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2001年09月19日(水)
□『無限の境界』 ★★★★★

著者:ロイス・マクマスター・ビジョルド  出版:東京創元社  [SF]  bk1

【あらすじ】(目録より)
勇気と智略を武器に難事に挑む傭兵提督マイルズが回想する冒険の数々。敵星の捕虜収容惑星からの一万人の大脱走の顛末を綴った表題作のほか、故郷の山村で起こった嬰児殺害事件の捜査に赴く「喪の山」、腐敗した商業惑星の遺伝子工学実験場への潜入行を描く「迷宮」など、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞に輝く傑作三篇を収録。

【内容と感想】
 ヴォルコシガン・サガ・シリーズ。『親愛なるクローン』の後地球に帰ったマイルズが、上官に金の使い道を問われて昔を懐古するというオムニバス型式でまとめられた短編集。『喪の山』20歳、『迷宮』23歳、『無限の境界』24歳の時の話。このシリーズはこの作品から読み始めたが、短編なので取っ付きやすい。ただ少し時間関係でとまどうかもしれない。

「喪の山」:士官学校を卒業したマイルズが、任官する前の休暇中、父の治める領地で起こった殺人事件の捜査に派遣される。『戦死志願』と『ヴォル・ゲーム』の間の話。被害者は口唇裂の嬰児で、奇形を忌むバラヤーの僻地ではいまだに偏見が根強く残り、こうした間引きが行われていた。教育が遅れ、首都とは違って情報も入って来ない片田舎に来てみて、マイルズはあらためてバラヤーの実状に直面する。単に事件を解決するだけでなく、どうすれば彼らの為になり今後の偏見を無くしていけるのかを見すえた裁きに、彼の優しさが現れている。そういえば『戦死志願』でエレーナを連れてベータに向かったのも、バラヤーの古い因習に縛られて自分を過小評価しているエレーナに、外の世界を見せてやりたかったからだった。

「迷宮」:『ヴォル・ゲーム』と『親愛なるクローン』の間の話。クローンや臓器の売買といったことを合法的に行えるジャクソン統一惑星に潜入したマイルズは、改造戦士として遺伝子操作の実験で狼と掛け合わされて作られた女性、タウラを救出することになる。異常に力が強く怪物扱いされ、名前も持たない彼女だが、マイルズはちゃんとした人間として扱い、彼女の信頼を得て脱出する。その他にもクァディという無重力下での作業に適したように造られた種族が登場する。彼らは脚の替わりに手が生えている。クァディを主人公に、彼らが自分達で独立するストーリーが『自由軌道』で描かれている。

「無限の境界」:『親愛なるクローン』の直前の話。バラヤーを侵略した宿敵セタガンダの捕虜収容施設に、マイルズは単身乗り込みバラヤーの英雄の救出を図る。しかし事情が変わり、収容されている全員を助け出す作戦に変更される。収容所は一つの大きなドームで、中は無法地帯となっていて、食糧も人数分は供給されているんだけれども取り合いとなるため、弱いものには行き渡らないという状態となっていた。マイルズは身ぐるみはがれながらも次第に皆を説得し、集団に秩序を与え、集団脱走の機会を待つ。その手腕が見事で爽快である。

 このシリーズは主人公自体も大きな障害を抱えていて、それを個性と受け入れ、他との偏見と戦いながら成長していく物語だが、登場人物も弱いもの、不当に扱われているものが多く登場している。それでいて暗くはならずヒューマニズムに溢れている。マイルズの活躍が見事で面白い。


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