よるの読書日記
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2003年08月22日(金) 掌を翻す様に

『自由戀愛』<岩井志麻子/中央公論新社>
醜関係。すごい言葉です。不倫と言うから何だか切なくて
メロメロして金ドラな感じがするんだな。
今度からみんな、結婚してるのに他の人と付き合ってる人のことは
醜関係してると言ってほしい。おおおぞましい汚らわしい。
ことの起こりは若くて美人で夫が優しくて幸せな妻の気まぐれな善行、
から始まるのですが。
結婚生活に破れてひっそり暮らしている女学校の同級生に、
夫の秘書の仕事を紹介し、着物まで貸す。この無邪気な残酷さに
彼が密かに眉をひそめているのにも気づかない……。この描写に
もうぞくぞくします。男って勝手だわー。そうそう、可愛くて
たまらないと思っていた天真爛漫さがある日無神経と紙一重と気づくのね。
ずるいわ。そして、妻の着物をまとう女の暗さは秘密めいた翳りに変わる。
待望の後継ぎを孕んだ愛人は妻に、幼さの残る妻は愛人に。
今の時代だったらちょっと許せない転回はあっさりと済んでしまいます。
前半が豪快過ぎたせいか後半は波乱万丈なわりに淡々とした印象なのですが、
とにかく前半の心理戦は読み応えあります。後半の持って行き所も
酷く皮肉が利いているとは思いますが。なかなか濃い小説でした。


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