東行庵の軒下で

2008年01月27日(日) 昔々・・

昔々・・


醜い使い魔は、見よう見まねで一着の服を作った。

醜い自分から、美しい物を産み出したかった。


主である悪魔や、ときには人間にも服を作り続けた。


服が人をきれいに見せるわけではなかった。

着る人の力を借りて、自分の服が綺麗に見えている。


自分同様に、半人前の服だったが、それでも、充分だった。



ある日、人間が使い魔を呼び出し、服作りを頼んだ。


呼び出した人間は、何人もの家臣と城を持つ王族だった。


いままで、何かを頼まれたことなど無かった醜い使い魔は、うれしかった。


いくつもの服を作った。

光をはじくダイヤモンドのビーズ。軽やかに踊って、足元で空間に溶けるシルク。


しかし
愚かな使い魔は、服だけを求められている事に、気が付いていなかった。


気が付きたくなかったのかもしれない。



自分たちの手のひらで躍らされる醜い化け物の姿は、


さぞや滑稽だったはず。


用が済むと、人間達は姿を消した。




人間界に行くには、それなりの代償が必要となる。

非力な使い魔にとって、それはかなりの魔力の喪失。


そこでやっと目が覚めた。


自分の姿は以前とかわらない、ただの使い魔。

そして、利用されたことを絶望するほど、愛してなかったのかもしれない。




時がたち、主の館を離れて暮らす使い魔を、またも人間達は呼び出した。

今度は拒絶できない結界の中に。




利用されるのをわかっていて、使い魔は承知した。


服を作った。



繊維に漆を織り込み、毒真珠のビーズで刺繍を施した。

レースのフリルの間に、吸い込めば幻覚作用を引き起こす麻薬の粉をまぶし、服の裏地には、触れた皮膚からもゆっくりと猛毒が入り込む「呪われた竜の血」を塗りこんで仕上げた。



醜い使い魔は、醜い服を仕上げた。


しかし出来上がりの醜さは半人前だった。



後の半分は、その服を着た者達によって補われた。


もがき苦しむツメに引き裂かれたレース。

かぶれ爛れた皮膚からにじみ出る琥珀。

のどから吐き出す深紅のルビー・・・




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