浅間日記

2006年04月02日(日) 口を閉じ 友と離れよ そして踊れ

2003年に制作されたドキュメント映画「ベルリンフィルと子どもたち」。
もっとも、原題の「RYHTHM IS IT!」の方が、内容に忠実である。

「ベルリンフィルの音楽は、一部の人たちの贅沢品として存在したくはない。」
サイモン・ラトル氏はインタビューで言う。
「音楽にはもっと可能性がある。意味を持ち、人々の役にも立てる」とも。

一流 −否− 超一流の音楽をあなたの人生に伴うことは、ちっとも贅沢なことではない。
どうもサイモン氏が言うのはそういうことらしいが、
たとえ芸術監督直々にそう言われても、正直少々戸惑う。
その中にヨーロッパ以外の人間は含まれるのでしょうか、と質問したくなる。



その戸惑いを、映画の中の子どもたちは、仲間との薄ら笑いで表す。
一流の楽団と一緒に、聴いたこともない「春の祭典」を踊るなど、
社会の底辺に近いコミュニティで育ってきた自分達の過去と未来には
無関係であり、不相応なプロジェクトであると。

そういうところから、このドキュメンタリーは始まるのである。


振付師のロイスマンが、騒がしい子ども達に言う。
「お喋りをやめよう。踊りに必要なエネルギーが口から出ていってしまう。」
「友達と離れなさい。自分と向き合うことを恐れてはいけない。」
「ふざけて茶化しているのは、自分に自信がない証拠ですよ。」

大丈夫自信をもちなさい、と、ロイスマンの指導は続く。
仲間と息を合わせ、時に身体をあずけ、子ども達も変わっていく。

踊りというのは、自己表現の原始的な衝動であり、
自分の力で、自分の存在をかけがえなく大切に思うための、
極めて明確でシンプルな道筋なのだ。


そして、サイモン・ラトル氏の指揮。
子ども達を思い、踊りを見て、曲を仕上げていく。
一流のダンサーではなく、様々な背景をもつ子どもたちの、
その背丈や袖丈にぴったりと合うよう、一流の曲をあつらえていく。


自分の人生を一流にしたいと願うことは、全然間違っていない。
そしてそれは、どんなかたちであれ、そうすることができる。

2005年04月02日(土) 
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