Sun Set Days
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2002年03月10日(日) 森の動物たち�ぁ.皀阿燭鵑肇魯蝓�

 モグたん。
 森の動物たちは尊敬の意味を込めてモグたんのことを「博士」と呼んでいます。
 それは彼が森の動物たちのなかで最も勉強家であり、様々なことに詳しいからです。
 もちろん、くま吉も同じくらい様々なこと(裏の世界も含む)に詳しいのですが、くま吉の場合はくまができているので謙虚でそういうことは隠しています。
 ですので、森の動物たちの中ではモグたんが一番の物識りということになっています。

 モグたんはものすごくまじめです。
 いつも黒ぶちのめがねをかけていて、それが飛び出ている鼻にちょっとひっかかっているような感じになっています。
 いつもモグラ広辞苑(編者:金田一モグラ彦)を読んでいたり、モグラトンやモーゲルの哲学的な命題に頭を悩ませています。
 森の動物たちは様々なことをモグたんに訊きに来ます。
 たとえばちょうちょの名前やきのこの見分け方、それから人間たちの苦手なものなど。
 それらについて、モグたんは、「それはですネ……」と丁寧に伝えます。
 誠実なモグラなのです。

 先日も、Sun Setさんが、「モーニング娘。の新人オーディションは出来レースなのかどうか」を質問してきましたが、そういう致命的に情けない質問にも、モグたんは丁寧に答えるのでした。

「それはですネ……」

 そんなモグたんは、以前人間の子供と仲良くなったことがあります。
 まだ小さかった頃のことです。
 その頃モグたんはアメリカのカリフォルニア州に住んでいる気の弱いモグラでしかありませんでした。
 カリフォルニアの太陽も、モグたんの人生にはあんまり関係がなかったのです。

 当時のモグたんの趣味は穴掘りでした。いろんな場所に穴を掘り続けて、地上に顔を出してそこの景色を眺める。
 それだけで何だか楽しかったのです。
 仲間のモグラたちはそんなモグたんを「穴を掘るしか能のないつまんねえモグラだよ」とののしるのでしたが、モグたんはそれでもよかったのです。
 穴を掘っているときには何もかも忘れることが出来たし、地上に顔を出したときに広がる風景を見るのは、その小さな心をぎゅっとつかまれるようなものでもあったからです。

 ある日、モグたんがいつものように闇雲に穴を掘り続けていると、小さな家の庭に出ました。
 周囲にいくらでも同じような家のありそうな、新興住宅のひとつです。
 そこできょろきょろと周囲を見回していると、家の窓の内側で勉強している男の子が見えます。
 何だかつまらなそうにペンを動かしています。

(勉強をしてるんダナ)

 モグたんはそう思いました。モグたんは勉強をしたことがなかったので、それが面白いものなのかどうかわかりません。
 ただ、目の前の人間の子供はつまらなそうにやっているゾ、と思っていました。

 そのときです。
 ふいにその窓がガラッを音を立てて開かれました。

「おいっ!」

「モ、モグッ」

 モグたんは慌ててわけのわからない返事をします。モ、モグッって……ねぇ?

「おいっ、お前、名前、何ていうんだよ」

 男の子は窓の桟に顎をつけるようにして、モグたんの方を見つめています。

「モ、モグたん」

「変な名前だな」

「そうでもないヨ。モグラの世界では男の子の名前ランキング第3位だしサ。第1位はモグモグなんだヨ」

「……まあ、いいけど。なあモグたん。お前、勉強って好きか?」

 男の子は人間にしては珍しくモグたんに気さくにそう話しかけてきます。普通の人間は、モグラが喋ることができるとも思っていないので、話しかけたりはしてこないのです。それに、モグラのほうでも、喋ることができることがわかると何かとやっかいなので、まれに話しかけられたとしてもわかっていないふりをしていることが多いのです。それなのに、そのときモグたんは、そんなことも忘れて普通に話していました。驚かされてしまったせいかもしれません。

「やったことがないからわからないゾ」

「そうか。そうだよなあモグラだもんなあ。勉強ってむずかしいんだぜ」

「ふーん。そうなんですカ」

「でも、頑張らないといけない」

「頑張ってくださいネ」

「ちぇっ、モグラは気楽でいいよな」

 そう言ってモグたんを見た男の子は、はっといいことを思いついたというように目を輝かせます。

「そうだ。モグたん。お前も一緒に勉強をしようぜ。そうしたら、ほら、わからないところも聞き合えるしさ」

 モグたんはちょっと考えました。人間と一緒に勉強をするってどうなのだろう。

「ほら、頭のいいモグラなんかなかなかいないぜ」

「えー。だってそれ面白くないんでしョ」

「一人ならな。二人なら面白いよ」

 男の子は自分のアイデアが気に入った様子で、しきりにモグたんに薦めます。

「しょうがないですネ……」

 最後には、根負けしてモグたんはそう言いました。

「やったぁ! 俺の名前はハリー。ハリーって呼んでくれ。モグたん」


 その日から、二人の勉強がはじまりました。
 ハリーは、窓からモグたん用の教科書や辞典を投げてよこしました。ハリーは部屋の中で、モグたんは庭でそれぞれ勉強をするのです。
 そしてわからないところはお互い聞きあったので、ハリーがそれまで一人でやっていたときの5倍くらいのスピードで勉強がはかどっていったのです。

