒指導室での話が終わった頃、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。学校に残っている生徒も、もうわずかである。 「もうこんな時間か・・・」 急いで下校すべく、流川や彩子と一緒に廊下を歩いていた二階堂だったが、ふと思いついたように2人を振り返る。 「・・・そう言えば流川。彩子くんの家って、君の帰宅コースの途中なんじゃなかったっけ?良かったら彼女の事、送って行ってあげてくれないか?」 「え」 どうしようか、と考えたのは一瞬だけ。 「あ、あの、キャプテンいいですよ。確か流川は自転車通学でしょ?2人乗りするのもどうかと思うし、自転車引かせて一緒に、って言うのももっと悪いし・・・」 ───彩子が慌てて断ろうとしたのを見て、逆に決心が固まる。 「別にいーけど」 「そうか。助かるよ。やっぱり夜に女の子を1人で帰す、って良くないからさ」 「そんな、大げさですよ」 「こう言う時の好意は、受け取っておくもんだよ。な?頼んだよ、流川」 何やら思わせぶりに、二階堂がこちらへ目配せをした事も、引き受けた理由の1つではあったが。 とりあえず明るい玄関前で彩子には待っていてもらい、いったん流川は自転車を取りに自転車置き場へと向かっていた。くるくると指先で鍵を弄び、ボーッと何も考えないまま。 が、自転車を引いて彩子のところへ戻ろうとした時、何やら騒がしい気配に眉をひそめる。 「どうして塚本さんをフったりしたんですか!?」 そんな、怒りにも満ちた弾劾の声を耳にした瞬間、流川は走り出していた。 状況は予想通りだった。何とか見覚えのある女子バスケ部員が、一斉に彩子へ詰め寄っている最中に、流川は到着したらしい。 「塚本さんがあんなに悲しそうにしているなんて!ひどいじゃないですか!」 「そうよ!どうして交際してあげないのよ!」 全員、塚本の取り巻きっぽいことをしていた女子ばかりだ。彩子が言い返さないのをいいことに、かさにかかって一方的に責め立てている。 二階堂が心配していたのは、きっとこの事に違いない。 「ちっ」 どうして女というのは、こうもすぐツルみたがるのだろう。 それに、立場の弱い1人を大人数でつるし上げるとは、卑怯もいいところではないか。 「おい!」 流川は鋭く、そうとだけ言って割って入った。 「る、流川くん!?」 突然の乱入者の存在に、今まで言いたい放題だった連中が一気にひるんだ。 「・・・流川・・・」 「遅れて悪いっす」 言うが早いか、流川はむんず!とばかりに彩子の手を掴むと、とっととその場を抜け出してしまう。 ───呆気にとられた一同が、予想外の、いかにも美男美女の取り合わせに大騒ぎするのは、それからしばらくしてからのことであった。 「・・・サンキュー流川。これで2回目ね、あたしのこと助けてくれたの」 自転車を引き引き、家路を急ぐ流川に並んで歩きながら、彩子はそう、切り出した。 「何もしてねーっす」 「・・・じゃ、そういうことにしておこうっか」 彩子は流川の無愛想さを気にした風ではなかった。それどころではない、と言う事もあるだろうが。 ───うっとおしい女(ヒト)じゃねーんだな。 そう、流川は漠然と感じる。 今まで彼の周囲にいた女たち(母親除く)はみな、すぐに自分のペースに持って行こうとするのが常だった。何とかして口をきかせようとか、こうしてほしいああしてほしい、と行動を制限しようとするか・・・。 が、彩子の場合、そういう押しつけがましいところはあまり見うけられない。正直な話寝ていない流川が、こんなに自然体で異性のそばにいられるのは、母親以来のような気がする。 何故だろう? と考えて、その答えに思い当たった流川は、少しばかり憮然とした気分になった。 (先輩は、俺を男だって意識してねーからだ) 「どうしてなんだろ・・・どうしてこんなことになったんだろ・・・あたしは塚本先輩のこと、尊敬ならできるのに。それだけじゃ・・・どうしていけないんだろ・・・?」 流川の心境を知ってか知らずか、彩子はいつしかそう呟き始めている。 「不思議なんだけど・・・どうしても考えつかないのよ。