人恋しくて 一人も好きで
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2004年09月28日(火) モヘジ@代打です



どうも、今はなきモヘジです。

出張の前日ゆうさんからメールが来て、「明日から海外なのに全然準備ができていない。昼頃、これからスーツケースを買いに行くと人に言ったら、まるでモヘジみたいだって誉められました。えへ」って言ってました。私の悪評がどんどん広がってるようで大変心強いです。そして彼女は、この代打日記依頼と、日記のパスワードと、日記のお題『二番目に大切なもの』と、あろうことか「代打日記が終わったら適当に次の人に頼んで」という無責任な言葉を残してとっとと行ってしまいました。モタモタグズグズしている人間を評して「モヘジみたい」と言いながら、そのモヘジに何を託してるんだと思いました。もちろん、まだ次の代打要員は見つけてません。

まあいいや。まずは日記だ日記。


さて、『二番目に大切なもの』について書くとなると、ここはやはり「コダマ」について語らねばなりますまい。この前の台風18号で私の住む街にはとても強い風が吹き、森といわず公園といわず街路樹といわず、とにかく木という木がなぎ倒されかけ、あるいは実際になぎ倒されました。近所の公園の、いつもその下に男女3人の幽霊をたたえていた立派な柳の木が倒れた時は、悲鳴のようなすすり泣きのような声があたりに響いたといいますが、残念ながら私は聞いてません。きっと風の音にかき消されたのでしょう。

「コダマ」はその公園から少し離れた場所にある神社の境内に現れました。言い伝えどおりぽっくりと。みなさまの住んでいる地域ではどういうか知りませんが、私の地元ではその穴を「コダマ」といいます。樹齢200年をこえるオンコの木が根元からボツリと折れ、そこにぽっかりと穿たれた深く暗い穴。覗き込むと土のにおいと冷たい空気に息が詰まり、どこまでも続く漆黒の闇に眩暈さえ覚えます。もちろん「コダマ」がどれほど深いかは誰もわかりません。私がウワサを聞いて最初に見物に行った時には、小学生くらいの男の子が石を投げ入れようとして、慌てて周りの大人にとめられてました。「だめだだめだ、コダマには自分の二番目に大切なものしか投げちゃだめなんだ」

私を含め、世の中の大多数の人々は、人生に実際「コダマ」が現れることを想定して生きてはいないでしょう。それは非常に不確定なことでもあると同時に、いつも掌にある大切なものを意識していなくてはならないということでもあるからです。雑多で煩雑な人生を送る大人にとって、そういった真似は不可能に近いほど難しい。だから人は「コダマ」を前にすると、どこか不安気で落ち着かなくなるのだろうと私は思います。

ではなぜ「コダマ」には自分の二番目に大切なものしか投げ入れてはいけないのか、一番目、もしくは三番目に大切なものを投入してしまった場合はどうなるかという重要部部についてですが、それは私にはわかりません。わかっているのは、とにかくきっちり二番目に大切なものを投げ入れなければならないこと、一番大切なものでも三番目に大切なものでも七十五番目に大切なものでも、とにかく二番目以外のものを「コダマ」に落としたが最後、その人にとって一番大切なものが永久に失われてしまうということだけです。最後の一ミリグラムまできっちり量りにかけて、自分にとって二番目に大切なものをていねいに抽出し、「コダマ」に投げ入れる。そうするとすばらしい奇跡がおきるのだと、人はいいます。

そんなわけで台風18号が来てから、私は今日までほとんど毎日神社に行って、ぼんやりと「コダマ」を眺めています。「コダマ」の周りには多くの人がやってきて、中を覗き込んだり、何かを投げ入れようとしては躊躇しています。位牌を持ったおばあさんや、分厚く膨らんだ銀行の封筒を手にした中年男性、シャツの中に隠し持ったなにかを何度も取り出しかけてはすぐにしまいこむ女性など、いろんな年齢のいろんな人が現れました。が、今のところ私が見ている限り「コダマ」に何かを投げ入れた人はおりません。小さな子犬を抱いた小学生は、「コダマ」の上に犬を掲げ、手を放さんとしたまさにその瞬間、「キャンキャン」という鳴き声を耳にして思いとどまりました。この一ヶ月近く、私は人の迷いというものをずいぶん見ました。迷っている人間は、例外なく悲しげな顔をしているのだと思いました。

もちろん、私自身も「二番目に大切なもの」についてずっと考え続けています。まだ結論はでていませんが、三日前くらいから「コダマ」が小さくなってきたので、そろそろ閉じてしまうのかもしれません。奇跡を願うなら今日あたりが最後のチャンスでしょう。ですから本当なら、こうしてのんきに代打日記を書いている場合じゃないのですが、そこが私の偉いところとでもいいましょうか、まあほかでもないゆうさんの頼みでもあるし、なにしろお題が『二番目に大切なもの』という今の私にぴったりのものだったので、こうしてせっせと書いておるわけです。とても親切ですね私。すばらしいと思います。見直してほしいです。今まで私を飲んだくれでモタモタダラダラグズグズしているだけの人間だと思っていた方には、これを機にぜひともイメージ修正を頼みたいです。「恩着せがましい」という項目も付け加えるといいかもしれません。


では、これから神社に行ってきます。おそらく私も悲しげな顔をしているのでしょう。手が少し震えています。二番目に大切なものを選んだ手です。それから、さっきこれ書きながら念のために確かめたら、ゆうさんの残したお題は『二番目に大切なもの』ではなく、『今二番目に気になってるもの』でしたが、まあ気づかないことにします。みなさまも気にしてはいけません。さようなら。





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