ちゃんちゃん☆のショート創作

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クリスマスボウルはどんな味?(アイシ)
2009年12月25日(金)

 プロボクサーには正月や盆どころか休みもない、とは誰が言ったことやら。

 だが、ボクサーに限らず、仮にも世間一般的な『スポーツマン』と目される人種に休日など、数えられるほどしかないのも事実。
 凶悪、かつ脅迫手帳で集めた奴隷を酷使しまくることにより、所謂健全な『スポーツマン』の定義からは若干外れている蛭魔妖一にも、その例えは成り立っていた。

 そんな彼が、泥門高校に来て初めての冬休みを迎えることとなった、前日のこと。


「やーっと収まりやがったか、この糞天気が」

 ヒル魔が、そう忌々しげに吐き捨てるのも無理はない。先ほどまで窓の外は、いきなりの猛吹雪に見舞われていたのである。
 おかげで、折角終業式とホームルームだけで授業が終わったというのに、大部分の生徒が校舎内で足止めを食らっていたのだ。ただし積もるような雪ではなく、歩道を自力で開拓する、なんて憂き目にならなかっただけ、まだマシと言うものだろう。

 ただしヒル魔にとっての『糞天気』とは、一歩たりともグラウンドへ出ることを許されなかったことへの、罵りの意味が強かったわけだが。
 加えて、もう1人のアメフト部員、栗田良寛が「今日は急用が出来たから!」と、雪が本格的になる前に帰ってしまったことも、彼の苛立ちを募らせていた。・・・さすがのヒル魔とて、たった1人で、寒風吹きすさぶグラウンドで練習、などぞっとしない。

 こういう日もあるか、と、とりあえず割り切ることにして。
 とっとと帰って、このところ溜まる一方だったデーターの整理でも───そう計画しつつも、今一つ気の乗らぬ風情で、玄関まで来たヒル魔だったが。

「??」

 外───つまりは通用門付近───がやけに騒がしいことに、つい眉をひそめる。

 やっと帰宅できる生徒の嬉しさ故の歓声、というには声がデカイ。かと言って、何かしらの事件が起こった場合の、緊迫した空気とも異なる。

 どこかの身の程知らずが、ヒトの縄張りで騒いでやがんのか───。

 眉間の皺を更に増やし、足取りも荒く通用門へとズカズカ歩み寄ったヒル魔の目に、2つの鮮やかな色彩が飛び込んできた。

 周囲を寒々と染めている、白、と、それと相対する暖かさの象徴、赤。
 今の季節それらは、サンタクロースの扮装を意味する。

 日頃、四季の情緒に無関心なヒル魔ですら、そのことに気づき。
 そのサンタクロースとやらが、泥門生徒と楽しく記念撮影なんぞしてやがるのだ! と思い至った頃、いっそ駆け足と言っていい勢いで通用門へと踏み込んだかと思えば。

 ドカッ!!

 ほとんど条件反射で、満面笑顔の巨体サンタクロースを、蹴飛ばしていたのだった。

「何してやがンだ、糞デブ!」
「ひ、ひどいよヒル魔ぁ〜。いきなり何するの〜」

 予想通り。白いひげの下から返って来たのは、いつも聞きなれた栗田の苦情。
 積雪に頭から突っ込んだせいで、赤いサンタ帽にこびりついた白いものを、手で払って落としながらの。

「それはこっちのセリフだ。てめー、用があって帰ったんじゃなかったのか、あぁ?」
「・・・機嫌悪いねヒル魔。グラウンド使えなかったの、まだ怒ってるとか?」
俺の質問に答えろってんだよ【怒】
「だからー、そんな物騒なものしまってよー。クリスマスにふさわしくないでしょ」

 周囲が完全にヒいているのを余所に、栗田はサンタの扮装にふさわしく、穏やかに友人を宥めた。

「僕の用事はこれからなんだ。隣り町の教会へ、手伝いに行かなきゃいけなくって」
「坊主の息子が趣旨変えか?」
「そんなんじゃないよ。今日だけだってば。ちゃんと父さんにも、許可貰ってあるし。
あのね、教会のクリスマス会に来てくれた子供たちに、このカッコでお菓子あげるんだ」

 聞けば、本来サンタ役を演じるはずだった人間が、風邪で寝込んでしまったのだという。急な予定変更にピンチヒッターはおらず、たまたま近所を通りかかった栗田に、白羽の矢が立ったらしい。
 どうせならサンタクロースの正体は秘密にしたいため、教会を訪れる子供たちとは面識のない人物に頼みたかった、と言うのが、主催者の目論見なのだろう。・・・確かに坊主の息子なら、そう顔なじみにはならないだろうし。

「で? 何でわざわざ泥門に寄ったんだよ? その扮装見せびらかすためか?」

 ヒル魔も、栗田がこれから向かう、という教会の場所は把握している。家で着替えたのも、教会に来る子供たちとやらに正体を隠すためだ、ということも想像が付く。
 が、栗田の家から出発するにしたって、ここに立ち寄れば完全な遠回りになるはずなのに。

