七色の - 2002年11月13日(水) 七色のゆりかごの内を巡りたる その残灯のうつくしきかな **************** ****** ** * 「電話、すべき、…かな………」 力無く徳橋さんが呟いて、私は彼女の内心を考えつつあえてそこを押してみる。伏し目がちの表情が美しい彼女の睫毛には深いグリーンのマスカラ、落ち着いたニットの色と合わせてあるのが、控えめで気配りのきく性質をよく表している。徳橋さんが電話したくないのもよくわかる、彼女は立て続けの揉め事や手続きでかなり疲弊していて、もう余分な元気は残っていないのだろう。 だけど。残酷かもしれないと思いながら、私は言わずにいられないのだ。 「わたしが先方だったらと思ってみると、耐えられないかもしれないと思うんです」 事態は思ったよりいい方向に展開したらしい。 「Hさん、すごく感激してたみたいで…。本当良かったと思って、電話してみて」 私は余計な策を講じたのではと不安で仕方がなかったから、芯からほっとしてしまった。 「Hさんが、あなたに、宜しくって。頼りにしているんですっておっしゃったから、ええ私もそうなんですって言ったの。 …わたし今までずっと、あなたに、支えられて来たね」 彼女がいっぱいいっぱいの状態でそっと微笑むから、わたしはたまらなく辛くなる。私はこの作為のかけらもない、腰の座った微笑が好きだったのだ。もう始まっている、抗えない奔流に流されるようにして、彼女と別れる為の日々がどうしようもなく始まっている。 置き土産のような彼女の言葉、そんな風に感謝されるだけの価値が自分にあるとは思えない、むしろ私はそれをそのままあなたに返したいのに。味気ない事務机の前、小柄な彼女を見下ろす形で私は曖昧に言葉を繋ぐ。 もう一年あったら。 ことばには出来ない。現実は理性的だ。彼女も多分そう思っているだろう、もう一年あったら、多分こんな風な終わり方にはならなかった。 -
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