「硝子の月」
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「まぁ、ルウファさんは『魔法王国』の出身でいらっしゃいますの?」 彼女の手料理に舌鼓を打ちつつ、口元に手をやったアンジュが上品に驚く。 テーブルには彼女等の他に指に何カ所か絆創膏を巻いたリディアが着いていた。 「ええ。もっとも、小さい頃からあちこち旅してましたから、あんまり故郷って感じもしないんですけどね」 「他の皆様もそうですの?」 「さぁ。あ、ティオは『第一王国』出身だと思います」 「互いの出自も知らずに一緒に旅をしているのですか?」 ルウファの応えに、リディアがまた胡散臭そうな視線を向ける。 「だって、そんなことあまり重要じゃありませんから」 彼女は赤い瞳を細めてにっこりと笑った。 「まぁ、結構ぽんぽん魔法使ってますから、彼等もあたしの出身は察しが付いてるんじゃないかと思いますけど」 「素敵ですわ。皆さん仲間を信頼してらっしゃいますのね」 きらきらと瞳を輝かせるお嬢様に気付かれないように従者がまた溜息をついたことはさて置いて。 「小さい頃から旅をされていたということは、こちらの建国祭も初めてではありませんの?」 「いいえ、首都で迎えるのは初めてです。それに実は『第一王国』の建国期も余り詳しくは知らなくて……もしよろしければお話しいただけませんか?」 ルウファのお願いに、アンジュは「喜んで」と応えた。
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