| 2018年07月12日(木) |
ヘアドネーション用カット。 |
丁度一年ぶりにK市で行きつけていたヘア・サロンへ行き、
「此処ってヘア・ドネーションとかやってませんよね・・・。」と、
ポソッと呟いたら、カット担当のK桐さんがピクッと手を止めた。
「や〜、うちではやってませんね〜。
○○さん(←本名。)は興味あるんですか?」
「う〜ん、その為に伸ばしていたんですけど、この髪・・・。」
「これだけ長いんだから、寄付したら喜ばれるでしょう。」
「まあ、18�僉�32�僂両紊法�50何cmっていうのがあるって聞いて。」
「じゃあ、今日は伸ばす方向で?」
「そうですね。このザンバラ髪の長さを整えないとな〜、とは思ってます。」
「じゃあ今日は傷んでいるところは切って、揃えて、
トリートメントも一番高級なのを施して、
あとはご自宅でのトリートメントですね。」
「う〜ん、縮毛矯正は?」
「○○さん、神経質だから、今の前髪のクルクルとかすごい鬱陶しいでしょ。
僕の聞いたところではヘアドネーションで縮毛矯正OKだって聞きましたし、
生え際数センチだけクセ毛になってますから、矯正しちゃいましょ。」
・・・と、私のヘッド・スパ担当のM籐さん改め、F田さんがやってくる。
「今日スパも長〜く時間取ってありますから!」くすみのない笑顔だ。
「さては聞いてほしいことがたくさんあると見える。(笑)」
「ありすぎて、120分のコースにしようかと思ったんですけど。」
「ん?しても良かったよ?」「それじゃ○○さんが疲れちゃうでしょ。」
「まあ、O市に引っ越したからね〜。」
「O市って遠いイメージあるんですけど。」
「車で飛ばして約1時間?」
「遠い!そんなんで今日みたいなフルコースやって大丈夫なんですか?」
「今日も聞かなきゃいけないことがたくさんあるんでしょ?(笑)」
「はい。」「姓も変わったし。」「そう、いきなりでしょ?」
「まあ、一年も来なかったんだから、何かしらの変化はあると思ったけど。」
「けど?」「そう来るか〜、みたいな。」「そう来ちゃいました!(笑)」
「相手は何歳年上?」「え、年上って分かるんですか?」「うん。」
「何歳くらい上だと思います?」「う〜ん、ひと回りとかかな。」
「○○さんって占い師になったら人気出ると思いますよ。」
「てことは、当たってるんだ!(笑)」「大当たりです!(笑)」
ゴホン!ゴホン!
K桐さんの咳払いで、二人とも我に返る。
「じゃあ、スパでお待ちしてま〜す。」F田さんが逃げる。
「はいはい。」背中にひらひらと手を振ると、鏡に向き直った。
「M藤さん、改め、F田さん、結婚したんですね。」
「そうなんですよ。結構イキナリ。」
「まあ、ここでずっとお客さんの頭皮揉んでるわけにもいかないでしょ。」
「そうですね。」「まあ、今の仕事も好きなんだろうけど、無理するから。」
「無理するからパートナーが必要だと。」「そう、息抜きさせてくれる人ね。」
「○○さんってカウンセラーとかなったら良いんじゃないですか?」
「あ〜、昔やってて激しく体も心も壊したから。もう勘弁かな。」
「病気って、それでうつ病ですか。」
「だって、家事、仕事、プライベートの友達、カウンセリングの客って、
用事が常にあって、ちょっとの隙で3時間くらい寝て起きて、
緊張の糸が切れると寝たきりになって、の繰り返しだよ?」
「修行僧もびっくりの苦行ですね。」「楽しかったけどね。」
「○○さんの"頑張り過ぎない程度に"って、其処からですか?」
「其処からですねぇ。K桐さんも無理しそうだから気をつけてね。」
「はい・・・では、今日はヘア・ドネーションをするのを前提に。」
「はい、お願いします。」
