日々是迷々之記
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ささっと弁当を食べ終えるとまだ12時20分だった。私はどこへゆくあてもなく会社から出て、ふらふらとビルの外へ出た。風がぼやんと暖かい。もうすぐ春かなと思うが、夕方から雨が降るから生ぬるいのかと気が付く。道路を渡って向かいのでっかい書店へ向かった。
ここは誘惑が多い。何を買うあてもなくても何かしら買ってしまう。「新刊書コーナー」を見るといろんな本が並んでいてわくわくしてしまう。本自体を見るのが好きなのだ。私がデザインの世界に足を突っ込んだとき、師匠にどんなデザインをやりたいのか聞かれた。私は即座にハードカバーの単行本の装丁をやりたいと答えた。すると師匠は「そういう仕事は東京行かなあかんで。」と言った。
今よく考えると免許取り立ての若者がパリダカに出たいと思うのと同じくらいの暴挙であったようで、私は日々、「ワイシャツ つるし仕上げ250円」のコピーの250円の上にバツを書いて「今なら180円」の文字を入れたりしていた。たった数文字の「今なら180円」だが、文字の間を詰めたりして遠目で見たりなんやらしているとそれだけで1時間くらいかかっていた。今思うと牛のようなペースでしか仕事のできなかった私を置いていた師匠はエライと思う。
と、本を見るといろいろな思い出がひょっこりと顔を出す。そこで私は突然一冊の本を手にした。「ばらっちからカモメール」サイバラ理恵子とだんなの鴨ちゃんの共作の本だ。中身をぱらりとやりたいが、ビニ本のごとくビニールがかぶっている。むむ!そんなに怪しい内容なのかと勝手に思った私はその本を握りしめ、レジに向かっていた。
その時点で12時55分。会社に帰らなければならない。
そして家に帰って本を読もうと思ったが、ウェブのニュースをチェックしたり、厚揚げを煮たりしてなかなか本をひらくことができない。面白いのか?「ばらっちからカモメール」
やはり書店には魔物が住んでいる。
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