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090220
2009年02月20日(金)




 痛みだけの世界。僕はストレッチャーの上でのたうちまわっている。理不尽なまでに暴力的な痛みは、人の人たる尊厳をもぎ取る。獣のような雄叫びを押し留めることができない。誰もこの痛みは理解できない。泣き叫んだところで痛みは直ぐに癒えない。自己の同一性を保持することができない。平時の、体裁をひどく気にする自分と、恥も外聞もなく泣いて懇願している自分とがうまく共存できない。これは今まで慣れ親しんできた孤独と決定的に違う。居ながらにして、驚異的な早さで別所に押し流されて行く感覚は、かつて経験したことのないものだ。流れて行く先の深さと冷たさに愕然とした。





 夢の中で収まっていれば良いものを。自分の身を守るのに必死で、締め上げた首がTのものだと知ったのは眠りが中断されてからだった。Tはそれを覚えていないと言う。ありったけの痛み止めを懐に押し入れて、這々の体でやっと辿り着いたというのに、僕のやったことと言えば親しい者に歯を突き立てることだけだった。








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