あたしがただ1人を応援してる姿ってものが。あたしが好きなのは、バスケットボールを追いかけてる『みんな』なんだもの・・・。ううん、ひょっとしたら、『みんなが』追いかけてるバスケットボールの方かも、知れない。ドキドキするの。ボールを掴む時の手に当たった感触。ボールが飛んで行くその方角に。・・・おかしいわよね、何だか、バスケそのものに恋してるみたいで・・・」 流川は合点が行く。だから、あんな風に言ったのかと。 ───あたしにとって・・・バスケは恋人みたいなものなんです。 それは流川も同じことだ。だけど決して、自分がおかしいとは思わない。 だから、彩子にもそう感じて欲しくはなかった。 なのに彼女の独り言は、そのうち妙な方向へと曲がって行く。 「やっぱり・・・塚本先輩に言われた時、交際OKすれば良かったのかな・・・そうすれば、部のみんなにも迷惑かけずにすんだのかなあ・・・」 「ンなことねー!!」 思いもかけず大きくなってしまった声に、流川は自分でも驚いていた。顔には出さなかったが。 「ご、ごめん、愚痴るつもりはなかったのよ」 今まで無口だった後輩の反論がよほど信じられなかったらしい。どうやら彩子は「聞かせられたくもない愚痴を延々聞かされた事」で流川が怒っている、と解釈したようだ。 「そう・・・よね。流川みたいに真面目にバスケをしてる人間にして見れば、ものすごく不真面目よね、今の。もう言わないわ、安心して」 その言葉通り、彩子は黙り込んでしまった。 だが当然のことながら、問題が解決したわけではない。口に出さないだけ、心にためこんで苦しそうな彩子を見かねて、流川は思わず言っていた。 「・・・勝てばいー」 「え?」 「先輩抜きで勝てばいー」 「流川・・・」 流川はゆっくりと顔を上げた。 ちょうど同じくらいの高さにある彩子の目を真っ直ぐ見据え、流川は言う。強く。 「負けねーから」 歩みは止まっていた。 流川の言葉の意味をゆっくりと噛み締めた彩子は、ほんの少しだけ、泣きそうな顔になった。 だけど、すぐに笑顔。 「・・・・ありがと」 それから彩子を自宅まで送り届けた流川は、1人夜の道を自転車で走りながら考えていた。 きっと彩子は、自分の言った事は単なる慰めだと思った事だろう。 ちょっと手の届かない、誇大妄想みたいなものだと。単に彼女を励ますために口にした言葉なのだと。 ───それでも彼女は笑ってくれた。今は・・・それだけでいい。 流川は、そんな風に思える自分が少し不思議で、それと同じだけ誇らしかった。 (続)
わはは・・・☆ちょっと脱線。 PS2にて開発予定の『ジョジョの奇妙な冒険・第5部(仮)』に、ぬわんと愛しの広瀬康一が(多分チョットだけだけど)出演予定と知って、すっかりJOJO熱再発しちゃいましたわ☆(手元にコミックないのに・・・物置から発掘しないとな) で、以前から読んでみたかった(そしてついに無かった≪涙≫)、第4部の他のキャラから見た康一、と言うのを書いてみようと思います。ただし、掟破りにも康一視点で。 むろん、いわゆる女性的な表現はなし!ですよ。 ではいざ! ********************* 時々、『あの時』の戦いが夢だったんじゃないか、と思う事がある。 でもあれは確かに存在した、僕らの誇りをかけた戦いだったんだ・・・。 いつものようにボリスとの散歩を終え、汗をふきふきリビングに戻ってきた僕は、姉さんに声をかけられる。 「康一、あんたに電話よ」 「え?誰から?」 「クージョージョータローって男の人から」 承太郎さんだ! 僕は急いで受話器を取った。 「・・・康一くんか?」 懐かしい声がする。2年ぶりだろうか。 「はい!お久しぶりです、承太郎さん。お元気ですか?」 「ああ。君も元気そうで何よりだ」 あれ?承太郎さんの静かな声にかぶさって、雑踏の気配が伝わってくる。てっきり自宅から電話してるんだと思ってたけど・・・今どこにいるんだろう? 「ところで明日の放課後、時間が空いているか?」 「え?」 「・・・実は今、杜王町に向かっているところだ。