Missing Link

2005年05月12日(木) とどめ

「別に」

 自分の事を相当不幸だなんて思ってない。
 皆似たような中身、分量の不幸にみまわれてる。

「なのになんであんな涼しげな顔をして歩いてるんだよ?」

「お前がバカだからだ・・・で終らせたら哀れなんで一言」

 すべてはタイミングだ。

 人間は四六時中不幸について、
 また、その源について考えたら自分以外の何かのある場所を歩けない。
 精神的にも物理的にもそれは不可能だ。
 だから『お前』という背景のある場所では、
 他人は不幸より、お前のが気になるんだよ。

 それに・・・ 

「お前だって、端から見れば充分幸せそうだよ」



2005年05月06日(金) ひとりよがりの彼女


 バイトの時、携帯電話はロッカーに入れた鞄の中。
 彼には『ダセッ』とかイライラしながら言われたけど、
 仕事中に自分宛のメッセージは読みたくない。
 だって返事できない。
 すればいいと彼なら言う。でも授業中だって携帯切っておくでしょ?
 授業中よりバイト中の方がマジメにしなきゃ。
 だって授業にはこっちがお金払ってるけど、バイトはお金もらってるんだもん。当然。
 お金の大事さは正直まだ分かってないと思う。
 でもお金をもらうのは好き。自分で働いた自分のお金。
 学校行くより、バイトしてる方が好きだって言ったら、友達なくすかな。


 よくあるハンバーガーショップ。
 でも制服は割合カワイイ。好き。
 イヤなお客さんもいる。イヤな先輩とかも。
 でもこの間、大学生くらいの男の人にオツリ渡した手ごと掴まれて怖くて頭止まったら、次のお客さんが「まだ?急いでるんだけど」って言ってくれた。

 嫌なお客さんは舌打ちして離れて行ったけど、まだこっち見てるのが分かった。
 そうしたら、次のお客さんは色々、新しいメニューの味とかセットメニューに付くものとか質問して、それに応えているうちに落ち着いてきて、ようやく決まったオーダーを復唱した時には、嫌な視線は消えていた。

 嬉しかった。
 アタシはちゃんと覚えてる。
 そのお客さんは土曜か日曜のシフトになると、時々見かける人だ。
 アイスコーヒーと、時々フレッシュバーガー。
 いつも同じオーダーしかしない。
 本を開いて、ゆっくりと座っている人。


 今日も来てる。
 珍しくお友達と一緒だ。
 同い年くらいの男の人。きっと社会人。いくつくらいだろう?
 恋人とか、いるんだろうか?
 でもお休みの日に、男の友達とお茶してるならいないかもね。
 お友達はカッコいいタイプだ。
 笑ってる。もてるだろうな。アタシのカレがオトナになったらこんな風になりそう。
 でも、どっちかと言うと、カレにはアタシを助けてくれた彼みたいになって欲しい。
 アタシは本が好きだから(そう言うと彼は「暗い」って言う)、
 一緒に本屋さん行って、帰り道にこういうお店に寄って、選んだ本を見せ合ったりしたい。
 誰にも言えない、友達にも「おかしいよ」って言われるから言わない『夢』だ。


 なのに何で今のカレと付き合ってるんだろ?
 簡単なんだけどね。外見いいし、お金もってるし、皆羨ましがってくれるから。
 醜い、みっともない、アタシの心。
 『夢』なんて語る資格ないよ。


 二人のお客さんは時々話して、時々黙って座ってる。
 いいな。
 あんな風に、誰かと静かな時間を一緒にすごしたい。
 コスメもゲームもケータイもいらない。
 でも一人になりたくない。


 彼らが席を立った。
 その背に「ありがとうございました」と言うと、お友達がこちらを振り返って、彼もつられたように振り返った。
 少し笑っているようだった。
 胸に灯りがともったような気がして、気がついた。
 カレが怒るの知っていて、連休にバイトを入れたのは、あの人に会えるかもしれないと思ったからだ。


 お休みが終ったら、カレと距離を置こう。
 そのままできたら忘れてもらおう。
 バイトを増やそう。
 勉強もしよう。
 忙しくなる。
 つまらないミエより大事なものが見つかったのだ。



2005年05月05日(木) よくある話

 『だったら君が一人でいる理由を聞かせて欲しい』と彼は言った。



 僕の両親は仲睦まじいとは御世辞にも言えない人達で
 僕がいるから離婚が出来ないと
 僕が聞いているかもしれない場所で言い合う人達だった
 (実際聞いてたけどね)

 僕には兄弟がいて
 彼女は両親のような家庭は決して作らないと言って結婚した
 僕は無論それには異存がなかったが
 『それじゃあなたは?』と問われる瞳には見ない振りして笑った

 僕は怖かった
 永遠を誓い合った相手と罵り合う事が
 そんな可能性のある他人と永遠なんて誓えなかった
 例えそれが偽りなら尚更に



 ・・・そんなよくある、気の滅入る話は
 こんな天気の良い、気持ち良い日に
 相手が誰であろうとしたい筈もなく

「一人でいるわけなんてないよ。まだ、たまたま一人なだけさ」

 僕がそう言うと、彼は適当な相槌を打って笑った。
 だけどその笑みは、どこか困ったように見えた。
 本当の事を言っても、同じ表情を浮かべるだろうかと何となく思った。




2005年05月04日(水) 昼下がりのカフェ


 天気の良い五月の昼下がり

 適度に空いたコーヒースタンドで一人
 古本屋で買ってきた1冊百円の文庫本を読みながら
 ハンバーガーを齧りながらアイスコーヒーを飲んでいる自分が
 一番幸せなんだと思う



「それが君が一人身な理由?」
「理由にならない?」
「・・パートナーの一人の時間を尊重する人もいるよ?」
「誰かを待たせていると思うとくつろげない」
「優し過ぎてわがままだね」
「その人と一緒にいる時間が『一番』じゃなきゃ相手に失礼だと思う」
「現実的じゃないな」

 彼は諦めたように笑って断罪した。

「一生一人でいたまえ」
「だからそう言ってるじゃないか」
「でも結婚式には呼んでくれ」
「それは矛盾した希望だろう?」
「君のそのひとりよがりに付き合える相手なんて、
 会ってみたいに決まってる」
「ひどいな」
「だからいつも言っているじゃないか」

 僕は思わず笑ってしまった。



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