誘い水(獅子鷲)


 Past : Will 2005年02月08日(火) 


「女の子ってさ、好きなヤローの前ではモスバーガー食わないんだって」

テーブルを挟んで、TV側で膝に落とした雑誌を繰っていた走が「へ?」といった表情で顔を上げた。

「口とか手が汚れるから。食わねえんだって」
「それで?」

別に意味はねぇけど。走の持ってきた水蜜を食べていて、手がべとべとになって、それで思い出した冴の話。
週末、いつものようにマンションへやってきた俺を迎えて、何するでもなく向かいに座っている走がさっきから何も喋らないから、ただ、なんとなく。

「…ってことは、俺はオマエが嫌いってことになる?」
「何で」
「汚れてもぜんぜん気にならないし」

そりゃそうだろと走が視線を寄越したその先には、甘い蜜を零すやわらかな果実。

「水蜜は別だと思うけどね」

そう言って床にバサリと雑誌を落とすと立ち上がった走が、オレの隣に腰を下ろす。

「だってこれは、誘う為の果物でしょ」

俺が怪訝にヤツを覗き込むと、走は蜜が伝わる俺の手首の少し下を掴み、イキナリ、手の甲を舐めた。

「なッ…!」

にしやがる、と言いたかったのだが驚きのあまり言葉が詰まる。
俺が口をぱくぱくさせていると、口端についた蜜まで指先で掬われた。

「あんまり強く握ると潰れるよ?」

そう言って走が細い顎でつい、と示した俺の手のひらでは、齧り掛けの水蜜に指先が食い込み、新たな蜜を零していた。僅かに白濁した甘い香りの果汁が、ぽたりと落ちる。
走はオレの腕を掴んだままだった。
そのまま身を屈め俺の掌の水蜜に唇を寄せると果肉に歯を立て、そのまま、小指を口に含んだ。

「!!」

ぼたりと水蜜がテーブルに落ちる。俺は掴まれた腕を振り払い、勢い背にしたベッドにぶつかった。
くすりと笑う走は、水蜜を拾い上げるとゆっくり口元へ、運んだ。


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何年の付き合いだよ。
結婚何年目だよ獅子鷲、おい(笑)
ああ、…牙吠が終わってもうすぐ…ほんとにもうすぐ3年か。
はやいなぁ。
でもまだ好きなんだなぁ(笑)


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