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2001年11月13日(火)
□『友なる船』 ★★★☆☆

著者:アン・マキャフリー、マーガレット・ポール(共作)  出版:東京創元社  [SF]  bk1

【あらすじ】(目録より)
卒業したてでいよいよ今日が初飛行の宇宙船、ナンシア。乗客の若者たちは、いずれもこれから新しい赴任先へ向かう良家の子女に見えた。ところが彼らの会話はどうも尋常ではない。良家とは名ばかりで、その実、欲に目がくらみ悪事をたくらんでいるやくざな連中だったのだから。幸先の悪いスタートにナンシアはどう出る?シリーズ第四弾。

【内容と感想】
 「歌う船シリーズ」の第4弾。今までもところどころで出てきた華族(ハイファミリー)という上流階級の人々が多く登場している。

 ハイファミリーの一員、ペレス・イ・デ・グラス家のナンシアは、選択の余地なくしてシェルピープルとなった。優秀な成績でアカデミーを卒業し、ブレイン船として初任務に就く。ハイファミリーの若者5人をヴェガ宙域のナイオタ・ヤ・ジャハ星域の星々まで送り届ける任務だった。

 ナンシアはブレイン船だと名乗りそびれ、5人の乗客から無人船だと思われていた。彼らはいずれも一族の中の厄介者で、それぞれの理由で僻地の工場などに送られていたのだった。彼らの話を聞いていてあまりの道徳観念のなさにあきれたナンシアは、ついにブレイン船だと告げずじまいだった。無人船と思って乗客達は、自分たちの赴任先でいかに儲けるかを語り、賭け始める。誰が一番成功するかが賭けの対象で、年一回確認の会合を持とうということになった。しかし儲けるための手段は犯罪行為だった。

 結局口をきく気にもなれず、無人船と思われたままナンシアは5人を目的地まで送り届け、帰りにブレインを亡くしたブローン、ケイレブを乗せる。船内でかわされた悪巧みをケイレブや仲間のブレインに仮定の話として相談したところ、意外にも、ブレイン船であるのを隠して情報を得たことは囮捜査ととらえられかねないとされ、倫理的に問題があると指摘される。

 ナンシアは、ケイレブの清廉潔白で完璧を期す性格に惹かれてパートナーを組み、特使サービスの仕事をこなしていった。ナンシアの仕事はハイファミリーに関わる仕事が多かった。一方乗客だった5人のハイファミリーの若者達も、それぞれの赴任先で活躍していた。似たもの同士お互い便宜をはかり合いながら、次第に5人とも利益をあげていくのだった。ハイファミリーのコネの中で、ナンシアはやがて彼ら5人の起こした事件の捜査にあたることになっていく。


 今まではブレインとブローンが2人だけで活躍する話が主だったけれど、今回はパートナーだけではなく、他の人達ともチームを組んで活躍する話となっている。絡んでいるのはいずれもハイファミリーの一員で、一般の人だと腐敗を暴くにもハイファミリーの資産や圧力に屈してしまいがちだからということらしい。

 ブレイン、ブローンの活躍だけでなく、5人の悪事とその事情が詳しく描かれ、それを捜査していく過程が見所か。優秀だが、甘やかされて育った若きハイファミリーの倫理観は低く、殺人さえも厭わない。自分の野望のために他人を利用することしか考えず、残忍である。しかし5人ともただ単に悪いというのではなく、それぞれの事情がある。また、微妙な状況では単純に規則に忠実なだけでは駄目な時もある。ナンシアは自分の倫理観とケイレブの倫理観の間で悩みながらも、成長し、バランスを取った考え方を身につけていく。規則一辺倒の清廉潔白なやりかただけでは解決しないこともあるのだと学び、大人になっていく。ナンシア自身の家庭の事情もところどころで出て来て、彼女自身の悩みも解決していく。
「じゃあ―ああして正しかったの?」
「もう大人なんだよ、ナンシア。自分で判断しなさい。きみはどう思うんだ?」(本文より)
 ただ、ナンシアの性格があんまり私好みではない。何だかんだ言っても結局お嬢様育ちで、ハイファミリーということにプライドを持っている。ちょっと感情的なところも目につくし。脇役で活躍している退役軍人のミカヤが、ひょうひょうとしていてなかなか味がある。前作で活躍したシメオンも友情出演している。ナンシアの特異点ジャンプはまるでスポーツの華麗な技であるかのように表現されていて、なかなか気持ち良さそうだ。


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