阿呆的日常 主にJとかプロレスとか。
アホラレツキノウアシタ

2004年08月08日(日) にんじん(日記カウンタ70000hit御礼)完全版/うぅ…

●和ぎさんへ●


にんじん。(トッキュー 嶋本と真田)


「おねーさん、おねーさん」
「どーしたの、嶋本くん」
「あんな、ちょっと聞きたいことあんねんけど」
隊員たち全員が昼食をとり終えた食堂で、嶋本はカウンター
越しに賄いのオバサンに声をかけた。
「にんじんてどうやったら食えるんかな?」
「嶋本くん、にんじんダメなんだっけ?いつも残さず綺麗に
食べてるじゃないの」
「それはおねーさんのご飯がうまいからやん」
上手ねーとケラケラ笑う彼女へとずぃと近づいて小声で嶋本
は言う。
「あーいや俺やなくて、ダメな人が知り合いにおるねんけど、
どーにかして食わせたいっつーか、にんじんて食えた方がえぇ
やんな。栄養もあるし」
嶋本の言葉に彼女は含み笑いを浮かべて言った。
「彼女がにんじん嫌いなんだぁ」
「ちゃいます!ちゃうねんけど!」
真っ赤な顔をして否定をしても、それは肯定の意味として
彼女には伝わってしまう。
「ウチの娘もにんじんダメだったんだけど、これだけは
食べるから、それの作り方教えようか」
小さな声で返事をしながらも、嶋本は藁にすがるような思いで
彼女が言うレシピをノートに書いていった。




パーフェクトな人だと思っていた。
何もきっと敵わないと感じていた。
でもどうしてこんな可愛い『ダメなもの』があるんだろう。




オフの日、嶋本は一人でこっそり買い物に出かけた。近場の
スーパーで必要なものをカゴに入れる。
薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、重曹、卵、牛乳、そして
肝心のにんじん。
サラダ油は食堂にあったなと思いながら嶋本はレジに入る。
お金を払い、基地に戻ればうっかり真田に遭遇してしまった。
「嶋本……珍しいな。一人なのか?」
しかも基地に住み着いた犬と真田は遊んでいる。
「わ、え、と、ハイ、ちょっと一人で買い物行ってました!」
妙に緊張し、姿勢を正してしまう。嶋本は子供の頃、近所の
シェパードに追いかけられて以来犬が大の苦手なのだ。
(その家の柿の実を取ろうと壁によじ登り、バランスを崩して
敷地内に落ちてしまって番犬のシェパードに追いかけられたの
だから自業自得なのだが)
「何買ってきたの?」
嶋本に向かって大きな犬を抱きかかえながら真田は近づいて
くる。買ってきた袋の中身を見られるわけにもいかないし、
犬が近づいてくるしで宿舎に向かう足がどんどん遠のいて
しまう。
「何だってえぇやないですか!」
振り切るように嶋本が言うと、真田の足がピタリと止まった。
「……そう」
途端聞こえた声音と表情に嶋本は罪悪感でいっぱいになる。
だが、それもほんの一瞬で真田はいつもの表情に戻っていた。
「おつかれ」
「……おつかれさま……です」
背中を向けた真田の足元に犬が下ろされる。犬は嶋本を見て
そして真田の顔を見上げた。
嶋本はいつもよりも大股で歩き、真田の横を通り過ぎる。
胸中に浮かんだ罪悪感を掻き消すように、手にぶら下げていた
スーパーの袋を胸元に抱え込んだ。
確かに隠していなきゃならないことで、黙って食べさせて
驚かせてやりたいことで、言いたくないし、ここでバレたら
どうしようもないことなんだけれど。
「あ、あの!」
真田が僅かに見せた表情をそのままにしておくことがとても
じゃないけれどできない気がする。
これはあくまで嶋本が本能で感じていることなんだけれど、
今真田をこのまま放って宿舎に帰り、食堂を借りてオバサン
に教えてもらったものを作ったとしても、きっと食べてもら
えない。
たぶん自分も『ダメなもの』のカテゴリに登録されてしまう
かもしれない。
「何?」
しゃがみ込んで犬と遊びながら、振り返った嶋本を見向きも
せず真田は言葉を返す。
「今日、これからケーキ作ろう思てるんです!」
「へぇ」
どうでも良さそうに相槌を打つ真田に宣戦布告のように嶋本
は言った。
「隊長のためにです!できたら呼びに行きます!絶対食うて
下さいよ!」
嶋本はそう言い放ち、ぜぇぜぇと救難活動でもしないような
息切れをしながら宿舎へと走っていく。
その背を真田はきょとんとした顔で見ていた。




あかん。
よぅわからんけど、あかん。
もう、俺があかんて。




何度もそんな言葉を呟きながら、嶋本はノートを広げ、
教えられた通りに手際よく材料をカタチにしていく。
可愛い『ダメなもの』を持つあの人に、自分がダメになり
そうなそんな気がして、にんじんをすり下ろしながら少し
指先を擦ってしまった。
「アホ」
血も出ない程度の軽い擦り傷を舐めたらにんじんのほろ
苦い味がする。
「平気やろか」
オバハンは焼けば苦味は飛ぶから大丈夫と言うてたけどと
嶋本は生地にすり下ろしたにんじんを入れた。
「あとは焼くだけや。えーと、焼いてる間にコーヒーとか
淹れとこか」
焼く時間は予想よりかかって、コーヒーはすっかり酸っぱく
なってしまっていた。
嶋本が作ったのは『にんじんケーキ』。にんじん嫌いな人
でも食べられると太鼓判を押されたもの。
果たして真田は食べてくれるのか、不安を抱えながら嶋本
は宿舎へと走って行った。
形を崩すことはできず、味見もしていない。果たして本当に
にんじんの苦味が飛んでいるのかもわからない。見た目は
焼き目のついたオレンジ色で、見る人が見れば簡単に中に
にんじんが入っているとわかるのではないだろうか。
不安だ。
不安で仕方ない。
けど。
でも。
食わせなあかんし。
いや。
食わせたところで。
あー。
その前に食うてくれるんか?
食いに来てくれるんやろか?
嶋本は足を止める。そして元来た道を戻り出した。食堂に
入り、包丁を手にして、にんじんケーキに包丁を入れる。
六つに切り分け、その一つを手に掴みまた走り出した。
焼き立てのケーキは熱い。落としてしまいそうだ。
だから早く、どうにかして早く。
真田の部屋の前に辿り着いて、嶋本は大声で真田を呼んだ。
「隊長、えぇですか!?」



