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旧あとりの本棚 〜 SFブックレヴュー 〜
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著者:ロイス・マクマスター・ビジョルド 出版:東京創元社 [SF] bk1
【あらすじ】(目録より) ある時は辺境惑星の一介の中尉、ある時は極秘任務に就いた傭兵艦隊の提督・・二重生活を送るマイルズは、隠密作戦を成功させたが敵に追われ、艦隊を引き連れて地球まで逃げてきた。だが運悪くTV局に正体を悟られ、とっさに「傭兵提督は私の非合法なクローンなんだ!」とでっちあげたまではよかったが……魔手は忍び寄る。痛快活劇第二弾。
【内容と感想】 ヴォルコシガン・サガシリーズで、マイルズが24歳の時の話。『無限の境界』で捕虜収容所からの大脱出を果たしたデンダリィ隊は、セタガンダから逃れてあちこち逃げ回った末、地球へと逃げ込む。そこでバラヤーからデンダリィ隊に報酬が支払われるはずだったのだが、その代金がなんらかの事情で届かず、隊は当座の資金繰りに困るはめに。再発行された資金が届くまで、マイルズは地球にあるバラヤー大使館での勤務を命じられる。隊には独自に仕事を請け負って短期資金を掻き集めるよう指示して大使館へ。折しも大使館にはおなじみボケ役の従兄のイワンが配属されている。そんな折、 大使の主席随行武官のガレーニ大佐が失踪する。果たして消えた報酬を奪ったのはガレーニの仕業か?大使の許可をもらい、マイルズはガレーニの個人ファイルにアクセスする。
マイルズのクローンの弟マークが敵役として登場してくる。マイルズの骨の異常は後天的なものなので、クローンをそのまま育てたとしても外見は違って見えるはずなのだが、身長など見た目までマイルズそっくりなマークはマイルズになりすます。監禁されたマイルズは、自分の恋人に自分もまだ試していないあんなことやこんなことをされないか、居ても立ってもいられないのである(笑)。マークは未訳の別の作品にも登場しているそうで、今後の活躍が期待される。
あと私がとても気に入ったエピソードを。マイルズは自白剤を投与されるが、特異体質のため普通と違う効き方をする。何かを話し始めると、連想したことを次から次へと喋らずにはいられず、しかも歌や演劇の台詞となると際限がない。マイルズはこの手で敵の尋問が交わせることに気がつく。言葉尻をうまく捕らえてハムレットを演じ始めたマイルズは、牢に戻されてもなお、椅子にのぼったり降りたり、女性のパートでは声を裏返しと、ひとり最後まで熱演するのである。いかにもマイルズらしくて笑える。
マイルズは(父親のアラールも)、見方によってはかなり変質的で独断的、その場しのぎの口から出まかせで人をまるめこみ、規則を規則とも思わず破りまくったりもする。しかしバラヤーに対する揺るぎない忠誠心と愛国心、貴族として正しいことを貫こうとする信念、他者に対する限りない優しさ、そういったものに支えられて人間味溢れる愛すべきキャラクターとなっていると思う。
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