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2003年03月07日(金) Word Labo��

冴子:みなさんこんばんは。今日も言葉の不思議を科学する「Word Laboratory(通称Word Labo)」の時間がやってきました。

安藤教授:本当に久しぶりじゃのう。もういい加減打ちきりになっていたと思っておったわい。

冴子:いえいえ、何をおっしゃいます教授。この「Word Labo」はこの午前4時から5時までの間で、一番高い視聴率を獲得しているのですから、そう簡単には打ち切りにはなりませんよ。

安藤教授:他局はこの時間に放映しとらんからじゃろう……

冴子:えー、コホン。教授、生放送ですから(さりげなく教授の足を踏む)。

安藤教授:こんな朝早くから老人を捕まえて、まったくのぅ……

冴子:さて、今日のテーマは「効果的な登場人物紹介を考えよう」です。よく海外の翻訳ミステリーや分厚い文芸大作などで、最初に登場人物紹介が載っているものがあります。確かに、めまぐるしく現れては消えていく登場人物たちにすぐに立ち返れるようにという意味で結構重宝するものです。とくに、まだ序盤、物語にそれほどなじんでいないときには、より重要なページと言うことができます。

安藤教授:そうじゃ。特に海外の翻訳ミステリーは妙に登場人物が多かったり、名前がわかりずらかったりして、登場人物紹介がないとなかなか頭の中が整理されんな。

冴子:確かにそうですね。けれども、登場人物紹介は便利であると同時に、さじ加減が難しい部分でもあります。たとえば、物語の中でその人物に降りかかる衝撃の運命などはそこには記載することができませんよね。たとえば……

(テロップ挿入)


 鈴木太郎……本編の主人公。リストラされるが、偶然買った宝くじで一等が当たり、それを元手に自ら事業を興し成功を収める。


 とか書いてあったら、その分厚い本を読む楽しみもなくなってしまいますね。

安藤教授:確かにそうじゃな。ああそれなら読まなくていいよなってなるのう。

冴子:そのようなことを踏まえた上で、現状の登場人物紹介では、それほどつっこまない内容、つまり誰それの兄弟だとか恋人だとか、あるいは友人だとか、そういった必要最低限のバックグラウンドだけが書かれていることが多くなっています。

安藤教授:その方が下手な先入観を抱かせることもなく、より本編を楽しむことができるというわけじゃな。

冴子:その通りです。つまり、現状の登場人物紹介とは、このようになっているわけです。

(テロップ挿入)


 ドラえもん 登場人物紹介


 ドラえもん……野比家の居候。
 のび太……野比家の長男。
 しずか……のび太の級友。
 ジャイアン……のび太の級友。
 スネ夫……のび太の級友。
 ドラミ……ドラえもんの妹。


冴子:もう一枚見てみましょう。


 サザエさん 登場人物紹介


 波平……磯野家当主。
 フネ……波平の妻。
 サザエ……波平夫妻の長女。マスオの妻。
 カツオ……波平夫妻の長男。
 ワカメ……波平夫妻の次女。
 マスオ……サザエの夫。
 タラオ……マスオとサザエの長男。
 タマ……磯野家の飼い猫。


冴子:このような感じです。どうですか、教授?

安藤教授:まあ、こんなものじゃろうな。けれども、もともと知っている物語の場合には、いざ紹介されてみるとなんだか不思議な感じがするのう。たとえば、ワシでもジャイアンと名前を聞いただけで結構たくさんの性質や特徴を連想することができるのじゃが、「のび太の級友」で終わっとる。カツオも「波平夫妻の長男」で終わり。そういうのってなんだかおかしな感じじゃのう。

冴子:ええ、確かに。ただ現状の登場人物紹介というのは、こんなものなんですね。

安藤教授:ということで、じゃ。今日はいくつかの新しい登場人物紹介を考えてみたというわけじゃ。常に「ことばはいきもの」のポリシーにのっとって、新しい試みをしようとしている我々の本領発揮というところじゃな。それでは、順番に見くことにしようかの。

(テロップを出す)


