潔 ノ 森

2005年11月04日(金)

覚書(いのちを守るドングリの森 宮脇昭 著 より)


2 生物圏における人間の位置  (1)外因:環境

生物社会では、問題が起きたときには最も強い立場にあった生き物が最初に責任をとらされるというのが冷厳な事実である。
 振り返って今、人類は生物集団の中で最も強い立場にあり、思いのままに発展しているように見えるが、ほんのわずかな自然の揺り戻しやさまざまな環境の急変が起きたとき、最初に責任をとらされることを知っておく必要があろう。
 多層群落の森林では、極端な外因的または内因的危機が起きたとき、高木層がまずだめになる。ついで亜高木層、低木層が破壊される。その果てがゴルフ場の芝生のような単層群落である。


7 ヨーロッパの植生

スウェーデンのウプサラ付近からはヨーロッパミズナラ林、さらにルンド付近から南は落葉広葉樹(夏緑広葉樹)のヨーロッパブナ林が目立ち、わずかな地形、地味の違いで、ブナ林とミズナラ林が交錯して発達している。さらに南部の土壌条件が良く、現在では小麦、サトウダイコンなどの畑地になっているところは、かつてヨーロッパミズナラ−ヨーロッパシデ林など夏緑広葉樹林によって占められていた。イギリスもヨーロッパ大陸も、もともとはほとんど森で覆われていたのである。
(中略)
 ゲルマンやアングロサクソン、ラテン系の人びと、またアラブの人たちも、毛皮や食肉を必要としたため、有史以前から家畜の林内放牧を繰り返してきた。また、良い草を得るためにしばしば火入れも行った。その結果、ヨーロッパ全域が一度完全なまでに荒廃した。
 一九〇九年にドイツで最初に自然保護区として指定されたリューネブルガー・ハイデ(ニーダーザクセン州)は、ハンブルグとハノーバーとの間にあり、約九〇〇〇年前に最後の氷河が溶けて裸地が生じた際に、石英性砂が堆積してできたやせ地で、もともとはシラカンバ−ヨーロッパミズナラ林であった。その後四〇〇〇年来の過放牧、伐採、岩塩採掘などによって土壌がポドゾル土壌に劣化した。植生は、トゲがあり小さなピンクの花をつけるエリカやカルーナなどの矮性低木、日本の浅間山など火山が噴火した後、火山灰上に最初に出てくるコメススキ(ディシャンプシア フレキソウサ Deschampsia flexuosa)のようなイネ科の草などが占めるようになった。これがいわゆる英語のヒース、ドイツ語のハイデ、日本でいう荒野である。


8 アメリカの植生

 先住民たちは、北海道のアイヌ族と同じように、大規模な農耕は行っていなかった。定住した場所は、海岸、河川、渓谷沿いなど水の便のいいところに限られ、無理な自然破壊は行わず素朴な生活だったが、自然生態系のシステムの枠内で生活していた。北海道の自然の森が倭人が入って行くまでは広範囲に残されていたのと同じように、南北アメリカ大陸においても森林は広く残されていた。ところがヨーロッパ人は、自国で行っていたのと同じようにまず森を焼き払って開拓し、連れてきたヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマなどの家畜を大量に放牧して、土地本来の森を大規模に二、三百年の短い期間で急速に破壊してしまった。


10 森づくりのステップ (10)森の成長に沿った対応

 たとえ幅が1mしかなくても、高木、亜高木、低木、下草が層をなす立体的な森のシステムは形成できる。森本体の保護組織として、林縁にカンツバキ、クチナシ、ツクバネウツギ、ツツジ、サツキ、ジンチョウゲ、海岸近くではトベラ、シャリンバイ、ハマヒサカキなどの低木性の樹種を、樹林の縁取りとして、線状、できれば帯状に混植、密植する。
 一五〜二五年経つとシイ、タブ、カシ類も目立たない花を咲かせ実をつける。本命の樹種は陰樹であるから林床のドングリから芽が出る。ふるさとの森は、個々の樹木は世代交代をしながら、システムとしては森が破壊されない限り永久に持続する。憩いの森、癒しの森としての役割、防災・環境保全、水源涵養など多彩な機能も維持される。


 < 過去  INDEX  未来 >


潔 [MAIL] [HOMEPAGE]