2005年04月29日(金) 第九作。
という訳で(CM明けのように)、昨夜は劇場用名探偵コナン第九作「水平線上の陰謀(ストラテジー)」をレイトショーで観てきました。
「名探偵コナン」という作品は私にとってとても大切なもので、原作単行本はすべて揃えていますし、劇場用アニメーションは第四作(瞳の中の暗殺者)以降は毎年劇場で観ています。勿論劇場用第一作(時計じかけの摩天楼)〜第三作(世紀末の魔術師)はきちんとレンタルビデオ等で確認しています。
さて、原作連載開始十周年、劇場用制作開始から九年と長い付き合いになる「名探偵コナン」には強い思い入れがあるので、アニメーション制作スタッフのみなさまには半端なものをつくられては困ります。
ということくらいは制作側も重々承知なのでしょう、劇場用作品は毎作工夫が凝らされていて愉しめるものになっています。今作は、私は例年にない事前情報の少なさで観賞に臨みました。また、例年は公開初日か第一週の間に観に行くのですが今回は公開から約三週間と時間も経っていましたのでそれなりの期待感はありました。
で、初感。
コナン映画を御覧になったことがない方で「一度観てみようかな」とお思いの方は、今作はおやめください。観るかどうか迷っている方は、特段今作は観なくてもよいと思います。
一八〇〇円払ってまで観なくてはならないものではないでしょう。一年後くらいに讀賣テレビ放送網でノーカット放送されるでしょうから、それで御覧になってもよいと思います。
一ト言で言うなら「何もかもが中途半端」。
今作のタタキ(キャッチコピー)は「シリーズ初の二重(デュアル)サスペンス」なのですが、二重の一重ずつがあまりサスペンスフルでない上に二重になっていることで相乗効果があるかと言えば決してそうではなく、不完全燃焼気味。
全編通して観た印象は、第六作「ベイカー街(ストリート)の亡霊」(推理部分は凝ったつくりで愉しめるが「名探偵コナン」としてのできはよいとは言えない)、第七作「迷宮の十字路(クロスロード)」(推理部分はいまひとつだけど「名探偵コナン」として、ラヴストーリイとしてのできはすこぶるよい)、第九作「銀翼の魔術師(マジシャン)」(推理ものとしてのできはもう少しがんばってほしいところだが「名探偵コナン」のキャラクタがそれぞれに活きていて、またパニック・アクションものとしての劇場用作品の新たな可能性を生み出した)のそれぞれの「いいとこ取り」をしようとして失敗してしまいました、という感じです。
それから、絵が下手。いまどきのアニメーションに成り下がってしまったと言いますか。
ここ十年の間にアニメーションの「絵」は、きれいにはなってきているけれど同時に下手になってきていると思うのですよ。一見きれいなのだけれどデッサン間違ってるよ、とか、パース取れてないよ、とか、そういう感じです。しかし、そういう傾向にはまらないようにこれまで「コナン」スタッフはがんばっていたのですよ。なのに今作は原画から駄目。素人目に見ても下手さが判ってしまう。
人物の立体感がおかしい(みんな薄っぺらい身体をしていた)。パートによってキャラ崩れがひどい(白鳥警部が横溝警部に見えてしまう場面が頻繁にあった)。背景のパースがうまく取れていなくてせっかくの豪華客船の豪華さが半減。アニメーションの原点に還ろうとするかのようなコミカルな表現方法を多用していたけれど、この絵の不味さでそれが逆効果になってしまっていました。
舞台となる豪華客船「アフロディーテ号」の全景CGはとてもきれいに仕上がっていて迫力があっただけに残念ですね。
さて、以下はネタバレ含む重箱の隅つつきをあぶり出しにしています。これから御覧になる予定の方はあぶり出さないように御気を付けください。
OP部分は恒例の人物とその背景紹介なのですが、第九作になってはじめて少年探偵団の面々の紹介が入ったので、前作「銀翼の魔術師」のように元太、光彦くん、歩美ちゃんそれぞれが個性強く大きな役割を果たしてくれるのか、と期待していたのですが、何だそーでもねーじゃん。平次も名前は出ないのに姿が見えたし、この部分の構成の意図は何処にあったのか充分に探り出してみたいところ。
都大会優勝の実力を持つ空手少女の蘭ちゃん、今作では何と関東大会優勝を果たしています。それが今作の結末へのちょっとしたキイになるのですが、これをもっと活かせなかっただろうかと残念に思うことこの上ありません。
というのも、後半のクライマックスシーン(……なのだと思う。「クライマックス」と言うにはあまりに盛り上がりに欠けたけれど)で美波子さんが何の伏線もなく徒手空拳術を見せたので、これは関東大会優勝の実力を持つ蘭ちゃんの腕が冴え渡るに違いないと期待したのに、とうとう蘭ちゃんは毎作恒例の足技を見せることすらなくそのシーンは終わってしまってがっかり。
