ちゃんちゃん☆のショート創作

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snow snow snow(BL■ACH コンBD)
2008年12月30日(火)

 その年最後の週、日本列島を襲った寒波はここ、空座町にも多量な雪をもたらした。
 それはそんな、雪が降りしきる真夜中の物語。


「外に出たい」
「・・・はあ」
「ンで、雪を見たい」

 ぬいぐるみの居候は、俺の体を使いたい理由をそう告げた。
 時計はと見れば、あと1時間で翌日になる時刻。・・・どうせなら、何でもっと早い時間に言い出さねえんだ、こいつは。

 もっとも、そのうちいつかはそう来ると思ってはいた。今年初めての雪が降った先日、あいつは時間と人目が許す限り窓にへばりついて、外を眺めていたから。
 何でも、雪を直接見るのは初めてとかで、珍しかったらしい。だからてっきり、その日のうちに外出許可を欲しがると思っていたのに。

 どうしてこんな年暮れに、しかもこんな真夜中になってから言いやがるんだ。

「・・・虚が出たら、とっとと部屋へ戻るって約束しろよ?」

 それでも、何故か断る理由が見つからなかった俺は、代行証を取り出してぬいぐるみへと押し付けた。



「すンげえな一護! 周り全部真っ白だ!」
「そうかい」

 屋根の上へ揃って登れば、真夜中の月明かりが雪に反射して、何とも幻想的な銀世界を演出している。

「吐く息も白いし」
「そりゃ、寒いからな」
「何だよ一護、随分感動が薄いじゃねえの」
「てめえが大げさに騒ぎ過ぎンだ。大体ソレ、俺の体だってこと忘れんなよ。下手に他人に見つかったら、後で何言われると思ってんだ」
「こんな真夜中の、しかも屋根の上なんて、そうそう誰も見てねえって」

 おまけに、こんなに寒けりゃ、尚更だろうよ。
 ───それが分かっていても、俺はコンの奴に文句を垂れるのをやめねえ。

「あー、やっぱりだー」
「大声出すなって。見つかるぞ」
「だってよ、いつもならこんだけ声出してたら反響して山彦みたいになるのに、今夜は全然だ」
「それは・・・雪のせいだ。音とか吸収しちまう、って話だぞ」
「へえ。だから雪降ってる時ってヤケに静かなのか。雨とかと同じ水なのに、何でこんなに違うんだ?」
「さあな」
「・・・ホント、一護って感動薄いよなあ。つまんねーの」

 コンはそう言いながら、天に向かって大口を開けた。降って来る雪を直接食べるためだ。それはもう楽しそうに、嬉しそうに。

 ・・・ああ、そうさ。俺は少し恥ずかしいんだよ。自分がガキの頃、雪が降った日にやらかしたこと全部、コンが俺の顔で体で、まるでなぞるようにやってやがるから。

 もう戻らない日を懐かしく思うのは、少しは感傷的になっている証拠だろうか。子供時代の俺の横には、お袋の笑顔がいつもあったっけ。


「姐さん、今頃何してんだろ?」

 ひとしきり雪の感触を楽しんで。コンはおもむろにそう呟いた。

 こいつの言う『姐さん』はむろん、死神の朽木ルキアのこと。言葉では『愛しの姐さん』と表現しちゃいるが、それは恋する男と言うよりも、半分は親愛の情なんじゃねえだろうか。そう、子供が母親に感じるようなのと同じ。
 ちょうどお袋のことを思い出していた時だったから、俺は妙な符号にドキリ、となった。

「・・・お前ひょっとして、ルキアのこと待ってたのか? あいつとこの雪景色、楽しみたかったとか? だからこんな時刻になっちまったのかよ?」
「んー、まあ、それもちょっとある」
「無理だって言ってたろうがよ。死神の仕事はギリギリ年末までだし、大晦日と元旦は朽木家の行事があるって」

 先日雪が降る前、まだ冬休みに突入してない時だったか。たまたま部屋を訪れてたルキアに何となく話の流れで聞いたら、年末年始の過ごし方とやらを教えられた。尸魂界にも大晦日があるのか、じゃあクリスマスやバレンタインデーは、とやけに盛り上がった記憶がある。

「ンなの分かってるけどさー、何となくひょっとして、とか思うじゃねえか。時間がちょびっとだけ空いたから、とか言って」
「それはお前の願望だろうが」
「別に良いだろ? 頭ン中で考えてるだけだったら、誰にも迷惑かけないんだしよ」

 あー、また雪が降ってきたー、と喜ぶ声に紛れて、けれどコンは聞き捨てならないことを口にする。

「せめて誕生日ぐらいは一緒に、って思うのはよ・・・」

 ───誕生日?

