ちゃんちゃん☆のショート創作

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天才ってヤツは・・・ モン◎ーターン
2005年11月28日(月)

 実は別所にて蒲生さんについての考察を書いている最中なんですが、ふと思いついてしまったことがあったので、書いてみました。
 別名「仙人・蒲生の悲喜こもごも」。純くん(岸本寛)視点です☆
 実際はそこまでビデオテープを酷使しまくることはないのかな? とも思うんですが、ま、その辺はご都合主義、ってことでv でわ。


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 僕たち競艇選手って、よく競艇のレースをビデオテープで録画したりするよね?
 自分のレースを振り返ったり、これから戦う選手の力量を調べたりするために。それこそ何回、何十回も繰り返して、見たりもする。
 だから当然、酷使され続けたビデオテープはそのうち画像劣化した挙句、切れたりして使い物にならなくなってしまう。
 それに、保管場所だって案外取るし。

 もう少しこの辺、どうにかならないかなー? とか思ってたんだけど、最近の文明の進化ってホント、凄いと思わない? もっとコンパクトに録画できるものが出来たんだから。

 だからこの際その、ハードディスク内蔵型のDVDレコーダーを買おうかな、って考えてたんだ。
 ハードにもそれなりに録画は出来るし、DVDディスクならそんなに保管場所も取らないし、ビデオテープよりは断然長持ちする、って話だし。
 それで休みの日なんかに、あちこちの量産店へ行ってパンフレットを手に入れて。
 今日の斡旋にもそれらのパンフレットを宿舎に持ち込んで、暇な時間に検討しようかな、って思ってた。もしDVDを使ってる人がいたら、その人の意見も参考にできるじゃない?

「へえ・・・今は色んなタイプのがあるんだなあ。面白えー」

 早速ノってきたのは波多野君。もっとも彼の場合今のところVHS派で、DVDはまだ買っていないらしいけど。

「フンフン。こっちのは目次の参考画像に、好きなシーンのを選べるのかあ」
「波多野君・・・別に永久保存するわけじゃないんだから、そんなに目次に凝らなくてもいいと思うけど?」
「え? そうか? 目次ページの画像だけでも、結構楽しめるんだけどなあ」

 波多野君たら、一体何の番組を録画するつもりなんだろう・・・。

「お取り込み中スマンが、こっちの席、ええか?」
「あ、蒲生さん」

 波多野くんの声に顔を上げると、そこには両手に食事のトレイを抱えた香川の蒲生さんが、笑って立っていた。どうやら相席希望らしい。
 僕は一向に構わないから、愛想良く返事をした。

「ええ、どうぞ」
「スマンの」
「蒲生さん、今日のレースもいい調子でしたねー」

 パンフレットをめくりながら、波多野君は席に着いた蒲生さんに話しかける。

 この蒲生、って人は以前までは一般戦にばかり出ていたんだけど、最近SGに復帰し(随分昔に優出したことがあるらしい)、頭角をあらわして来た人だ。波多野君はよく一緒のSGに出て、勝ったり負けたりを繰り返している、言わばよきライバルの一人・・・って言ってもいいのかな? 先輩だけど。
 あいにく僕は、時々一緒のレースになったりはするものの、もっか連敗中。
 強いんだよね、この人って半端じゃなく。
 噂によるとその強さと来たら、あの艇王・榎木さんまで一目置いてる、って話なんだ。波多野君と一緒にこうやってたわいもない話をしてるの見ると、ちょっと想像つかないんだけどさ。

 そんな蒲生さんが、食事を一段落させた頃、ふとDVDのパンフレットに目を留める。

「そういや、さっきからお前ら何熱心にやっとるんじゃ?」
「ああ、純がビデオやめてDVD買おうって言ってるんですよ。それでパンフレット見て検討してるんだけど・・・蒲生さん、何かお勧めの機種、ありますか?」

 波多野君はお愛想ついでにそう言ったけど、実はさほど蒲生さんの意見を当てにしてたわけじゃない、と思う。
 でも、だからって。まさか蒲生さんがこんなこと言い出すなんてことは、さすがに予想外だったんじゃないかなあ?

「でーぶいでー? ・・・なんじゃそら? 怪獣の名前か何かか?」

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 一瞬。
 食堂内の空気が固まった、と感じたのは、絶対僕の気のせいなんかじゃない。
 はじめの衝撃が収まったんだろう。波多野君は慌てて説明を試みてる。

「あ、あの、蒲生さん? でーぶいでーじゃなくて、DVD。CDみたいのにTV番組録画するヤツですって」
「はあ? CDにどうやって録画するんじゃ? どうやってCDプレイヤーで再生するんじゃ? テレビにCDプレイヤー繋ぐんか?」
「い、いえ、そうじゃなくてですね・・・」

 ・・・ああ、みんなこっち注目してるよ。興味津々な顔で。見ないフリはしてるけど。

 だって蒲生さんだよ?
 SG2つも獲ってる蒲生さんが、だよ?
 今どきDVDを知らないなんて、何の冗談だって思っちゃうじゃない。

 でも、だったら蒲生さんってどうやって、レースごとの作戦立てたりするんだろう?

