・・・母が。
全身が弛緩し切って、最早ただの肉塊となった其れを
渾身の力で車に押し込んで、S木先生にTEL。
「母がおかしいんです。
声も出ないし、歩けないし、
トーストのちぎり方がいつもの母じゃないんです。」
「あ〜。それは緊急だね。紹介状を今すぐ書くから
うちのクリニックへ寄って受け取ったら
急いでT病院の受付でそれを出しなさい。」
とにかくラパンでSクリニックへと走らせる。
Sクリニックに着いたら母は車に置いて、クリニックへ駆け込んだ。
受付に「あのう、○○と申しますが・・・」と言いかけると、
おねえさんがバッと封筒を突き出して
「○○さんのお母様の紹介状ですよね。早く!」と渡してくれる。
「ありがとうございます!」挨拶もそこそこに車に戻る。
顔パスなのがありがたい。
T病院に着いたら、貸し車椅子を取りにダッシュ。
息を切らして車まで戻るが、母が既に車から足を出すことも
できなくなっており、自慢の怪力でなんとかしようともがいていると、
上品そうなご婦人が通りかかり「どうかなさったの?」と問われ、
肩で息をしながら「母が重くて車椅子に移せなくて・・・。」
と、答えるのがいつの間かやっとになっていた。
ご婦人が、ひとかたまりの男性陣に目を留め、
「どなたか!どなたか〜!!」と呼び止める。
男性陣がわらわらと私の車に近づいてくる。
「車椅子に移せばいいの?おい、お前、足持て。」
リーダー格っぽい男性が母の後ろから脇に手を通すと、
他の男性が母の足を車から引きずり出した。
「受付に行けばいいの?」
「あ、いえ、(車椅子に)移していただいただけで十分ですので。」
「いいよ、うちらも受付行くところだから。
おねえさん疲れてるみたいだし。」
「はあ・・・。」と、放心している場合ではない!
「あの!お名前を!」
「これくらい大丈夫だから。受付行くついでだから。つ・い・で。(笑)」
つられて笑った。
そういえば最近笑ってないな。と思った。
「その紹介状出すんでしょ?」
いつしか握り締めていた紹介状を指して男性が言うので、
( ゚д゚)ハッ!という感じで受付に診察券と紹介状を受付に出す。
手続きが終わって母の車椅子へ戻ると、男性陣は消えていた。
あとはもう検査!検査!検査!
CTスキャンやらMRIやら最新の機械で先日入ったばっかりの
某突起名の頭では到底理解しがたい、
ドーパミン?エンドルフィン?なんかその辺の
脳内ホルモンの動きを見るとか言う、検査とか。
ひたすら検査室に運ばれ、検査中はひたすら待ち、
また別の検査室に運ばれ、を繰り替えていると、
いつの間にか、まあ!?もうお昼?
「検査結果が出るのに一時間かかります。」と言われて、
人がどんどんはけていき、ポツンと二人の某突起名と母。
看護師さんたちすら休憩のようでさっさと持ち場を離れ。
あ〜、お昼ごはんの時間が来たのね。うちらお金無いから
待ち合い室で待つしかできないし。
あ〜、お腹空いた。
ね、こんな状態じゃなかったら、うちらも外に食べに行くのにね。
・・・って、しゃべれないんだっけ。瞬きくらいできない?
とか、30分ほどやっていると、担当の先生がやってくる。
「○○さん(←本名)だっけ。これからどうするの?」
「と、言いますと・・・?」
「こんな状態のお母さんを連れて帰って介護するの?」
介護、という単語が初めてリアルになる。
母がこのままの状態から何年も回復しなくても、
今の状態だったら?・・・考えただけでゾッする。
覚悟ができていたつもりでできていなかった。
「入院した方がいいよ。お母さんにとっても○○さんにとっても
それがベストの選択のハズだよ。」
「でも、うちには入院費をお支払いするような経済的余裕は。」
「救済策なんていくらでもあるからそれは後で考えればいいよ。」
「はあ。」
「後見人の叔父さんが居るって言ってたよね。
今、ちょっと相談してみてくれない?」
「あ、はい。」
携帯エリアでスマホを取り出して電源を入れる。
立ち上がったら間髪入れずにLINEで叔父に話しかけた。
『にいちゃん、今、T病院なんだけどね。』 『丁度いいじゃん、入院させちゃえば?』
『は?私まだ何も言ってないんだけど。』
『○○がLINEで"オハヨウゴザイマスコンニチハコンバンハ"
忘れるのはそれくらいの緊急時だけ(笑)』
『なら話は早いけど、本当に入院させちゃっていいの?』
『いつも言うけど○○は遠慮しすぎなんだよ。
おかあさんが入院してる間くらい自分の時間作ったら?』
『今、先生にも入院勧められてるところだから、
本当に入院させちゃうよ?』
『マカセナサイ!』
『ありがとう。』
携帯エリアから出て、母と先生の待つ診察室へ帰る。
「お待たせしました。」
「叔父さんの返事は。」
「入院させろと。」
「話の分かる叔父さんで良かったね。」
「そうですね。」
「じゃあ、これで君と僕は患者の娘と担当医だ。
僕はS井。貴女は?」
「○○○○(←本名フルネーム。)と申します。
母をよろしくお願いいたします。」
・・・というところから、T病院に毎日通う日々がスタートした。
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