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一昼夜【いちにち】(1) ネウロ・筑紫視点
2008年01月25日(金)

 ども。久しぶりにこっちの更新する、ちゃんちゃん☆ です。

 とーとつですが今、ネウロにハマってます。元々WJでの連載開始当時から、面白いと思ってましたv(読みきりバージョンは知らない) 会話のテンポがよろしいのと、キャラクターの妙が理由でしょうね。
 で、この度単行本一気読みをしてたら、つい思い浮かんだ話があったので、書いてみることにしました。放映中のアニメでもちょうど、クライマックスに差し掛かる頃ですし。

 時期は電人HAL編の設定です。既に誰かが書いてるかもしれませんが、「あの」後、どうやって弥子たちが空母から引き上げたのか、自分なりに納得したかったのともう1つ。この設定で、弥子が警察関係者にいかに認められる存在になったのか、を書き上げたかったんで。・・・・・まあ要するに『弥子・皆から溺愛』状態を、無理のない設定で書いてみたかった、ってことになるのかな(^^;;;) 
 尚、吾代氏はマイカー破損による傷心中のため連絡が取れず、登場しません。あしからず。

 どーでもいいが、相互リンク先にコラボとは言え、ネウロ扱ってるサイトさんがいるんだよなー。反応がちょびっと怖かったり☆

  *************


『笛吹刑事に、外線からお電話です』

 その連絡を内線で受けたのが指名された笛吹直大本人ではなく、彼の部下である彼、筑紫候平だったのは、偶然と必然がもたらす結果に過ぎない。



 ───人間は、無力だ。
 それは学生時代、尊敬する先輩の身に降りかかった暴虐に対して、どうすることも出来なかった当時の筑紫が、心底思い知らされたこと。
 だが、それから約10年たった今───あの時とはまた別種とは言え、同じような深刻な無力感に、よもや再び打ちひしがれることとなろうとは。

 現在東京湾内に停泊中の、某国原子力空母 ハーヴェイ・オズワルド。
 かつての被爆国であり、放射能汚染の恐ろしさを最も知る国民と言っても差し支えないのが、ここ日本だ。にも拘らず、その都心に居座るその原子力空母は、こともあろうかプログラム人格と言う名のテロリストが、支配してしまっている状態である。
 向こうのご機嫌を損ねたが最後、日本はおろか近隣諸国すら滅亡してしまう恐怖に、国民はなすすべがない。イヤ、どこの国の強力な軍隊でも、手をこまねくしかないであろう。

 あいにく、筑紫は警察官だ。空母に直接どうこうできる立場ではない。それは防衛庁に任せておくのが妥当で、自分たちには自分たちの果たすべき役目が待っている。だから、電子ドラック中毒者やそれに便乗した犯罪者等を取り締まることに、上司の笛吹共々奔走するしかなかった。
 もっとも、自分たちはまだマシな方なのだろう。何も出来ず恐怖に駆られるしかない一般人や、その逆に、厳戒態勢で待機を余儀なくされている自衛官たちの極限状態での緊張から比べれば。


 その日。
 夜になって東京湾は突如、大恐慌の真っ只中に放り込まれてしまった。
 防衛庁のお偉方曰く「現状を把握できないどこぞの阿呆」が、こともあろうに空母へ攻撃を仕掛けたからである。それも、同じ空母でならともかくも、たかだか軍事ヘリ一機による砲撃十数発で。
 責任問題を問おうにも、自衛隊がその暴挙を確認した時既にそのヘリは空母からの砲撃で撃沈した後で、機種も国籍も判明できず。誰が何を目的に攻撃を仕掛けたかは、結局謎のままに終わった。

 救世主を気取るヒーロー志願者か、あるいは派手な道連れを切望する自殺志願者か。
 いずれにしろ、その何者かは一瞬のうちに撃沈されてしまったから、悔いは残したくても残らなかったろう。が、そんな感傷に浸る暇なぞ与えられなかったのは、遅れをとったその他大勢の人間たちの方である。
 何せ、件のテロリストこと電人HALが自分たちに要求したことの1つは、「私と私を積んだ原子力空母に、決して危害を加えないこと」だったから。それが何者かの暴挙で踏み躙られた今、怒りに駆られた電人HALがいつ原子炉が破壊するか、分からないではないか・・・!