「こっち相席、かまわないかな?」

 僕が混乱と動揺で頭を抱えてたら、また頭上から声がかけられた。
 慌てて起き上がったら・・・そこにいたのは艇王・榎木さん!?

「ど、どうぞっ!」

 ・・・声が上ずってるの、勘付かれたかな?

 波多野くんや洞口くんだと、よくSGで戦ったりしてるからそんなに気後れもしないんだろうけど、僕にとっての榎木さんって、まだまだ雲の上の存在だから。

 榎木さんは苦笑らしきものをちょっとだけ浮かべ、食事のために席に着く。
 と、さっきまで波多野君と漫才会話(にしか聞こえない☆)を繰り広げていた蒲生さんが、何の屈託も感じられない声で榎木さんに声をかけた。

「おお、榎木ー。ちょうどええところに来たわ」

 聞いた話によると、蒲生さんって榎木さんの1期先輩で、新人時代から仲が良かったらしい。僕じゃ緊張するしかない榎木さん相手に、こうも自然体な会話ができる辺り、何だか納得気分だ。

 それで榎木さんは、と言うと。
 どうやら、蒲生さんが僕らと相席していたことには気づいていたみたいで、声をかけられたこと自体はそんなに驚いていなかったんだけど。
 声につられて蒲生さんの方へ顔を向けた時、ちょっと怪訝そうな顔になった。

「・・・? 蒲生さん、一体波多野に何やったんですか? 随分疲れてるみたいですけど」

 見れば、もはや説明に疲れ果てた、と言わんばかりの波多野くんがテーブルに突っ伏している。

 気持ちは良く分かるよ。うん。

 そんな僕らの気持ちを知ってか知らずか。
 蒲生さんは再びこの場に、爆弾を投下してしまったのである。あっさり、しれっと。

「イヤ、何や分からんことがあっての。波多野に説明してもらっとったんじゃ。
なあ榎木、でーぶいでーって・・・何や?」

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 皆が固唾を呑んで見守る中。
 榎木さんは予想通り、数秒間見事に固まった。
 が、さすが艇王というべきか? 僕らよりは幾分か早く立ち直り、もう一度蒲生さんに確認する。

「DVD、ですか?」
「おお。よお分からんきに」
「・・・・・・。またですか、蒲生さん」

 苦笑と諦めとがない混ざった、それはそれは複雑な笑みを浮かべながら、榎木さんはため息をついた。
 その言葉に、今まで疲れ果ててたはずの誰かさんが、すかさず復活。

「あの・・・榎木さん?『また』って、どういう意味なんです?」

 よしっ、波多野君ナイス!
 僕らみんなが疑問に思ってることを代わりに聞くのは、君に一任したからねっv

「言葉の通りだよ、波多野」

 どこか笑いをこらえたような顔で、榎木さんは波多野君に答えてくれる。

「私たちがまだルーキーの頃だったかな。やっぱり斡旋先の食堂で、こんな風に私を呼び止めて、この人が聞いてきたんだよ。『VHSって何か?』って」

 その途端。
 よせばいいのに僕の想像力ってば、「さっき僕らに聞いてきた表情そのまんまで、ルーキー時代の榎木さんに尋ねる蒲生さん」って言うのを、瞬時に頭の中で形成してしまったんだよね。

『なあ榎木、ぶいえいちえすって・・・何や?』

 ・・・ぷっ☆

 どうやら同じくその光景を、つい思い描いてしまったんだろう。食堂のあちらこちらで、失笑をこらえているのが聞こえてくる。

 ・・・みんな聞き耳、立ててたんだな、やっぱり。

 周囲の空気に気づいていないのか、榎木さんはチラと蒲生さんを見ながら、気安い関係の人間ならではの軽い、悪態をつく。

「今どき信じられないことに、この人と来たら、家にテレビもビデオも置いてない時期があったんだからね」
「ええ!? でも以前お邪魔した時には、ちゃんと置いてあったはずじゃ・・・」
「あの直前に買い揃えたんだそうだ。必要に駆られて」
「何じゃ? 波多野まで。そーんなに悪いんか? テレビとかビデオとか家に置いとらんのが」

 すこーし気分を害した感じの蒲生さんが言葉を挟むも、この場の滑稽さに似た空気が拭い去れることはない。

「そういう意味じゃありませんよ。我々が競艇選手じゃないのなら、それもアリでしょうけど・・・」
「そ、そうか! だったら蒲生さん、どうやってレースの作戦立てたりしてたんですか? 相手選手の傾向とか、研究しようがないでしょ?」

 至極ごもっともな質問を波多野くんがぶつけるも、蒲生さんはきょとん、としている。

「事前に作戦立てたりは、せえへんもん。その場その場でレース見て臨機応変に直感で、こうすればええか、って思うだけで。だからビデオなんか、いらへんやんか」
「・・・そういうことができるのは、蒲生さんぐらいですって・・・」

