『スウィート・バイエル』
モクジ | 今ヨリ、カコへ | 今ヨリ、ミライヘ
ラブホを出る前に、その日最後のキスをする。 玄関のドアの所で。 男友達は絶対にお別れのキスはしなかったし、 今までの男だって、したのは最初のほんの数回。 こんなにお別れのキスをし続けてくれる人は初めて。 最初は、同じ場所に立ってのキス。 次は、入口の段差を使って身長差を埋めてのキス。 そして、キスの時にご主人様の身体に手をかけるように。 ある日、お別れにしては少し濃密なキスをされたとき、 唇を離してから顔を埋めるよう、ご主人様の胸に寄りかかった。 それがずっと続く。 昨秋の、いろいろな話をした日のキスからだと思うけれど…… 胸に顔を埋めたあと、いつもよりもっとご主人様に寄り添い、身体に手を回した。 と、ご主人様がギュッと力を入れて私を抱きしめた。 それからは最後のキスとギュッの抱擁が定番となった。
あれからずっと考え続けていた、ご主人様との関係と終焉。 調子もよくなくて、ますますウツウツとしていた4連休のある日。 桜を見て、マックで一休みしながら本を読み、家路につく。 この散歩の間じゅう、ずっと「このまま消えたら、どうなるのかな」って考えていた。 親と、会社の友達ぐらいは心配してくれるかな、とりあえずは。 ご主人様はどうだろう。 結論を出す前に、一度甘えてみようかな。ご主人様に尋ねてみようかな。 ……いやいや、そんな迷惑はかけちゃいけない。 でも、もう終わりにするなら、そんな迷惑も一度はいいじゃない。 ご主人様の言葉を、別れを決めるきっかけとすることもできるし。 携帯からメールを送る。 先ほど届いたメールへのおちゃらけたお返事と、桜を見て散歩したとか そんな普通のことの間に、ワガママな質問を入れる。 「ご主人様は、私が今すぐいなくなったら、いや? 突然連絡とれなくなったら、心配?」
1時間くらい時間をおいて、ご主人様からお返事が届く。 タイトルに「心配だ」と入っているだけで、あとは普通のお返事メール。 そのお返事に 「とりあえず心配はしていただけて、嬉しいです」 と書いたら、 「とりあえず、どころか、とても心配してるぞ」と1行。 そのあとはまた普通のメール文が届いた。 なんかそれで、すっごくどうでもよくなってしまった。 ……もういいか(笑) って思えた。
久々にPCからメールを送った。 甘えた質問をしてしまったことをお詫びした。 そして。
***
今すぐに終わってしまった方が、いいのでは? 自分にとってとても幸せな結果として、ご主人様との思い出は残るのでは? と考えていました。 今の、自分の「麻瑚」というキャラと立場を使えば、 私と年齢的に釣り合った相手も見つかるのでは、とも思いました。 ご主人様も経験を積まれた今、 私なんかを飼うより、もっと若くて可愛くて従順な娘を飼った方がいいとも 思いました。 ほかいろいろあって、ああやっぱり私って…… こんな私はもうご主人様のおそばにいない方がいいな、 自分の傷も深くなる前に決断を、と。 でも、できなかったです。 つらつらと考えているうちに、気づきました。 前に読者の方から「麻瑚さんはご主人様に恋心はないんですか!」 というメールが送られてきたことがあり、悩んだことがありましたが。 今回、はっきりわかりました。 私、やっぱりご主人様に恋はしてないです。 読者の方にそう言われてから、ご主人様への私の感情は「壮大な片思い」 って言ってたけど、違う〜。 言ってしまえば「好き」というアバウトな言葉に要約されてしまうかもしれないけど、 なんかもっとこう、大きなというか……上手く言えない(笑) だって、私、ご主人様の奴隷だもん。ペットだもん。 私には、ご主人様が私とのことをどう考えていらっしゃるか 全く分からないし、 ご主人様がどうピリオドを打とうとされているか見当もつかないけれど。 ある日突然、来週なんかに関係解消の日が来ちゃうかもしれない 何かが起きて「誰が奴隷じゃ!」ぐらい私が怒鳴っちゃうかもしれない、 私の体調がよくなくなって、もう奴隷業なんて営めなくなるかもしれない、 突然ご主人様と連絡が取れなくなって、捨てられちゃうかもしれない、 次の人なんてもう見つけられないかもしれなくて、今後一生男の人と縁のない生活をするかもしれない ボロボロになるかもしれない ……けど、もういいのだ〜って、決断ができました。 「心配している」と言って頂けて、とても嬉しかったです。 無理に今すぐ、終わりの日を作るのはやめようと 前向きに思えるようになりました。 ありがとうございました。 最後の日まで、きちんとご主人様お傍で、極力明るく そして身体の欲望にも無理せず従い、 ご主人様の奴隷を務めさせていただきます。
*** 私の年齢でこう決めることは、結構勇気がいる。 だって……ご主人様との時間が楽しかったから、もう一人きりには戻れない
戻れないけど、次の男性を探すことも不可能かもしれないのだから。 ご主人様からメールのお返事が届いた。 普通の返信文の最後に、添えられていた一行。 「うむ。わかった。麻瑚は私から離れないでいなさい。」 ラブホでの最後のキスで交わすあの抱擁が続く限り、 私を抱く、一瞬の力強さがある限り 私はご主人様の傍に居続けようと、思った。 もういいや、たとえ近い将来、一人きりになったって。後悔しない……つもり?(苦笑) 《 2005.04.09 17:25 記》 (タイトル見て、麻瑚と主は別れたんだ!と思った皆様、残念でした〜。 ひとまず安泰でございます……わたし的に(苦笑) でも、本当の別離の危機は、いつやってくるか分からないけれど。 気は抜かずに、また明日へ、そして明後日へと進んでいきます)
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