明日には到着すると思う」 ここで承太郎さんは一旦言葉を切り、思いもよらぬ事を言い出したんだ。 「君に頼みたい事がある。明日、杜王グランドホテルまで来てくれないか?」 ・・・あの承太郎さんが僕に頼みたい事?一体どんな事なんだろう? 彼は露伴先生とは違って、ワガママとか人を顎で使うとか、そう言った事とは無縁の人だ。よほどの事がない限り、何事も自分でやりとおすタイプだと思う。(吉良吉影を探していた時も、聞きこみみたいなことを自分でやってたし) その承太郎さんが、わざわざ僕を訪ねて来て僕に頼みたいことって・・・? 疑問には思ったけど、断る理由はあまりない。できることなら、承太郎さんの期待に応えてあげたいとも思ったし。 「分かりました。じゃあ明日、何時に行けばいいですか?」 手早く打ち合わせをし、承太郎さんは実に彼らしく、余計なことは一切喋らないまま電話を切った。 「康一・・・あんたの交友関係って、一体どうなってるわけ?」 いつの間にか姉さんが、僕の後ろに立っていた。 今の電話、立ち聞きされたかな? 「どうって?」 「だってあんた、高校に上がってから変な友達増えたじゃない?あの変な髪形した男のコとか」 「・・・姉さん、変な髪って言うの、絶対仗助くんの前では言わないでよ?」 ここが家で、ホントによかったよ。友達に殴られるなんて、絶対ヤだよ僕は。 「それに、仗助くんたちのこと変な友達だなんて、ひどい事言うなあ。いい人たちだよ。優しいし」 「まあ確かに、あんたが苛められてるってわけじゃないのは確かだけど」 ああ・・・そうか。 姉さんは僕がイジメか何かに遭ってるかと思って、心配してくれてたわけか。 「心配してくれてありがと。でもそんなこと、全然ありえないって」 死にかけた事なら何度かあったけど、人に言っていい話じゃないしなあ・・・。 「そ、そんなんじゃないわよ。自惚れないでよ。・・・たださ、さっきのコとかなら同級生ってコトで分かるんだけど、さっきの人なんて結構年齢、離れてたりしない?」 「承太郎さん?うーん確か28歳とか言ってたような・・・」 「でしょ?それに・・・」 そこで何故か姉さんは、ちょっと顔を赤らめて口篭もった。 「あのステキな人とも、友達なんでしょ? 康一」 ステキな人って・・・もしかして露伴先生のこと?そう言えば以前、母さんと一緒に露伴先生と会った時、そんなこと言ってたっけ。 うーん、女の人ってああ言うのがステキって思うものなのか。よく分からないや。 「う、うん、まあ、そうだと思う」 本当は『親友』呼ばわりされてるんだけど・・・言わない方がいい気がする・・・。 「だから不思議なのよ。普通、歳の離れてる人たちと友達づきあいなんてしないじゃない。一体どうやって知り合ったの?」 「・・・ま、人徳ってヤツでしょう」 僕はそう言って、さっさと自分の部屋へ引っ込んだ。 ───普通、歳の離れてる人たちと友達づきあいなんてしないじゃない・・・。 そうなんだよな。 僕はベッドの上に身体を投げ出して、姉さんのさっきのセリフを反芻した。 これが仗助くんや億泰くんなら、学校が一緒だからまあありふれてると思う。 だけど承太郎さんは海洋冒険家で、露伴先生はマンガ家だ。それもかなり有名な。ごくごく平凡に暮らして来た一学生が、知り合えるような人たちじゃない。 それもこれも・・・。 『エコーズAct・1!!』 僕の求めに応じて、久しぶりに姿を現したのは長い尻尾を持ったスタンド・エコーズ。 それは決して普通の人間の目には見えることはない、自分の意思で動かせる守護神のようなもの。 そして・・・これこそが、承太郎さんや露伴さんと知り合いになるきっかけを作ったものなんだ。 ───2年前の下校中、僕は虹村形兆って人に『矢』で射抜かれた。何でもその『矢』は『スタンド』能力を引き出す道具らしいんだけど、万能じゃなかった。『スタンド』の素質がなくって、『矢』に刺されたまま死んでしまう人もいたから。 その時の僕はと言うと・・・危うく死にかけるところだった。仗助くんが自分のスタンド、『クレイジーダイヤモンド』で治してくれたから、助かったけど。 