speak like a...child

 

 

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懐古 - 2002年01月11日(金)

男には弟がいた。彼が3歳になろうとするころだった。
2年遅れて生まれた弟は家族の愛情を半分奪ったので
今まで全てを独占してきた兄は少なからず嫉妬を覚えた。
少しずつ大きくなるにつれ、兄弟は仲良く遊んだ。
いたずらやいじめもしたが、最初のころのような嫉妬は薄れた。
兄はいつまでも子供ではなかったし、それが先に生まれた者の
宿命だろうし、兄弟とはそうやって成長するものなのだろう。

3年経って弟が入院する。程なくして遠くの大学病院へ転院した。
母親が弟に付きっきりとなり、兄は親戚の家で暮らすようになる。
およそ2,3ヶ月の間だったが、兄には1年にも2年にも感じた。
一人で家に帰って鍵を開けて食事をとる。そんな生活には慣れていたが、
家族がいつまで経っても帰ってこない生活に孤独を感じて泣いた。

たまには弟に会いに行った。投薬により食欲もなく母親を困らせていた。
見舞いとして贈られたトランスフォーマーに兄はえらく嫉妬したが、
自由に遊ぶこともかなわなかった弟は病室という檻の中で点滴に縛られて
どんなにつらい日々を過ごしたことだろう。
しばらくして弟は眠ったままになり、ほどなく終焉を迎えた。

薄暗い部屋で家族は医者と話していた。
挨拶が交わされる横で兄はポツリと言う。
 「治せなかったけどね。」
神経芽細胞腫。俗に小児癌と分類される難病であった。

家族は再び何気ない日常に戻り、兄は家族の愛を独占する。
しかし、兄はもう満たされない。
生前、兄は弟に十分な愛情を注いでやれたのか、
なぜあのとき、あんなことで、ケンカしたのか。
それだけを後悔する。
一生かけて後悔する。

あのとき医者に浴びせた一言に人としての罪悪感を感じながらも、
精一杯の悔しさとねぎらいを隠していた。6歳の少年なりに。
初めて人の死という現実を突きつけられ、理解するのに必死だった。
兄は弟の分まで生きていこうと決意するが、医者にはならなかった。
運命を見つめる職業の現実に、どこかで怯えていたのかもしれない。



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