 既に榎木さんは、笑いをこらえきれていないし。
 波多野君と来たら、あんぐりと口が開きっぱなしになっている。

「そ、そう言えば以前、勝木と一緒の時言ってましたね?『エースペラ1枚あれば、あとはモーターをそれに合わせて整備すれば何とかなる』とか、何とか・・・」
「ええ!? 何だよそれ? じゃあ蒲生さんて、ペラの予備持ってないんですか!?」

 波多野くんからの「証言」に、僕は思わず口を挟んでしまい、周囲の注目を浴びてしまう。
 でも、幸いにも蒲生さんは、咎めたりはしなかった。

「おお、持っとらんかったぞ。ペラ作りっちゅうて何や、メチャクチャ苦手でのー」
「・・・威張れることではないと思うんですが」
「ギャグなんかじゃなくて、マジだったんスね・・・エースペラ壊したから『仕方なく』ペラ小屋行った、って言うのは」

 榎木さんは苦笑で答え。
 波多野くんは理解できない! とばかりにうんざりしたような顔になっている。

 無理ないけどね。波多野くんって、ペラ作りの師匠として古池さんのところへ弟子入りするまで、結構苦労してるから。
 おまけに、古池さんに弟子入りした後もしばらく『勝手にペラを叩くな!』って約束させられていて、その直後にエースペラを壊したりしてたっけ。

 ペラがそこそこでもモーターを調節してレースに勝つ───なーんて蒲生さんの破天荒ぶりは、信じられないの一言なんだろう。・・・僕だって信じられないけど。

 しかし、競艇選手って言ってもホント、色んな人がいるんだなあ。

 妙に新鮮な気分で、食後のコーヒー中の蒲生さんを眺めていたら、こちらは食事中の榎木さんに、何故か声をかけられた。

「確か君、岸本くん、だったっけ?」
「は、はい、榎木さん。岸本寛って言いますっ!」
「波多野から、時々噂は聞いてるよ。努力家で、コツコツ地道に成績を伸ばして来た、自慢の同期だって。今節、随分頑張っているようだね?」

 うわ、榎木さんが僕のこと知ってたなんて!
 それも波多野くんが、僕のこと自慢の同期だなんて言ってたなんてっ!!

 二重の意味で感動していたら、榎木さんの表情が徐々に、何とも複雑なものへと変化していくのが見て取れて、首をかしげる。

「まあ・・・岸本くんが興味を示すのは、無理もない話か」
「は?」
「イヤ、レーサーとしての蒲生さんに」
「え、ええ」
「一つ、私から偉そうに忠告させてもらうが。

絶対、蒲生さんみたいになろうなんて、考えない方がいいよ?


 何やら榎木さんは、やけにしみじみとした口調で僕に言う。

「君には君の良さがあるし、他人のやり方を真似しようったって、身につかないのが普通なんだ。
天才を模倣しようなんて、止めておいた方が身のためだからね?

 ・・・イヤ、別に真似しようなんて考えていたわけじゃ、ないんですけど。

「そら、どう言う意味じゃ榎木。なーんか引っかかる言い方やのお」
「一足飛びに蒲生さんみたいになろうなんて、常人には不可能だ、って言う意味ですよ。時々分かってない若手がいるからなあ・・・」
「『艇王』のお前が言うても、説得力がないんと違うかあ?」
「俺はれっきとした努力型ですよ。蒲生さんを模倣しようなんて、そんなの恐れ多くって」
「だーかーら、そういう言い方が引っかかる、っちゅうんじゃ」
「誉めてるんですけどね、一応」


 やいのやいの、と蒲生さんが榎木さん相手にじゃれてる(失礼かもしれないけど、そうとしか見えないのは何で??)のを尻目に、僕はついため息をつかずにはいられなかった。


 榎木さん。僕は絶対、大丈夫ですって。
 だって、さっきから聞いていて、所謂「天才」ってヤツには絶対、ついていけないって思いましたもん。努力が一番ですって、うん。

「? 何だよ純。俺の顔に何か付いてるか?」
「何でもないよ。たださ、『天才じゃない人間』と『普通の人間』って、同じじゃないよねって思って」
「は?」

 そう。僕は普通の人間だ。だけど努力だってしているし、ちゃんとコツコツと上達もしている。
 蒲生さんや、あるいは波多野くんたちとは違った道のりでも、きっと勝利はつかめると思うんだ。

「いつか追いついて見せるからね、波多野くん」
「???」

 誰のものでもない、僕のやり方で。

《終》


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※何やら最後が、純の青春譚のよーな。ま、いいか。
ちなみにVHSが何たるかを知らなかった蒲生さんですが、別にビデオのことまで知らなかったわけじゃないです。単にビデオが「VHS」と呼ばれているのを、知らなかっただけですんで。念のため。(かつてのち☆ がそうだったんで)




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