幸か不幸かそれから僕は『スタンド』能力に目覚め、杜王町に潜む殺人鬼を倒すべく、闘い始める事になったのだった・・・。 (不思議だよな・・・) あの時、『矢』に射ぬかれていなかったら、今の僕はなかった。仗助くんとはその前から友達だったけど、億泰くんや露伴先生と知り合ったのも、『スタンド』絡みだった。 承太郎さんとは? 知り合った時期は仗助くんと同じ頃だけど、あの寡黙で孤高な雰囲気の彼と親しくなれるとは、ちょっと想像できない。 だけど、僕らは巡り合った。そしてみんなと一緒に殺人鬼を倒し、この街を守る事が出来た。 あの時の誇らしい気持ちは、未だに僕の心の中に生きている。 「・・・・・・」 僕はエコーズを消して、パジャマに着替えた。ちょっと切ない気持ちになったから。 (続)
本編書く前に・・・。 このコーナーを設けて2日、そしてここへ引っ越してから1日しか経ってませんが、メールが届きました。最大文字数がネックで閉鎖した、引越し前のレンタル日記を見てくださっていた人からです。 たった数日間だけだったのに、見ていた人がいたとは。嬉しいです。ありがとうございます、サブティンさん。(感涙) ってわけで、張り切って(笑)続き行きます!! ********************** それから部活動が始まったが、みなどこか張合いがなく、ぎくしゃくしていた。 理由は簡単である。県ナンバーワンをも狙える実力のエースが、いなくなるかもしれないからだ。 特に、その原因を作ったらしい彩子の様子と来たら、なかった。時々思い出したかのように声援を張り上げるのだが、それがカラ元気だと言うことが常日頃ドンカンな流川でさえ、分かったくらいである。 部員も、無意識のうちに彩子を遠巻きにして、腫れ物に触るように扱っていた。 (ナンか・・・静かだ) そのうちお待ちかねの練習試合が始まったのだが、流川はどこか拍子抜けした感触を覚える。 試合に参加していない人間は応援に回っている。それぞれ自分の好きなチームへ、激を飛ばしている。そして誰かがナイスシュートを決めると、大歓声に変わる。いつもながらの光景だ。 なのに。 いつもと何処か違う、そう流川は感じていた。だからと言って、試合への集中力を欠くわけではない辺り、彼らしくはあるが。 ───ただ、シュートを決めたり、ボールがコートからそれたり、そういった試合の合間合間に、その違和感が流川に付いて回っていた事は否めない・・・。 と、ちょうどボールが流川の方へ飛んで来た。ラインぎりぎりにいたため、飛びついてもどうやら味方にパスできそうにない。 「ちっ」 とっさに彼は、ボールを追いかけて来た敵方の選手のバッシュ、めがけてボールをはたく。こう言う時の常套手段である。 狙いはまんまと当たり、味方ボールとなる。一番近くにいた流川のスローインとなり、コートの外へボールを取りに行った彼の耳に、ふと飛び込んできた声があった。 「ほら、マネージャー。いつもみたいに元気な声出してくれよ。な?」 ───キャプテン・二階堂の声だ。話しかけている相手は・・・言うまでもない。 (・・・そっか・・・) 流川が気付いていなかっただけなのだ。いつもだったらいい加減なプレイには叱咤を、そしてガッツプレイには称賛の声援を、きっと彩子は送っていたということなのだろう。 今はそれがない。そしてそのことを物足りない、と感じていたと言う事は、流川にとって彩子の声援は決して、耳障りなものではなかったのだ。 他の大勢の女子生徒の、黄色い声援とは違って。 「・・・・・」 ふう、とため息を1つ。そして流川は試合に集中した。 「流川、悪いけどちょっと顔貸してくれないか?」 部活終了後である。同級生と一緒に後片付けをしていた流川は、二階堂の声に手元を止めた。 「・・・話があるんだ。生徒指導室まで来てくれ」 多分、塚本のことであろう。即座に頷き、彼の後に付いて行く。 そして生徒指導室の近くまで来たところ、数人の男子生徒が彼らの横を足早に通り過ぎて行く。二階堂と目配せなどしていたから、バスケ部の人間だろうか。 