 すると栗田は、背中に担いだ白い大きな袋から(ご丁寧に防水加工付きだ☆)、クリスマスらしくカラフルで小さな巾着袋を取り出し、何やら甘い匂いが漂ってくるそれをヒル魔へと差し出した。

「メリークリスマス、ヒル魔!
はい、これ。プレゼント渡しに来たんだ


 ───一瞬、凍りつく空気。

 シュールだ。とんでもなくシュールな図だ。
 人の良さと笑顔全開のまあるいイメージのサンタクロースが、泥門一の凶暴悪魔と呼ばれている鋭角的青年に、クリスマスプレゼントを手渡す───など栗田以外、誰も想像なんてしたことのない光景だろう。

 滑稽さと恐怖の狭間で、声を出すのすらこらえている泥門生徒たち。
 これ以上なく自分に不似合いな可愛らしい代物を、こともあろうに公衆の面前で渡され、怒り心頭のヒル魔。
 そんな中、空気を読めない栗田だけが、ニコニコと笑みをたたえたままである。

「てめえ・・・俺は甘いモンは食わねえ、って言ってるだろうが!」
  ↑ツッコミどころが違う☆

「怒んないでよー。それにこれ甘くないし」

 そう言って開いた巾着袋から出てきたのは、1つずつ小袋に入った白や水色のキャンディーだ。

「ほらこれ、ペパーミント味なんだ。子供ってあんまり、この味欲しがらないでしょ? だから多いんじゃないかって話になって、余ってもったいないから僕が貰ったってワケ」
「クリスマスプレゼントとか言いながら、俺に不要物押し付けるのかよ☆」
「捨てちゃうよりいいじゃない。それに、喉が乾燥すると風邪引きやすくなるって話でしょ? 今日のヒル魔にはピッタリだって思ったからさ」
「・・・・・・」

 確かに今朝から、少し喉がいがらっぽくなっていたのは事実である。よもや、栗田にそのことを気取られていたとは。
 それとなく照れを隠し、青い色のキャンデーを摘み上げながら、ヒル魔は悪態をつかずにはいられない。

「・・・ガキたちをそこまで甘やかすなんざ、教育上宜しくねえんじゃねえのか? たまには辛いものがある、って感じにしておいた方が、結果的に奴らのためだと思うぜ」
「うん。教会の人たちもそう言ってた。だから、1袋に1つの割合で、ちゃんとペパーミント味も入ってるんだってさ」
「けっ」

 先を読まれた悔しさで、ヒル魔は小袋を乱暴に裂き、水色のキャンデーを口に放り込んだ。たちまち舌先を刺激するのは、慣れ親しんだミントの香りと味。
 ガリリ、と奥歯でそれを噛み砕いては、次の小袋に手を伸ばす彼を、栗田以外の生徒たちは物珍しそうに眺めている。

「ヒル魔ぁ。その食べ方じゃあ、喉にはあんまり効果ないと思うけど」
「るせえ。自分の食いもんをどんな食い方しようが、俺の勝手だ」
「それはそうだけどさ・・・じゃ、そろそろ時間だから、僕行くね」

 栗田がそう告げたところ、「ええーーっ!」と一斉に周囲から上がる、残念そうな声。
 見れば、ヒル魔の背後にはいつの間にか生徒たちが、携帯電話を片手に列を成していた。どうやら『サンタクロースとの』写真撮影を狙っていたらしい。
 とは言え、ヒル魔にプレゼントを渡す、と言う目的は果たしたのだから、確かに栗田がこれ以上ここに居座るのもおかしい。ヒル魔に睨まれたこともあり、それ以上、俄かサンタクロースを引き止める動きは起こらなかった。

 よいこらしょ、と大きな袋を担ぎなおし、踵を返す相棒の背中に、ヒル魔は話しかける。口の中の欠片を、全部噛み砕いてから。

「おいこら、糞デブ。ボランティアだかバイトだか知らねえが、そんなのは今年限りだからな!」
「分かってるよー」

 振り返りながらそう答えた栗田は、いかにもサンタクロース、といった具合の慈悲深い笑みを浮かべた。

「来年は絶対、クリスマスボウル! だもんね。ヒル魔、お互い頑張ろ!」

 メリークリスマス、ともう一言残し、高校生サンタクロースは巨体を揺すりながら、白く染まった街中へと姿を消した。


『絶対クリスマスボウル!』

 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。
 今は、2人だけでささやかに誓う約束。

 では、来年は・・・?

