「硝子の月」
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「わざ、わいの――?」 その不吉な響きに圧されるように、わずか口篭もりながらティオは呟いた。 災いの子。その言葉と目の前の勝ち気で眩しい少女がどうしても噛み合わない。 「……誰も運命にふれずに生きていくことはできない。 逆に言えば、誰でも運命にふれてそれを動かすことはできるの。たとえそれがどんな形でもね」 未だ涙に濡れた目で、ルウファはひたりとこちらを見る。 笑んでいる。水に溢れて揺らぐ赤い目は、まるで踊る炎にも似て。 「でも、ふれた水がいつでも思ったように流れるとは限らない。風にふれることはできても、それを捕まえられる人はいない。 ……それと同じことよ」 できないと言いながら、その眼差しの何と強いことだろうか。 涙を流しながら、逢えないと泣きながら。 「運命を自由に操れるもの……それは、きっとひとつしかないわね」 それが何であると。 ルウファは口にすることはなかったが、答えは言葉よりも明瞭に聞こえた気がした。
2004年09月05日(日) |
<災いの種> 瀬生曲 |
「そう、なのか?」 いつも自信たっぷりで、自らを「運命を知る者」と言っていて、なのに今そんなことを言う紅い瞳の少女――けれどそれもまた真実なのだと、答えを聞く前から知っている気がする。 「そうよ。運命って、案外移り気なものだし」 少年が少しだけ逸らした視線の先、明るい午後の日差しを受ける彼女の髪は紅く輝く。 「私ね、運命を知る者と呼ばれているし自分でも名乗るけど――」 続いた言葉に、ティオは思わず彼女の瞳に視線を戻した。
「『災いの子』とも呼ばれていたのよ」
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