「なぁ、モグたん。二人でやると勉強も面白いな」

「そうですカ。確かに、はじめてみると面白いものですネ」

「だろ?」

 ハリーは目を輝かせてモグたんにそう語りかけます。

「いつか、勉強をしっかりやってさ、博士って呼ばれるくらいになりたいよな」

 ある日、いつものように勉強を続けていると、ハリーがそう言います。

「博士、ですカ?」

「そうだよ。モグたん、お前も博士になればいいよ。モグラの世界初の博士。かっこいいぜ」

「そうですカ?」

「ああ、すげえかっこいいよ。な、モグたん。約束だぞ。博士になれよ」

「……はい。そうですネ」

 モグたんは窓の向こう側にいるハリーを見上げながら、そんなふうに頷くのでした。

 モグラ村では、モグたんは変わり者扱いでした。モグラのくせに人間と一緒に勉強をしている。
 でもモグたんはハリーと一緒に勉強をしている時間が好きだったのでした。
 新しいことを覚え、わからないところを教えあう。
 そしてハリーは、それまでモグラ見知りでなかなか友達のできなかったモグたんにとって、はじめてのちゃんとした友達でもあったのでした。

 そんなある日、モグたんがいつものようにいまではすっかりと大きくなってしまったハリーの庭までの穴を通って庭に顔を出すと、窓の向こう側にハリーの姿が見えません。

「……あレ?」

 モグたんはきょろきょろと辺りを見回しますが、ハリーの姿はどこにもありません。窓も固くとじられています。

「出掛けたのかナ? 昨日は何も言ってなかったけド……」

 モグたんはそう小さくつぶやいてから、いつものように庭に置きっぱなしになっている辞書や参考書を開いて勉強をはじめました。

「ねぇ、ハリー、ここのところがちょっとわからないんだけどサ」

 いつものようについ顔を上げて窓の方を見ますが、カーテンの向こう側には何も見えません。

「そっか、ハリー、いなかったんダ……」

 モグたんは一人で勉強を続けるのでした。

 そして、窓の開かない日が数日続きました。モグたんは毎日のようにハリーの庭に行き、一人で勉強を続けました。
 モグたんはそのときにもモグラの世界の博士というものがどういうものなのかいまいちよくわかってはいなかったのですが、それでもハリーとの約束だったので頑張ろうと思っていました。
 モグたんにとってはじめての友達と交わした約束は、大好物のどんな食べ物よりも大切なものだったのです。

 そんなある日、モグたんが庭に出ると、そこには見知らぬ大きな男と女が待っていました。

「モ、モグモグッ?」

 慌てて隠れようとするモグたんに、男が「ま、待ってくれモグたん君」と話しかけます。

「モ……モグ?」

 おそるおそる振り返ったモグたんに、男は自分はハリーの父親であることを伝えます。女はハリーのお母さんでした。
 ハリーの父親は、ハリーが先週病気で亡くなったことを伝えました。
 もともと病弱で、部屋の中から出ることが出来なかったこと。
 でも自分の病気を治すために、医者を目指して勉強を続けていたこと。
 ハリーにとっても、モグたんがはじめての友達だったこと。
 モグたんと出会ってから、はじめて本当に勉強が面白いと思っていたこと……

 ハリーの父親はハリーが最後に書いたという手紙と絵をモグたんに渡します。
 その絵は、元気なハリーとモグたんがグランドで一緒に遊んでいるものでした。
 そして、モグたんは手紙を開きます。


 モグたんへ

 いままでだまってごめんな
 でもたぶんもうあえないみたいだ
 お前と勉強をしている時間が
 ほんとうに
 すごくたのしかった

 俺の分まで
 勉強を続けて
 本当にモグラの世界の博士になってくれよ

 お前の親友 ハリー


 手紙を半分まで読み進めたところで、モグたんはハリーと出会うまでは、自分は文字を読むことが出来なかったのだということに気がついて涙が止まらなくなりました。
 そのハリーが、自分に勉強を続けるように書いているのです。

 ハリーの父親は、ハリーの持っていた本や辞典をすべてモグラ村に寄贈しました。モグたんはそれから、毎日のように勉強を続けました。そんなモグたんを見て、いつしか他のモグラたちも勉強をするようになりました。お互いに聞き合う事で、わからないところもはやくわかるようになる。
 モグたんがいるから、他のモグラたちはモグたんにいろいろと聞くようになりました。

 ときどき、モグたんは一人で気分転換にハリーの住んでいた家の庭まで行きました。
 ハリーの両親はその家を引き払い、いまでは別の家族が住んでいます。

 それでも、かつてハリーが座って自分に笑いかけていてくれた窓を見ると、またやる気がわいてくるのを感じるのでした。


 そしていまでは、モグたんはモグラの世界初の博士としてモグラ界に名を馳せています。
 現在は日本の森にやってきて、そこに本拠地を構えています。
 いまでは、モグたんにはたくさんの友達たちがいます。
 くま吉にさる江に、うさ子にウルフィー。

 それでも、やっぱり自分にとってはハリーが一番の親友だって、モグたんはいまでも確信しているのです。

「おーい、モグたーん」

 今日もいつものように、Sun Setさんが質問にやってきます。

「おすぎとピーコは、どっちがお姉さんなの?」

 やれやれな質問です。でも、モグたんは小さく微笑むと、言います。

「それはですネ……」


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 お知らせ

 森の動物たち�ァ嵳イ靴い�まの見分け方」は春に更新予定です。


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