 恐怖のあまり自宅に篭城した者は、まだおとなしくていい。だが、国外へ逃亡すべくと封鎖中の空港に詰め掛けた者、ヤケを起こして略奪や暴動を起こす者、それらに追随して起こる事件事故を処理すべく、警視庁及び警察庁は全人員を持って奔走する羽目に陥った。
 それは当然、筑紫や彼の上司である笛吹も同様で。直接現地へ出向くことこそないものの、警視庁にて人事配置や情報収集にかかりっきりになっていた矢先だったのだ。

 こちらからかけるのが主だった電話の、呼び出し音が鳴り響いたのは。


「どちらからの電話ですか?」

 たまたま電話の近くにいた筑紫が、何の気なしに受話器をとって応対する。

『探偵の桂木弥子、と名乗る少女からです』
「・・・・・桂木探偵が?」

 意外な相手に、筑紫は思わず鸚鵡返しになる。
 他の部下に指示を出し、送り出したところだった笛吹もそれを聞きとがめたのだろう、苦々しい表情を隠そうともしない。とは言え、門前払いもどうかと思ったのか、軽く頷いて同意の意思を示す。
 それを受けて「分かりました。繋いでください」と言った筑紫だったが、返って来たのは内線からの重苦しい沈黙。

「・・・? 何か問題でも?」
『そ、それが・・・この電話をかけてきたのが、あの空母ハーヴェイ・オズワルドかららしくて・・・』
「何だって!? オズワルド空母から!?」

 今まさに騒動の渦中にあるあの空母から、何故桂木探偵が電話なぞ?

 さすがの筑紫も、あまりに想定外の事態に混乱せずにはいられない。つい棒立ちになったまま握り締めていた受話器を「貸せっ!」と笛吹に奪い取られてから、やっと正気を取り戻す体たらくだ。
 そんな部下の様子を一瞥する一方、笛吹は電話のスピーカーホン機能を作動させ、筑紫にも会話を聞けるようにする。本来なら、いわば素人である探偵と馴れ合うようなことはしない彼だ。当然、電話でのやり取りを他人に聞かせるなど、論外のはず。が、今は彼と筑紫以外の人間が全て出払っていることもあり、構わないと踏んだのだろう。・・・それだけの信頼関係を、筑紫は笛吹との間にはぐくんで来ている。

 筑紫が電話の会話を聞く体制になったのを確認の上、笛吹は受話器の向こう側に話しかけた。

「私だ、笛吹だ、桂木弥子。貴様どうして、オズワルド空母になんぞ潜り込んでいる?」
『ええっと・・・話せばちょっと長くなるんですけど・・・って、あれ? どうして笛吹さん、私が空母の中にいるって分かるんです?』

 聞き覚えのある桂木弥子の声には、怯えや恐怖と言うものはあまり感じられない。傍で耳を済ませていた筑紫は、ほっと胸をなでおろす。
 聞こえてくる彼女や上司の声の反響具合から察するに、どうやら電話はだだっ広く静かな場所から繋がれているらしい。

「一応貴様も、警察に悪戯電話をかけたことなどない、善良な市民らしいな・・・。警察で受ける電話には普通、逆探知装置がついている。発信元がどこか調べることなど、ワケもない」
『あー、そういえば刑事ドラマとかで見たことあるような・・・って、それどころじゃなかったんだった。
あのですね』

 どうやらここからが本筋と、筑紫は視力に神経を集中する。が、さすがに彼も、弥子がこう続けるとは思いも寄らなかった。

『その・・・ここの空母の電人HALは何とか、私とネウロで止めるのに成功しました』
「・・・・・・・・・・・は?」

 それはどうやら、彼の敬愛する上司も同様らしい。

「止めた・・・?」
『で、何人か怪我人出てるから救急車の用意・・・・・って、痛い痛いネウロ、分かったから引っ張らないで!』
「ちょ、ちょっと待て。貴様今、止めたと言ったのか? 電人HALを?」
『はい。もうここの空母には危険はないはずです』
「・・・・・・・・・・・・」
『そ・・・それで、私たち折角こっちに来たはいいけど、帰りの足がなくって・・・。済みませんけど、誰か私たちを車で迎えに来てもらえませんでしょうか?』

 ************

 ───数分後。
 筑紫は自分の運転する車に笛吹を乗せ、ハーヴェイ・オズワルド空母が停泊する東京湾へと急いでいた。
 その途上、笛吹は携帯電話で防衛庁と連絡を取り、自分たちが空母までスムーズに通行できるよう、手はずを整えてくれる。ただ単に迎えに行ったところで、厳戒態勢中の港へ入れるはずもないからだ。
 だが笛吹はその一方、警視庁の上層部への連絡は事後承諾で良い、と突っぱねた。

