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2003年07月05日(土)
■『不在の鳥は霧のかなたへ飛ぶ』 ★★★☆☆

著者:パトリック・オリアリー  出版:早川書房  ISBN4-15-011444-7  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
1962年の晩夏、小麦畑で寝ころがっていた少年マイクとその弟ダニエルは、空飛ぶ円盤を目撃し、ふと気がつくと秋になっていた……40年近くが過ぎ、CM監督となったマイクと英文学教授のダニエルは、二人とも死んでいた。だが、どちらも死んだことは自覚していない。二人をそれぞれに訪れた謎の男タカハシが、疎遠になった兄と弟にお互いを見つけだすように脅すが……P・K・ディックの後継者と評される著者の話題作

【内容と感想】
 奔放な性格で満足することを知らないCMディレクターのマイク。生真面目でお人好しな教授のダニエル。タイプが正反対の二人には、お互いの間で口にするのもはばかられる秘密があり、性格の違いもあって、常にいさかいが耐えなかった。二人は両親を知らず、叔父に育てられて来た。子供の頃常に一緒でかばいあっていた二人は、どちらかが死ぬと一緒に死ぬと誓った。そして二人は共に死んでいた。

 しかし二人とも自分たちが死んでいることに気がついていなかった。彼らの記憶のコピーはエイリアンによって、なんとハチドリ(!)にバックアップされ、死や空腹などから解き放たれたバーチャルなユートピアにいた。次第にその世界のルールが明らかになっていき、それと絡み合って、マイクとダニエルの子供時代に何が行われていたのかが明かされていく。二人は「越境者」と「矯正者」に分かれて、殺しあう。


 かなり突拍子もないストーリーである。しかも話の内容が過去や現在に飛んでいて、説明もないまま謎の部分に触れられているため、何がどうなっているのか戸惑う。しかし読んでいくうちに、ジグソーパズルのピースが一つずつ当てはまって全体が見えてくるように、状況が少しずつ分かってくる。それらの伏線は巧妙に張り巡らされていて、伏線とは思ってもいなかったものまで開いた穴に見事にピタリとはまってくる。

 子供の頃は愛しあいかばいあってきた仲の良かった兄弟。いつの間にか心の離れてしまった兄弟。しかし最終的に、血を分けた兄弟であるという絆、ただそれのみが残り、二人は和解しお互いを理解しあう。

 全体を流れる雰囲気は、人生の苦悩が織り込まれているため陰鬱で重苦しい。あまり万人向きの作品ではないと思うが、それなりにいい内容で、面白かった。

こんな旅はくりかえしたくない。一度で充分だ。一度でも多すぎるくらいだ。長い旅の末に発見したのは、死のおそろしい美しさだった。けれどもその価値はあった。その過程で自分自身を発見したのだ。(本文より)


 原題は『The Impossible Bird』で、本文中に『ありえない鳥』というタイトルの本の話が出てくる。『不在の鳥は霧のかなたへ飛ぶ』というタイトルのイメージも好きなのだが、やはりタイトルはそのままの邦訳のほうが良かったのではないだろうか。


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