「ちょっと待て。今日、お前の誕生日なのか?」
「やべ・・・今、声に出てたか?」
「そう言う問題じゃねえよ。大体お前、以前俺が聞いた時、きっぱり『知らねえ』って言ってなかったか? 本当は今日、11月30日が誕生日かよ? もうちょっとで終わりじゃねえか!」

 俺は戸惑いを隠し切れねえ。



 ───確かあれは、まだ今月の話。
 遊子と夏梨のためにクリスマスプレゼントを買っておけと親父に厳達されて、俺はわざわざ学校を休んで(妹たちの目に触れないためだ!)デパートへと1人で繰り出した。・・・イヤ、正確にはぬいぐるみ姿のコンも一緒に、万が一虚が出現したらマズいってんで、交代要員として肩の辺りにくっつけて外出したんだ。
(カバンの中には入れておけない。万が一万引きと間違われたら厄介だし)

 結局虚は出なかったが、帰り道荷物を抱えて帰ろうとした俺は、運悪く通り雨に出くわして。折角のプレゼントを濡らすわけには行かなかったから、家電量販店の軒下で晴れ間を待つことにした。
 そこで放映していたテレビ番組が、ちょうど有名芸能人の誕生日とやらを祝っていた最中だったのだ。
 生まれた日はどんな出来事があったとか、どんな年だったとか、同じ誕生日の芸能人がいるとか、いかにも視聴者の興味の惹きそうな内容だったことを、覚えている。

 あの時軒下には、俺とコン以外誰もおらず。雨音とテレビの音声だけが聞こえる中、番組がコマーシャルに切り替わった頃、おもむろに聞かれたっけ。

『なあ一護。誕生日って自分を祝うよりも、周りの人間に感謝する日だって、ホントか?』
『確かにそういう面もあるかもな』
『だったらお前も、家族に感謝してんのか?』
『・・・とりあえず、だけど一応は、な』

 一瞬言葉が途切れたのは、お袋のことを思い出したから。・・・ああ、あの時も俺は、お袋のことを考えてたのか。

『一護の誕生日っていつだ?』
『7月15日。・・・そう言うお前は?』
『知らねー』
『・・・そっか』

 何故知らないのかは何となく想像出来たから、それ以上は追求することは出来ず。
 そしてタイミング良く雨が上がって、荷物を抱えて走り出した俺はそれっきり、その話題に触れることはなかった───。



「・・・別に嘘ついてたわけじゃねえよ。ホントにあの時は知らなかったんだ」

 コンは俺の顔を珍しくしかめて、こちらの抗議に答えた。

「けど、やっぱ気になってよ。あの後、お前が虚退治に出かけた時体借りて、浦原ンとこへ行ったんだ」
「浦原さんのところへ? 誕生日聞きにか?」
「ンなわけねえだろ。大体いくら元・技術開発局々長だったからって、改造魂魄の個々の製造年月日まで覚えてられないしよ
俺が聞いたのは、モッド・ソウルが廃棄されるって決定された日の方」

 コンの言葉に、俺はこいつと面と向かって話した初めての日を思い出す。

『俺が作られてすぐに尸魂界は、モッドソウルの廃棄命令を出した』
『つまりそれは、作られた次の日には、死ぬ日が決まってたってことだ』

 つまり、廃棄決定日が分かれば、コンの誕生日もすぐに分かるということで。

「で、歳はナイショだけど、作られたのが今日だ、って分かったってワケ」
「だったらルキアにも、ちゃんとそのこと言えば良かったろうがよ。そうすれば・・・」
「別に良いんだって。そんな大げさなことじゃねえし、大体どうやって姐さん連れ出すんだよ?
『所持することすら違法な改造魂魄の誕生日祝うために』なんて、言えるわけねえだろ?」

 廃棄されることに怯えて、途中で自分の歳すら数えるのをやめてしまったであろう改造魂魄の生き残りは、そう俺を宥める。

「たださ。時間があるんだったら、運がよかったら、って俺が勝手に思ってただけ。そういう意味では俺、運が悪いんだろうなー。生き延びたのは幸運だったけど。欲張るなってことなのかも。
ってかさ、年明ける前に処分しちまおう、って、いかにも在庫整理って感じだよなー。棚卸(たなおろし)かっつーの」