「八郎寿司物語」……江戸っ子気質を残す老舗の寿司屋「八郎寿司」を舞台にした、心温まるヒューマン・ドラマ。


主な登場人物

マグロ……インドマグロ。
トロ……脂がのっている。
かんぱち……活きがいい。
ウニ……高級品。
はまち……いまが旬。


冴子:……なんか違いませんか。って言うか、人物じゃないような気がするんですけど……

安藤教授:寿司屋の店員たちの紹介をすると見せかけ、ネタの紹介をする。この変化球が新鮮なんじゃ。冴子君、この登場人物紹介を見たら、「八郎寿司」がどんな寿司屋か気にならんかね?

冴子:ま、まあ気になりますよね、確かに。

安藤教授:そこじゃ! そこなんじゃよ冴子君っ!! うおおおぉぉぉおおっ!!!(教授、エキサイトして目の前にあったマイクをカメラに向かって投げつける)


────しばらくお待ちください────(背後で、「ウホッ、ウホッ」という声だけが聞こえている)


冴子:……ただいま、お見苦しいところがございましたのをお詫び申し上げます。

安藤教授:ウホッ……んー、コホン。話が少し前後してしまったが、そういうことなんじゃよ冴子君。つまりじゃ、登場人物紹介というのは、いまではもう登場人物の紹介をしなくてもいいんじゃよ。むしろするな! ……読者に、その中を読んでみたいなと思わせればそれで勝ちなんじゃ。現代の若者たちは、最初が面白いかどうかで読むかどうかを決めてしまう。つまり、最初のつかみが、芸人並みに求められる時代になっているんじゃ。

冴子:なるほど……確かに登場人物紹介を、読者が興味を持てるように利用するというわけですね。

安藤教授:その通りじゃ。では、そのパターンをもうひとつ見ていくとするかの。

(テロップを出す)


「ラブ・セレナーデ」……大学生男女5人の楽しくて少し切ない恋模様を描いた恋愛小説。


主な登場人物

速見俊一:サッカー部のキャプテン。亜里砂のことが好き。
星野亜里砂:サッカー部のマネージャー。速見とは同じ高校出身。
正木祐二:亜里砂の昔の彼氏。自分の浮気で別れたのだが、亜里砂のことが忘れられない。
新見遥:正木のことが好きな、軽音部に所属する元気一杯の少女。
ボブ:キン肉モリモリ。冬でも半袖の大男。


冴子:……なんです? コレ?

安藤教授:気になるじゃろ?

冴子:確かに、気にはなりますけど……何かが違うような……

安藤教授:それでいいんじゃ。読者はそのちょっとした違和感が気になって、とにかくページをめくる。そうしている内に物語の魅力にとりつかれ最後まで読み切るというわけじゃ。

冴子:ちなみに、この「ラブ・セレナーデ」の最後はどうなっているんですか?

安藤教授:亜里砂とボブが幼い頃の約束を叶えて結ばれる感動のラストじゃよ。

冴子:え……!? 幼い頃の……??

安藤教授:最後に、もうひとつ見てみるかの。

(テロップを出す)


「ワンダフル・ワールド」……悪を退治するための正義の戦隊「ワンダフル・ワールド」の面々の活躍を描いた冒険活劇。


主な登場人物

ワンダフルレッド:武器はマグロソード。
ワンダフルブルー:ブルーというよりは紫。
ワンダフルグリーン:胃腸が弱い。
ワンダフルイエロー:太りすぎ。
ワンダフルピンク:実は男。


冴子:……あんまり頼りにならなそうな戦隊ですね。

安藤教授:そうじゃ。こいつらで大丈夫なのかと思わせることによって、本編に呼び込むというわけじゃ。

冴子:はぁ……。

安藤教授:さて、今日は「登場人物紹介」にメスを入れてみたが、世の中にはまだまだ既存の常識が当たり前のものとなって、新しい手法が考えられていないものがたくさんある。この番組では、今年も様々な着眼点から認識を変えていくことにチャレンジしていくつもりじゃ。

冴子:それでは、今日はこの辺で、ごきげんよう。


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