Sun Set Days
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2003年01月10日(金) 『バースデイ・ストーリーズ』

『バースデイ・ストーリーズ』読了。村上春樹編訳。中央公論新社。
 帯には「奇妙な話、せつない話、心がほんのり暖かくなる話 村上春樹が選んだ誕生日をめぐる11の物語」と書かれている。これは、村上春樹が誕生日をテーマにした短篇を集めて自ら訳したアンソロジーだ。集められた作品は「本棚の置くから引っぱり出されてきたような古典じゃなくて、この十年くらいのあいだに発表された、活きのいいコンテンポラリーなもの(訳者あとがきより)」となっている。

 収録されている作家の多くはまったく知らない、あるいは名前は知っているけれど読んだことはないと圧倒的に未読の作者が多かったのだけれど、それぞれの話には一筋縄ではいかない落としどころのようなものがあって、新鮮に感じることができた。ちょっとばかりやれやれと思ってしまうのだけれど、いずれも誕生日=ハッピーバースデイ! というようなシンプルな物語ではないのだ。ハッピーでキャッチーな世界を切り取ってみましたというような作品が入っていてもいいような気はしたのだけれど。

 特に惹かれたのはラッセル・バンクスの『ムーア人』とアンドレア・リーの『バースディ・プレゼント』。レイモンド・カーヴァーの『風呂』。そして、最後に収録されている村上春樹の(やはり誕生日をテーマにした)短篇『バースデイ・ガール』。

『風呂』に関しては、カーヴァーの作品の中でも結構有名な方だと思う『ささやかだけれど、役に立つこと』のショート・バージョンで、村上春樹が冒頭で解説しているように(それぞれの短篇のスタートの前に、訳者である村上春樹がその作家とその短篇のちょっとした紹介を1ページずつ行っているのだ)、ロング・バージョンの方が「小説の出来としてはずっと上で、内容も深くなっている」とはやっぱり思う。
 ただ、もちろん、ショート・バージョンの方にも「なかなか捨てがたい味わいがある」ということで収録されてはいるのだけれど、短い分無駄な説明や修飾がなく、どこか突き放したような読後感は好みの別れるところかもしれない。いずれにしても、同じモチーフの作品がその長さや焦点のあわせ方によって、深みを増すのだというひとつの例みたいだ。

『バースデイ・ガール』は、20歳の誕生日の日に不思議な老人からあるプレゼントをもらう女の子の話なのだけれど、短くてもどんどん読ませてしまう文章はさすがだし、内容に関しても読後にいろいろと考えてしまうようなものだ。それにしても、どうして、どこからあんな比喩を思いついてくるのだろうと本当に思う。まったく関係のなさそうなものをひょいっとふたつ持ってきて、それを組み合わせるだけでとても効果的な暗喩を作り出すことができてしまうのって、やっぱりとてもすごいことなのだろう。


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 一昨日は仕事が終わってから、ガストで今月中旬に社内の試験を受ける後輩の論述文の添削をする。試験の中に、A4用紙1枚ほどで現状の問題点について(自分なりの)分析をする問題が出るのだ。この間西日本にいる別の後輩の添削もしたので、最近はちょっとした赤ペン先生だ。ガストの店内で、後輩の書いた文章を読みながら、その内容についていろいろと話し、ノートにいくつかの文章と簡単な図を描く。
 文章や図にしてみることで問題点が明らかになり、それについて言葉を交わすことでさらに認識が精確にあるいは深くなるというのは、いまさらあらためて書くようなことでもないのかもしれない。けれど、日々の仕事の中でぼんやりと問題だよなと思っていることはきっと多くて、まだまだ文章化してもいないことはきっと山積みなのだと思う。
 そういうこともまずは文章にしてみることで、クリアにするためのとっかかりになるのだろう。


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 お知らせ

 表紙と裏表紙がかなりしっかりとしたノートを買いました。いつものカバンの中に入れておくのです。


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