 降る雪に紛れさせるかのごとく、つとめて明るく愚痴るコンの背中に、俺は静かに語りかけた。

「コン」
「んー?」
「とりあえず間に合ったから、言っとく。・・・誕生日、おめでとさん」
「・・・・・」

 コンはほんの少しだけ、見開いた目で俺を見たけれど。

「あーあ、言われたからには仕方ねえなあ」

 そう言いつつ、フード付きジャンパーのポケットに手を突っ込み、ポイッ、と小さな物を投げて寄越す。とっさのことで、俺はそいつを落としかけながらも、何とか手のひらで受け止めた。

「うわっとと☆ ・・・何だよ、これ」
「チ■ルチョコ。浦原ンところで買ったんだ。ほら、誕生日は周りの人間に感謝する日だ、ってテレビで言ってたじゃん。だから、もし姐さんが来たら渡そうと思って」

 ───処分されるところを引き取ってくれて、有難う───。

「もっとも、もう間に合いそうにないからさ、代理に一護が受け取れよ? ま、あれだ、おめでとうって言ってくれたから、とりあえず感謝の印として、だ」
「随分小せえ感謝の印だな・・・」
「し、仕方ねえだろ、金ないんだから。いらないんだったら返せよ!」
「・・・もらっとく。チョコは好きだし」

 懐にしまいながら、ふと俺はこいつの購入元のことに思いをはせる。

「ひょっとしてお前、浦原さんにもこれ、渡したのか?」
「あー、うん。『何で今更処分決定日なんか知りたいんだ』って聞かれたからさ、説明したら『アタシが言うのも何ですが、誕生日おめでとうございます』って言われて。
・・・そう言えば夜一さんにも、テッサイにも渡したな。お祝い言われたから」
「メチャクチャ複雑そうな顔、してただろ。特に浦原さん辺りは」
「言われてみればそうだったような・・・。やっぱり、自分ンところで扱ってる商品で代用しちゃ、マズかったか?」
「別にいいんじゃねえの」

 俺はそうとしか言わなかったけど、浦原さんの気持ちを察して、苦笑した。

 だって浦原さんにしてみれば、処分決定日を聞かれるって事でコンに、仲間の死を責められてるような気分になったんだろうと思う。なのに一転して、感謝の印とやらを渡されたんだから、相当困惑したんじゃねえだろうか。コン自身がそう意図したかどうかは、疑問だし。
 もちろん、コンがこうして生き長らえてるのは、あの人が強行に回収しようとしなかったお陰もあるんだから、感謝すること自体はアリだろう、多分。

 静かな夜だ。
 先ほどから雪は降り続けているが、風で邪魔されたりせずほのかにコンの───正確には俺の───肩に、髪に、降り積もる。
 それを時々手で払いながらコンが見上げるは、雪の生まれる遥か上空。

「・・・なあ、尸魂界も雪って降るのか?」
「あいにく知らねえな。俺があっちへ行ったのは、冬じゃねえし」
「やっぱり寒いんだろうなー。草履履きなんだろ?」
「かもな。防寒具ぐらいはあるんだろうけど」

 ところで俺にはコンとの会話で、不意に閃いたものがある。

「・・・コン、お前、尸魂界に帰りたいのか?」

 もっともその疑問は、半ば憤然と否定されてしまうが。

「俺が? 尸魂界に? ンなわけねえだろ、向こうに俺のいる場所なんかねえんだし、下手すりゃ回収されて、命が危ねえんだぜ?」

 ただ。

「俺が作られた日ってのがどんなんだか、知りたかったんだ。・・・それだけの話」
「・・・・・」

 そう言えば、先日見た例のテレビ番組でも、誕生日はこんな日だった、って話題を扱ってたっけ。思い切り影響されてるみてえだな。

 ───ひょっとすると。
 コンは、ルキアに自分の生まれたのがどんな日だったか、聞いてみたかったのかもしれない。もちろん、一緒に雪景色を見たかった、一緒に誕生日を祝いたかった、と言うのもあるだろうが。
 生まれた場所がどんなところだったか。生まれた日がどんな日だったか。知りたい気持ちを止めることは、誰にも出来ないだろう。