「あの老いぼれどもに報告したら、早く進むものも進まん。やれ責任問題だの、順序がどうのだの、ひょっとしたら罠だの慎重にせねばだのと、滞るに決まっている」
「そうですね・・・」

 あの時聞いた弥子の声は、確かに怯えこそなかったものの、どこか力がなかった。かなりの極限状態でいる以上、蓄積する必要のない疲労がたまっているのは当然のこと。なのに、警察側の都合で徒(いたずら)に待たせるのも酷と言うものだろう。
 だから筑紫も、笛吹に付き合うことにしたのだ。他の人間を関わらせるつもりは、毛頭ない。わが身可愛さに上層部に媚を打つ人間を頼んでも、足を引っ張られた挙句に空母までたどり着けなくなるのがオチではないか。

 ───第一、桂木弥子たちと何度か顔を合わせ、お互い何となく知っている自分たちの方が、彼女も心強いと思うし・・・。

 ちなみに筑紫も笛吹も、罠の可能性はほぼゼロと考えている。いくらエリートと言えど、現在の笛吹は単なる一警官に過ぎない。そんな人間を誘い出したところで、いまや無敵と言っていい電人HALに何か利があるとも思えない。

 そうこうするうちに、筑紫たちの車は無事東京湾へと到着した。警備中の自衛隊の連中に身分を明かし、そのまま通してもらう。

 空母が真正面に見える場所で、筑紫は車を止めた。程なくして笛吹が、素早く静かに車から降りる。
 その場にいる皆が固唾を呑んで見守る中、笛吹は携帯電話を取り出し、さきほど警視庁へかかってきた電話へとコールした。

 コールが1回・・・2回、で、向こうが受話器を取る。

『・・・笛吹さんですか?』

 夜遅く静かな東京湾では、携帯電話の小さな声でも良く響く。確かに、桂木弥子の声だ。

「ああ、そうだ。私と筑紫とで迎えに来てやった。助手共々、さっさと投降して来い」
『ええ!? 笛吹さんじきじきに? 忙しいのに、別の人に任せても・・・』
「では聞くが、貴様が知らない人間に迎えにやっても、貴様はそいつを信用してすぐさま投降できるのか? あいにくお前の他の顔なじみ連中は皆、動けんしな」
『そ、それは確かにそうなんですけど・・・って、ちょっとお!』

 そこでいきなり弥子の声が途切れるものだから、筑紫たちも自衛隊員たちも思わず緊張したものの。次に聞こえてきたのは筑紫も聞き覚えのある、あの妙に物腰の綺麗な助手・脳噛ネウロの声だった。

『ではこれから、僕と先生とでそちらに向かいます。くれぐれも撃たないでくださいね?』
『コワイコト言わないでよ、ネウロ!!』

 誰が撃つか! と笛吹がツッコむ前に、電話はあちら側から切られた。

 そうして───いつの間にか静まり返った空気の中、向こうから静かに聞こえて来たのは、2人分の靴の音。
 それなりの体重があり、歩幅が大きい人間のものと。明らかに軽重量で、軽やかな感じさえする子供のもの。その2人分の足音がゆっくりと、こちらへ近づいてくる。

 コツ・・・・・コツ・・・・・コツ・・・・・。

 周囲に控えているのは、防御服やら盾やらで重装備の自衛隊員たち。かく言う筑紫たちも念のため、防弾チョッキを身に着けている。
 だのに今、空母ハーヴェイ・オズワルドから現れた2人は、明らかに場違いな、無防備な姿だった。
 この真夏にきっちり黒手袋をはめ、スーツを着込んでいる青年の方はともかく、少女の方は、ごくごく普通の薄手の夏服に、いかにも華奢な体躯を包んでいて。
 少なくともたった2人きりで、テロリストに支配された空母に乗り込んだとは思えないぐらい、あまりに涼やかで頼り無げな姿だった。

 彼ら2人がこちらへ歩み寄って来る間、筑紫は身じろぎもせずとにかく、彼らの様子を観察する。

 ───間違いなく、脳噛ネウロと桂木弥子だ。多少の汗や砂埃にまみれてはいるが、外見上怪我をした様子はない。服装の乱れも、無い。表情はかなり強張っているが、心配したほどの怯えはない。

 周囲に気を払いながらも、筑紫は顔なじみ2人の無事に、ホッと胸をなでおろした。その雰囲気に気づいたのか、ふと弥子がこちらを見やる。
 が、筑紫とまっすぐ目が合った途端。

 ガクン!

