みかんのつぶつぶ
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いまの私には過去も将来も関係なく、ただただ目の前の出来事が滞りなく過ぎることだけを願っている。
昨日F先生から先日撮影した脊髄のMRI写真を見せてもらった。 脊髄、とくに頚髄部分の断面図・・・ あんな狭い脊髄内に半分も占拠している腫瘍が。
断面図をわかり易いように裏返してくれた。 頚髄内の左半分が腫瘍で塞がっているように見える。 だから左半身が脱力しているのだ。 脳の場合は反対側に影響がでてくるのだけれど・・・。
彼の様子はどうなのかと、先生から質問された。 食事はできているのか、精神状態ははっきりしているのか。
座っていても姿勢を保っていることはできず、 首も力がなくなって頭がどんどん前へ下がっていく状態だと伝える。 精神状態は落ち着いている…のか、それとも状況を把握する能力や気持ちが、もう喪失しているのか… 計りかねる部分がある。
「こんな汚いところで手術患者と一緒にいるということは、 もう彼には可哀想だと思うんだよね・・・」
いつも感じることなんだけど、 この先生は、どうしてこんなに人情味のある心を持ち合わせた脳外科医なのだろう。
「そろそろそういう時期が来たと思う・・・」
苦渋に満ちた声で先生が言う。
「ホスピスに移ることで、彼がショックを受けてしまうことが心配なんだよね。 まだ意識的には波があっても理解できる部分が多いと…」
患者の家族の心痛をそのまま先生が持っていて、 私のかわりに言葉にしてくれる、いつも。 そして病気のことだけではなくて、彼自身の心理を考えてくれるのだ。
「奥さんがしばらく彼の様子を見て、決めて欲しい。 その時が決まったら知らせて欲しい」
だれか、だれか私のかわりに・・・ 私に決めさせないで。
突然呼吸停止に陥る危険性が高いということは、わかっていて欲しいという。
緊急時の人工呼吸器については、その場の判断で医者が処置をするからという言葉で、 私は後ろめたさを感じながらも安堵する気持ちになった。
医者の判断に委ねる・・・ この先生だったら、信頼して任せられる。 彼も、ずっとこのF先生を一番信頼している。
だからこそ、またこの病院を去らなければならないということが、どれだけ彼を傷つけるか。
彼だけをみつめて、 彼のかわりになって、 彼の生きかたを考えて・・・
いったい何が、どれが、「彼のため」なのか?
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