「こらこら、付いてくるんじゃねえよ、見世物じゃあねえんだからよ」 その男子生徒たちは廊下の途中で立ちふさがり、いつの間にか流川の後を追って来たバスケ部員とおぼしき人々を、牽制していた。 「・・・デリケートな話だからね。第三者に聞かれたり、下手に介入されては根本的な解決にはならないだろう?」 流川の疑問に答えるように、苦笑いを浮かべる二階堂。なかなかにして、キレる男のようだ。 「失礼します」 生徒指導室には、2人の先客がいた。1人はバスケ部の顧問の教師で、もう1人は彩子である。 教師の方は、二階堂の挨拶に黙って頷いていたが、 「る、流川!?どうして流川を連れてきたんですか?キャプテン」 彩子は困惑顔で二階堂に尋ねる。その口調は非難している風ではない。むしろ、これ以上厄介ごとに後輩を関わらせまいと懸命にかばってくれているように、流川には受け止める事が出来た。 「彩子くんと塚本の話だけで結論を出すんじゃ、どうも不公平だと感じたんだよ。第三者の意見も大事だろ?まあ、2人とも落ち着いて座ってよ」 二階堂はにこやかに笑って、自分も椅子に腰掛けた。 「それで早速聞きたいんだけど、流川は塚本のこと蹴飛ばした、って言ってたよね? どうして?」 キャプテンの地位は伊達ではない。要点をいきなり突いて来た二階堂である。 「・・・・・」 「彩子くんにも尋ねたんだけどね、ノーコメントで押し切られたんだ」 このごに及んであの男をかばってどうする。流川は何故か、ムッと来る自分を感じていた。 「・・・先輩がマネージャーに迫ってもみ合ってたから。昼寝しててうるさかったせーもあるけど」 「流川!」 それ以上言わせまい、との勢いで彩子は叫んだが。 「何で隠す必要がある。別にゴーカンされたとかじゃねーだろ、キスだって止めたし」 「そ、そういう意味じゃなくってねえ・・・」 あまりにロコツな言い草は彩子の顔を赤らめさせ、二階堂と教師の顔を渋らせた。 「・・・要するに、塚本が彩子くんを押し倒してたから阻止した、って事なんだね」 「そー」 「その他に、何か言ってなかったかな?あいつ。その、彩子くんに」 「・・・バスケ部を優勝させたいだろって。そのためにはマネージャーの応援が必要だって。あと・・・自分1人を応援して欲しいとか言ってた」 てっきり否定するかと思った彩子は、赤い顔でうつむいたままだった。ここで下手に話をこじらせては、流川の善意を踏みにじる事になる、とでも判断したのだろう。 「つまり、こう言う事になるね? 塚本はエース級の実力とチームの優勝を楯に、彩子くんに交際を迫った。それを断られたから実力行使に出ようとして、流川に蹴飛ばされた。・・・それでいいかな?」 流川は頷いた。かなり苦々しい気分で。 彩子はうつむいたままだった。 肺の中の空気を全部吐き出したかのようなため息が、二階堂から漏れる。 「・・・そこまでするかあ? 信じられないぜ」 「嘘じゃねー」 思わず反論した流川に、慌てたような弁解が返ってくる。 「あ、いや、そう言う意味じゃないんだ。別に流川の言ってることを握りつぶすとか、そう言うつもりはないんだよ。ただね・・・やっぱりやってくれたな、って気分でさ・・・」 「・・・やっぱりって・・・」 ───聞き捨てならない言葉である。 「まさかキャプテン、塚本先輩が以前にも女の子にそんなことした事があるとか言うんじゃ・・・」 「違う違う。少なくとも俺は、そんな噂は聞いた事はないよ。その・・・女の子に無理強いしたとか、そう言う点では、ね」 「学校側にもそんな情報は届いていない」 表現が曖昧になって来た二階堂を助けるかのように言葉を続けたのは、今まで黙って話を聞くだけだった顧問の教師。 「そういう意味で言っているわけではない。・・・流川君は今年入学したばかりだから知らんだろうが、彩子くんは覚えていないかね? 去年、当時の3年が引退した直後、新キャプテンの人事について揉めていた事を」 どうも話の成り行きからすると、二階堂と塚本がそろってキャプテン候補として上がっていた、といった感じである。 「・・・覚えてます・・・。確か女の子たちとか、塚本先輩に陶酔していた部員たちはみんなこぞって・・・あ、いや、その・・・」 「いいんだよ、本当の事だから。