 いきなり弥子は膝から、その場にしゃがみこんでしまった。そしてそのまま、立ち上がれなくなる。

「先生!」
「桂木探偵!?」
「あ、あれ・・・? な、何か変だな。いきなり足とか、何か、重くなっちゃって・・・ゴメン、さっきまでちゃんと、歩けたのに・・・」

 そう言いながらも、段々途切れ途切れになっていく彼女の声。目も、どこかうつろになって行って。
 そのまま力なく、頭から倒れるところを、ネウロが優雅な仕草で抱きとめた。

「桂木探偵!」
「ああ・・・大丈夫ですよ。多分、笛吹刑事たちの顔を見て安心したから、緊張の糸が切れちゃったんでしょう。結構ハードスケジュールでしたし」
「本当に大丈夫なのか? かなりぐったりしているが」
「ご心配なく。先生は僕が体を張って、ちゃんとお守りいたしましたから。その代わり、空母にいた隊員さんたちとかちょっと怪我させちゃいましたけど、まさか過剰防衛とか言いませんよね?」

 ニッコリ、と胡散臭い笑顔を見せるネウロに、笛吹は渋い表情になる。・・・いかに有能で狡猾な弁護士でも、主張できるはずがない。空母に配属された隊員全員に襲われた2人が、必死に抵抗した結果が過剰防衛だ、とは。陪審員も満場一致で、正当防衛を認めるだろう。
 分かりきったことを論じるのは時間の浪費。それ故にだろう、笛吹がネウロに尋ねたのは別のことだった。

「・・・では、今なら空母の中は自衛隊でも制圧できるというのだな?」
「ええ、多分。でも急いでくださいね? 一応皆気絶はさせましたけど、時々タフな人はいるものですから。彼らが正気を取り戻す前に、早いところ確保しちゃってください。
あ、それと、先生がおっしゃってましたが、電人HALから電子ドラックの正式なワクチンを預かっているそうです。まだスーパーコンピューターの中ですが、そちらも確認した方がよろしいですよ?」
「ワクチンだと!? それを早く言わんか!」

 笛吹がそう怒鳴ると同時に、待ち構えていた自衛隊員が一斉に空母の中へと駆けて行く。連絡を受け、救急車がサイレンの音と共に駆けつける。
 東京湾は今までの静けさが嘘のように、ひどくあわただしくなった。

 ネウロは優しい仕草で弥子を担架に横たえた後、彼の手当てをしようとする救急隊員を断って、笛吹たちの前に立った。

「まことに申し訳ありませんが、しばらく先生をお預けしてよろしいでしょうか? 笛吹刑事。僕はこれから、色々とやらなければいけないことがありますので」
「やらなければいけないこと? 探偵を放ってか?」
「要は事後処理ですよ。こればっかりは、他人を当てなど出来ませんから。・・・では、先生をよろしくお願いします」

 そう告げるが早いか、ネウロは足早に歩き出す。筑紫も慌てて彼を止めようとしたが、ちょうどそこに目ざといマスコミ関係者が現れ、ネウロの姿を見失ってしまう。


「質問に答えてください! 自衛隊が突入したということは、何か進展があったということですか?」
「先ほど東京上空で起きた爆発は、このことと何か関係があるのですか?」
「何か教えてくださいよ!」
「ノーコメントだ! 今は一切応えることが出来ない!! 後で正式発表を行うから、それまで待て!」

 怒涛のごとく押し寄せるマスコミを何とか巻いて、筑紫は笛吹を車に乗せ、発進させる。その後に、弥子を乗せた救急車が続く。
 しばらく沈黙が続いた後、笛吹は眼鏡越しにこめかみを押さえながら、独り言のように呟いた。
 
「・・・つまりあの助手は、あのマスコミ攻勢からも探偵を守れ、と言いたかった訳だな?」
「そのようですね。確かにその方が安全ですし、どっちみち警察の方で桂木探偵を保護しておいた方が、二度手間にならないでしょう」
「色々聞かねばならないことがあるからな。面倒なことだが・・・とりあえず当面の危機は去ったのだから、贅沢は言えまい」

 どこか安堵感を滲ませた声で、笛吹はそう告げ、再び黙り込んだ。筑紫も、それきり運転に専念した。


 長い一日の、始まりである。


≪続≫


*******

※本来だと案外空母の中って治外法権とかで、自衛隊とは言えどもそう簡単に入れないのかもしれませんが、まあ緊急事態だ、ってことで。それにしてもこの連載当時はまだ、防衛「庁」だったんですなー。読み返して見ると。・・・まあこの方が、フィクションとして都合がいいかも。

注意:この作品の無断転載及び盗用流用等、断固禁止いたします。





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