speak like a...child

 

 

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6年の差 - 2003年09月16日(火)

少しだけ実家に帰った。
自分の部屋は未だに高校のときのままで本棚には
教科書や参考書の類が当時と変わらず並んでいる。

何故そのままかというと、あの当時は自分の進路に
疑問を抱いていて、どこか他の大学を受け直すときに
必要になるだろうと思って、そのままにしていたのだ。

結局それらは杞憂に、・・・否、そうではなくて、
自分で何かを変える努力をしなかったのだから、
機会をみすみす潰したのだ。可能性を諦めたのだ。


本棚にはいくつか空き棚もある。CDのためのスペースだ。
アルバムは全て仙台に持ってきてしまったからシングルが
いくつか並んでいるだけの閑散とした空間になっている。
今あるCDを持ち帰ってもここには収まりきらないだろう。
こうしてみると積み重ねたものの大きさには驚かされる。


机の引き出しを開けてみると何通かの手紙があった。
友人からもらったものだ。中身はいつも何気ないもので、
それは愚痴だったり報告だったり約束だったり。

その中の一通、差出人も宛名もない手紙が目をひいた。
日付だけが手書きで記してある。1997年12月19日。


無性に気になって封を解いてみると、差出人はリコだった。
なんとなくそんな気はしてた。文面からするとその前に
僕が何か書いて送ったらしく、それに対する返信だった。

微かにそんな記憶がある。精神的にとても参っていた時期だ。
何もかもがうまくいかず弱り切って落ち込んでしまっていた。
僕は弱音混じりの愚痴でも吐いたのだろう。相変わらずだ。


リコの文面は優しさに満ち溢れていた。
見慣れた文字の一つ一つが便箋から浮き上がって、
朗らかな声に乗って飛んでくるような、そんな錯覚を覚えた。
読み終えた僕は柔らかな安堵感に包み込まれていた。


果たしてこの手紙が当時の僕の心に届いていたかどうか、
それは疑わしい。なぜなら、そのころの僕は言葉が持つ力を
全くと言っていいほど信じていなかったからだ。それは同時に
自らが心からの言葉を発することができなかったせいでもある。
魂に触れられることを恐れ、己の深奥に入り込まれることに怯え、
決してさらけ出すことのなかった自分。分厚い殻にこもっていて、
高い次元でコミュニケーションをとれる喜びを知らなかったのだ。


数年経った今になって、彼女の言葉は穏やかに僕の心に沁み入る。
その間、彼女は文面に違わず僕の成長をじっと見守ってくれていた。



そうか。



彼女は今の僕に宛てて書いたのだ。


僕より2週間程遅れて生まれたはずの彼女を、時折年上に
感じてしまうのはおそらくそういうことだったのだろう。

それなら少しは納得がいく。



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