裏山たぬき
目次未来過去
2004年04月20日(火)

ひとりごと


私たち家族が5月連休によく行くのが、川沿いのキャンプ場。その同じ川沿いで、数年前、川の増水により、水難がおこりました。

増水と氾濫の可能性があるので、少し前からキャンプの客には、地元の消防団が必死によびかけ、多くの人がキャンプを諦めて避難していました。その水難にあった人たちは、若者の団体と、若い家族連れ。注意されても言うことを聞かずに、呑気にテントで寝ていて、被害にあったのです。

幸い命を失うことはなかったのですが、助かった後、周囲の冷たい目は並大抵ではありませんでした。消防団の人たちが、必死に注意を呼びかけたのに、真面目に聞かずに、自業自得な目にあった人たち。結局、たくさんの人に迷惑をかけ、あやうく溺れかけた人たち。あの人たちが、反省の色もみせずに、翌週に同じ場所でキャンプするといったら、さぞかし世の中のバッシングをあびるでしょうねえ。

今回のイラク人質事件での3人の人質になった方々と家族へのバッシングは、まるでそんな感情を国家レベルで増幅させたもののように、私には思えました。

大雑把に言えば、“さんざん迷惑かけたくせに、イラクに残るだと?ふざけんな!”という論調。政府の側としたら、国にとって、不利になるようなことをしてくれて!迷惑をかけるんじゃないよ!という感じでしょうか。

めぐっている日記でも、助かるまでの論調は人命を優先するべき…という意見が多数派。その後、イラクに残るという発言で、がらりと、風向きが変わりました。ほとんどの日記や、BBSの書き込み、掲示板での書き込みが、やんわりと“いかがなものか?”的書き方や、厳しい人になると、非常識と非難する状態に変化していきました。

たしかに、天災のとき、危険だと知りながら、注意もうけながら、その場所に残るのは馬鹿です。ましてや助かったあともちっとも反省の色がない人は非常識です。でも、はたして、今回の人質問題が、そういう天災と非常識な人という図式と同じロジックで語られてよいのだろうかと、ずっと心にひっかかっていました。

私はそのバッシングを聞くのが嫌で、家族を追いかけ、帰国した彼らを追いかけるWSを見ないようにしていたので、彼らの人柄や考え方は詳しくはわかりません。でもニュース番組をみるにつけ、家族の会見の内容が、どんどん卑屈になっていき、「すみません、ご迷惑をおかけしました」といいつづける様子は胸が痛かったです。

さぞかし、ひどい嫌がらせや、悪戯、脅迫などに悩まされたのでしょうね。ネット上で殺してやるとか、死ねというような書き込みを見たとき、背筋に寒いものを感じました。

いったいどこで、論旨がずれてしまったのでしょう。世界には、たくさんの危険な地域があり、そこでもたくさんの人たちが暮らしている。ある意味どこにいたとしても、テロにあったり、人質になったりする可能性はあるのです。自衛隊以外の日本人も、たくさんそういう地域に暮らしたり、仕事していたりするわけですし、彼らがあれだけバッシングを受ける理由が本当にあるのでしょうか、そういう地域での支援活動に身を投じていた方もいたらしい。それ自体を、あんな形で否定するべきなのでしょうか?

たしかに、あれだけの騒ぎになれば、しばらくは自粛する必要もあるでしょう。でも、彼ら3人が日本に帰ってきても、けっして問題は解決していません。もっと言えば、あの地域にいる民間の日本人が全員帰国して、日本でおとなしくしていても、ちっとも問題は解決しません。

今回のバッシングで、日本人の島国根性の悪い面をすごく感じました。日本人さえよければいい。危険なところには行くな、近づくな。行って被害にあったら本人が悪い。たとえば、他の国でテロがあったら、いち早く日本人がいないのを確認し、日本人はいませんでしたと報道し、それでオッケーなお国柄。政府からすれば、実に都合のよい国民性です。自分を守れない日本人が、ウロウロして人質になろうものなら、世界に向けて面目丸つぶれです。なにより、アメリカに対して顔向けできません。

あの国や地域で、実際に生活する人たちが、平和に暮らせるように、なるのはいつのことでしょう?そして、今少しでも、平和に向けて情勢は動いているのでしょうか?私には、とてもそう思えません。そして、その重大な責任を負っているのは、ほかならぬ、アメリカであり、それを助ける日本をふくむ他の国々だと思います。

ちょっと頭を冷やして、アメリカがあそこまで、世界中の紛争に頭をつっこむ理由を考えてほしいと思います。それに追従していいのか、日本人も自分の頭で考えるべきだと思います。

今回の人質問題。いつのまにやら、彼ら自身の人格非難や、バッシングに論点がスライドし、日本政府の責任や、自衛隊派遣によって生じる、当然考えられる事態への政府の策の無さへの検討は、吹き飛んでしまいました。

でも、人質となった彼らを非難して、今回の問題を終わらすわけには行きません。極端な話、海外に行かなくても、国内でさえも、テロや人質の被害者になる可能性だってあるのですから。

あのバッシングで得をするのは、政府だけです。ごまかされないぞ!と思う私がここにいます。


追伸

とてもデリケートな問題で、弱虫な私はとても、表の日記にはかけませんでした。人質の人たちをバッシングしている、異常なエネルギーや世間の空気が、はっきり言ってとても怖いです。そう、戦中の非国民いじめや差別ととても似た匂いがします。

だから、こっそりこんなところにアップします。

追伸2
国際政治にうとい私は、あの泥沼を解決する道筋があるのか、アメリカや日本がどうしたらいいのか、とても論じられるような知識も情報も持っていません。ここでそれにふれるのは、あまりにもおこがましいので、あえてそのことには触れませんでした。

それこそ、何十年も解決できていない、長い歴史と、たくさんの民族と、たくさんの宗教がからんだ問題です。たくさんの人たちが、平和に暮らせることを求めて、努力しているにもかかわらず、解決していないのです。簡単に語れることではないと思いました。






      

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