ごめんなさい。
今日はどうか、そっとしておいて下さい。


今日はこの母にとって
特別な日なのです。
年一度の特別な日なのです・・・。













今を去る事、約７年前
私は１人の子供を身篭りました。


武灯はまだ１歳でした。


好きな人の子供だったけど
予想外の妊娠だったので
相手には全く信じて貰えませんでした。


あの男が
「自分は種無しだ。」
と言う言葉を、お母さんは信じてしまいました。


未だにそんな事思っているのかしら？
もう、何処にいるのかさえ知らないけど。
私の身体は貴方の実験体じゃないんです。
悪い冗談は止めてください。


あの子を身篭った前の月
お母さんは１度しか性交渉はしていません。
間違い無く、あの男の子供です。


なのに、あの男は
私に罵声を浴びせた挙句に
「何処の馬の骨だか分からない子供なんか知るか！」
と言いました。
子供まで罵ったんです。
其れは今でも許しませんよ・・・。


自分の身に覚えが無いと言うのですか？
そして、子供が死んだ後に
「金なんか、びた一文出さ無ぇ！」
とは、どういう事ですか？


自分のした事を何だと思っているんですか？
子供を作ったんですよ・・・・・。

















私には、２人も子供を養う経済力はありません。
武灯１人で精一杯です。
元々未婚の母です。
どうにもならなかったのです。


こんなお母さんを、どうぞ怨んでください。
こんなお母さんを、どうぞ呪ってください。


あの子がどんな思いを抱いて死んで逝ったとしても
お母さんは受け止めます。
全てを受け止めます。


水子だろうと何だろうと
傍に居てくれるのなら
お母さんは、あの子と一緒に居られるのなら
其れで良いと思います。


そして、お母さんが死んだ時に
何処へでも一緒に逝きましょう・・・。


でも、出来る事なら
あの子には天国に行って欲しいです。
お母さんは、地獄で構いませんから。


そしたら、逝く所は別々かな？
でも、その前に一度だけ
お母さんはあの子を抱きしめたいと思います。


単なる母の我儘ですけど・・・・・





















お母さんは、あの子がお腹に居た時は
どうしようかずっとずっと考えて
死ぬ事までも考えて
でもやっぱり、武灯が居るから死ねなくて
あの子を殺す事に致しました。


貴方を選んであげられなくて
本当にごめんなさい・・・。


お母さんは、心から思います。
せめて、お腹の中に居る時位
大切にしようと思って
悪阻が苦しかったけど、毎日ご飯をちゃんと食べて
胎教に良い様にお散歩もして
煙草も止めました。


武灯には出来なかった事を
せめてもと思って
あの子にしてあげました。


お母さんからの精一杯の気持ちでした。
ごめんね・・・・・。


















お母さんは、あの子が死んだ時
叫び声を聞きました。


虚ろな気持ちの悪い麻酔の中で
子供が悲鳴をあげました。


ごめんね。
本当にごめんね。
許さなくて良いからね・・・・・。


















子供には名前があります。
母子手帳は無いけれど
戸籍も無いけれど
お墓も無いけれど
それでも名前をつけました。


子供の名前は

優有

と、いいます。
お母さんから出来る
たった１つのあの子への誠意です。


今でも、産んであげたかったと思います。
出来る事なら産んであげたかったと思います。
抱いて、お乳を与えて
毎日笑いかけてあげたかったと思います。


でも、其れは出来ません。
お母さんは未婚の母です。
父親のいない子供の苦しみも嫌という程知っています。
どんなに辛いかも知っています。
だから、其れは出来ませんでした。


せめて、こんな所でも
せめて機械の世界でも
せめて文字だけの世界でも
お母さんは、今でもあの子に生きていて欲しいと思うのです。


だから、お母さんは
今此処で、あの子の名前を語るのです。


女の子だったら『ゆうあ』
男の子だったら『ゆう』


優しい子で有るように


そんな名前をつけました。

















今日は、あの子の産まれる予定だった日です。
命日は忘れる事にしています。


死んだ日を悲しむよりも
生まれてくる日を祝った方が良いと思ったからです。


２月２日はあの子の誕生日です。
お母さんはそう決めました。


今日はこれから
花を買って子供の所に行ってきます。


何も出来ないけれど
お母さんとあの子
２人だけで６度目の誕生日を祝います。


今年もきっと
泣いて謝ります。


悪いお母さんでごめんなさい。


















優有へ

６回目の誕生日おめでとう
沢山、沢山愛しているよ。

お母さんより