 さっき口に放り込んだキャンディーを今度は舌先で転がしつつ、ヒル魔はふとそんな思いにかられずにはいられない。
 慣れたはずのミントが、ほんの少し、キツい後味を残したように感じたのだった。

   ************


「・・・ってことがあったのよ。1年前のことだけど」
「へえ〜〜〜」

 翌年の12月25日。激闘に激闘を重ねたクリスマスボウルを無事、戦い終え。
 大勝利の余韻に浸りつつも帰り支度をしていた泥門デビルバッツの面々は、マネージャーの姉崎まもりから去年の思い出話を聞いていた。

「折角のクリスマスなのに、プレゼントにもサンタクロースにも縁がなかったな〜」

 と誰かが言い出し。
 それに記憶を触発されたまもりが、ちょうど携帯電話のメモリーに残っていた栗田のサンタ姿を披露したことから、一連の流れとなったわけである。

 当時まもりも、吹雪で学校に閉じ込められていた口であり、突然現れた巨体のサンタクロースについ、携帯電話のカメラを向けたのだと言う。
 白いひげをつけ、大きな袋をしょった栗田のサンタクロース姿は、待ち疲れた彼女の心にどれほど、優しいものを残したものか。

 当時を懐かしむ顔で、まもりは栗田に笑いかける。

「でもどうせなら、クリスマスツリーをバックに撮影したかったなー。絵になるのに」
「確かに栗田さん、スゲー似合ってるっすよね。現物見てみたかったよーな」
「今年は頼まれなかったんですか? 栗田さん。教会のボランティア」
「去年終わった直後に頼まれてたんだけどねー。クリスマスボウルがあるから無理、ってその場で断ったんだ」
「その場で、ですか? 随分と気の早い・・・」

 ついそう返したセナだったが、失言だと気づく。傍らでヒル魔が、マシンガンをこれ見よがしに構えたからだ。

「誰が気が早いって?」
「い、いえ、その・・・」
「実際俺たちはクリスマスボウルへ来たんだ、断って正解だろうが」
「ハイ、ソノトオリデアリマス・・・」
「ヒル魔、折角のめでたい場で、そんな物騒なもの出すんじゃねえよ」
「ムサシい・・・何か突っ込みどころが違わない? それにヒル魔、ホントにやめときなって」

 親友2人に諭され、舌打ち1つで凶器をしまうヒル魔に肩をなでおろしながら、セナは改めてデビルバッツ創立メンバー3人を見やる。


 ───そうだ。そもそもヒル魔があらかじめ、釘を刺していたのだった。栗田に『今年は断れ』と。
 来(きた)るクリスマスボウルを目指すために。

 武蔵厳こと、ムサシのこともそうだ。
 可能性はほぼ0だったのに、ヒル魔と栗田はムサシが戻ってくると信じ、彼愛用のキックティーを部室のロッカーへしまいこみ、守ってきた。

 そしてムサシも、彼らの期待に十二分に応え、最後の最後で帝黒を打ち負かす豪快なキックを決めて・・・。

 本当に彼らは、ずっとずっとクリスマスボウルを目標に頑張ってきたんだな、と、改めて思い知らされたセナであった。


 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。
 去年は、2人だけでささやかに誓った約束。

 ───そして今年はここにいる、泥門デビルバッツのメンバー皆で、叶えた約束。


「そーいえば僕、キャンディー袋ごと入れて来てたんだった。みんなー、食べるー?」
「うぃっす! 食うっす!」
「フゴー!」
「こンの糞デブ!! 俺は甘いもんは食わねえって言ってるだろうが!!」
「ヒル魔も食わず嫌いはよくないぞ。疲れた時には甘いものがいい、って聞くしな」
「あ、あのっ、ミント味あるみたいだから、それ食べればいいんじゃないでしょーかっ」


≪終≫


*******

※これはクリスマスに差し掛かる前から、大まかな内容だけは頭の中に浮かんでいたものです。が、久しぶりに小説として書き始めたら、まあ時間がかかるかかる。結果的に25日にすら間に合わなかったんだから、笑い話にもならないよなー。

 アメフトをやっている者にとっては、クリスマスイベントなんてあってないようなものなんだろうな、と思ったのがそもそものきっかけ。それと、相方が持っていたイラスト集に、ヒル魔と栗田とその他大勢(をい☆)のサンタ姿が描かれていたのがあって、それがものすごくお気に入りで。せめて栗田にサンタの格好させたいなあ、似合うしなー、と思っていたら、自然に「サンタの格好した栗田がヒル魔にプレゼントを渡す」てな風に。

 ・・・どーやらち☆ のノーミソじゃ、「ヒル魔がサンタに扮して他人にプレゼント渡す」って図は、想像を絶するものだったらしい・・・(ーー;;;)ただ考えてみれば、形に残らないものだったら、ヒル魔も栗田に既に渡してるんでしょうけどね。(友情とか、信頼とか、他もろもろvv)

 しかし今回後悔してるのは、他のデビルバッツメンバーをほとんど出せなかったこと。特にムサシの出番が少なかったことですかね。でも、当初の案から比べれば、随分増えた方なんですよ? これでも。セリフが特に。

 連載終了してからアイシのファンになったものだから、世間から思い切りズレてるのは自覚してます。けど、栗田さんとヒル魔のコンビが好きなのは、もうどうしようもないんだよなあ・・・v

 ちなみに、意味不明なタイトルについては・・・何も言わんで下さい。どーしてもふさわしい言葉が思いつかなかったし、出来たら「ペパーミントキャンディー」になぞらえたものにしたかったんだけど、失敗した名残です(T_T)




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