「やだ」



今隊長は何て言うた?
嶋本は一瞬その二文字を理解できなかった。だがそれとなく
聞こえた言葉を反芻してみて、聞き間違いだと困ると思い、
もう一度言う。
「隊長、えぇですよね!?」
「よくない」
二文字増えた言葉を今度は嶋本はしっかり理解した。よく
ないってそれはないだろう。自分はさっき隊長のためにケーキ
を作ると言ったのだし、呼びに行くとも言ったじゃないか。
「ケーキ焼けたんです。今持ってきとるんです。このまま
放っとかれたら俺の手ヤケドしてまう」
「どうだっていいよ」
焼き立てのケーキの温度を紛らわすように左右交互にケーキを
移動させながら嶋本はあまりにそっけない真田の答えに泣き
そうになってしまう。
さっき自分が突っぱねた言い方をした、その仕返しのような
言いっぷりだ。


どうして俺ここまでせなあかんの?
隊長がにんじん嫌いやからって、そんなん俺がどうこうやる
もんでもあらへんやん。
第一俺がこんなん作るん、意味わからんて。
いくら隊長のそーいうトコ可愛いとか思ってもうたからって。
やっぱり不安的中や。
作らな良かった。
まるで意味ない。
俺が頑張ったトコで、所詮こんな風になるねんもん。
何で隊長のためにこんな風に。


作りながら感じていた不安と、真田の部屋の前で立ち竦む
空しさが嶋本に言わせる。
「もうえぇです」
掌のケーキはまだ熱い。急激に冷めていく何かに比べたら
ずっとまだ熱い。
「おつかれさまでした!」
そして部屋に背を向け、嶋本は食堂へ走り出した。一気に
ケーキを食べてしまおう。コーヒーで胃に流し込んでしまおう。
あかんと思ったのはこうなることを本能が察してたせいや。
無駄な努力すんなってことや。
もうえぇやん。所詮隊長と隊員。上司と部下。そんなんだけ
やし、別にこんなん仕事には差し支えあらへんもん。
「わぁ!」
宿舎から飛び出せばそこに犬がいた。気持ちよく寝ていたのを
扉を開いた嶋本に起こされたのか、少しだけ不機嫌そうな様子
で、身体を伸ばしながら嶋本を見ている。
「う、わ、わ……」
周りには誰もいない。どうしたらいい?犬はふんふんと鼻を
慣らしながら嶋本に近づいてくる。
「あかん、て、俺ん傍来たらあかんて」
走って来た廊下を後ずさりする嶋本に構わず犬はますます近づ
いて来て、嶋本は扉を閉めることすらできない。
「あか、」
「ケーキが食いたいんだよ。な、サブロウ」
後ろからした声に嶋本が振り返れば、真田が階段から降りて
きたところで―――
「ほら」
真田は嶋本が手にしていたケーキを取ると、『サブロウ』と
呼んだ犬を手招きして外に出した。
「たい、ちょ」
「犬に先に食べられてしまうのは少し残念だな」
と言いながら、尻尾を振ってケーキを強請る犬に少しだけ
ちぎって分け与える。
「食べるよ」
腰を抜かしかねない嶋本に、そっけなくではなく真田は
目を見て言ってやった。
「お前が俺のために作ったんだから」
「は、はい!」
扉のところに犬がいるから宿舎から出れない嶋本のために
真田はガバッと犬を抱きかかえると顎で嶋本に行けと示す。
「コーヒーも入れてあるんですよ」
嬉しそうに走り出した嶋本が食堂に入ったのを見届けてから
真田は犬を地面に下ろした。
「……俺、なんであんな風に言ったのかな」
こうして部屋から出てくるのなら最初から出ればいいものを。
「まぁ、そのうちわかるか」
それはたぶんきっとお互いに。






「あ、ごめん、コレ食べられない」
「な、何でですか!?食えます。食えますて!」
「食べられないものは食べられないよ」
「折角俺作ったんですよ!食うて下さいよ!」
「無理」
「隊長!」
「だって、にんじんケーキじゃないか!」







オワリ。


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コレはシマサナなのかサナシマなのか問い詰めたい今日この頃。
和ぎさん、全然リクにお応えしてなくてスミマセン。だって
睫毛出てきてないよ!そこらへんは水面下で(羽田沖あたりの)
もっと長くなりそうだったのに、短くなったのは書いてる最中
間違ってウィンドウ閉じちゃったからです。(シュン)
久々に泣くかと思いました。


今朝起きたら筋肉痛。昨日したのは油絵です。わー(涙)



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ヤマナミさん、
たまらん!

心の底から堪らないんですけど!
ふくちょとか言ってる場合じゃないよ!
新●組を全く知らない身としては何がどう、どれがあぁって
わかんないんだけど、とにかくヤマナミさん!

あぁあああああ カッコいい〜〜〜〜〜!!!!!
ふくちょ消えた!
久々に呼吸困難に陥った。


来週から2週くらいはビデオ録画するかもしれません。


き あ ぬ