Dynamite徒然草
Dynamite徒然草

2023年05月12日(金) こんな映画をみた。

カズオ・イシグロ脚本のLIVING。黒澤「生きる」のリメイク。

脳内でオリジナルと完全2画面状態で楽しみました。
※以下超絶ネタバレ注意。
歌(The Rowan Tree)のシーンが「男性特有の思慕郷愁」でもって演じられてたのは、脚本家の思いも多分に込められていたかと想像。ていうかこれ、置き換えるに適した曲をイギリスで見つけるのは難しいよね。見事でした。

オリジナルよりも皮肉や残酷さ滑稽さがなく、全体的に上品かつセンチメンタル仕様だったため、父から何も聞かされていない上にただただ妻やご近所ババアに翻弄されていただけの人の良い息子(主人公の一人息子)がまことに哀れなことこのうえなく、葬儀後のシーンは見ててかわいそうで。
このドラマの中で主人公が愛し守ってきたはずの息子「だけ」が、救いようがない程傷ついていたのは悲しかったな。父の最後の様子を語る警官の話も彼は聞けなかったし。

あと、オリジナルでは貧しくとも若く自由闊達で生き生きとした小田切くんと、彼女が工場で汗まみれになって働いて作っているウサギのおもちゃ。それを作ることによって「日本中のあかんぼと仲良しになった気がすんの」というターニングポイントとなるワード=「作る」が、リメイクでは単なるお飾りだったけどまあ役所やめて工場で働くってのがまず理解できないだろうしこれも仕方ないかな。

斯くしてこれがない故にハッピーバースデーの「↑生↓」を表現するシーンからの、残された小田切くんが初めて感じる生の重みや困惑、言い知れぬ不安の横顔はなし。リメイクのマーガレットは最初から最後までただただ天真爛漫で愛らしく、思いやりといたわりの心を持った素敵なお嬢さんとして描かれているうえに、ウィリアムズ氏からしっかり彼氏まで用意していただいてなんかめでたしめでたしになってたのはやはり紳士の国の映画だなあ、優しみが深いなあと思いました。

黒澤映画は羅生門、生きる、蜘蛛巣城が好きすぎてDVD買ったほどなんで、こんなふうに名演技でリメイクされるとファンとしては嬉しくて感動します。映画館で見られてほんとうに良かった。感謝。


 過去の日記  目次  次の日記
書いてる人 : Dynamiteおかん