実力とか、人気とか言う分野では、俺は全然塚本には叶わなかったからなあ・・・」 疲れたような笑みを浮かべ、二階堂は話の先を促す。 「だが、マネージャーをやっている彩子君には分かると思うが、キャプテンと言うのはそんなもので決まるものじゃないだろう。第一、塚本君には時々感情的になりすぎると言う問題があった。冷静な判断を必要とする場面でも、感情論を持ち出そうとするきらいも。試合では頼りになるだろうが、バスケ部をまとめて行くと言う分野には、向いていない」 その点、二階堂は確かに理性的である。事情を知らない部員たちが彩子に一方的に詰め寄った時でも、何とか間に入ろうとしていたではないか。 「新キャプテン人事にしても、どうやら塚本くんが裏で扇動していたらしい。私の顧問としての権限で、何とか二階堂くんをキャプテンにすることが出来たんだが・・・その際、彼が私に何と言ったかと思う? 『どうして実力も人気もない奴に、俺が負けなきゃいけないんだ!!』だよ」 ───つまり塚本と言う生徒は、キャプテン人事を人気投票か何かと勘違いしてしまっていた、と言う事なのだ。本末転倒と言うしか、ない。 「『別に負けたわけではないだろう、二階堂くんと一緒に部をもりたてていけばいいだけの話だ。実質上エースは君だろう』と言って、その場は収まったんだがね・・・」 「まさか今度は、チームのエースってものをステイタス扱いにするなんてね・・・。あいつらしいって言えば、らしいんだけど・・・」 頭が痛いよ、と唸る二階堂。 流川と彩子は、何とも複雑な気分になって顔を見合わせた。 「話は良くわかったよ。とりあえず、塚本の退部届けは保留扱いにしておく。あいつが彩子君に謝った上で戻って来たいって言うなら、いつでも受け入れる体制だ」 「・・・」 「そんな顔をするなよ、流川。確かにあいつに問題があるのは事実だけど、チームにとってはなくてはならない存在だ。それに、彩子くんにとってもこのままやめられたんじゃ、後味が悪いだろ?」 「・・・悪いです。すごく。それに塚本先輩、バスケが好きなのには違いないから・・・」 「・・・」 「断っておくけど、今話した事は現段階では他言無用だからな、流川。お前たちの言い分を信じない連中も多いんだ。下手をすればそれこそ感情論になって、冷静な意見がどこかへ飛んで行ってしまう。・・・そうなるとかえって厄介だ。彩子君の意思なんてどうでもいい、なんて無神経な話が出てこないとも限らないだろ?」 しぶしぶ流川は頷いた。集団ヒステリーに巻き込まれるのはゴメンだし、考えるのも面倒くさい。 (続)
以前から書きたかった、「SLAMDANK」の富ヶ岡中学出身コンビの話です。でも、タイトルほど色っぽくはならないだろうなあ・・・。 では、行きます!! ************** 「あたしにとって・・・バスケは恋人みたいなものなんです」 寝惚け気味の流川の耳にも、それはヤケに心地よく響く言葉だった。 富ヶ岡中学に入学したばかりの流川楓はその日、授業をサボって学校の中庭で昼寝をしていた。 以前、写生か何かでここを訪れた時、殊の外日当たりが良かった事を覚えていて、居眠りするにはもってこいだと思ったからである。 案の定、中庭の心地よさは想像通りで、流川は誰にはばかる事なく、唯一の趣味ともいえる「昼寝」に没頭していたのだが・・・。 ───どこかで聞いた記憶のある女の声が、彼の意識を覚醒させる。 流川にかけられた声ではないようだ。かと言って独り言でもない。目をこすりこすり様子をうかがうと、どうやら流川からは目の届かない場所で、男女2人が話をしているらしい。 (・・・あれ・・・どっかで・・・?) 女以上に、もう一方の男の声にも聞き覚えがあり、眉をひそめる。 「だからさあ、彩子もバスケ部を優勝させたいだろ?今大会。そのためにオレには、彩子からの応援が必要なんだよ」 「いつも応援してるじゃないですか」 「それはバスケ部全体にだろ?俺は、彩子には俺1人だけを応援して欲しいんだよ」 「・・・スミマセン・・・あたし、そう言うの苦手だから・・・」 そう、やんわりとした口調で謝った後。 