「関東大会優勝」の前振りの後に徒手空拳お姉さんが現れて小五郎のおっちゃんを窮地に陥れていてその場にコナンくんがいない、となったら期待して当然と思いませんか。物語冒頭の前振りはこのための伏線だったのかと思って当たり前だと思いませんか。
すごい肩透かしを喰らった気分でした。
それから、小五郎のおっちゃんが柔術使いだということは第二作「14番目の標的(ターゲット)」を見ていて、かつ憶えている人でなければ納得しなかったでしょう。忘れている人、見ていない人もいることを前提に伏線を張っておいてあげるべきでしたね。
また、美波子さんが徒手空拳術を使うことにしても、貴江社長殺害の現場にしても……と細々と挙げるのが面倒なくらいに今作は伏線の張り方が雑でした。絵の粗と脚本の粗が目立って純粋に「名探偵コナン」を愉しむことができなかった、と言ってもよいくらいだと思います。第六作以外すべての劇場用作品の脚本を手掛けている古内一成氏の脚本だったのに、どうしたのかと。シナリオ文芸部門が手薄だったのか、古内氏が御多忙だったのか。
伏線が足りないばかりに「ええ〜?(語尾下がり)」と口に出してしまう場面に頻繁に遭遇することになりました。「御約束」までハズしてしまっていたしなあ。コナンくんがボートや水上バイクを操縦する場面では「ハワイで親父に教わった」をすっ飛ばしちゃ駄目でしょう。
「カフス型盗聴器」の伏線はあと二〜三箇所に、時間にして三〇分置きくらいに入れておくべきだったかな。「何でコナンくんがそんなこと知ってるんだ?」と思う場面が幾つかあったから。
全体的に「練り」が足りなかったかと。
必要な伏線がなかったり判りづらかったり、要らない伏線が沢山あったりと雑だった御陰で「二重」の「陰謀」の全貌が判りづらかったですね。「陰謀」を「plot」でなく「strategy」とした意味がかなり薄まってしまっていました。ストラテジックではなかったように思えた時点で表題の意味がなくなってしまいます。
物語の構造自体が何処かしらいびつな印象で、上映時間一一五分の映画が冗長に感じられました。五〇分経過したくらいに既に「まだ終わらんのか」と時計を見てしまったくらい。
劇場用作品は年に一度のお祭りであり、また新一×蘭の愛情や絆の深さ、また次第にそれ等が深くなっていっていることを十全に伝えなければならない、原作にさえ影響を与えるものなのですから、その点は重々気を付けねばならないはずなのですよ。なのに今作の蘭ちゃんの存在感の薄さと言ったら……。「ヒロインとして如何か」というところまで問いたくなるような扱いで。
小学生時代のエピソード自体はよく練られていたのにそれが活かされていなくてラヴ要素が薄かったな、と些か興ざめであります。劇場用作品では何処か一箇所でせつなーくさせて頂かないことには映画を観た気がしませんな。
というのは、サスペンス&アクションを優先させてしまって、蘭ちゃんが残っている船からコナンくんを離れさせてしまったのがよくなかったんだとぼくは思うのだけど、どうだろう。今回の背後霊さまの出方もいまひとつぴんとこなかったな。
ED実写パートは、「迷宮の十字路」路線を取りたかったのか女優(子役)さんを使っていましたが、誰にどう重ねて(投影して)見ればよいのかが判らなくて却って違和感がありましたね。
「迷宮の十字路」は勿論和葉ちゃんに重ねればよかったのでしょうが、今作は、よく考えてみれば蘭ちゃんなのだとは思うのですが、蘭ちゃんが幼い頃(実写パートの女優さんと同年齢くらいの頃)は、舞台であるアフロディーテ号を想定した客船には乗ったことがないだろうし、重ねるべきなのかそうでないのか、正直戸惑いました。
制作側の狙いが外れてしまったんだな、と少し哀しくなりました。
と、粗ばかりが見えて素直に愉しめなかったのが今作でした。笑った部分もありましたけどね。かくれんぼの鬼が「園子・灰原ペア」になってしまったところとか。TVシリーズでは見られない展開でしょうし、思わず吹き出しました。
少年探偵団のフォーマルな装いも新鮮でしたね。探偵団の面々はフォーマルもカジュアルも新衣装だったのに、コナンくんのカジュアルは原作に登場の東京スピリッツシャツだったのは何故なんだろう。
あ、今年のうそ予告は予告編最終カット、浸水した船倉で気を失った蘭ちゃんを抱えたコナンくんが叫ぶシーンでした。これは判りやすかったのだけど、青山原画の位置が判りづらかったな……小五郎のおっちゃんのアップを描いてらっしゃいましたよね?
愉しめた点よりも不満の方が沢山出てきた今作は、見終わった後に憤りさえ感じた第六作(ベイカー街)よりも作品としてつらかったけれど、よろこべる部分もありました。ぼく個人としては千葉刑事&トメさん劇場用作品初登場おめでとうを言いたいですね。
……来年は劇場用十周年。期待させてくださいよ。
【今日の罪悪感】
今作を観に行くのにコナン映画初体験の友人に一緒に行って貰ったこと……友人に対しても「名探偵コナン」という作品に対しても。