K桐さんが、深く深呼吸すると、目つきが変わる。
あ、K桐さんもシングルタスクの人なのかな。
ショキショキショキ・・・比較的深めに鋏が入る。
神経集中してるなぁ。
K桐さんの気を乱さないように、こちらも深呼吸して、
ピタリと、動かないようにする。
殆ど毛束が落ちない。本当に最低限。
ヘアドネーションの時にやりやすいように整えるつもりだろう。
途中から、少しだけ、意識が飛んだ。
「○○さん、終わりましたよ〜。」
耳元に大きめの声が入ってきて、目を開けて周りを見た。
鏡の中には、傷んだ毛束の無い、つやつやした髪が目に映る。
「わ、すごい。髪の長さが殆ど変わってないのに、
傷んだところだけ綺麗に無くなってる!」パチパチと手を打つと、
K桐さんが鼻を鳴らした。アートディレクターの矜持というヤツだろう。
「さ、F田がお待ちかねですよ。」
若干照れ臭そうだが、冷静そうに椅子を降ろしてくれる。
「こちらにお願いしま〜す!」私の手を引いてヘッド・スパのブースに入ると、
F田さんが部屋の鍵をカチャリとかける。手が少し冷たい。
「M藤さん、改め、F田さん、昨日も風邪引いたでしょ。」
「え!なんでわかるんですか!?」
「毎日、人の頭皮を揉みほぐして云々しようとする人の手が冷たかったら
怪しいと思うに決まってるでしょ。
それに気が付かない程度に、今も辛いんでしょ?
もう、施術は適当でいいから、話だけしよう。」
「あ〜、バレちゃいましたね。」「バレちゃいますよ。」
若干怒るポーズを取ると、F田さんがうなだれる。
「どうせ旦那さんは行かなくていいって止めたのを、今日のリストに
私の名前があるのがわかって無理矢理出勤してきたんでしょ。」
「そうですけど・・・今日は○○さんで終わりなんで。」
「お客何人取ったの?」「今日は○○さんで三人目・・・。」
「ふ〜ん、結構セーブするようになったんだ。」「ですよね!」
「ほめてない!けど、セーブできるようになったのは偉い。」
「〇〇さんの事も夫に話したんですよ。」「話しちゃってんの?(笑)」
以下、F田さんのプライベートの話が90分間、続く。
個人情報だらけの話なので内容は割愛。
濃ゆい90分だったと思う。
キャリアオイルを洗い流してもらって、
アウトバストリートメントをつけてもらい、髪をサラサラと乾かしてもらい、
お会計の前にシャンプーやトリートメントも買って、
お値段は秘密。
K桐さんとF田さんがサロンの出入り口で、
両脇にお見送りの姿勢で待っているので、
K桐さんには「また半年後か一年後に(笑)」と。
F田さんには「今日、話したように、キーワードは"柔和"だからね。」と。
すると、F田さんが、手提げ袋を持ってきていた。
「新婚旅行のお土産です。○○さんお料理好きだから、
こういうのでどんな料理するのかなって。」
「結果報告しに、また来いと(笑)」F田さんは神妙な表情で頷いた。
「じゃあ、長くて一年後には来るから。これは約束ね。」
「はい。」「じゃあ、また。」
K桐さんにはお辞儀を。F田さんとは両手握手をして、
F田さんがシャンプー類一式を詰めた袋と、イタリア土産を渡してくれる。
ふたりから遠ざかりながら「次会う時まで、皆さんも元気でって!」と、
声を張り上げると、深々と頭を下げるK桐さんとF田さん。
私は愛車に乗って、手荷物を助手席に放り込むとエンジンをかけた。
明日の事も分からないのに、一年後なんてもっとわからない。
でも、そうして待っていてくれる人たちや、
海雪さんや他の友達のためにも、
何とかして生き続けねばな、と、襟を正して、アクセルを踏んだ。
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