近々、妹のところに顔を出そうと思っている。 主人にその話をしたら、 「2人でそれぞれの亭主の悪口でも言い合って、盛り上がって来るといいよ」 と言われたので、私はキッパリと言い切った。 「私はそんな事しないよ。
亭主の悪口なら、本人の目の前で言うね!」
それを聞いて、何故か一瞬固まる主人。 「何? 私、何か変な事言った?」 「いや……、シオンの発想は、日本人とは違うなあと思って。かと言って、中国人や朝鮮人とも違うんだよなあ。 不思議だなあ、シオンのルーツは一体どこなんだろう」 えっ、私は生粋の日本人なんですが……。
本人のいないところで悪口を言ったら、それは陰口だ。 陰口は良くない。 だから、文句があるなら本人に直接言うべきだと思って、先程の発言に至った訳なのだけれど。 どうやら主人には通じなかったようである。
夕方、主人が帰宅してすぐに、玄関のチャイムが鳴った。 手が塞がっていた私の代わりに主人が応対すべく、インターホンのスイッチを押すと、相手は年配の女性であった。 『すみません、○号室の××ですが』 ○号室はお隣である。 駐車場に記名があるので、どうやら苗字は××というらしいと推測はしていたが、何せ引越しの挨拶が無かった。 廊下で会えば流石に挨拶はするものの、最初に目撃したのが赤ん坊を抱いた老人だったので、一体どういう家族構成なのか不明であったが、どうやら幼児持ちの若夫婦の所に両親らしき老夫婦が訪ねて来るようだと、最近になって漸く腑に落ちたところである。 『車を返しに来たんですけど、子供が留守にしていて、私間違って、お宅のところにですね、車のキーを置いてしまって……』 女性の話はさっぱり要領を得ない。 間違ってうちの駐車スペースに車を置いちゃったって事? でもキーって何。
「ああ、わかりました。郵便受けですね。今行きます」
!そういう事か! この集合住宅では、各世帯の郵便受けは階段入り口の所に固まっていて、ダイヤル式の鍵が付いている。 女性は、車を返しに来たものの子供世帯が留守だったため、郵便受けに車のキーを入れるつもりが、間違って隣の我が家の郵便受けに入れてしまった、という事らしい。 因みに、女性の口から「郵便受け」や「ポスト」という単語は一切出ていない。
戻って来た主人が、 「あのおばさん大丈夫かなあ。階段の下にご主人がいたんだけれど、『あら、あの子のところって何号室だったかしら?』って、またご主人に訊いてるんだぜ」 と呆れていた。 「うちが在宅だから良かったものの、連休で留守にしていたらどうするつもりだったんだろう」 そういや世間は明日から連休なのか。 忘れていたという事は勿論、我が家にはそんなの関係無いのだ。
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