彩子、と呼ばれた女はさっきの、流川も聞きほれるような言葉を口にしたのである。 ───あたしにとって、バスケは恋人みたいなものなんです・・・。 どうやら男は『彩子』に交際を申し込み、断られたと言う状況のようだ。 (・・・ふーん・・・) こんな女もいるんだ、と思う。 実は流川も、女生徒にはモテる方だ。やはり呼び出されて、こんな風に告白タイムに持ち込まれた事が1度や2度では数え切れない。 が、彼はずっと彼女たちをフッて来た。自分では自覚がないが、かなりそっけなく、冷淡に。 今のところ彼にとって、一番大切なのはバスケだ。それ以外のことは考える暇がないし、鬱陶しいだけである。 なのについこの間の女など、流川にとっては聞き捨てならない言葉で告白してきたのだ。 『ほんの数秒でもいいから、バスケより私の事を大事に思って欲しいんです・・・』 ───なにがバスケより、だ。 その時のことを思い出すと、未だに胸糞が悪くなって来る。 子供の頃から親しんできて、彼が夢中になれるただ1つのもの。それが自分にとってのバスケだ。最近とみに手にボールがなじんできて、楽しさが増してきたところである。 なのに。今会ったばかりで名前も知らない女のコトを優先しろ、とは、図々しいこと甚だしいではないか。 だから流川は、いつも以上に冷淡な態度でその女生徒をフッたのだが、その時ついてきた友人とか名乗る女生徒たちが、理由を言って欲しいだの説明しないでフるなんて冷たすぎるだのと、ぎゃんぎゃんやかましかったのだ。 結局その時はめんどくさくて、なにも言わずに立ち去ってしまったのだけれど。 (バスケが恋人、か・・・) 何故だろう? 他人が口にした言葉のはずなのに、ストン、と心の中でしっくりとなじむ。まるで自分のために用意された言葉のように。 (そうなのかも、知れない) 女には興味がなく、男でも、バスケが上手い人間以外はどうでもいい、と思えるのは・・・。 と。 「・・・っざけんなよ! 納得いかねえぞ、そんな返事じゃあよぉ!!」 「ちょ、ちょっと先輩っ!?」 (!?) 急に不穏な空気を感じて、流川は慌てて立ち上がった。 人間同士がもみ合う気配がする。それも、女の方が慌てているというか、嫌がっている感じで。 こう言う時の男のパターンと言うのは・・・。 「うるせえ」 どかっ☆ さすがに見てみぬフリは目覚めが悪い。 流川は、無理やり女にキスしようとしていた男を、思いきり蹴り上げてやったのだった。 「てめえ・・・流川!!」 やはりと言うか。男の方は、流川も良く知る人間の一人だった。バスケ部のエースで、確か名前は塚本、とか言ったか。 蹴倒されたのならまだキスもできようが、流川はわざわざ「蹴り上げて」やったのである。まともに吹っ飛んだ塚本が我に返った時には、さっきまで迫っていた女は逃げ去ってしまった後だった。 「どう言うつもりだ! 仮にも先輩に向かってよ!?」 「昼寝の邪魔」 いけしゃあしゃあと答える。一応は嘘ではなかったので。 完全に馬鹿にされたと感じ、塚本は怒りで蒼ざめたが、ここで暴力を振るうほど愚かでもない。 「・・・後悔するなよ、流川!!」 そう捨てゼリフを残して、さっさと立ち去ってしまった先輩を、どこか他人ごとのように見送る流川であった。 「流川、流川」 そばの草むらから囁く声がする。 視線を巡らせた流川の前に、ばつの悪そうな笑顔を見せながら這い出して来た女生徒、1人。 言うまでもなく、さっき流川に助けられた格好のアノ女だ。 「アリガト。助かったわ。まさかあんたに助けられるとは思わなかったけど・・・」 「昼寝の邪魔だっただけ」 「・・・寝るのが趣味って、本気だったのねアンタ・・・」 呆れたように女が頭を押さえるのを、流川は怪訝そうな目で見つめる。 確かに、何処かで聞いたような声だと思ったのだが・・・? 流川の、探るような視線に気付いたのだろう。女生徒は腰に手を当てて仁王立ちする。 「まさかとは思うけど・・・アンタまた、あたしのこと誰だか忘れた、とか言うんじゃないでしょうね?」 「・・・・・・・・・・☆」 「図星、って顔してるみたいだけど。