 俺が、自分の無力さを思い知るのは、こんな時だ。どんな言葉をかけてやれば良いのか、あいにく何も見当つきやしない。せめて、物思いにふけるのを邪魔しない程度に、見守っているぐらいで。

「もうすぐ・・・やんじまうな、雪」
「・・・ああ」
「誰も気づかないうちに降って、いつの間にか消えちまうんだな、雪って。何か、寂しいもんだな」
「・・・・・」

 コンの言うとおり、降る雪は次第に勢いを失い、チラチラと舞い散るだけになっている。そしてちょうどこの雪がやむのは、コンの誕生日も終わる頃だろう。夜が明ければ、溶けてしまうかも知れない───降っていた名残すら、ないままに。

 そうやって、最後の一片が舞い落ちて来た───ちょうどその時。

 ヒラリ。

 この白き世界ではやけに目立つ、そして決してありえないものが、目の端に映る。

 そう。本来だったらこんな冬に、黒アゲハチョウなんて飛んでるどころか、生きているはずもない。
 だからこいつは、この黒い蝶は、尸魂界から現世へと死神を導く地獄蝶のはずで。

「コン・・・」
「分かったって一護。そろそろ部屋へ・・・」

 俺の声に答え、戻ろう、とこちらを振り返ったコンの目が、大きく見開かれる。

「遅くなって済まん。何とか間に合ったか?」
「ルキア?」
「姐さん!?」
「コン、今日が誕生日なのだそうだな・・・おめでとう」

 白一面の中、黒い死覇装を身につけた黒髪の死神・朽木ルキアが、微笑を湛えて立っていた。

「ね、ねえさああああんっっ!! 会いたかったっスうううううっ!」

 げしげしっ☆

「おお済まぬ、いつものくせで」
「俺の体で抱きつくな。ってか、泣くな」
「ま、まさかダブルで足蹴が来るとは予想外・・・☆」

 俺とルキアからの『攻撃』に撃退はされたものの、コンはさすがに嬉しそうだ。

「けど、何で姐さんがここに? 俺の誕生日なんて教えてなかったのに」
「今日夜一殿から聞いたのだ」
「夜一さんから?」
「久しぶりに尸魂界へ来ておられたらしくてな。運良く流魂街に私が出たところで遭遇して、そこで聞いたのだ」

 俺の部屋へと急ぐ道すがら、現世へ来た経緯を説明するルキア。それを歓迎するがごとく、再び空に白いものが舞う。

「全く、水臭いではないか。それならそうと事前に話してくれたら、時間ぐらいとるものを」
「ほらみろ、俺の言ったとおりだろうがよ」
「イヤ、まあその・・・それはもうイイっしょ? とにかく、わざわざ来てくれて、俺嬉しいっスv」
「あいにく急だったから、そんなに長く滞在できるわけではないがな。茶飲み話をするくらいの時間は、あるぞ」
「イイっスね、それ。後はお菓子の1つでも・・・って、そうだ一護! さっきやったチ■ルチョコ返せよ」
「やなこった。もう食っちまったぜ」
「何をモメておるのだ、たわけども。早く部屋に入ろうではないか。喉が乾いた」

 たわいない会話を交わしながら、俺たちは俺の部屋へと戻って行く。いつものように。

 さあ───お前の生まれた日の話をしよう。


≪終≫

      **********

※良く考えたら、原作での経過時間って半年かかってないんですよねえ? つまり、一護はともかくも、ルキアもコンもまだ誕生日を迎えてない、ってことで。
 だから、こういう話もアリかな、と思って書いてみました。きっと似たような話書く人、いそうですけどね(^^;;;)一護もルキアも、勿論織姫も恋次たちも、みんな無事でコンたち現世組のもとへ帰って来いよー。

 しかし、今読み返して気づいた。ルキアと一護がコンの誕生日知ったの、ビリとビリから2番目なんだな。しかも一番最初に知ったのが、都合上仕方ないとは言え浦原だった、ってのが何ともはや複雑な気持ち・・・。

 ちなみに、文中のコンの回想セリフは、原作ではなくアニメの方を引用しました。あの回はアニメの方が、しっくりするような気がするもんでして。

 最後に一言。
コン、誕生日おめでとう。
君と言う存在を知ることが出来て、
とっても嬉しいよ。


後日補填:↑やっぱり似たようなネタ書いてた人いた・・・。ま、いいか。
向こうはコミックだったし。





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