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2002年12月01日(日)
■『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(上・下) ★★★★★

著者:J・K・ローリング  出版:静山社  [FT]  bk1

【あらすじ】
(上巻カバー折り返しより)
 魔法界のサッカー、クィデッチのワールドカップが行なわれる。ハリーたちを夢中にさせたブルガリア対アイルランドの決勝戦のあと、恐ろしい事件が起きる。そして、百年ぶりに開かれる三大魔法学校対抗試合に、ヴォルデモートが仕掛けた罠は、ハリーを絶体絶命の危機に陥れる。しかも、味方になってくれるはずのロンに、思いもかけぬ異変が…。

(下巻カバー折り返しより)
 クリスマス・ダンスパーティは、女子学生にとっては待ち遠しいが、ハリーやロンにとっては苦痛でしかなかった。ハーマイオニーのダンスのお相手は意外な人物。そしてハグリッドにもパートナーが?三校対抗試合の緊張の中、ロマンスが飛び交う。しかし、その間もヴォルデモートの不気味な影がホグワーツ城を徘徊する。ほんとうに怪しいのはだれか?難題を次々とクリアするハリーだが、最後の試練には痛々しい死が…。

【内容と感想】
 映画化されたことで人気に拍車がかかり、いまや売れまくっているハリー・ポッターシリーズ。4巻目にあたる『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は映画放映後に初めて訳された巻だったこともあり、店頭に大量に並ぶこととなった。上下2冊のセット売りのみだったが、それでもかなり売れたようだ。確かに同じ作品だから上下セットで購入してもらいたいという出版社側の思惑は分かるものの、2冊を同時に買うのは重いし、セット以外の選択肢がないのはどうかと思う。


 ハリー・ポッターは魔法使いである。孤児としてマグル(人間)の親戚のバーノン一家に引き取られ、一家から意地悪な扱いを受けながら暮らしていた。11歳になった時、魔法学校ホグワーツから入学案内が届き、ハリーは自分が魔法使いであることを知らされた。今まで人間の世界のみで育てられてきたハリーは魔法の世界のことを何も知らなかった。しかしハリーは魔法界では実はちょっとした有名人だった。というのもハリーがまだ赤ん坊だった頃、多くの魔法使い達を恐怖に陥れた最強の闇の魔法使いヴォルデモートに命を狙われたにも関わらず、生きのびたからである。 ヴォルデモートはハリーの両親がハリーを護るためにかけた魔法に滅ぼされ、魔法界には平和が訪れた。けれどもその時の戦いでハリーの両親は命を落とし、ハリーの額には稲妻型の傷痕が残ったのだった。

 孤児で、何の変哲もなく、いじめられていた少年が、ある日いきなり有名人となり、ねたみや嫌がらせを受け賞賛をあびる。また危険な戦いに巻き込まれ、親友や信頼できる人々の助けを借りながら勇敢に戦い、両親の死の謎に迫る。ハリー・ポッターシリーズはそんな物語である。

 このシリーズは、1巻につき1年が経過する構成となっている。夏休みにバーノン家でひどい扱いを受けることから始まり、ホグワーツでの1年間の事件や授業の様子や学生生活が描かれ、再び夏休みにバーノン家の元へ帰っていくのである。魔法の世界の奇妙な日常生活がそこでは繰り広げられる。また再び活動し始めつつある闇の魔法使い達の企てに、ハリーは運命に導かれるようにして次第に巻き込まれてゆく。


 4巻目にあたる『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』では、冒頭で不吉な事件が起こる。ハリーは恐ろしい夢を見、額の傷痕の痛みで目が覚めた。ハリーは14歳になっていた。ホグワーツ校に通い始めて4年目である。この年は、魔法のほうきを使ったスポーツ、クィデッチのワールドカップがハリーの住むイギリスで行われ、ハリーは親友のロンの家族に連れられて観戦に行く。そこでヴォルデモートの闇の印が空に描かれる事件が起こった。

 ホグワーツ校ではその年、一大イベントが計画されていた。楽しいイベントとなるはずだったのだが、密かに復活しつつある闇の企みにより、ハリーはそのイベントに年齢制限の枠を超えて参加するはめになった。おかげで注目の的となったハリーは、絶え間ない注目だけでなく、ねたみや嫌がらせも受けることになる。

 その上イベントは危険で、ハリーは様々な難題にぶつかっていく。彼をイベントに引っ張り出した張本人は誰で、何のためにそうしたか分からないままである。また学校の外の魔法省の周辺でもきな臭い事件が発生し、何かがたくまれている気配がしている。また、あることないこと書き立てる新聞記者の記事に皆悩まされる。

 ハリーは難関を越えようと頑張っていくが、持ち前の正義感や優しさのため、他人を放っておけない。対立していた人達もハリーのその態度に次第に協力者へと変わって行く。色々な人に助けられつつ課題をこなしていくハリーだったが、思いもかけない罠にはまり、危険の真っただ中へと引きずり込まれるのだった。


 この巻は今までよりずっと長編となっていて、ハリーの身に迫る危険も今まで以上に危ないものとなっている。生死をかけた対決の場面は迫力があり、面白い。また最後まで闇の陣営の協力者が誰だかわからず、読みごたえがある。

 作者は伏線の張り方が巧妙で、1〜3巻で出てきたことがうまくこの巻で生きてきている。今回はハグリッドやルームメイトのネヴィル、いじめっ子のマルフォイ達のことが少しずつ明かされていて、興味深い。また、冒頭の10数年前の事件でハリーに似た少年が目撃されているが、今回の話ではその伏線が完結していない。今後の巻で明らかになるかと楽しみである。2001年のヒューゴー賞を受賞。


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