・・・まあいいわ。何度でも教えてあげる。あたしは2年の彩子よ。男子バスケットのマネージャーやってるの」 「あ」 「やっと思い出したみたいね。ったく、他人に興味がないって言う噂、本当だったわけ?」 言いつつも、彩子の目は怒ってはいない。仕方ないなあ、と肩をすくめただけで、その件に関しては不問に帰してくれた。 「その代わりと言っちゃなんだけど・・・お願いがあるのよ」 「?」 「さっき聞いてたでしょ?あたしと塚本先輩との話。悪いけど・・・誰にも話さないって約束してくれないかしら?」 流川は無言で頷いた。元より、他人の色恋などどうでもいいことだ。 だが。 これが富ヶ岡中バスケ部にとってちょっとした騒動を呼び込む結果になろうとは、思いも寄らなかったのである。 ましてや。 他人の色恋などどうでもいい、と言う流川の主義を、少なからず揺るがすことになろうとは・・・。 ───放課後。授業中をずっと寝て過ごした流川にとって、一番待ち遠しい時間だ。 今は一年のみんなと一緒に基礎ばかりやっていて、なかなか試合はさせてもらえないのだが、それでも彼は真面目に通っている。 が。今日はなにやら様子が変だった。体育館の一角に部員たちが集まり、何やら騒然としているのは一体・・・? ちょうどその時。 「チュース!!」 声をかけ、体育館に入ってきたのは彩子であった。 とたん、部員たちはいっせいにそちらを見やり、駆け寄って来る。 「「「彩子!!」」」 「?」 ぼーっと突っ立っていたため、結果的に彩子と一緒に詰め寄られるハメになった流川だが。 「おい彩子!塚本先輩が辞めたってどう言う事なんだよ!?」 ───眠気が一気に覚める・・・。 「まあまあ落ち着いて。そんなに喧嘩腰でまくし立てられると、彩子君だって困ってしまうよ」 穏かな感じの3年生───名前は忘れたが男子バスケ部のキャプテンだったはずだ───が、みんなの間に割って入るが、冷静さを取り戻す役には立っていない。 「だけど二階堂先輩、こんな時にエースに辞められたら、大会どうなるんですか」 「そうだよ!俺達今年はいいところまで行けるかもって、楽しみにしてたのに!」 「ちょ、ちょっと待って。塚本先輩が辞めたって本気? どうして?」 ここで慌てて口を挟んだ彩子に、部員たちは何とも言えない複雑な表情で告げたのだった。 「・・・知らないよ。ただ、塚本さんが皆の前で言ったんだ。『理由は彩子たちに聞け』って」 (あんにゃろう・・・) さっきの捨てゼリフはそう言うことだったのか。 蹴るだけでは飽き足らない。もう2、3発殴ってやれば良かった。 流川が心の中で塚本を罵倒する間も、騒動は一向に収まる気配がない。 「そ、そんな・・・」 さすがに彩子は真っ青になっている。それを見咎めたのだろう。男子部員が彼女に問いただしにかかる。 「心当たりがあるんだな、彩子? どう言う事なんだよ?」 「・・・それは・・・」 「そう言えば塚本、お前に惚れてたよな?まさかフッたんじゃないだろうな?」 「・・・・・・・・」 この場合、無言は肯定と受け取られる。真実ははかなり違う状況だったのだが。 皆がいっせいに彩子を非難する空気に勘づいて、流川は憮然として口を挟む。 「知らねー。昼寝してたら騒がしかったんで、蹴っ飛ばした」 「流川!?」 「蹴っ飛ばしたって、お前、塚本をか!?」 「どういうつもりだよ、1年坊のくせに!」 「エースが怪我したらどうするんだよ?」 悪びれもせず頷く彼に、今度は非難が集中する。だが、それ以上何も言うつもりもない流川は押し黙ったままだ。なにより、彩子に口止めされたこともあるし。 「ほらほら、くっちゃべってる暇なんてないだろ?いい加減部活を再開するぞ」 二階堂がキャプテンらしく、険悪になりかけた一同に声をかける。彼のちょっとのんびりした口調に、少し怒気をそがれたのだろう。部員たちはしぶしぶ散って行く。 そんな中。彩子だけは顔色が悪いまま、その場に立ち尽くしていた。 (続)
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