獅子鷲(誘)


 Past : Will 2003年07月05日(土) 


ちゃり、ちゃり。
ポケットの中で、小銭とぶつかって鳴き声をあげるそれを、掴んで引っ張り出すと、自然と口の端が上がってしまう。

(こんな顔あいつにゃ見せられねぇ、ぜってー)

妙な意地から、けほん、と咳払いをひとつ。
視界の隅に、もう鳴らす必要のないインターフォン。

短い廊下の向こう、部屋の明かりは点いているのに、音は無くひっそりとしていた。可動式の壁を取り外し一間続きにしてしまった寝室では、Tシャツにジーンズといった出で立ちのこの家の主が、規則正しく肩を上下させながら、健康的な寝息をたてていた。
壁に向かい背中を向けているので表情は窺えないが、湿った髪、床に投げ出されたバスタオルからシャワーを浴びたあとそのままウトウトしてしまっていたことが窺える。

先週の今日、ここを去る直前に、自分に向かって投げて寄越された合鍵。
ポケットの中のその金属片が嬉しくて、嬉しくて今日は一日中それを鍵穴に挿し込み錠があげられる音をききたくて溜まらなかったのだ。
合鍵ひとつでガラにもなく、こんなにも心が弾んでいる自分に苦笑した。こんなハズじゃなかったのに。

ジャケットを窓側の椅子に投げると、ベッドに腰を下ろした。ギシリと深くベッドが沈んだが、すやすやと寝こけているこいつは一向に起きる様子がない。
少し寒いのか、手足を引き寄せ寝息で手のひらを暖めるように横になっていた。
ふわふわとした茶髪に手を差し入れると、湿った地肌が温かく心地良い。
身を屈め、こめかみに軽く口付けると、そのまま隣に横になる。
片腕を腰に回し、背中から抱き締めた。
本当に、今日の自分はどうかしている。


「ん…」

腕の中で小さく身じろぐ走に、岳の意識が戻る。どのくらい眠ってしまっていたのか。多分ほんの2,30分のことだろう。背中から感じる、自分より少し低目の体温で、岳の存在に気付いた走が、回された腕が外れないよう器用に反転した。

「いつ帰ってきたの?」

『帰ってきた』…そんな言葉ひとつにも再び心が弾んでしまう。その言葉に深い意味があろうがなかろうが、それは今の自分を喜ばせるに十分なものだから。

「ついさっき」
「…へぇ」

だんだん目が覚めてきたのか、返事は先ほどよりもはっきりとしてきていた。自分の大好きな、大きな二重の瞳に覚醒の色が戻ってくる。

「する?」

その瞳に引き寄せられるように、問いかけてみる。

「する」

回した腕で背中を引き寄せ、至近距離にあった唇に口付ける。
触れた唇のカタチが笑みを零している。
何時もの、柔らかな笑み。
その曲線を辿るようにゆっくりと唇をずらした。
そのまま、ちゅ…と触れるだけのキスを繰り返す。

「キスより先もしたい」

唇を離すと、吐息とともに甘いテノールで囁かれた。
どうしてこの声は、こんなにも自分を熱くさせるのだろう。

「駄目」
「したい」
「ダメ」

どちらからともなく、クスクスと笑い声が零れた。


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恋人から合鍵貰うと嬉しいよね。ってそんな話。
鍵で開けられるのはドアだけじゃないからね(寒)
今度は本当にお誘い岳さん。上機嫌ですなー(笑)
ウチの鷲はたいへん男らしいので、獣医が「うん」と言えばリバも可能だと思います(爆弾発言)


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