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2001年09月28日(金)
□『五輪の薔薇』(上・下) ★★★★★

著者:チャールズ・パリサー  出版:早川書房  [MY]  bk1bk1

【あらすじ】(カバーより)
すべての発端は、4枚の花弁を持つ薔薇を中央と四隅とに一輪ずつ並べた“五輪の薔薇”の意匠だった。少年ジョンは、母メアリーとの散歩の途中で目にした豪華な四輪馬車を飾る紋章に、なぜか自宅の銀器類と同じその薔薇の意匠がほどこされていることを知る。ほとんど屋敷から出ずに母と二人で暮らすジョンにとっては、そもそも半幽閉的な自分の生活そのものが謎だった。そして、自分に父親がいないことも。ジョンの問いかけにたいし、かたくなに返答を避けてきたメアリーだったが、ある日、自分達には邪悪な敵がいて、ジョンの身の安全のために、今こそ重大な選択を迫られているのだと告白する―。出生の秘密、莫大な遺産の行方、幾多の裏切り、そして未解決の殺人事件と、物語文学のあらゆる要素をそなえ、読者を心地好い迷宮へと誘う、波乱万丈かつ複雑に入り組んだプロット。文豪チャールズ・ディケンズ、ウィルキー・コリンズの作品世界をも凌駕する超弩級の大作が、ついにそのヴェールを脱ぐ!

【内容と感想】
 SFばかりが続いて来たのでそうでないものを。

 この小説は、19世紀初頭のイギリスを舞台に繰り広げられる遺産相続にまつわる陰謀を題材とした、ミステリーというよりは大河小説(?)。作者が12年もかけて書き上げただけあり、プロットが非常によく練られた傑作で、小説としてもエンターテイメント的にも秀逸である。しっかりした構成力、よく調べられた時代背景。謎に満ち、スリリング。それでいて、それらがちゃんとからみ合いながらしっかりと伏線が張られている。複雑な人間関係が次第に暴かれていき真実が見えて来るに連れ、あーそうだったのかという驚きがある。これだけ良質な小説を読むと、最近の安易な筋立てで勢いと雰囲気だけで書かれた薄っぺらいものは、読めなくなる。欠点は1冊4000円、上下巻合わせて8000円という値段。さすがに高い。それでもそれを払うだけの価値は充分あると思うのだが、やはり図書館で借りるのが良いかも(笑)。それと建石修志氏の装丁のコラージュが素晴らしい。

 主人公ジョン・ハッファムは、本来ならば莫大な遺産を相続しているはずの少年。しかし遺言補足書と、その後に書かれた正式な遺言書が隠匿されてしまったため、相続していない。けれども正式な相続人であるため命を狙われており、母メアリーと素性を隠してほとんど外出もせず隠遁生活を送っている。
 それなりのお屋敷で使用人に囲まれて暮らしていたのだが、お嬢様育ちの母親はあまりにも世間知らずで、無謀な投機に手を出すようはめられてしまう。まだ子供であるため事情を全く知らされていないジョンは、屋敷を抜け出してしまい、彼ら親子の敵に見付かってしまう。信頼していた人達に裏切られ、大して多くなかった持ち金を失なってしまう二人。身を隠すためにロンドンへ夜逃げのように引っ越すが、あまりにも無防備で、あっという間に身ぐるみはがれて路頭に迷うのである。
 親子二人で貧しい生活が始まる。ロンドンの底辺の生活は凄まじく、苦労を重ねるジョンとメアリー。生きるために持ち物を売らねばならなくなり、またも敵に見付かってしまう。検体用の死体盗人どうしの抗争や下水漁りで身をたてる一家との出会いなど、この時代のロンドンの最下層の生活が描かれていて壮絶である。
 ジョンの縁戚関係にあたる五つの家系の人達が入り交じり、莫大な遺産をめぐって対立が繰り広げられる。陰謀に次ぐ陰謀。味方が誰で、敵は誰なのか。ジョンの祖父を殺したのは誰なのか。陥れられどんどん苦境に追い込まれていくジョン。身を護るために隠された正式な遺言状を手に入れなければならないのだが、その隠し場所が家紋を使ったカラクリ仕掛けとなっていて、その辺の謎解きも見事だ。最後の方で、謎が次々と明らかにされていくのが圧巻である。

 最後に一つだけ。章の終わりにところどころ家系図が載せられているんだけど、その章が終わるまで見てはいけません。特に下巻の巻末の家系図は、読み終わった後で見ましょう。でも、見たくなっちゃうのよね(笑)。


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