夕暮塔...夕暮

 

 

七色の - 2002年11月13日(水)

七色のゆりかごの内を巡りたる その残灯のうつくしきかな



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「電話、すべき、…かな………」
力無く徳橋さんが呟いて、私は彼女の内心を考えつつあえてそこを押してみる。伏し目がちの表情が美しい彼女の睫毛には深いグリーンのマスカラ、落ち着いたニットの色と合わせてあるのが、控えめで気配りのきく性質をよく表している。徳橋さんが電話したくないのもよくわかる、彼女は立て続けの揉め事や手続きでかなり疲弊していて、もう余分な元気は残っていないのだろう。 だけど。残酷かもしれないと思いながら、私は言わずにいられないのだ。
「わたしが先方だったらと思ってみると、耐えられないかもしれないと思うんです」



事態は思ったよりいい方向に展開したらしい。
「Hさん、すごく感激してたみたいで…。本当良かったと思って、電話してみて」
私は余計な策を講じたのではと不安で仕方がなかったから、芯からほっとしてしまった。

「Hさんが、あなたに、宜しくって。頼りにしているんですっておっしゃったから、ええ私もそうなんですって言ったの。 …わたし今までずっと、あなたに、支えられて来たね」

彼女がいっぱいいっぱいの状態でそっと微笑むから、わたしはたまらなく辛くなる。私はこの作為のかけらもない、腰の座った微笑が好きだったのだ。もう始まっている、抗えない奔流に流されるようにして、彼女と別れる為の日々がどうしようもなく始まっている。
置き土産のような彼女の言葉、そんな風に感謝されるだけの価値が自分にあるとは思えない、むしろ私はそれをそのままあなたに返したいのに。味気ない事務机の前、小柄な彼女を見下ろす形で私は曖昧に言葉を繋ぐ。

 
もう一年あったら。
ことばには出来ない。現実は理性的だ。彼女も多分そう思っているだろう、もう一年あったら、多分こんな風な終わり方にはならなかった。


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