「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
からからからから… 乾いた音を立てて糸車が回る。 白い少女の手が糸を紡いでいる。 からからからから… 先日教えてもらったばかりの物語を小さく繰り返しながらのその作業が、ふと止まる。 から…… 同時に糸車も沈黙した。 石造りの簡素な部屋に、静寂が満ちる。 何かを思案するような時間が流れ、 「――――」 少女は何事かを呟いたようだった。可憐な唇が幾つかの形に動いた。それは確かに、何か短い言葉を発したようであった。 しかし、それを見た者も聞いた者もいない。この部屋にいるのは全身を白い薄布で覆ったかのようなその少女のみである。 ……からからからから… やがて何事もなかったかのように糸車が回りだす。少女の唇が紡ぐのは先程までと同じ物語でしかなかった。
|